魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第4話 目的と手段

1

 

 

 バルバドロとコードフェニックスの出現。

 そしてアプロディアを名乗る女性の出現。

 これらは地球連邦に大きな衝撃を与えていた。

 一体彼らは何者なのか。あの戦いの後、忽然と姿を消してしまった為情報収集もできない。

 そしてそれでも尚ニューロの攻撃は続いている。

 目的が見えない。

 それだけで人の精神は擦り減っていくもの。そしていつ来るか、どこから来るかも分からないニューロの攻撃は確実にパイロット達の精神をすり減らしていた。

 しかしその中でも『異常者』というのは存在する。

 

「ハーハッハッハッハッ!オラオラぁ!次はどいつだ!!」

 

 赤き機体が宇宙を駆ける。

 ガンダムアストレアタイプF2。ブラッド・ラインハルトの愛機だ。

 どんどん味方が疲弊していく中、彼だけは歓喜の声を上げて戦場を駆け巡る。その後ろではニューロモビルスーツが次々と爆散し、暗い宇宙が一瞬だが閃光に満ちていた。

 

「……バケモンかよ。あいつは」

「全く。あの底なしの体力には正直ついていけません」

「あいつ、本当に人間なの?」

 

 母艦ディーヴァから、その様子を辟易した様子で見ているレンとシュテルとキリエ。

 連戦でクルー達も疲れが見え始めていた。補充もしなければならないし、多くの機体が調整中。そんな折にニューロモビルスーツの群れを発見してしまった。

 しかし、闇雲に戦ってばかりでは疲弊が増すだけである。

 幸い暗礁地帯であった事と、重要拠点が近隣に無い事から艦長ニキは様子を窺うつもりでいたのだが、間の悪い事というのは重なる物である。

 その時哨戒任務に出ていたのは命令違反上等の問題児、ブラッドだったのだ。

 一抹の不安がニキによぎる。本来なら彼ほど哨戒任務に適さない人物は居ない。しかし現状が現状だったのだ。そしてその手綱を握り切ってこそ、艦長というもの。

 なのに、その願いはあっけなく砕かれた。

 

「あぁん?艦長ぉ。こいつらなんぞ雑魚だろ?俺一人で十分だ!」

『ですがブラッド!いくら貴方でも単機では危険過ぎます!戻って下さい!!いいえ、戻りなさい!!』

「ンな事してられっかよ!そうこうしてる内にこいつら逃げちまうじゃねぇか!戻ったら独房に突っ込むでも好きにしやがれ!!」

 

 全く、この男に規律というものは無いのか。ニキは口元をヒクつかせながら拳を強く握りしめる。

 この時点で他の部隊なら容赦なく独房入り。むしろそれでも生温い。下手すれば銃殺刑。しかし、ブラッドには実力と結果があった。貴重なエースパイロットを銃殺刑にする余裕は無い。それがどんなに傍若無人な人物でもだ。

 頭が痛くなる。頭を抱えるニキの前でブラッドは瞬く間に3機撃墜していた。

 そんな中レン達はお留守番である。レンのデルタカイはチューンナップの最中であり、シュテルのAGE-2も解析中。これまでのシュテルの攻撃パターンを解析し、もっと彼女に適したモビルスーツの選択を行おうというのだ。

 

「それにしても彼の性格はともかく、その技術は素直に認めましょう。性格はともかく」

「大事な事なので二回言いました~♪」

 

 レン達3人はエントランスから、通信映像でこの様子を見ていた。

 チューっとパックのドリンクを吸い上げた後に呟くシュテル。キリエがそれに茶々を入れている。

 だがレンも同感だ。あっと言う間に撃墜を重ねるブラッドの腕前は認めざるを得ない。

 そして一見デタラメに見えるその動きも、よくよく見てみれば実に効率的になっているのだ。

 

 モビルスーツは動きそのものにエネルギーを常に消費する。ブラッドの場合デタラメ、無駄とも思える動きをしているが、避ける。近づく。この動きに関して実は最小限で行っている。

 エネルギーを節約すればその分、攻撃に回すエネルギーを多くできる。

 それが彼なりのエネルギーの効率化なのだろう。

 そしてそれを可能にするもう一つの要因。それは位置取り。

 ブラッドはその宙域にある全てを利用する。デブリがあればそれを盾にして攻撃を防ぎ、またそこに身を隠してから不意打ちの一撃を加えているといった感じに。

 

 自然とレンの手に力が入る。確かにブラッドは天才だ。操縦技術、戦略。そのどちらも敵わない。彼の場合はそこに野生の勘が入ると言っても良いだろう。全くつけいる隙が無いのだ。

 残念ながらそんな野生の勘は自分には無い。

 特殊な脳波を持っているには持っているのだが、それも微弱な物だ。

 現にファンネルもキリエやナイトロの補助でやっと形になっている。

 他の隊に居た頃はあまり感じなかったが、Spiritsに来てからは上には上がいるという事を嫌と言うほど味わった。加えてオーバーワールドシステムによって経験した別次元のエース達。

 彼らに有って自分には無いモノ。

 自分には無いモノを持つ仲間達。何が足りない?どうして足りない?

 

「あ~、シュテるんここに居た~」

「レヴィ?どうしたのです?」

 

 不意に能天気な声がかかり、レンはハッと顔を上げた。

 振りかえるとレヴィが居た。ぶんぶんと手を振りながらこちらに駆け寄ってきている。

 何か言っているが、耳に全く入って来ない。

 遠くでは今もブラッドが戦っている。近くにはディスプレイに映った自分の顔。

 

「レン大丈夫?」

「ん?なんで?」

「なんか辛そうな顔してたわよ?何か悩みごと?」

 

 顔に出ていたのか?覗きこんでくるキリエの頭を苦笑いで返す。ここ最近連戦続きで少しナーバスになっているようだ。

 若干納得がいかないような顔をしながらも、彼女もディスプレイに映るブラッドの戦いに目を向ける。

 その隣にはいつの間にかシュテルとレヴィも並び、やはりブラッドの戦いを見ていた。レヴィに至っては「おー!」とか「うわー!」とかの歓声付きだ。

 そして一方のブラッド。最初は有利に状況を進めていたものの、次第に押され始めていた。調整中の機体であったというのもあるのか、最初より動きが鈍い。

 

「ブラッドは優しいからな~。いくらみんなが心配だからって調整中の機体で出て行けばああなるって分かってた筈なのに。こりゃ、そろそろお呼びがかかるかな?」

「「「はぁ?」」」

 

 思わず三人は声を上げた。

 あの命令違反上等。天上天下唯我独尊のブラッドをどう捉えたら優しいに辿り着くのか。きっぱりと言い切るレヴィが三人にはさっぱり理解できない。そしてレヴィも三人が何でそれを分からないのかが分からない。

 そして信じられない物を見た様な顔つきの三人に堪え切れなくなったのか、レヴィは腹を抱えて笑い出してしまった。おかしな事を言ったつもりもなく、尚且つ笑われる理由が無い。レンは頬をヒクつかせて、怒鳴りつけたくなる衝動を必死に抑えこむ。

 

「レン、気持ちは分かります。ですが堪えて下さい。この子に他意は無いのです」

「分かってる……。分かっちゃいるんだが……」

「レヴィ、いい加減笑うのを止めて下さい。そして教えてください。どうして貴方はそう思うのですか?」

 

 問いかけられてもまだ笑っているレヴィ。

 遂にシュテルは拘束魔法『ルベライト』で強制的に縛り上げた。

 

 

「……」

「ちょっとシュテるん!ルベライトは無し―――ッ!!」

 

 無言でギリギリとシュテルは拘束を締め上げる。その瞳からは光が消え、ただただ冷めた目で床の上で海老の様に跳ねるレヴィを見降ろしている。

 それに恐怖を覚えたのか、必死の抗議を上げるレヴィ。

漸くシュテルが拘束を緩めると、床に転がったまま涙目のレヴィが語りだした。

 話によると彼女は結構頻繁にブラッドの部屋に訪れているらしい。目的は彼の部屋にあるデータである。

 ブラッドの部屋にはこれまでの戦闘資料、戦術パターン、モビルスーツの種類を纏めた資料が存在しているらしい。どれも彼が独自に集めたもので、それはレヴィにとって宝の山なのだそうだ。

 

 おいおい、そんな簡単に男の部屋に行くもんじゃねぇよ……。

 

 割と本気でレヴィの心配をするレンの肩をキリエが叩く。見れば無言で首を振っている。

 つまり、諦めなさいと言う事だ。

 更に頭を抱えたレンを無視し、レヴィは話を続ける。

 最初は「ウザい」「帰れ」の一点張りだったブラッドもレヴィの我儘に最終的に折れたらしい。結局、彼女がその資料を見る事を黙認したのだ。それからというもの、レヴィがブラッドの部屋で資料を見る。ブラッドがモニターに向かって資料を纏める。そんな時間が度々あったらしい。

 そんなある日、レヴィがブラッドの部屋を尋ねると彼がベッドで寝ていた事があった。

 そして展開されたままのディスプレイには彼が単機で先陣を切る戦術が組み立てられている。彼の資料を呼んでいたレヴィにはそれが、ブラッド自身が囮になり後方の被害を減らすパターンだと推察した。何故なら補給部隊の到着や、逃走経路。最終的には味方が一切援護できない時のパターンまで組まれていたからだ。そしてそれは、まさに今回そのものなのだという。

 

「ブラッドはね、口には出さないけどちゃーんと皆の状況を分かってるんだよ。だからブラッドは優しい!」

 

 最後に満面の笑みで言い切ったレヴィだが、三人は尚も信じられないという顔だ。

 あのブラッドからは本当に想像できないから。彼らの認識からは大きくかけ離れ過ぎている。

 

『レヴィ・ザ・スラッシャーは至急格納庫に来て下さい。繰り返します。レヴィ・ザ・スラッシャーは至急格納庫に来て下さい』

「ん?あ、やっぱりお呼びがかかった」

「緊急呼出しですね。レヴィ、行って下さい」

 

 艦内に響くアナウンスを聞き、シュテルが拘束を外す。恐らくブラッドの援護に行って貰うつもりなのだろう。

 来た時と同じ様に手を振り駆けて行くレヴィ。残された三人は顔を見合わせて苦笑するしかない。

 

「……なんかブラッドの事、誤解してたかもしれん」

「同感です。全て計算済みの行動だったとは……」

「それもそうなんだけど。レヴィの距離感の無さもなんとかしなきゃね……」

 

 三人は新たに浮上した問題に思いっきり深い溜息をつく。

 結局その問題は解決する事ができず、後々まで引き摺る事を彼らはまだ知らない。

 

 

 ディーヴァ格納庫。そこにその機体はあった。

 白を基調としながらも青と赤のトリコロールカラーのガンダム。だがその姿は通常のガンダムよりも少々無骨な印象を受ける。

 機体名をビギニング30ガンダムという。

 これまでのレヴィの戦闘データを解析した結果最も適正値が高かったガンダムである。そして先のマスターフェニックス戦で大破したアストレイブルーフレームのパーツを組み込む事で、最短で組み上げられた機体でもあった。

 最終調整を行いながらレヴィは一つ一つシステムを起動させていく。その様子をカチュア・リイスはハッチから満足げに見ていた。

 

「操作感覚はブルーフレームとあまり変わらないと思うけど、この子にはもう一つ大事な物があるのを忘れないでね」

「うん。『ifsユニット』だよね」

 

 i-field control sys-tem。

 ビームを拡散させるフィールドであるi-フィールドを広域かつ、自在に発生させるシステムがこの機体には組み込まれている。それを利用し柔軟な対応ができるというのがこの機体の特徴だ。

 そして今回彼女にはブラッドの援護の他に、もう一つの仕事がある。

 ビギニング30ガンダムの隣にある真っ赤な機体。

 他のガンダムと違い四つのカメラアイは凶悪な顔つきでどこか昆虫めいたものを連想させる。その関節も他のガンダムより細めではあるが、その分長い。人の形に近いガンダムに対し、そのガンダムを例えるなら『蜘蛛』だ。

 

 

 

 デブリの岩陰にアストレアタイプF2は息を潜ませて隠れている。

 両足と左腕は既になく、頭部も右のメインカメラが破壊されている。武装も残るは右腕のプロトGNソード一つのみ。

 機体の状況をチェックしながら、ブラッドは盛大に舌打ちする。

 今も彼の機体を探してニューロモビルスーツがうろついている事だろう。このままでは確実に撃墜される。いかに天才的な操縦技術を持つブラッドといえども、この状態では如何ともし難い。せめてでかい花火でも打ちあげてみせようか。一瞬そうも考えたが、彼はその考えをすぐに却下した。

 地べたを這いつくばってでも、泥を啜ってでも生き延びる。

 それが彼の哲学だ。

 

 ここで少し彼の話をしよう。

 彼は戦災孤児である。

 8歳まではコロニーで何不自由ない暮らしをしていた。勉強も出来たし、腕っ節も強い。モビルスーツもシュミレーターではあるが、負け無し。将来はエースパイロットかと両親と周囲は彼に大きな期待を持っていた。そして彼自身もその事に何の不満も無く、漠然とではあるがそうなるものと信じて疑いもしていなかった。

 しかし、その日常はガラスの様に粉々に崩れ去る。

 突然のニューロ進行により家族を失う。運よく脱出ポッドに乗った彼であったが、そこから見えたのは破壊されるコロニーと撃墜されていく地球連邦のモビルスーツ。何も出来ない自分が悔しかった。

 当たり前だ。子供の身で何ができると言うのだろう。

 何でもできると思っていた、子供故の慢心。それを粉々に砕いたニューロという存在。

 その後彼は9日もの間、脱出ポッドで生活を余儀なくされた。完全に閉鎖された空間。限られた酸素と栄養剤。周りは闇とコロニーの残骸。生き抜くには過酷すぎる状況に追い込まれて行く。

 最初の3日は恐怖に脅え、泣きじゃくった。ここで涙は流しつくした。

 次の3日はひたすら息を潜めた。どうすれば生き残れるかを必死で考えた。

 そして最後の3日は考える事を止めた。静かに心を落ち着かせ、無駄なエネルギーの消費を抑えた。

 10日目。気がつけば自分はストレッチャーに乗せられ移送されているのに気付いた。どうやら流石に体に限界が来て、気を失っていたらしい。その間に発見され、搬送されている最中だった。

その後、彼は療養も兼ねて地球の施設に入る。

 そこで彼は感じる。『生温い』と。あの地獄の9日間は彼の感覚を狂わせるには十分過ぎたのだ。

 故に体力が以前の状態に戻った所で彼は施設を出る。連邦に志願兵として入隊する為だ。

 最初は復讐。だがそれも無駄だと気付いた。どれだけニューロを倒しても、その中に故郷を奪ったニューロは存在しないから。

 そしていつしか彼の目的は“生きている事を実感する為”にシフトしていく。

 それから10年。その間に形成されたのが、このブラッド・ハインラインという青年である。

 

 そう言えば。

 思い出すのは水色の髪の少女。何を勘違いしたのか、自分に懐いてきた異邦人の少女。

 きっと彼女はこう思っている筈だ。

 自分が身動きできない仲間の為に、囮になっているのだと。

 そんな事は無い。そんなつもりは毛頭無い。

 これは自分の為だ。単機特攻のプログラムを組んだのも、艦長の命令を無視してここにいるのも、全て自分の為。生きている事を実感するスリルを味わう為だ。そしてそれを乗り切った時、スリルは本物の快楽に変わるのだ。

 そんな自分の哲学と本能に従うべく、彼は機体を反転。攻撃に出ようとした瞬間だ。

 黄金の閃光が宇宙を突き抜けた。ビームライフルにしては高出力。砲撃とは行かないまでも、十分な熱量を持つ一撃がニューロモビルスーツを貫く。

 

『でぇぇぇい!』

 

 聞き慣れた声がスピーカーから聞こえてくる。その気迫のこもった声と共に一機のガンダムが飛来した。

 妖精の如き光の翼が四枚。その周りにも妖精の様に輝く光の戦輪。ガンダムの指示に従い、光の戦輪が宇宙を飛びかい、ニューロモビルスーツの一体をズタズタに切り裂いていく。

 その声にブラッドは大きな溜息を吐く。

 

 ああ、スリルを味わうのもここまでか。折角今、一番良い所なのにイキ損なっちまった。

 

『ブラッド、生きてる~?』

「やっぱりテメェか。レヴィ」

『そうだよ~。助けに来てあげたよ!ブラッドの新しい機体と一緒にね!』

 

 アストレアタイプF2の前に立ったのはビギニング30ガンダム。レヴィの新しい愛機だ。彼女の機体目掛けてニューロモビルスーツがビームライフルを放つ。しかしレヴィは微動だにしない。

 

『へへーん。普通のビームライフルに用はありません!!行くよ!ifsユニット!!』

 

 彼女達を守る様に展開される光の盾。ビームを弾くi-フィールドだ。その背中の四枚羽もまたi-フィールドである。広域展開されたi-フィールドがビームライフルを完璧に遮断し、二人を守る。

 

『ブラッド!今の内に乗り換えて!セッティングはカチュアがちゃんとブラッドの言う通りの設定にしてあるし、もう機体に火は入ってるよ!』

「……こいつは……ククッ。そうか。まだ俺を愉しませてくれるんだな?」

 

 アストレアのハッチを開き、目の前にある赤きモビルスーツへ飛び移る。外部から直接ハッチを開き、コックピットへ入りこむ。そしてハッチを閉じると同時にモニターを展開。レヴィの言う通り、機体に火が入っている。セッティングも彼の注文通りだ。面倒だとばかりにヘルメットを脱ぎ去り、赤い髪を揺らしながらニヤリと彼は口元に凶悪な笑みを浮かべる。

 

「さぁ行くぜアルケーガンダム。俺とテメェでこいつらを蹴散らすぞ!」

 

 機体名GNW-20000 アルケーガンダム。

 ギリシア語で『最初から』という意味と共に、キリスト教の天使階級では『権天使』の名を冠するガンダムだ。

 ヴンッと音を立てて、アルケーガンダム四つの瞳に光が灯り、三つ搭載されたGNドライブ[Τ]<タウ>から真っ赤なGN粒子が散布される。

 そしてデブリから真っ赤な彗星が飛び出した。右腕にマウントされたGNバスターソードをニューロモビルスーツ一体に叩きつけるように振り降ろす。刃からGN粒子を放出させる事で実体剣とビームサーベル両方の特性を併せ持つその大剣が装甲を容易く切り裂いた。

 爆散するそれを背にアルケーガンダムは次の目標を探す。後残り5体。この分ならアルケーガンダムだけで行けそうだが……。

 ディスプレイを見れば、こちらに向かって高速で向かってくる点がある。

 やっぱり来たなと、ブラッドは口元を緩ませた。案の定通信ディスプレイには口を尖らせたレヴィの顔が映っている。

 

『ブラッド!ボクの分も残しておいてよ!』

「ケッ!ならしっかりと俺について来な!俺に先取りされなきゃテメェの獲物だレヴィ!」

『よーし!そう来なくっちゃね!』

 

 アルケーガンダムを追いこすようにビギニング30ガンダムが飛翔していく。右手には三本のビームサーベル。曲芸の様な持ち方だが、これがこの機体のデフォルトらしい。

 そしてブラッドもまた、アルケーガンダムから真っ赤な粒子をまき散らし戦場へ身を躍らすのだった。

 

 

 

2

 

 

 フェイトから今後の生き方についての選択肢を与えられた1週間後の事である。

 レンとシュテルは一人の少女と出会った。空色のショートカットをした少女である。

 出会いは何時だって唐突。

 ジュースを買いに自動販売機まで来ていた2人。

 レンの頭からはリンカーコアの事だの、ガンダムがデータ化していた事だの、フェイトが話したこれからの事だの様々な事が離れない。

 そして何よりもアプロディアだ。彼女が何故この世界に居るのか。それについて彼女は多くを語ろうとはしない。恐らく鍵は“あの戦い”だ。しかしレンはあの時最後にどうなったか全く分からない。

 それは誰に聞いても同じ。誰も明確な答えを持っていなかった。

 一方シュテルはと言うと正直、時空管理局に入ろうが、一般市民になろうがどうでも良かった。

 管理局員に対してあまり良いイメージを持っていない彼女ではあるが、その規模は魅力的だ。未だ見つからない仲間の事や、かつての世界に戻る為の方法を模索する情報を得る等、これを利用しない手は無い。

 実際の所、一般市民になってもやりようは幾らでもある。手段さえ選ばなければ非合法だろうが、なんだろうが手が無い訳ではない。

 だが問題はそこだ。管理局員になれば大手を振って管理局の施設が使えるだろう。一般市民ではそうはいかない。後、懸念があるとすればなのはとの再戦がやりにくくなるといったくらいか。

 

 さて、話を戻そう。

 ジュースを買い、病室まですぐ戻るのも気が引けた二人はその足で屋上に向かおうとする。

 そんな彼らの前を走り、横切っていく少女が一人。なんとなく目で追った二人。その視線の先で彼女が盛大に転んだ。それはもう見事に顔面から。

 

「……こけたな」

「ええ。見事にこけましたね。後レン。直視してはいけませんよっと!」

「ぐほぉ!?」

 

 レンに強烈な肘鉄を食らわせるシュテル。何故彼女がそんな事をしたのか。それは目の前ですっ転んだ少女がスカート姿だったから。それを後ろから見ていたのだ。それ以上は語る必要もないだろう。

 不意打ちの肘を脇腹に受け、悶絶するレンを放っておき、シュテルは少女に駆け寄る。

 

「貴方、大丈夫ですか?」

「ふぇ……。だ、大丈夫れすぅ……」

「全く大丈夫そうに見えませんね。病院で怪我したら笑い話としても笑えませんよ?」

 

 おでこをすりむいたのだろう。真っ赤になってしまった少女のおでこを撫でるシュテル。その顔を見て少女は何か驚いた様子だった。その様子に首を傾げるシュテル。

 

「何か?」

「あ、い、いいえ!な、何でもありません!」

「シュテル~。いくらなんでも肘鉄は無いだろう。肘鉄は」

「しょうがないでしょう。私の背では貴方の目まで届かないのです。それともジャンプして目潰しでもした方が良かったですか?ルベライトを顔面にした方が良かったですか?」

「それ洒落にならんから!本当に洒落にならんから!」

 

 その後ろから脇をさすったレンが漸く復活してきた。先のシュテルの行動に文句を言うが、返ってきたのはもっと物騒な発言。不意打ちの目潰しは危険極まりない。拘束魔法を顔面にするのも危険である。

 そんな二人の会話にキョトンとしていた少女だったが、その様子に笑い声をあげた。

 

「あははははっ。お姉ちゃん達仲良しなんだね!」

「仲良しかどうか分かりませんが、これでも私のパートナーなので」

「その割には扱いが酷いですよシュテルさん」

「そうですか?あ、レン。丁度良いです。この子にもジュースを一本買ってきて下さい」

「……何故そうなる」

 

 と、ぶつぶつ言いながらもジュースを買いに行くレン。シュテルは少しこの少女と話をしてみたくなったのだ。先の彼女の反応。シュテルの推測が正しければ、恐らくそれは彼女もよく知る人物なのだろう。

 実を言うと、レンが意識を戻さない間にその人は二、三度シュテルの下を訪れている。あの夜天の王もフェイトも同様に訪れている。当初は困惑したシュテル達三人であったが、まぁそこは慣れというもの。

 そう言えば最近はまた仕事が忙しいとか言っていた事を思い出す。

 恐らく自分達の退院の際には仕事を抜け出してくるに違いない。

 なんとなくシュテルはそんな気がしていた。

 

 少女の名前はスバル・ナカジマ。

 やはりシュテルの睨んだ通り、彼女はシュテルに「高町なのは」を重ねていた。シュテルのオリジナルがなのはなのだ。似ていて当然。重ねない方がおかしい。それでも流石に他人であるという事にスバルもすぐに気付いたようで、二人はすぐに打ち解けていた。

 そして現在三人は屋上に居る。

 

「お兄ちゃん達もあの空港に居たの?」

「ん~、まぁそうなるかな」

「それならあたしと一緒だね!えへへ」

「……このロリコン」

「ぐはぁ!」

「お、お兄ちゃん!?」

 

 自分と一緒だと言う事に親近感が湧いたのか、眩しいまでに純真な笑顔を向けてくるスバル。

 スバルの笑顔はどこかレヴィを連想させる。要は屈託が無い。無邪気の塊。そんな彼女の笑顔を向けられ、レンも笑顔を浮かべた所に待っていたのはシュテルの容赦無い一言だった。

 

「俺は断じてロリコンではないぞ……」

「お姉ちゃん、ロリコンって何?」

「スバルは分からなくて良いのです。レン。やはりルベライトを顔面に巻きますか?」

「今日のシュテルさんは容赦ないです……」

 

 俺が一体何をしたと言いたげなレン。構わずシュテルはスバルの頭を撫でている。

 

「やっぱりお姉ちゃんってなのはさんそっくりだよね。親戚か何か何ですか?」

「まぁ……そのような物と思って貰って結構ですよ。スバルはナノハに助けられたんですよね。……どうでした?彼女は」

「すっごくカッコ良かった!」

 

 それからスバルは自分が助けられた時の様子を見振り手振りで、一所懸命に語る。その様子にシュテルはなのはが魔導士として立派に成長している事を感じ、自分の事のように嬉しく感じていた。

 いつか再戦をするという約束。

 いつの間にか生きている時間そのものがずれてしまったが、それは変わらずお互いの心の内にある。

 そして彼女は今も彼女自身の夢の為に空を飛んでいる。

 それがシュテルには本当に嬉しく思えていた。

 そんな折だった。誰かが屋上に来た気配を感じ、シュテルが目を向ける。

 

「……マリエル・アテンザ……」

「お久しぶり。元気そうね、シュテル」

「ええ。貴方もお変わりなく」

 

 緑色の髪。小柄な身長とは対照的な大きな眼鏡。シュテルはその女性をはっきりと覚えている。

 本局第四技術部マリエル・アテンザ。

 微笑みかける彼女にシュテルも笑みで返す。隣でレンが首を傾げているので、簡単にだが説明をした。

 するとレンもまた一礼し自己紹介の後、握手を交わす。

 

「しかし貴方がここに来るとは思いませんでした。何か用事でも?」

「用事も何も、今日私が来た目的はシュテル、貴方達よ?」

「……ああ。そういう事でしたか」

 

 フェイトが訪れたあの日。シュテル達はフェイトに一つの注文をしていた。

 それは高容量のデバイスを二つ譲ってくれないかというもの。理由は現在紫天の書にあるマークとマリアのガンダムを移動する為だ。しかし生半可な容量のデバイスではすぐにメモリーがカンストしてしまう。  

 そこで高容量のデバイスが必要だったのである。

 そして、その一つにはアプロディアを移動する目的もあった。

 現在ユーリの体を使い話す事のできるアプロディアだが、やはり一つの体に二つの人格は少々ややこしいとの結論に至ったからだ。そして彼女ならAIにも申し分ない。となると、一つは確実に魔道書タイプのストレージタイプになるだろう。他のデバイスに比べ、魔道書型のストレージデバイスは容量が格段に高いのだ。

 

「全く、フェイトちゃんから連絡を受けた時はびっくりしたわよ。何しろ要求スペックが高いんだもの」

「……お手数かけます」

 

 ベンチに腰掛け語り合う二人。直接の面識は無かったが、こうして話してみるとそんな事は些細な物に思える。そして二人から離れた所でレンとスバル。そしてもう一人。紫髪の少女が語り合っていた。

 少女の名前はギンガ・ナカジマ。スバルの姉で、二人は今回マリエルの誘いでこの病院に訪れていたのだと言う。

 

「でね、フェイトちゃんから話は聞いたわ。ガンダム……だっけ?それをデータ化したって聞いたけど」

「その通りです。ですがいくら貴方の頼みでも触らせる事はできませんよ?」

「分かってる。無理強いはしないわ。あ、後もう一つ。魔力運用型にするなら参考資料を置いてきたからね。今、アプロディアさんが解析してるはずだからシュテルも目を通しておいてよ?」

「何から何まですみません」

「良いのよ。……さて、あんまり長居もできないし帰るわね。何かあったらすぐに連絡をちょうだい。力になれる事もあるはずだから」

「……はい」

 

 何も敵だけでは無いのですね。短い期間ではありましたが、ここにも一つ絆がある。

 それも悪くない。

 シュテルはマリエルの笑顔を見ながら、そんな事を考えていた。

 

 

 大きく手を振りながら屋上を後にする三人。別れ際にスバルが何度も「また会おうね!」とせがんでいたのが印象的だ。そんな三人を見送り、残された二人はベンチに隣同士に座る。

 そしてレンが不意に口を開いた。

 

「なぁシュテル」

「何でしょうか」

「俺も魔法を学んで、時空管理局に入ればあんな風に笑える誰かを守る事ができるのかな」

「……魔法は万能ではありません。時空管理局も全てが上手く機能している訳ではありません。それでも、誰かを救える確率は高いでしょうね。後はレンの努力次第といった所でしょうか」

「相変わらずはっきりと言ってくれる」

「……すみません。ですが、嘘を言うわけにもいきませんので」

 

 本来なら気休めでも何でも、はっきりそうだと言えばいいのかもしれない。しかしシュテルにはそれができない。

 そして相手がレンだったから。パートナーとしてレンに嘘は言いたくない。例え厳しい現実が待っていてもシュテルはレンに嘘は言いたくなかったのだ。

 しかしレンはそれで良かった。下手に嘘をつかれるよりよっぽど良い。シュテルの性格を知っているが故だ。もしもレンが本当に見込みが無いのであれば、もっと辛辣な言葉をかけているだろう。

彼がシュテルの頭を撫でる。彼女もそれを邪険にはしない。

 

「そっか。でもそれで十分。ありがとうなシュテル」

「当然です。……もっと撫でて下さい」

「はいはい」

 

 レンに頭を撫でられるのは嫌いではない。むしろ安心する。っていうか撫でられたい。

 夕日に紅く染まる屋上で、シュテルは自分の気の済むまでレンに頭を撫で続けさせるのだった。

 

 

 更に2週間の時間が過ぎた。

 レン達がミッドチルダに来てそろそろ2ヶ月。夏というにはまだ涼しく、春というには暑い。そんな季節の移り変わる境目の日。レン達は退院した。

 あれからスバルとギンガとは交流を続けている。アドレスを交換し、互いに近況を報告しあう程度ではあるが。

そして一同は現在ミッドチルダ南部、海岸に面した八神はやての家に集まっている。

 

「それで、皆の決意は変わらんのやね?」

「ええ。はやてさん。私達一同は時空管理局に入隊する事にしました」

 

 リビングでソファーに腰かけて、レン達にそう語りかけるのは私服姿の八神はやて。その隣ではディアーチェが頬杖をついて不機嫌そうな顔をしている。

 向かい合ってきっぱりとそう告げたのはマリアだった。

 その瞳には決意の色がありありと現れている。そんな目をした人を無下にする神経をはやては持ち合わせてはいない。飲んでいたコーヒーのカップを机に置き、はやては特別捜査官の顔。ひいては時空管理局の顔でマリアを見つめ返した。

 

「そうですか。なら私からは敢えて何も言う事はありません。皆さんの意思を尊重する事にします。なのはちゃんもフェイトちゃんもそれでええか?」

 

 次にはやてが目を向けたのはキッチンの椅子に座ったなのはとフェイト。二人は顔を見合わせると一つ頷いて見せる。

 

「私からは特に無いよ。仲間が増えるのはすっごく嬉しい事だし」

「私も特に無いかな。それに何となくこうなるんじゃないかなぁって気はしてたんだ」

「あ、やっぱりフェイトちゃんも?」

「その様子だとなのはもみたいだね」

 

 そうして笑い合う二人にはやても苦笑する。正直はやてもそう考えていたのだ。聞けばマリア達は自分達の世界では、その世界を守る為に戦ってきた面々だ。今更普通の生活に戻れと言われて素直に戻れる筈が無い。いや、戻ろうと思えば戻れたのだろう。しかしその選択肢は元から存在していなかったようにも思える。

 そもそも魔法が使えなくても時空管理局に入隊する事はできる。主に裏方だが現実的に可能なのだ。しかしフェイトはそれを敢えて伝えなかった。事前にはやてとなのはも相談を受けていた事だ。もしも彼らが争い事を望まないのであれば、いっその事その様な事とは無縁な環境に置くのも一つの選択肢だと考えたのだ。自分達の世界を守り、結果ミッドチルダに飛ばされる。彼らはもう十分に戦った。その羽を休めても良いのではと配慮故だ。

 だが彼女らはその選択をしなかった。自分達と共に管理局に入る道を選んだ。今更それについてどうこう言うつもりはない。ならばその先人として出来る限りサポートするのが、はやて達の役割であろうと彼女は考える。

 さて、そうなるとはやて達にもやる事が多くなる訳だが。

 

「とりあえずは管理局に入る為のお勉強かな」

「うげっ。やはりやらねばならんのか?」

「王様、当たり前やで?嘱託魔導士ならまだしも、正規の魔導士になるんやったらちゃんと訓練校を出な。ちゃんと魔法を使う為の安全技術や法律。その辺をきっちり勉強してもらわなあかんよ」

「正直めんどい」

「そう言わんと。大丈夫や。ここには管理局の誇る戦技教導官に、法律のプロである執務管もおる。私やリインもサポートする。正に盤石の布陣で挑むよ」

「はいですぅ~!」

 

 自信満々なはやてとその愛機リインフォースⅡが、むんっと意気込んで見せる姿にディアーチェは一層眉間に皺を寄せてしまう。

 そうなると次は住居が問題だ。今のレン達には家が無い。しかしこの大所帯だ。皆一緒に住むとなるとそれなりの物件を探さなければならないだろう。

 

「なら二手に分かれるか。俺とレンが一緒。マリアとディアーチェ達が一緒に住めば良い」

「そうね。それが良いと思うわ」

 

 マークの提案にマリアも賛同したようだ。だが、シュテルはキリエを指さし尋ねる。

 

「キリエはどうするのですか?レンとマークと一緒に住むのですか?」

「う~ん、それも仕方ないかな。現状ヴァリアントザッパーがレン君で認証完了しちゃってるし。となるとそのAIになってるキリエはレン君と一緒が妥当になっちゃうからね」

「ごめんね~シュテルちゃん。レンは私が責任持って毎朝起こしてあげるからね~」

 

 返ってきたのはそれも仕方ないというフェイトの返答だった。そしてその返答にピクリとシュテルの眉が動いたのをあざとく見抜いたキリエ。彼女を後ろから抱くようにしてしな垂れ、挑発するような台詞を吐く。しかしシュテルはそれに動じた様子も無く、しれっとした顔で溜息をついて見せた。

 

「何を言っているのやら。別にレンを誰が起こそうと私の知る所ではありませんよ。ちゃんと生活できるならそれで良いです」

「大丈夫よ~。なんとかなるなる♪」

「……はぁ。それなら良いのですが……。というか何時までくっついているんです。いい加減重いです」

 

 キリエを引っぺがしシュテルは立ちあがると、ジュースを取りに行こうと台所へ足を進める。

 だが明らかに不機嫌だ。思わずレンも立ちあがりその肩に手を置いた。

 

「シュテル……何怒って「怒ってなどいまっ!」ぐはっ!「せんっ!」ぐほっ!」

「おおっ!ナイスボディ。しかもそこから掌底アッパーとはシュテるんも腕上げたね!」

「惚れ惚れする程綺麗なコンビネーションですね~」

 

 容赦無くレンに突き刺さるシュテルのコンボ。あえなく撃沈し、床に這いつくばるレンとやんややんやと喝采を送るレヴィとユーリ。何時もの光景と言えば何時もの光景なのだが、マークとマリアは額に手を当てて溜息をこぼしている。

 

「……なぁ王様、もしやとは思うんやけど……」

「もしやも何も無い。見ての通りだ」

「せやな~……」

 

 その様子を見たはやてが一応尋ねてみるが、ディアーチェは目を細めたまま答えた。それが日常風景であるかの様に澄ましたまま、ブラックコーヒーを飲んでいる。

 

<なのはちゃん、フェイトちゃん。あの二人、あんまり離さない方がええんとちゃうかなぁ……>

<だね。なんとかお隣さんになれるような物件を探してみるよ>

<あ、フェイトちゃん。私も手伝うよ。それにしてもまさかシュテルがあんな武闘派になってるとはね。あのままじゃシュテルの精神的にも心配だし、何よりレン君が潰れそう……>

 

 こっそりと念話で会話する三人。その顔には明らかな苦笑い。

 その前ではまだ騒ぐレヴィ達と、完全にノックアウトされたレンが転がっていた。

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