魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第52話 弩級回路

1

 

 

 

 落下プログラム アップグレード

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 アップグレード ファイナルシーケンス。

 

 CALL:HARO-86。

 

 

 

 ×20。

 

 

 

 

 

 

 高速で縦穴を下降していくミネルバとリーンホースJr.を待っていたのは新たな落下プログラムの更新だった。

 その更新に合わせて次々と壁面が開き、モビルアーマーとモビルスーツが姿を見せる。

 それはサイコガンダム、ビグザム、ディビニダド、α・アジール、ノイエ・ジール、デストロイガンダムなどなどどれもこれも超大型の物ばかりが、この狭い縦穴を埋め尽くさんとばかりに出てくる。下降速度を上げて振り切ろうにも、前方にも出現されては対処のしようがない。しかも壁面には小型のガーダーが固定砲台として出現した。こうなってはレン達も覚悟を決めるしかない。残された手段はできるだけ速やかにこの大型ニューロ達を撃破する事だけだった。

 降下しながらの戦闘が始まる。必死だった。いつ終わるとも分からない更新プログラムと攻撃。下手をすれば壁面に激突し、それだけでジ・エンド。レン達はギリギリの集中力を要求される。

 救いなのは更新プログラムが一定の時間を置いてしか更新されない事だ。その僅かな時間で各個集中撃破を続けるしかない。少しでも時間ができればミネルバに戻り急ぎ補給を済ませる。そして間髪入れずに出撃し、また戦う。

 そうしてようやく縦穴の底が見え始めた頃、落下プログラムがファイナルシーケンスを告げた。全員が歓喜の声を上げる。これで終わる。やっと休息を取る事ができる。そう誰もが思った。

 しかし事はそんなに甘くない。

 ファイナルシーケンスと共に告げられたのは無情の宣告。

 HARO-86 ハロ。

 上からも下からも丸い悪魔が次々と姿を現す。

 ハロハロハロハロハロハロハロハロハロハロハロハロハロハロハロハロハロハロハロハロ。

 もうしっちゃかめっちゃかだ。

 

「ハロハロうるせぇッ!! 二十体とか馬鹿なの!? ねぇ馬鹿なの!?」

 

 疲労はとうにピークを迎えている。なのに上からも下からも聞こえてくるハロハロという音。もしかしたら声かもしれない。とにかくこの縦穴はハロハロ言うハロに埋め尽くされている。遂にレンのイライラもピークに達した。

 なんだこれは。ジェネレーションシステムが遂にヤケを起こしたのか?

 にしたってハロ二十体はないだろうよ。ハロ二十体は!

 迫る緑の悪魔から腕の様にマニュピレーターが伸びた。その先でドリルが回転しているのだから愚痴を言っている暇もない。XLサイズのそれをまともに受けてはたちまち機体を貫かれてしまいかねない。

 レンはギリギリまで引きつけると寸前でそのドリルを回避。壁にドリルがぶつかり火花を散らす中、距離を取ってロングメガバスターのトリガーを引く。だがその粒子ビームが緑の悪魔には届かなかった。寸前で障壁に阻まれる。Iフィールドだ。

 

「ちぃっ! 緑の悪魔は伊達じゃないってかよ!」

 

 更に伸びてきたマニュピレーターをビームサーベルで切り落としながら、レンは悪態をつく。

 コミカルな外見とは裏腹にハロはそんじょそこらのモビルスーツよりも高性能機である。実際にレン達が開発する事は無かったが、カタログだけは目を通した事があった。それが数の暴力でレン達に牙をむいてくる様は恐怖を通りこして笑いが込みあげてくる。

 確かに脅威ではある。しかし勝てない相手ではない。まだ上にいるハロはここに到達していないのだから各個撃破の戦法に変更は無い。

 マニュピレーターを失ったハロが空中をゴロゴロ転がって来た。ドリルも厄介だが、その攻撃はどれも一撃が重い。レンの舌打ちと共にデルタカイの背からプロト・フィン・ファンネルが飛び立った。如何にIフィールドでもこれは防げまい。光の散弾にハロが大きく弾かれた。

 

「ハロ~~~~」

「とっととくたばれ!」

 

 デルタカイのバーニアが火を噴き、急接近と共に盾からビームサーベルを伸ばす。そして弾かれたハロにそれを突き立て、炸裂ボルトを起動。盛大な破裂音と共に飛び出したボルトがハロの装甲を突き抜け、内側を食い破る。すぐさまビームサーベルを引き抜き、デルタカイはそのハロを蹴飛ばした。ボールの様に飛んでいくハロが壁にぶつかり、弾かれ、遂に爆発を起こす。これでまずは一機だ。

 仲間はどうなった。ミネルバは、リーンホースJr.は無事か?

 見渡す画面に飛び込んできたのは奮戦する仲間達だった。Iフィールドに干渉しない、またはそれを突き抜ける程の出力で攻撃を重ねているが、まだハロの数は多い。このままでは上からやって来るハロに追いつかれるのも時間の問題だ。

 

『レンさん! ミネルバが!』

「ちぃっ!」

 

 ティアナの声に見上げると、ハロが一機ミネルバに取りつこうとしているのが見える。

突破されたか! レンは考えるより先にデルタカイをウェイブライダーに変形させ、推力に任せて上昇させた。落下プログラムという奴もこれくらいは許してくれるらしい。

 ハロが回転し、ボールのようにミネルバの上を跳ねている。その度に船体は大きく揺れ、ティアナ達の悲鳴が通信越しにも聞こえてきた。

 

「やらせねぇよぉっ!!」

 

 半ばそこに突っ込むように変形したデルタカイがタックルをかます。固い壁に勢いよく衝突したような衝撃がコックピットにも伝わり、レンが苦悶の声をあげた。だがそれに構っている暇はない。一度は壁にまで吹き飛んだハロがその反動を利用してまたミネルバに飛びかかって来たのだ。

 今度はデルタカイが吹き飛ぶ番だった。避ければミネルバが攻撃されると悟ったレンがデルタカイで受ける事でミネルバへの被害を食い止めたのだ。だが反動の勢いに回転が加わったハロの重量を受け切る事ができなかったデルタカイが跳ね、ミネルバの甲盤から弾き飛ばされる。

 先ほどとは段違いの衝撃に飛びかける意識。バランスを整えて壁面への衝突を間一髪防いだのは無意識。しかしそんなレンの耳にティアナの「危ない!」という声が響くも、彼がそれを理解するには一瞬遅い。

 状況を確かめる間なく、デルタカイに再度衝撃が襲いかかった。画面いっぱいに広がる泡が一気に炸裂する。一つ一つの衝撃は大した事はない。だが数が尋常じゃなかった。囲まれ、爆発に踊るデルタカイ。

 このままでは機体がバラバラにされてしまう。

 今はなんとかこの泡から抜けださなくてはならない。必死にペダルを踏み込み、スラスターを全開。辛くも爆発の中から飛び出したデルタカイの先、ミネルバからレンにターゲットを変えたハロがマニュピレーターから泡を発射し向かってくるのが見えた。レンはこれでもかとロングメガバスターを放つ。勿論Iフィールドで阻まれるが、撃ち抜く事が目的ではない。

 続けて炸裂ボルトを起動させる。足を止められたハロにボルトの雨が降り注いだ。そして追いついたデルタカイがビームサーベルを一閃。マニュピレーターを二本切り飛ばす。そして再度機体を反転させ、サーベルの出力を最大まで上昇。ハロを横一閃で薙ぎ払う。同時に起こる爆発。逃げ損ねたデルタカイが爆風の中から姿を見せる。

 

『レンさんしっかりして!』

「いつつ……。だ、大丈夫だ」

『で、でも機体がアラームを出してます! エネルギー残量ももう少しで危険域です! 一度ミネルバに戻って下さい!』

「大丈夫だって。衝撃で機体が安全装置を働かせてんだよ。それに戻りたいのは山々なんだけど、そんな余裕なんかねぇっ……って、うわぁ……。マジっすか」

 

 先へ進んだミネルバを追いかけようとしたは良い。しかし待っていたのは二体並んだハロがハロハロ言っている。いや、確かに戦法としては正しい。レンにしてみれば冗談ではないという話なだけだ。

 やれるか? やらなくてはならない。

 こんな事ならさっき補給に行った時にハイメガキャノンに換装しておけばよかったかなと、少しだけ後悔。よし、戻ったらハイメガキャノンに換装しよう。そう決めた。

 ならば是が非でもここを突破しなければならない。デルタカイがロングメガバスターを構えた時だった。

 突如、下からミサイルが飛来する。Iフィールドに干渉しないそれがハロに突き刺さったかと思えば、次々と緑色の爆発でハロを飲み込んだ。

 

「GN粒子……。クレアか!?」

『ごっ明答~♪ さぁさぁレンさん、今の内に補給してきちゃって下さい。ここはこっちで抑えますから!』

 

 同じ淡緑色の粒子を散らして昇って来るガンダムデュナメス。普段なら狙撃を主とする彼女まで前に出てきたのか。それほどまでにハロの攻撃が猛威を奮っているという事だろう。だがそれなら、尚更の事補給に行っている時間が惜しい。

 

「何言ってんだ! 君まで前に出てきたんだから尚更戻れないだろ!」

『それこそ何言ってんだですよ~。私らだって伊達に隊長に鍛えられてないんですから!』

 

 GNミサイルにタイミングを合わせて、デルタカイも炸裂ボルトを撃つ。だがこれで丁度打ち止め。確かに後がないと言えばそうなのだが。

 

『レン君、仲間はもう少し信用した方が良いですよ。貴方がそうだからティアナさん達が心配するのをまだちゃんと理解していないようですね』

 

 今度は更に強烈な粒子ビームが二本伸びた。それはレンとクレアが撃破し切れなかったもう一体のハロのIフィールドを貫き、怯んだ所へビームジャベリンを下から突き上げる。

 巻き起こる爆発。姿を見せたのはブラストインパルス。セリカだった。

 

「母さん? でも……」

『まだ分かりませんか。貴方が一人で突っ込んだ所で戦況は変わりません。むしろ貴方が動けなくなった時の方が状況は悪くなるのですよ?』

 

 それはエルフリーデがレンに言った言葉と全く同じだった。彼女の様な辛辣さは無いが、それでも言っている事は全く同じ。それでようやく熱くなった頭も冷えてきた。炸裂ボルトも残弾が尽き、ロングメガバスターもこのままでは役に立たない。エネルギーも危険域一歩手前。確かにこのままだと迷惑しかかけないのは明白。

 

「ごめん! 任せた!」

『任された! ほらほら、早く行って下さい。でもなるべく早く戻ってきて下さいね~』

「あははっ。そいつは整備班に言ってくれ」

 

 だから今は二人に任せる事にする。

 デルタカイを変形させ、レンは一路ミネルバに向けて飛翔させた。

 そして残ったセリカとクレアはまだ数を残しているハロに向けて銃を向ける。

 

『そう言えば隊長はまだ大丈夫なんですか?』

『そうですね。心許ないと言えば心許ないですね。というわけでクレア。少し時間を稼いで下さい』

『へ?』

 

 クレアが間の抜けた声を上げた。画面ではセリカがにっこり笑っている。

 あ、これは逆らえない。

 感応力者でなくても分かる。セリカとずっと共にしてきたから分かる。

 あれは悪魔の笑みだ。

 ミネルバから一筋の光が走った。セリカがブラストインパルスをその軸に合わせる。

 デュートリオンビーム。艦に戻らなくてもできるインパルスのエネルギー補給技術。だがその間ブラストインパルスは無防備になってしまう。だからセリカはクレアに時間稼ぎを要求した。クレアも慌ててセリカを守るようにデュナメスを動かす。

 

『隊長の鬼―――ッ!! そういうのは先に言って下さ―――いッ!!』

『あらあらクレアはまだまだ元気ですね』

 

 違う。そんなんじゃないってば!!

 クレアの悲鳴と共にデュナメスがミサイルをヤケクソ気味にばら撒くのだった。

 

 

 

 

 

 

 ミネルバに戻ったレンはすぐにデルタカイをラックに収容させる。それを待っていたかの様に整備員達が機体にチューブを接続し補給を開始。とりあえず後は任せるしかない。

 

「レン、装備はどうするんだい? このまま行く?」

「いいや、炸裂ボルトをハイメガキャノンに換装。ロングメガバスターも一点突破型にシステム変更だ」

 

 コックピットハッチを開くと待ち構えていたオットーが早速設定の確認を聞いてきた。

 レンもそれに答えながら応急キットから注射器を取りだす。そしておもむろにパイロットスーツから腕を出すとそれを一気に突き刺した。小さくも鋭い痛みにレンの顔が歪み、プシュッと小さな音を出して注射器の中の液体が流れ込んでいく。

 全て流れ込んできた所でレンはやっと力が抜けたようにシートに体を預けた。

 

「ここは、地獄だ……」

「分かってて飛び込んだのだろう? 今更じゃないか」

 

 オットーと入れ替わりでチンクがコックピットを覗いていた。それに自嘲した笑いを浮かべるが、彼女は呆れた顔を向けてきた。視線はレンの手にある小さな注射器。呆れ顔から怪訝へと変わる。

 

「傍目になかなか危ない事をしているな」

「栄養剤だよ。こうでもしないと意識が飛びそうなんだ」

「栄養剤と言うより興奮剤だろそれ?」

「ちゃんとキリシマ先生が処方した奴だから大丈夫。用途、用法はきちんと守って、ね」

「確かにモビルスーツのパイロットは神経を使うらしいから使うなとは言わんよ。だがな、せめてこれくらいは喉を通しておけ。薬に頼ると本当に後戻りできなくなる」

「だな」

 

 チンクが投げて寄越したパックを受け取り、レンはその吸い口に口をつけた。これこそ栄養剤。多少味付けされていても、独特の苦みがあるゼリーだ。だが戦闘しっ放しでカラカラだった喉には水分であれば何でも良かった。瞬く間にレンはそれを飲み干してしまう。チンクもそれを理解していたのだろう。空になったパックを受け取ると、今度はスポーツドリンクを渡してくれた。

 

「見事に水分だけだな。固形物が恋しいよ」

「仕方ないだろ。吸収速度重視なんだから」

「あ~あ、紅茶が飲みてぇ。チンクさ、紅茶淹れるの上手いんだろ? 今度淹れてくれよ」

「分かった分かった。今度淹れてやるからお前は少し落ち着け」

 

 ……ん?

 軽くあしらっていたチンクだったが、その顔がふと曇る。

 何だ? 自分でも分からぬ妙な感じ。何かおかしな事でもあったか?

 いや、何もない。きっと自分も疲れているかもしれない。

 軽口を言っていたレンもデルタカイの調整に入ってこちらには目もくれない。

 そうだ。気の所為だろう。

 カタカタとキーボードを叩く音。外から聞こえてくる轟音。オットー達が整備する騒音。

 本当に遠くまで来た物だ。自分でも気付かずチンクが目を細める。

 博士。私は貴方の言う通り私は望んでここにいる。あちらに戻ればまた敵になる男達と共にジェネレーションシステムを目指す。

 博士。これで良いんですよね。

 でも……、私には貴方が本当は何を目指しているのかが見えなくなってきました。

 

「んなもん、誰にだってわかるもんか。正直あいつが何を思ってチンク達をこっちに送り込んだのかすら俺には理解できん」

「……レン?」

「ただ言えるのは奴は見てるって事だ。この状況をあの世界から必ず見ているに違いない。そして何かチンク達にも言ってない事をやろうとしてる気がする」

「レン! お前は!!」

 

 一体何を言っている?

 そう言おうとした瞬間大きな揺れが二人を襲った。その揺れにチンクの小さな体がコックピットの中に放り出される。驚きに染まるレンの顔が視界いっぱいに広がる。こ、このパターンは……。たった数瞬だというのにチンクの頭は高速回転し、答えを導き出した。しかも導き出したのはミッドチルダで気紛れに買ってみたマンガ雑誌。かっこ少女物かっことじ!

 ま、まさか……。まさか!

 羞恥に頬が染まり、チンクはぎゅっと目を瞑る。

 そして……。

 ……。

 盛大な音を立てて、チンクとレンの額がぶつかった。

 

「おおおおおお……」

「あつつつつつ……」

「……何をしているんですか。貴方達は」

 

 作業終了の報せに来たオットーが半目で覗きこんでいた。レンとチンクは頭を抑えて悶絶している様は彼女でなくても何をしているんだと言いたくなる。だがすぐにオットーはいつものすまし顔に戻り、作業報告を開始した。

 

「レン、作業終わったよ。装甲も関節部分もまだ大丈夫だから全力で動かしてあげると良い」

「さ、さんきゅー……。ちくしょ、頭痛ぇ」

「す、すまん。不覚だった」

「後、チンク姉様はそこから早く動いた方が良い。ティアナが見たらレンがまたどやされるから」

「え……?」

 

 オットーに言われて顔を上げたチンクの顔が一気に火照る。まぁ仕方ないだろう。

 何せ、チンクはレンに馬乗りになっていたのだから。しかも形的には抱きつく様な形とも言えなくない。

 「うひゃあ!」と上げた頭が今度はレンの顎をカチ上げた。

 

「おおおおおお……」

「スマン! 本当にスマン!!」

「だから早く降りて下さい。レンはすぐに出撃する。良いね?」

 

 あたふたするチンクの首根っこを掴みオットーが離れて行く。首を傾げたままのレンが閉じていくコックピットハッチに消える。そんな彼を見てチンクはさっき言おうとした事と、レンが言った事に思案を寄せた。

 だがそんな彼女の思いと疑問を他所にデルタカイが再び出撃する。

 チンクは言いようの無い不安のまなざしでそれを送る事しかできなかった。

 

「……チンク姉様、結構少女趣味?」

「いっ!?」

 

 

 

 

 

 

 これがさっきの揺れの正体か。

 外に出たレンは唐突にそう思った。

 ハロはどうやら一掃できたらしい。だがジェネレーションシステムはとびきりの隠し玉を用意していたという事だ。

 超弩級のモビルアーマーが口を広げて降下を続ける彼らを阻んでいる。

 MAN-003 パトゥーリア。

 そこから触手の如く無数に伸びる有線ビーム砲の砲火を受けたのだ。しかもこのまま行けばパトゥーリアに正面衝突するだろう。その前に撃墜するべく全員が集中砲火を浴びせている。

 すぐにレンもそれに便乗した。換装したばかりのハイメガキャノンと一点突破型にシステム変更したロングメガバスターをこれでもかと撃ちまくる。だが足りない。全然足りない。

 もうパトゥーリアはすぐそこまで迫っている。再び走り始めるノイズにレンが顔をしかめる。

 

『時間がない! 私が先行します!』

『私も行くぞ! この距離では私は役に立たんからな!』

『エリス! エルフリーデ! 無茶をしてはいけません!』

 

 セリカの制止も聞かずに飛び出すF91と真騎士ガンダム。近づく者に死を。ニューロ・パトゥーリアの有線ビーム砲を二機に伸ばした。

 その中で二機が剣を振るい、有線ビーム砲を切り払う。仲間達はそんな彼女達を援護する事で精一杯だった。無闇に近づけば弾幕が薄くなる。それではニューロ・パトゥーリアに攻撃が届かない。誰かがこの露払いをしなくてはいけないのだ。それをエリスとエルフリーデが引き受けたという事。

 だがこのままでは物量に負けてしまうのは誰の目にも分かっていた。それほどまでにニューロ・パトゥーリアは大きく、手数が多い。だがこのまま降下しても結局は衝突して終わる。

 進むも地獄、退くも地獄とはこの事だ。

 

「……スバル、艦長に連絡してミラさんにタンホイザーの起動を要請させてくれ」

『え!? どういう事?』

「……ああ、そうだ。タンホイザーを起動させる。……大丈夫だ。タイミングはこっちで指示するから……。……だから君達はそのまま……そうだ。力に逆らわないで、自分の感覚を信じて……お前は文句ばかり言うなよ……」

『レン兄、ちょっと!』

「ああ、うん。ちょっと待って……。スバル何してんだ! 時間がないんだから早くしろ!!」

『う、うん!』

 

 レンの怒鳴り声にスバルの身が竦む。それを聞いていたティアナ達も同様だった。こんな怒鳴り声を上げるレンは初めてだ。機動六課にいた時もレンがここまで怒りを自分達に向けた事は一度とて無い。ましてスバルはレンが本当の妹の様に接してきた少女だ。案の定レンの意思をニキに伝えた後、スバルは堪え切れずに目に大粒の涙を浮かべている。どちらかと言えばレンはスバルに甘い。……前言撤回。そう言えば怒鳴った事はあったっけ。だがなんというか「質」が違う。でなければスバルがここまで脅えるはずがないとティアナは思う。

 

「ティア~~~」

「あによ」

「ごわがっだ~~~」

「うん、まぁそうよね。あたしもあんなに怒鳴るレンさんは初めて見たわ……」

 

 遂に大きな瞳からぼろぼろと大粒の涙を流し始めるスバル。

 違和感。というか違和感しかない。

 なんだろう。何か本当に嫌な予感がする。跳ねる心臓の様に大きくなる予感にティアナはぎゅっと自分の胸を押さえた。

 

 

 

2

 

 

 

 アインヘリアル陥落。

 その事実に地上本部は浮足立っていた。

 当然だ。対首都防衛用に建造した虎の子の魔道兵器なのだ。それにかけた労力、資金、人材。その全てが一瞬の内に水泡に帰してしまったのだ。

 地上本部緊急対策室。ざわつく官僚達の中、レジアスは一人背筋に冷たい物を感じていた。

 画面に映る巨大戦艦。それとタイミングを合わせるかの様に陥落したアインヘリアル。

 考えるまでもない。これは明らかにスカリエッティ一味の犯行だ。完全に先手を打たれたと言っても良いが、スカリエッティの動きが読めない以上後手に回るのは当然だと自分に言い聞かせる。

 アインヘリアル陥落の際、監視カメラが捉えていた映像には大きな影が映っていた。

 レジアスはこの影を知っている。知らないが知っている。

 これはモビルスーツだ。しかしこんな姿のモビルスーツをレジアスは知らない。

 マークやマリアならこのモビルスーツを知っているだろうか。いや、知ったからと言ってどうする。

 これは敵だ。あの戦艦も敵だ。それだけで十分だ。

 ……よし。腹は決まった。

 

「全員落ち着け!!」

 

 凛としたレジアスの喝が響き渡り、辺りはしん、と静まり返った。

 皆がレジアスに目を向ける。彼はゆっくりと全員を見渡した。

 

「我々が浮足立ってどうする。確かにアインヘリアルは陥落した。これは誠に遺憾だ。しかしだからと言って我々が動揺してはならん。既に現場には空戦魔導士が向かっているのだ。我々の動揺はそのまま魔導士達に伝わるぞ。それでは勝てるものも勝てん。こんな時だからこそ我々は毅然とした態度でこれの対処に当たらねばならんのだ!!」

「……あの機械の力にも頼るのですか?」

 

 誰かがぽつりと呟いた。

 

「必要であれば」

 

 レジアスも静かに答えた。

 

「あれは! 管理局が禁じた質量兵器なのです!! 法の守護者たる管理局がそれを使って事態を解決してどうするのです! それでは多くの次元世界に示しがつきませんぞ!? それでは管理局は数多の次元世界の笑い者だ! 管理局は自らの法も守れぬ愚か者だと揶揄されるのです!」

「ならばどうだと言うのだ! お前はこのままここで我々に慌てふためいていろと言うのか!! それこそ各次元世界の笑い者になるぞ? 肝心な時に決断も下せぬ臆病者だとな!」

 

 空気が張り詰める。魔導士だけで対処できるならそれで良いと誰もが思っている。レジアスだってそうだ。しかし皆、地上本部と機動六課襲撃の記憶がまざまざと残っている。このまま終わるはずがないと思っている。不安はどんどん広がっていく。

 

「地上部隊より緊急通信! 陸士108部隊部隊長ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐です!」

「……繋げ」

 

 不穏な空気のまま、レジアスは通信の許可を出す。対策室の巨大スクリーンにゲンヤの顔が映った。

 

『陸士108部隊部隊長ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐であります』

「挨拶は良い。それよりもどうした。地上部隊は有事に備え待機を命じていたはずだったが?」

『確かに。しかしそうも言っていられなくなりましてな』

「何?」

『まぁまずはこれを見て下さい』

 

 ゲンヤが映像を切り替え、映ったのは首都のすぐ近くの廃棄都市だった。レジアスもここがスラムになっている事はよく知っている。だがそれに驚く者は誰もいない。それよりもそこに映るもっと異質な物に誰もが驚いていた。

 そこでは既に戦闘が始まっていたのだ。戦っているのはゲンヤの陸士108部隊。

 相対しているのは、人間クラスのモビルスーツだった。全身黄土色で単眼のそれが徒党を組み、手にしたライフルとビーム砲を撃ちながら前進している。応戦する陸士108部隊だが、どうやらその機体の周囲を囲むように発生したフィールドに攻撃を阻まれて有効打を打てずにいるようだ。

 

「なんだこれは……」

『新型のガジェットですよ』

「なん……だと……?」

『このタイミングで出てくるのなんてガジェット以外考えられません。その筋に詳しい奴にも確認を取りました。まぁこんな奴らが群れをなしてスラムを首都目指して歩いてくるんです。命令違反かと思いましたが、私の独断で部隊を動かしました』

 

 その筋……。成程マーク達だな? 確かあの狸娘と陸士108部隊は繋がりがあったはず。機動六課とマーク達に繋がっていても不思議ではない。

 

「良い。むしろ良い判断だ。それで、押し返せそうなのか?」

『いや、無理ですわ』

 

 ゲンヤははっきりと断言した。官僚達が次々に罵声を浴びせるがゲンヤは悪びれる様子はない。

 

『そんなに簡単に押し返せるなら報告する必要もないでしょう』

「確かにな。奴らの戦力分析はできているのか?」

『奴らが展開しているのはAMFでしょうな。しかもとびきり強力な奴で物理干渉まで引き起こしています。その上攻撃も砲撃魔導士クラスです。魔導士よりチャージ速度は遅いですが、なんせこの数だ。今はうちの娘が先頭に立って踏ん張っていちゃくれますが、対抗手段が乏し過ぎる。突破されるのは時間の問題でしょう』

「成程言いたい事は分かった。近くの別部隊もそちらに向かわせるとしよう。他の陸士部隊は市民の避難をさせる。万が一突破されたとあらば次の戦火はこの首都だ」

『仰る通り。だが避難させるのは市民だけじゃない。このスラムの住民も一緒に避難させて下さい』

「何だと?」

 

 ギロリとレジアスが睨みつける。だがゲンヤにたじろぐ様子はない。この非常時に何を言っているのだ。レジアスだけに限らず全員がゲンヤの言葉に耳を疑う。

 

『このスラムにも人が住んでいる事を忘れたわけではありますまい。もしかして自覚がおありでないのですかな? スラムを作ったのは管理局システムに適合できなかった者達。いわば彼らを生んだのは我々なのですよ?』

「馬鹿な! スラムに堕ちた者などにかまってどうする! 守るべきは市民だ。スラムなど捨て置け!」

 

 誰かが声を上げた。そしてそれに便乗しそうだそうだとまた誰かが声を上げる。

 しかしレジアスはじっと黙し、ゲンヤを見ていた。

 ゲンヤもそんなレジアスを見ていた。

 

「分かった。貴殿の要請を承諾しよう」

「中将!?」

 

 また誰かが声を上げた。しかしそれを無視し、レジアスは指示を続ける。

 

「ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐。そちらの総指揮をお前に一任する。こちらからもオーリスを出すから臨時の副官として使え」

『……感謝致します』

 

 再度ゲンヤはレジアスに一礼。そしてブツッと画面が閉じられる。彼の決定に呆気を取られていた官僚達だったが、我に返ると同時に一気に誰もがレジアスを非難し始めた。スラムに生きる者など何故救う必要がある。ご乱心なされたか。一体中将は何を考えているのだ。口を開けば誰もレジアスの意見に賛同する者はいない。しかし彼はただ黙ってそれを一身に受けていた。そんな非難など耳に入っていないかの様に。

 

(ゲンヤ・ナカジマ……。確かクイント・ナカジマの夫だったな。前線で戦っているというのが娘という事はあの時の娘か。全く、ここであいつと縁のある者に出会うとは……因果な物だ)

 

 思い浮かべるのは親友の顔。

 答えはいずれ聞きに来る。彼はそう言った。

 友よ。再び俺の前に姿を見せた時、お前に俺は胸を張れるだろうか。

 今もあの時掲げた理想を貫いていると言えるだろうか。

 お前は俺にその槍を向ける事になるのだろうか。

 分からない。ゲンヤの意見を受け入れたのは、まだ少しでも自分の胸にあの時の理想が残っていたからだと思いたい。

 

「な、なんだあれは!!」

「ん?」

 

 そんな時だ。官僚が上げる声にレジアスは瞳を見開く。

 ……全く次から次へとやってくれるなスカリエッティ。

 それがレジアスの正直な感想だった。ゲンヤの一件がなければ、彼も同じ様に声を上げていたかもしれない。だがあの後だ。もう何が起こっても不思議ではなく、むしろ頭の中は冷静になっていく。

 画面はずっと戦艦をモニタリングしていた。空戦魔導士が包囲しようとしているのだから当然と言えば当然である。だがその空戦魔導士達が攻撃しようとしていた刹那だったのだろう。突如として雲海を裂き、巨大な何かが姿を見せたのである。

 それは巨大な人型の上半身。しかしその下半身はうねる竜の様。

 青き半人半竜とでも言うべき巨大なモビルスーツだったのである。その姿の前では魔導士など小さな存在。人が巨大な塔に挑むような物だった。

 この機体の名はZMT-A31S ドッゴーラ。勿論レジアス達はそんな名前がある事すら知らない。

 これもガジェットなのか。対策室中にどよめきが走る。

 

「……見ての通りだ。スカリエッティはこんなものまで作りだした。最早魔導士だけで当たるには事が大きくなり過ぎている」

「しかし!」

「これを見てもまだ状況が掴めぬと言うのか! この大馬鹿共が!!」

 

 レジアスの怒号が響き渡った。彼の我慢も限界だったのだ。こんな物まで作りだしたスカリエッティの科学力を認めたくないが認めなくてはならない。なのにまだ目の前の男達は現実を受け入れようとしない。

 その事にレジアスは声を上げたのだ。

 

「魔法の力は万能ではないと以前にも言ったはずだ! それとも何か? お前達はあそこで戦っている魔導士達に無駄に命を散らせと命令するのか!? あそこに! あんな所に魔導士達だけでは対処しきれぬ物があるのだ! 責任ならば私が取ろう。事が終わったならば好きにするが良い。だが! 今、この場において我々が持てる力の全てで事に当たらねばならぬという事に何故気付かぬ?」

 

 辺りが静まりかえった。管理局の法。確かに守らねばならぬ事はレジアスも分かっている。

 だが現実問題として、それだけで対処できるには範囲を越え過ぎている。それでも管理局は全力を尽くさねばならない。プライドも何もそこには無かった。そんなもの何もかもを捨て去り、事に当たらなければあれはきっと災厄をまき散らすだろう。それだけはなんとか阻止しなくてはならないのだ。

 一人。また一人と席に戻り、いつしかそれは全員となった。

 納得はしていないだろう。顔を見れば分かる。だがレジアスの言う通り、持てる力を以ってあれに対処しなくてはならない事も分かっている。渋々でも良い。それでもレジアスに異を唱える者は誰も居なくなった。

 

「……機動六課、八神部隊長に繋げ」

「はっ!」

 

 レジアスの命を受け、オペレーターが機動六課に連絡を取る。程なくして、はやての顔が画面に映し出された。

 

「狸娘よ。状況は掴んでいるな?」

『はい。アースラももう少しで宙域に到着します。その時点で地上のスカリエッティ基地と、あの聖王のゆりかごへの接触を試みるつもりです』

「聖王のゆりかご? あれはそういうのか。察するに古代ベルカの遺物という事で間違いないな?」

『そうです。詳細につきましてはデータを転送しますのでそれを確認して下さい』

「良いだろう。その資料を元にこちらでも手を考える。それとだ。現場の総指揮をお前に任す。できるな?」

 

 一瞬はやての顔が強張った。しかしすぐに気を取り直したのか、少し幼い顔が一気に引き締まる。

 

『無論です。現場総指揮の命。機動六課部隊長八神はやて、しかと任されました!』

 

 そして力強い声で返したのである。レジアスも頷く。誰も文句は言わなかった。

 ゲンヤの時と同じくブツッと切れる映像。既に対策室に集まった官僚達が送られてきたデータに目を通し、議論を交わし始めている。これで今打てる手は打った。

 後はレジアス自身が任命した現場総指揮達が無事に事を果たしてくれるのを期待するのみであった。

 

 

 

 

 

 

「無理を言ってすまなかった」

「気にしろ気にしろ。だがこれっきりだからな。お前らが行った後にすぐ追手が向かうだろう。いくらなんでもすんなり地上本部に行かせる事はないから安心しろ」

「それで良い。俺もすんなり行けるとは思っていない。ただレジアスの中に俺と掲げた理想が垣間見えた。それだけでも収穫だ」

 

 陸士108部隊の中継車後部の内部。ゲンヤと向かい合っているのはゼスト・グランガイツだった。ゲンヤに新型ガジェットの正体を伝えたのは彼である。そしてその肩にはアギト。彼女はまだ警戒を解いていないのか、ずっとゲンヤを睨みつけていた。無理もない。こちらは時空管理局。そっちはその敵。警戒しないはずがない。

 ゲンヤはゼストとアギトから目を逸らし、温くなったコーヒーを口につけた。

 

「……俺の嫁は腕っ節の強い奴でな。自分一人で格闘技まで生みだしちまうそんなすげぇ奴なんだ」

「ああ? それがどうしたってんだよ」

「まぁ聞けよチビッ子。んで俺の嫁なんだけどよ。まぁそんな奴だから、ぐいぐいと人の心に入ってきやがる。人当たりも良いし、何せ良い女だ。局の中でも高嶺の花として有名だったんだぜ。俺には勿体なさ過ぎる。付き合ってる時も結婚してからも、勿論今でも俺はそう思っている」

「……」

「なんだノロケかよ」

 

 ゼストは黙して語らず、アギトはゲンヤが何故そんな事を語るのか理解できずに首を傾げている。当のゲンヤは表情を変えず遠くを見ていた。何を考えているのか。画面から洩れる光だけがゲンヤの顔を暗闇に浮き上がらせている。

 

「クイント・ナカジマ准陸尉ですよね。存じ上げてますよ。ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐殿」

 

 隅の方で人影が動いた。暗闇の中から現れたのはオレンジ色の髪を揺らす青年。ゲンヤは彼に一瞥をくれるとニヤリと笑った。

 

「やっぱりお前も知っていたか。ティーダ・ランスター一等空尉」

「元、です。まぁそれよりも彼女。クイントさん独特の魔法スタイルは目を引きますからね。それに美人で人当たりも良いとなれば、そりゃ男の注目を浴びますって。それこそ彼女がインターミドルに出場していた頃から彼女は注目の的でした」

「はっはっはっ! なんだ。インターミドルの頃を知ってるたぁお前、そのクチか?」

「僭越ながら。ホント、彼女が結婚したって聞いた時は正直ショックでしたよ」

「悪ぃな。俺のモンにしちまって」

「うわ。正直ムカつきますね。その上から目線」

「だーもう! さっぱり意味が分からねぇ! それが今とどんな意味があるってんだよ!!」

 

 遂にアギトが声を上げた。この話に何の意味がある。彼女にしてみればこんな話さっさと切り上げてゼスト達と先に進みたかった。しかしゼストもティーダもこの男の話に耳を傾けるだけで全然動こうとしない。そしてそこで漸くゼストが口を開く。

 

「彼女は俺の部隊だった。だがアギト、お前も知っているだろう? 俺の部隊はお前と出会う前、全滅しているのだ」

 

 その言葉にアギトの顔が青冷める。そしてゲンヤも立ち上がると勢いよくゼストの胸ぐらを掴みあげた。

 そこに先ほどまでの飄々とした表情は無く、あるのはぎらぎらとした怒りの鬼面。

 

「ああそうだよ! あいつはあの時死んだんだ! なのにお前は何でまだ生きている! どうしてあいつじゃなくてお前が生きているんだ!? 分かるか? 残された俺と娘達の気持ちが! 俺だけなら良い。気持ちの整理くらいはつけられる。だがな、あいつらはまだ子供だったんだぞ! これからもっとあいつに甘えて良いくらいの年頃だったんだぞ! なのに、なのに……」

「……すまない」

「できる事なら俺がお前をブチ殺してやりたいよ。だがな、情けない事に俺にはあいつみたいな力はねぇ。ここで指揮を取る事くらいしかできねぇ。……ああ分かってる。これはただの八つ当たりだ。お前を責めてもあいつが帰って来るわけじゃない。それにお前も巻き込まれた側だってのは分かってる。……ああそうさ。頭じゃ分かってるんだ。……くそっ!! どうして今頃出て来やがった。亡霊のくせに!」

 

 ゼストから手を離し、ゲンヤが拳を机に叩きつけた。何度も何度も。彼の前のモニターには奮戦するギンガの姿が映っている。クイントを知るゲンヤ、ゼスト。そしてティーダがそこにクイントを重ねてしまうほどに彼女はそっくりだ。

 

「似ているな。クイントにそっくりだ」

「ったりめーだ。あいつの娘なんだ。似ないはずがねぇ。……妹の方はどちらかと言えば性格がそっくりだな。良くも悪くも一直線。ったく、変な所だけ似やがった」

「知っている。……さぁ行こうかアギト、ティーダ。悪かったな。俺の我儘を聞いてもらって」

「亡霊は亡霊らしく消え去るのみ、ですか?」

「そうだ。亡霊が生者の邪魔をしてはいかんからな」

 

 言うべき事、やるべき事は済んだとゼストが動きだした。ゲンヤもそれは止めない。自分に止める力がないと知っているからか。それとも追手が向かう事を知っているからか。どちらにせよゲンヤは彼らを止める事をしようとはしない。

 そのまま歩みを進めるゼストだったが、扉を開く直前にふとその足を止める。

 

「最後にクイントの愛した男に会えて良かったと俺は思っている」

「俺は会いたくなんかなかった。……さっさと行け。行って成仏しやがれ。二度と俺の前に姿を見せるな」

「ああ。そうするさ」

 

 静かにゼストは車を降りて行く。だがティーダはまだ降りようとしない。それどころか訝しげな視線を向けるゲンヤの前に不死鳥が描かれた一枚のカードを置いた。ゲンヤの眉間により一層の皺が寄る。

 

「もしもマーク・ギルダーに出会う事があればこれを渡して下さい。それだけであいつは理解するはずですから」

「そんなのテメェでやれ」

「できるなら頼みはしませんよ。じゃあよろしくお願いしますね」

「あ! おいこら! 勝手に話を進めんじゃねぇ!」

 

 止めるゲンヤだったが、ティーダはさっさと車を降りて行ってしまった。

 残されたのは一枚のカード。手に取ってみて気付いた。これはデバイスだ。本来ならばティーダの相棒となるべきデバイスに違いない。それを置いて行ったという事は彼にはもう必要ないという事だろうか。

 ぽりぽりと頭を掻く。戦力になるならこれをマークに渡す事に異論はないが、何故そんなことをするのかゲンヤには全く理解できない。

 

「ああくそっ! めんどくせぇ奴らだな! これから部隊を指揮しなきゃなんねぇのに仕事ばかり増やしやがる!」

 

 現場の総指揮が始まってしまえば、連絡を取っている暇は無い。

 ゲンヤは悪態をつきながらも、はやてに緊急通信を試みるのであった。

 

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