魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第55話 ゆりかご攻防戦

1

 

 

「……シュテル・ザ・デストラクター?」

「貴方は……?」

 

 目の前に現れた少女が自分の名前を呼んで首を傾げている。

 シュテルもルシフェリオンを向けて問いかけた。しかし少女には不服だったようだ。頬をぷくぅっと膨らまし、明らかな抗議の眼差しをシュテルに向けてくる。

 

「聞いているのは私。答えて」

「……そうです。私がシュテル・ザ・デストラクターです」

「そう。ならついて来て。貴方を外に逃がしてあげる」

 

 少女はそう言うなり踵を返し、戸惑うシュテルを尻目に一人歩きだす。それに慌ててついて行く。無限の猟犬達も静かに従った。

 歩く少女の背を見ながらシュテルは思案する。どこかで見た様な気がするが、程なくしてその答えに辿り着いた。彼女を見たのはM-Systemを初稼働させた時だ。ラナロウ達と一緒にいた召喚魔法の使い手。

 そう言えば名前を知らない。再びシュテルは質問を投げかける。

 

「貴方は確かヴィヴィオの時にラナロウ達と一緒にいた子ですよね?」

「うん。いた」

「名前を教えてくれませんか?」

「……ルーテシア」

「そう。ではルーテシア。どうして私を助けてくれるのですか?」

 

 シュテルはまだ警戒を解いていない。ラナロウ達と行動を共にし、こんな敵地のど真ん中にいるルーテシアが本当に自分を助けてくれるのかまだ半信半疑だ。勢いでついて来てしまったものの、一応の事として質問を重ねる。

 前を歩くルーテシアは振り返らないまでも、シュテルの問いに小さな肩が少しだけ震えた。

 

「……アミタに頼まれたから」

「どういう事ですか?」

「アミタが貴方を外に逃がして欲しいって私に頼んだから」

「だからそれはどういう事なんですか!」

 

 ルーテシアの肩を掴み、シュテルが詰め寄った。前に出て正面からルーテシアの瞳を見据える。だが彼女は特に驚いた様子も、怒る様子もなく空虚な瞳をシュテルに向ける。

 

「……痛い」

「あ……。すみません。少し力が入ってしまいましたか」

「構わない。でもねシュテル・ザ・デストラクター」

「シュテルで良いですよ。何ですか?」

「じゃあシュテル。……そこ、危ないよ?」

 

 ゾクリと身の毛がよだつ。振り向き様にプロテクションを張れたのは、シュテルの魔導士としての勘がそうさせたと言っても良い。実際にその勘は正しかった。前方の闇からいくつも飛来する光線が障壁に当たり、弾ける。

 嵌められた? 闇の中から姿を見せたガジェット・ビルゴとルーテシアを見比べて、彼女はこの選択が失敗だったのではと疑いを強めた。だがルーテシアは表情一つ変えずにシュテルの横に並び立つ。

 紫の近代ベルカ式魔法陣。シュテルとルーテシアを守る様に無数の短剣が浮き上がっていた。

 

「……援護する。早く終わらせないとどんどん出てくる」

「この状況で貴方を信じろと? 罠ではないのですか?」

「信じて……としか言えない」

 

 短剣が宙を舞った。無秩序な機動を描き、嵐が起こる。ガジェットもプラネイトディフェンサーを起動させて防御の姿勢を取るが、着弾した短剣の起こす炸裂にバランスが崩れ、そこを狙ってまた短剣が襲いかかっていく。誘導制御と着弾破裂の特性を持つ魔法らしいが、どうやら威力は控えめの様だ。牽制程度にはなっているが、ガジェットの装甲を砕くにはまだ弱いと障壁を張り続けるシュテルは冷静に分析。と、じっとルーテシアが彼女を見ている事に気付く。

 お願い。信じて。

 あまり表情という物を感じさせないルーテシア。しかしそれでも彼女が必死に訴えかけきているというのだけは、シュテルにも理解できる。

 

「……良いでしょう。この話、乗ってあげましょう」

 

 遂にシュテルも覚悟を決めた。ルシフェリオンが輝き、彼女の右手に生まれたのは真紅の爪。グローブ型のそれはルシフェリオンの新しい形、ルシフェリオンクローだ。更にヴァリアントザッパーをフェンサーモードで左手に持ち、一気に駆けだした。

 地を這うほどの低空移動。いくら誘導制御をかけていても、誤射はまっぴらごめんだ。故に体を小さくまとめて、少しでも当たる要素を排除する。そしてガジェットの前まで到達したシュテルの瞳がギラリと輝き、蒼炎が弧を描いた。喉笛を掻き切る獣爪がAMFを物理障壁まで昇華させたプラネイトディフェンサーをも易々と切り裂く。そこにシュテルは体を捻り、くるりと逆手に持ち替えたヴァリアントザッパーを突き刺すや、一気に魔力を放出。今度は蒼炎がガジェットを突き抜ける。対象が完全に沈黙したのを確認する間もなく、シュテルは次のガジェットにターゲットを変更した。

 ルシフェリオンクローがプラネイトディフェンサーを切り裂く。

 ヴァリアントザッパーがガジェットを切り裂く。

 連続攻撃を繰り出し、くるくると回転しながら跳ねるシュテルはまるで蒼炎を纏う踊り子のよう。

 舞いはかくも熱く、しかして澄んだ氷刃の様な鋭い眼差し。

 その氷炎の舞いが終焉を迎える頃にはいくら表情の見えないルーテシアでも、その舞いに魅せられ頬が上気しているほどだった。

 

「すごい。綺麗だった」

「そうですか? 自分ではよく分からないのですが、そこまで言って頂けるのは素直に嬉しいですね」

 

 手を叩いて称賛の声を上げるルーテシアに、シュテルもスカートの裾をつまんでちょんと会釈を返す。

 だがすぐにハッと顔を上げた。

 

「って違います! こういう事をしている場合ではなくて!」

「そうだね。じゃあこっち」

 

 しれっとした顔でルーテシアが再び歩き出した。呆然としているシュテルを不審に思ったのか、振り返ったルーテシアが小首を傾げる。

 

「……なかなか掴みにくい子ですね」

 

 はぁ~~~と溜息を漏らしながら、シュテルは猟犬達と共に小走りで駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 一方、ゆりかごの外では戦闘が更に激しさを増していた。

 巨大ガジェット、ドッゴーラがゆりかごを守る守護竜の如く立ちはだかっている。更には航空型ガジェット・ハンブラビまで出てきた。システムをアップロードしているのか、その動きは以前とは比較にならない程に機敏で正確。歴戦の空戦魔導士達でも手に余る。

 

「ああああっ!!」

 

 誰かがハンブラビの海ヘビに捕まり、苦悶の叫びを上げた。魔導士であっても所詮は生身の人間。全身を流れる高圧電流に耐えられるものではない。助けに行こうにも、他のハンブラビがそれをさせない。ドッゴーラもその巨体を活かし、魔導士達の進路を阻む。

 だが突如飛来する水色の光輪が海ヘビのワイヤーを断ち切った。気を失った魔導士が真っ逆さまに落ちていくもそれを今度は真紅の光が受け止める。

 

「あっぶねぇ。間に合って良かった……。おいレヴィ! 助けるならもう少し周りを見て助けろ!!」

「あ……。ごめーん! 気をつけるよ~!!」

 

 ブンブンと大きく手を振り答えたのはレヴィ。そして近くの魔導士に助けた彼を預けながら呆れた溜息をこぼすのはヴィータ。

 そんなやり取りの間にもガジェット・ハンブラビが襲いかかる。魔導士達があっと声を上げたのも束の間、二人は驚くべき早さで動きだしていた。

 レヴィが嬉々として振り返り蹴りを放つ。手甲に展開する魔力刃と同じ物がそこに生まれていた。バルニフィカス・レイザーモードはレヴィの全身を刃にする。そしてレヴィは電光の妖精。如何にハンブラビのシステムがアップデートされていても、電光の速さには追いつけない。瞬く間に数機のハンブラビが空に散ることになった。

 ヴィータも負けてはいない。目の前に生み出した鉄球は八つ。それを次々と叩き、光弾となったそれが瞬く間にハンブラビを撃ち抜いたのだ。

 あれほど苦戦したガジェットをものの数秒で撃墜した二人に最初は呆けていた魔導士達だったが、いつしか空は大きな歓声に包まれた。全体に比べればたった数機。しかしそれを簡単に撃墜した少女二人の姿は意気消沈しかけていた彼らに希望を与えてくれる。

 大丈夫だ。戦えない相手じゃない。勝てない相手じゃない。

 そう心に思えるだけでも、自身を奮い立たせる事はできる。戦う事ができるのだ。

 皆の心に力が戻って来た。それを確認し、ヴィータとレヴィは頷き合う。

 高々とグラーフアイゼンが掲げられた。

 

「おめーら怖気づいてんじゃねーぞ!! ガジェットの動きに惑わされるな! チームを組んで落ち着いて対処すれば奴らは落とせる! あたしは機動六課スターズ分隊副隊長。鉄槌の騎士ヴィータ! さぁおめーら、まとめてあたしについてきな!!」

 

 うおおおおおおおおっ!!

 

 歓声は更に高まり、空も割れよとばかりの声が一面に鳴り響いた。

 その歓声に口角を吊り上げたヴィータもレヴィと共にゆりかごを見据える。

 待ち受けるは守護竜ドッゴーラとガンジェット・ハンブラビ。

 いつしかヴィータとレヴィの後ろに、空戦魔導士達が終結していた。

 さしずめヴィータ一個師団と言った所か。

 皆がその頭であるヴィータの指示を待っている。再びヴィータがグラーフアイゼンを掲げた。

 

「覚悟は良いな野郎ども。それじゃ……突撃だぁぁぁぁっ!!」

 

 おおおおおおおおおっ!!

 

 振り降ろされたグラーフアイゼン。飛び出すヴィータ、レヴィとその後ろに続く空戦魔導士達。

 ガジェット・ハンブラビも飛び出してきた。背部ビームライフルよる一斉射撃を放ちながら、空飛ぶ青いエイがヴィータ達に向かってくる。

 だがヴィータが出した指示の通り即座にチームが組まれ、この銃撃に対して障壁が張られた。そして次に待っていた反撃の魔法だ。魔法とビームライフル。空にいくつもの光が走る。

 そしてヴィータとレヴィは最前線へ。迫るハンブラビをグラーフアイゼンが砕き、バルニフィカスが切り裂く。

 

「にししししっ。ヴィーたんもやるじゃん。満更でもないって顔してるよ~」

「うっせ。こうでもしなきゃ士気上がんねぇだろ。お前だって本当は飛び出したいんだろーが。さっきからニヤニヤして気持ち悪ぃんだよ」

「気持ち悪いは酷いなぁ~。だってご指名かかってるんだよ? こっちだってリベンジしたくてたまんないってのにさ」

 

 そう言ったレヴィの視線の先に彼はいた。ドッゴーラの肩に乗り、真っ赤な血色のコートをたなびかせ、白髪の男がこちらを見ている。

 

「確かにずっと負け越してるもんな。まぁ良いぜ。行きな。ここはあたしでなんとすっからよ」

「でもぉ~」

「おいおいらしくねぇぞ。もうちょいしたら援軍が来るんだし安心しろ」

「……にゃるほど。それなら……」

「但し!!」

「うにゃ!?」

 

 ならばと飛び出そうとしたレヴィの体がヴィータの一喝にビクンと跳ね上がる。そして突然その肩が抱かれた。グッと顔を近づけられた顔にレヴィが目を白黒させる。ニッとヴィータが笑う。

 

「勝ってこい。そいつが条件だ」

「……もちろん!」

「おっしゃ! じゃあ行ってこい!」

「あいた―――ッ!? んもぅ、ヴィーたん痛い! でも気合い入った! ……んじゃ、レヴィ・ザ・スラッシャー。行っきま―――っす!!」

 

 背中を思いっきり叩かれ、一度は抗議の声を上げたレヴィだったがそれは彼女の気合いを十分に高めてくれる。その気合いを胸に羽が電撃を帯び、電光の妖精が飛び立った。

 向かうはドッゴーラの肩にいる青年。彼もそこから飛び降りてくる。

 そして二人は空中で対峙する。油断なく構えるレヴィに青年はニヤリと笑った。

 

「よう。やっと俺の女になりに来たのかよレヴィ」

「べーっだ! そんなんじゃないよ。今日はっていうか、今日もバトりに来たんだよ」

「つれねぇなぁ。俺の女になるならあン時よりもっとキモチイイ事してやんのによ。あー、残念だ」

 

 わざとらしく肩を竦めて見せた白髪の青年ブラッド・ラインハルト。そしてちらりと見せた真っ赤な舌に、レヴィの顔がぼんっと沸騰した。

 自分の唇を奪われ、あまつさえその舌で口内を犯された記憶と感覚が蘇り、レヴィは彼から目を逸らしてしまう。そしてそれが一瞬の隙になった。

 

「だから、俺から目ぇ離すんじゃねぇよ」

「あ、くっ!?」

 

 一瞬で背後に回り込まれていた。その一瞬だけでレヴィの腕を捻り上げ、もう片方の腕もまとめてブラッドに抱きしめられる。

 

「ちょ、バカ! どこ触ってんだ!」

「暴れんなよ。どこ触ってんだって、う~ん……、腹?」

 

 触れるか触れないかの微妙な指先に撫でられ、レヴィが身をよじらせる。むず痒くもどかしい。しかし体の一番奥には電流が走りしっかりと感覚を伝えている。我慢できなくなったレヴィの唇から甘い吐息が漏れた。

 

「ば、ばかぁ。そんなトコ、な、撫でるなぁ……」

「お、良い反応。そっか、そういう事か」

「な、なんだよ」

「ここが性感帯?」

 

 囁くように耳元で尋ねられる甘い問い。その瞬間、レヴィの体がビクンと震えた。けれどもすぐに唇を噛み締めると力任せにブラッドの腕を振りほどき腕の魔力刃を振り抜く。しかしそこにはもうブラッドの姿は無い。距離を取り、けらけらと笑っている。レヴィが顔を真っ赤にしたまま、耳をごしごしと擦った。

 

「み、耳たぶ噛むな!!」

「くはははははっ! 悪い悪い。ついやっちまった。それとも……そこも性感帯だった?」

 

 バチン!!

 レヴィの体から電撃が走る。それでも笑うブラッドに彼女は深呼吸を繰り返した。

 落ち着け。ブラッドと対峙すると決めた時から、こういう手で来る事は予測できたじゃないか。

 ペースを持っていかれるな。もがけばもがく程、目の前の白蛇は心と体に絡みつく。

 そしてブラッドもレヴィが必死に落ち着きを取り戻そうとしている様に、目を細め、息を吐いた。

 

「信じられねぇかもしんないけどよ、俺がお前を欲しいってのは本気だぜ?」

「だったらもっと違う方法で来なよ。このバカ。エロ魔人。手をわきわきさせるな! えっちぃの禁止!」

「そう言うなよ。手癖が悪ぃんだわ俺。お前限定で。とは言え、ちょっと刺激が強すぎたみてぇだし、エロいの禁止ならそうだなぁ。後、俺とお前のコミュニケーションで思いつくとすりゃあ……これくらいか」

 

 取り出したのは折り畳み式の大剣。右腕に装着されたそれにレヴィは目を見張った。

 彼女はあの武器を知っている。かつて何度も見てきた大剣なのだ。

 プロトGNソード。ブラッドがレヴィ達と出会った頃に搭乗していたガンダムアストレアタイプF2が装備していた物に間違いない。懐かしさと共にブラッドらしいや、と妙に口元が緩む。

 でも、おもしろい。

 先の恥辱もどこかに吹っ飛ぶ。彼女はどこかでブラッドに憧れていた。始めは怖そうな人。でも一緒にいる内に彼が努力家で、実は優しい人だと知った。そしていつしか彼は彼女の目標になっていた。

 そうだ。自分はブラッドと戦いに来たのだ。これこそ望んでいた事。これこそレヴィとブラッドのコミュニケーションに相応しい。

 そしてそんなレヴィの心境を読み取ったのか、ブラッドはちょいちょいと人差し指を動かす。

 

「来な。遊んでやるぜ」

「言われなくても!」

 

 電光が奔った。レヴィの十八番、スピードを乗せた一撃とブラッドの大剣が正面からぶつかって生まれた衝撃が空を突き抜ける。

 青と赤の閃光は何度もぶつかり合い、その度に雷光が轟く。縦横無尽に飛び回る電光の妖精が魔力刃を伴う蹴りを放った。大剣でこれを受けたブラッドが力任せに彼女を押し返し、今度は彼がレヴィに迫る。

 大剣は一撃重視。一度速度がついてしまえば、それは斬撃の嵐となり食い止めるのは困難。それでもまだスピードに勝るレヴィの方に軍配が上がった。そして連続攻撃の中に見つけた合間を狙い、彼女の体がくるりと一回転。強烈な踵落としが放たれる。それを左手一本で受けるブラッド。踵から感じる衝撃にレヴィの顔が曇った。すぐさま宙返りで距離を取る。対してブラッドは左手をぷらぷらと振り、顔をしかめていた。

 

「いって~。流石にこいつ一本で受けるのは無理があったか」

「その左腕、どしたの? なんかすっごく固いのにぶつかった感触だったけど……」

「ああン? そりゃオメェ、治したんだよ。戦闘機人の技術を使ってな」

 

 そう言って剣の柄でコンコンと左手を叩くブラッド。聞こえてくる音は骨からは到底鳴るはずのない音。

 金属音だ。

 

「シュテルとやりあった時に左腕をポンコツにしちまってよ。義手って奴さ。ちょいと色々あってあのマッドとは距離を置いてたんだけどな、さすがに俺も片手じゃどうしようもねぇ。すげぇよなぁミッドの科学力って奴は。顔出したついでに言ってみたら、すぐに作ってくれたぜ」

「いや、それはスカリエッティがおかしいだけだと思う……。ミッドの科学力でもそれはちょ~っと無理があるよ……」

「ん? そうなのか? まぁどうだって良いか。現に俺は作ってもらったからな。さしずめシャイニングフィンガー? いやさ、ゴッドフィンガー?」

「だったらシャイニングガンダムかゴッドガンダムに乗れば?」

「それならターンXが良いねぇ!!」

 

 言うなり、正面から向かってくるブラッドにレヴィは雷球、雷迅衝を放つ。これが牽制にもならない事は彼女にも分かっている。現にブラッドは最短距離、最小限度の動きだけでこれを避けている。瞬く間にレヴィの前で大剣を振り上げた。両腕を交差させ、ありったけの障壁で重い一撃を受ける。レヴィの体を衝撃が突き抜けた。

 

「じゃあ行くぜレヴィ! お待ちかねのシャイニングフィンガーだ!」

「マジで!?」

「おうよ! マジで撃てるんだなぁこれが!」

 

 ブラッドの左手に魔力が集まった。今のレヴィは頭上で両腕を交差させてガードががら空き。

 しかし冷や汗が流れるよりも早くレヴィの足が動き、ボディへ叩きこんだ蹴りがそれを救った。脇を抜けたブラッドの腕と、更に撃ちこむレヴィの膝。好機だった。握りしめたレヴィの拳に雷撃が集まる。

 

「蒼迅!!」

「ちぃっ!」

 

 ブラッドも再度魔力を集中させ、血色の魔力が掌に宿る。

 

「雷華ァッ!!」

 

 レヴィの気迫と撃ちこまれる拳。迎え撃つブラッドのシャイニングフィンガー。

 相克する二つの力が弾け、その衝撃に吹き飛ばされる二人。

 そこに大きな影がかかる。これまで聖王のゆりかごを守る様に鎮座していた機械竜ドッゴーラがブラッドを守るべく巨体を動かし、大きく長い尾の各所に設置されたビーム砲がレヴィに狙いを定めたのだ。

 今からビギニング30を出した所で到底間に合わない。そもそも自分達に残されたモビルスーツでまともに機動できるのはもうレヴィのビギニング30とマークのフェニックスだけ。使い所は一任されているものの、それ故に判断が難しい。よってさすがのレヴィも逃げの一手を選択するしかなかった。

 

「やめろウーノ!! つまんねぇ真似したら俺がお前をたたっ切るぞ!!」

「……はへ?」

 

 制止の声は意外な所から。一時後退の準備に入ったレヴィの耳に入って来たのはブラッドの怒鳴り声だった。彼はレヴィに背を向けドッゴーラを威嚇している。

 

「俺はゆりかごを守る。だがそれ以外は俺の好きなようにする。そいつが契約だったはずだ」

「しかし、それでは……」

「安心しろ。お前の相手は別にいる。ああ、とりあえず警告だ。……来るぜ」

 

 機械竜から聞こえてきた女性の声にブラッドが返した時だ。空を一直線に二筋の閃光が伸びてきた。

 桃色と黄金。互いに並走し、ハンブラビの群れを巻き込みながらドッゴーラに向かってくる。

 とっさに防御の姿勢をとる機械竜。着弾と同時に閃光と轟音が空を揺らした。しかし両腕は健在。機械竜は揺らぎこそしたものの破壊には至らず、煙の中で機械竜の瞳が輝く。

 その瞳が捉えたのは遥か先よりこちらに向かってくる一隻の艦。

 時空管理局L級艦船第八番艦アースラ。

 その甲板に白きエースオブエース、金色の雷神。そして夜天の騎士王の姿があった。

 

 

 

2

 

 

 

「目標への着弾を確認。けれど破壊には至らず、か」

 

 夜天の騎士王、八神はやてが肩を竦める。しかしその顔に悲壮感はない。これくらいの事は予測済みとでも言いたげな顔だ。

 

「あの巨体だもんね。やっぱりもっと接近して最大威力を撃ち込まないと厳しいかぁ~」

 

 ガシャンと音を立ててレイジングハートがカートリッジをリロードする。白のエースオブエース、高町なのははそれを確認すると表情を引き締めた。

 

「じゃあ予定通り私となのはであの竜みたいなの……ドッゴーラだっけ? あれの相手をするから。はやては前線でヴィータ達の直接指揮、だよね」

 

 バルディッシュを肩に担いでフェイト・T・ハラオウンが微笑む。しかしそのバルディッシュは大きく様変わりしていた。巨大なカートリッジシリンダーまではロングライフルの様にも見える。だが銃身は金色の魔力刃を持つ片刃の大剣。フェイスレイヤー。この形をデザインしたディアーチェはそうフェイトに告げていた。そしてバリアジャケットも真・ソニックフォームをベースに二又のリアスカートが風になびいている。装甲防御が両手足にしかない点は同じだが、そこから展開するソニックセイル。その大きさは以前の比ではなく、正に両手足に翼を持っているに等しい姿だった。

 姿が変わったのはフェイトだけではない。なのはのバリアジャケットも変化していた。ロングスカートには左側だけ腰まで大胆なスリットが入り、上着も左肩だけ肩当てがあるもののノースリーブ。今までのなのはよりも攻撃的な姿に見える。そしてレイジングハートはますます槍の様相を強くした形へ。シュテルのルシフェリオンの如く逆手持ちの突撃槍へと姿を変えたそれをフェイトの時と同じく、ディアーチェはRHドライバーと名付けた。

 そんな大きく姿を変えた二人にはやてが頷く。

 

「そうや。あれをガジェットと呼んでええかもうよく分からんけれども、始末はなのはちゃんとフェイトちゃんにお願いする事になる。二人共M-Systemの調子はどうや?」

「問題ないよ。でも凄いねこのHD-Linkって。え~っと、Human-Device-Linkだっけ? なんか視野が一気に広くなった気がするよ」

「それがM-Systemの特徴の一つやって王様が言ってたからな。人間が感知できる情報にデバイスが得られる情報がプラスされてるらしいよ。マルチタスクの発展系やとも言ってたってなのはちゃん、王様ちゃんと説明してたやろ」

「うん。聞いているよ? でもこうして実戦配備は初めてだし、感覚の再チェックをしておかないとね」

「相変わらずマイペースやねぇ。動じないって考えればこれほど頼もしい事はないわ」

 

 肝が据わっているというかなんというか。親友のいつもと全く変わらない様子にはやては呆れる所か感心までしてしまう。

 なにせ彼女とフェイトが相手をするのはこれまで見た事もないほど大きなガジェットだ。先にはやて自身が言った通り、あれをガジェットと呼んで良いかはもうよく分からない。だが危険な機動兵器である事には変わらない。それをたった二人で相手にしようというのだ。むしろ揃って平然としていられる事の方が不思議である。

 

「さて、お話はここまでにしとこ。二人共、ほな行くよ?」

「うん!」

「いつでも!」

 

 桜、金、白。

 三色の閃光がアースラから飛び立つ。瞬く間に三色の光は戦闘空域へ。そしてそこから白の閃光が離れて行く。離れ際に白の閃光、はやてが片目を瞑った。なのはとフェイトもそれに頷き返す。

 任せた。

 任されました。

 それだけで以心伝心。言葉に出さなくても思いは伝わる。そして一人戦闘宙域に残ったはやてにヴィータが飛んでくる。

 

「はやて!」

「遅くなってごめんな。でも状況はちゃんと見てたよ。よく皆の士気を盛り返してくれたな」

「へへっ」

 

 頭を撫でられてヴィータの顔が赤くなる。いつまで経っても甘えん坊さんやとはやてもにこやかに笑う。

 しかしヴィータが盛り返した士気をここで崩す訳にはいかないけれども、完全に押し返すにはもう一手欲しい。

 それをするのがはやての仕事だ。

 

「地上部隊の皆さん。機動六課部隊長八神はやてです! 機動六課スターズ分隊副隊長、鉄槌の騎士ヴィータの声に耳を傾けて頂いた事。そしてこの場で一緒に戦ってくれた事。本当にありがとうございます! ここから先はヴィータに変わり、私が指揮を執りますので協力をお願いします!!」

 

 おおおおおおおおっ!!

 

 念話の全チャンネルに向けてはやての声が響き渡る。返って来たのは奮戦続ける空戦魔導士達の歓声。

 満足げに微笑むはやては早速夜天の書を開き、愛杖シュベルトクロイツを高く掲げた。

 

「それじゃあまずは一発景気良く行きます!! 先行している方は一度後方へ。今の内に陣形の組み直しをして下さい!!」

 

 はやての周囲に生まれる無数の光の弾丸。煌びやかな輝きと共に周辺が一気に埋め尽くされていく。

 静かに振り降ろされるシュベルトクロイツ。同時に光の弾丸が一斉発射され、それを白色の閃光が埋め尽くした。

 危険を感じ取ったガジェット・ハンブラビが緊急回避行動を始める。だがそれは全て無駄な行為だ。

 放たれたのは白色の魔弾。はやてはその魔弾の射手。

 人では出せないマニューバを描き無茶苦茶に逃げるガジェット。しかしいくら逃げようとも魔弾はそれを逃がさない。どんなマニューバを描こうとも、魔弾はどこまでも追いかけ、必ず撃ち抜く。

 逃げようとも、逃げようとも、だ。

 それがこの神曲『魔弾』。必中の範囲魔法である。

 たちまち空に無数の爆発が起こった。はやてたった一人で範囲内のガジェット・ハンブラビが一掃された瞬間だった。

 

「ふぅ。なんとかなったなぁ」

「さっすがはやて!」

「まぁ歩くロストロギアの面目躍如って所かな。でも私じゃ精密動作と最終制御に問題があるから、アースラのバックアップ受けてやっとできる芸当や。それにもしも予測通りなら次のガジェットが来るよ。気ぃ引き締めてなヴィータ」

「お、おう!」

 

 そしてはやての予測は的中。新たなガジェット・ハンブラビがゆりかごから出撃してくる。だが数は最初の比ではない。いくらスカリエッティでも生産数には限界があるに違いない。そう考えていたはやての読み通りだ。

 

「さぁ行こうヴィータ。ここは私達で抑えるよ!」

「おう!」

 

 夜天の王と鉄槌の騎士。そして空戦魔導士達とガジェットの衝突が再び始まった。

 

 

 

「派手だよねぇはやてちゃん」

「うん。カートリッジ無しでこれだもんね。でもはやてとヴィータが揃ったならあっちは大丈夫かな」

「そうだね。こっちもちゃんとやる事やっちゃおう!」

 

 なのはとフェイトの前に立ちはだかるドッゴーラ。オリジナルに比べれば小さいらしいが、それでも彼女達にしてみれば大きい事この上ない。しかしそれだけだ。相手がガジェットであるというのであれば、容赦をする必要がない。いつも通りに対処するだけだ。

 

「レイジングハート!」

『All right. Master!』

「バルディッシュ!」

『Get set!』

「「ヴォワチュール・リュミエール。展開!!」」

 

 なのはの背に光輪が生まれた。そこから大きなアクセルフィンが翼を広げ、同時になのはの体を桜色の光輪が包み込む。

 フェイトの背にも両手足のソニックセイルとは別に、一対のソニックセイルを展開。しかしなのはが光の翼なのに対し彼女は雷の翼だ。

 M-Systemスターゲイザーとデスティニー。それがなのはとフェイトに与えられた新しい力だ。これはそのオリジナルに搭載されたヴォワチュール・リュミエールを二人用にディアーチェがカスタマイズしたもの。なのはのアクセルフィン、フェイトのソニックセイルを強化し、空戦能力の強化を更に引き上げる為のものである。

 

「行こうフェイトちゃん!」

「うん! 行こうなのは!」

 

 翼を広げ、二人が左右に展開した。最初に仕掛けたのはフェイト。プラズマランサーを起動させ、周囲に雷撃の弾丸を発生させる。雷弾の周囲に展開する環状魔法陣による加速発射により、弾丸と言うよりも小型のミサイルを彷彿させるそれが一斉にドッゴーラに襲いかかる。

 緑色の装甲で次々と起こる爆発。しかしその爆発の中から無数の光線が飛び出した。尾のいたる所に設置されたビーム砲をばら撒き、ドッゴーラが防衛行動に入る。

 だがそれで止まる彼女達ではない。今度は別の個所から爆発が起こった。ドッゴーラが振り返ると今度はなのはが周囲に魔力弾を展開している。誘導弾アクセルシューターだ

 

「シュ―――ト!!」

 

 彼女の声がトリガーになり、流星が機械竜に降り注ぐ。絶え間なく降る流星にドッゴーラを再び爆発が包む。だがそれだけでは足りないと、なのははカートリッジをロード。フェイトもなのはの動きを読み、同様にカートリッジをロードさせる。

 レイジングハートとバルディッシュの先端に生まれる魔力の塊。一方は桜色の光球。一方は金色の雷球。

 左右からドッゴーラを挟みこみ、なのはとフェイトはその起動トリガーを発動させる。

 

「フレアブロッサム!」

「スプラッシュフラワー!」

 

 それは空に咲く大輪の花々。炸裂した魔力は連鎖を引き起こし、何度も何度も機械竜に花を咲かせる。

 例え刹那でも堂々と輝きを放ち、魔力の花弁を散らせていくその魔法は見た目にも鮮やかさとは裏腹に強力な炸裂魔法だ。勿論その花々に囲まれたドッゴーラがいかに巨体であろうとも、防御のしようがない。

 いや、防御の意味すら無いのではないだろうか。

 だが機械竜は耐えた。その苛烈な爆発の花々に耐えてみせた。

 そして巨体を捻らせ、フェイトを狙って体当たりを仕掛ける。

 確かに当たれば人一人簡単に砕け散るだろう。しかし高速戦闘を得意とするフェイトにしてみれば、見切るのは容易い事。ごう、とフェイトのすぐ脇をドッゴーラのボディが通り過ぎた。ふわり、豪風の中でフェイトの金髪が舞い上がる。決して流れに逆らわず。されども飲み込まれず。軽やかに、しなやかにフェイトが見せる神がかった回避術。

 “武”とは“舞”。達人の動きは武でありながらも舞いそのもの。まさにフェイトの回避は空という舞台で踊る剣舞だった。

 

「バルディッシュ!」

『Jet Zamber!』

 

 バルディッシュから黄金の刃が天まで伸び、ドッゴーラの背面を取ったフェイトはそれを一気に振り降ろす。その刃の大きさはドッゴーラにも引けを取らないほどに巨大。分散していた威力を補うには十分過ぎるほどの一撃がドッゴーラを背面から襲う。

 疾風迅雷。一刀両断。

 天から落ちる雷撃の一刀が機械竜の右腕を斬り飛ばす。

 爆発と共に機械竜の巨体が大きく揺らいだ。

 

『Master!』

「うん。行くよレイジングハート!」

 

 その揺らぎを待っていた。なのはは瞬時にアクセルシューターを展開。先の攻撃よりも更に多く、密度の増した魔法弾が星のように輝いている。

 スターゲイザー。それは星を見る者。

 なのはの生み出す魔法弾は真昼の星団。その星々の中に立つ彼女はその名を語るに相応しい。

 

「アクセルシューター一点集中! レイジングハート!!」

『Fire!!』

 

 そして流星が走った。なのはを中心に展開したアクセルシューターが光の尾を引き、ドッゴーラに押し寄せる。しかもなのはが宣言した通り一点集中。個々の威力はそれほどではなくても、それが束になって押し寄せるそれは面ではなく点での制圧だ。絶え間なく降り注ぐ流星がドッゴーラの装甲で次々と弾け、堅牢な装甲に穴を穿った。

 そしてそこを狙いなのはが再びレイジングハートを構える。魔法陣の上で両足に力を込め、サイドグリップも使い両手で構えたレイジングハートの長い穂先が展開し、桜色の魔力が次々と集束していく。

 それは彼女を彼女たらしめる魔法。なのはがなのはとして進んでいく方向性を決定づけた魔法。

 

「ディバィィィン、バスタ―――ッ!!」

 

 そしてもっとも信頼する砲撃魔法、ディバインバスターだ。

 渦巻く魔力の奔流。減衰の様子すら見せない魔砲が流星の穿った箇所に寸分違わずに直撃。だがそれだけに留まらず、ドッゴーラの内部をも突き抜けて、遂には貫通までしてみせた。

 それは機械竜を串刺しにする剣のようで、機械竜の胸に大きな穴を刻みつける。

 そしてフェイトもまた自身の攻撃から、なのはが全力全開の一発を刻みつけてくれる事を信じていた。

 だからこそ自分も次の一撃に全てを込められる。終わりにする為の一撃を放つ事ができる。

 フェイトの体はドッゴーラの遥か上空にいた。ジェットザンバーを維持したまま、彼女は高々と金色の大剣を振り上げる。

 防御は考えない。この一刀で終わらせる。

 グン、とフェイトの体が急降下を始めた。一撃で終わらせるにはドッゴーラは大きい。フェイトの細腕では斬り伏せるのに力が足りない。だから使える物は全て使う。

 重力と自らの加速。それらを全てこの一刀一撃に託し、フェイトはバルディッシュを振った。

 機械竜の頭から真っ直ぐに駆け降りる一筋の雷光。そして刻まれる金色の斬撃。

 胸を桜色の砲撃に撃ち抜かれ、体を金色の斬撃に裂かれる。

 その身から眩い閃光を発した機械竜の巨体が、一際大きな爆発と共に空に沈んでいった。

 

 

 

「流石ディアーチェ。我が王です。この短期間で二人のM-Systemをここまで完璧に調整するとは。それにそれを使いこなすナノハとフェイトも同様に流石と言うべきでしょう」

 

 爆散するドッゴーラ。シュテルは聖王のゆりかごの甲板からその光景を見ていた。

 コクコクとルーテシアも頷いている。無表情でも驚いているのは十分に伝わる。

 

「貴方もそう思いませんか? ジェイル・スカリエッティ」

 

 風に髪を揺らしながら、シュテルは目を細めて甲板にいる白衣の青年に問いかけた。

 

「ああ、あのシステムを構築したのはやはり君達だったか。私以外にモビルスーツの能力を組み込む事ができるとすれば君達をおいて他にはいないとは思っていたけれどね。それにしてもM-System、ね。Mとはさしずめ、モビルスーツの力を取りこんだシステムだからかな?」

 

 彼の白衣もこの強風で激しくたなびいている。そしてシュテルとルーテシアを黄金の瞳で見つめ、彼は口元に笑みを浮かべた。その横ではトーレとセッテが控えている。どちらも互いの獲物を構え、スカリエッティの指示があればいつでもシュテルとルーテシアに飛びかからんとする勢いだ。

 しかしそんな状況であってもシュテルは相変わらずの落ち着きを払い、彼の問いに答える。

 

「間違いではありません。ですがそれだけでは足りませんね。私達マテリアルのM。デバイス達の記憶、メモリーを示すM。それらを総称してのMなのです」

「成程ね。いや、実に興味深い。それに感謝するよ。私とは違うアプローチをすればああなるという一つの事例を見せたくれたのだからね。今後の参考にさせて頂くとしよう」

「今後? 何を言っているのです。貴方はここで捕まるのですよ。ナノハとフェイトのM-Systemは完成し、他のガジェット達もハヤテの指揮の前では力不足。じきにここにも彼女達は到達するでしょう。貴方に今後は無いのですよ」

「貴様ッ!!」

「待つんだトーレ。そういきり立つものではないよ」

 

 飛び出しかけたトーレを諌めるスカリエッティ。その表情には余裕が見える。そしてそれがシュテル最大の懸念だった。スカリエッティからは強力な魔力を感じられない。むしろ現在、空戦をしている魔導士達の方が強いのではないかとさえ思える。今、ビリビリとシュテルの頬に伝わるプレッシャーは間違いなく両脇の二人、トーレとセッテから発せられる物だろう。

 ひょっとしてまだ何か隠し玉があるから、こんなにも彼は余裕の顔を見せるのだろうか。

 ルシフェリオンクローとヴァリアントザッパーを向けたシュテルの頬を汗が滴り落ちる。

 そしてトーレを諌めたスカリエッティは視線をルーテシアへ向け、両手を広げて見せた。

 帰っておいでと言わんばかりに。そして優しく彼は語りかける。

 

「ルーテシア、君の役目はここまでだよ。さ、危ないからこっちにおいで」

「……駄目。まだシュテルを安全に脱出させてない。それにドクターはズルイもの。ちゃんとシュテルを逃がすまで戻れない」

「やれやれ。そんなに私が信用できないかい?」

「……(コクッ)」

「なっ!?」

 

 ピシャァ!! とスカリエッティに雷が落ちた。幼女の無言の頷きは天才科学者に絶大なダメージを与えたようである。全身を固まらせ、身動きが取れないスカリエッティにルーテシアは淡々と言葉を紡ぐ。

 

「ドクターの事は嫌いじゃない。でもこういう時のドクターは信用できない」

 

 再び雷が落ちた。がっくりと崩れ、スカリエッティは助けを乞うようにトーレを見る。しかし彼女はふいと目を逸らした。弁護しかねます。だからこっち見んな。たとえ言葉には出さなくてもそれだけで彼女の意思は伝わる。ますますスカリエッティは身悶えた。

 チャンス! とりあえずスカリエッティはルーテシアの行動にダメージを受けている。

 捕まえるのなら今の内だ。そして一気に離脱をかける!

 そう判断したシュテルが飛び出した。この距離でルベライトによる拘束をかけても連れ出せなければ意味が無い。なれば直に捕獲できる位置まで距離を詰めるしかない。

 しかし突撃の判断も早かったが、それ以上にシュテルがそれを中止する判断も早かった。

 その決め手はトーレの目だ。スカリエッティと漫才をしながらもシュテルが動いた瞬間、彼女の鋭い視線がシュテルを射抜いたのだ。それに反応するシュテルの体。数々の経験と直感が全力で警鐘を鳴らす。

 そしてそれはすべからく正しい。

 急ブレーキをかけたシュテルが振り向き様にルシフェリオンクローを掲げる。そこに空を裂いてブーメランブレードが飛来してきた。とっさに張った障壁と衝突するも、拮抗したのは束の間。みるみるヒビの入る障壁にシュテルの顔が驚きに染まる。

 パリィン!

 甲高い音と共に障壁が砕け散り、シュテルの体が吹き飛んだ。船上の強風も重なり、予想以上にシュテルの体が転がっていく。それでもなんとか彼女は体を起こし、自らの失策を恥じた。

 あのブーメランブレードにはバリアブレイクの付与効果があったのだろう。とっさであったとは言え、シュテルの障壁を破るほど強力な力であるのは認めないといけない。

 だが何よりも、ルーテシアが離れたのが一番のミスだ。

 

「シュテル!」

「お譲、そんなに暴れないで下さい。セッテ、分かっているな?」

「任務……了解」

 

 シュテルの前に立ちはだかるブーメランブレードの使い手、戦闘機人ナンバーズのNo.7セッテ。

 その背後には必死でもがいているルーテシアを抱きかかえたトーレと、未だショックから立ち直れないスカリエッティ。

 

「ドクター、お譲は無事に確保しました。そろそろ再起動して下さい」

「む……、そうか。駄目じゃないかルーテシア。あんな事言ったら私傷ついてしまうよ?」

「……ドクター、嫌い」

「うぐっ!! は、はははは……。も、もうその手は通用しないよ」

 

 凄い動揺してるじゃないですか。脂汗凄いですよ。

 空笑いをしているスカリエッティにそんな感想を抱きつつ、シュテルは考える。

 さてどうする。状況は途端に悪くなった。ルーテシアがあちらにいる以上、スカリエッティが自分を逃がす理由がなくなったと見て良いだろう。とは言え、希望があるとすればどうやらスカリエッティはルーテシアに嫌われたくないようだという点かもしれない。もしも彼女の目の前で自分が脱出できない状況になれば、彼女はスカリエッティをなじるだろう。それは彼にしても好ましくないはずだ。

 

「ふ~む。それならこうしようじゃないか。あの子は見逃そう。だが他は駄目だ。外にいる管理局を排除した後、彼女を逃がす。それならどうだい?」

「……それなら良い。アミタにお願いされたのはシュテルだけだもの」

「そうかそうか。聞き分けの良い子を大好きだよ。……という事だシュテル君。外の管理局を排除した後に君をここから逃がそう。それまで大人しくしている事だね」

 

 くらっと来た。頭の血が一気に抜けていくようだった。

 そう来たか。シュテルはかなり大きな勘違いをしていた事に今更気付く。

 ルーテシアが気にしていたのはシュテル本人ではない。シュテルを逃がして欲しいというアミタの願いだったのだ。

 そんな彼女にスカリエッティは笑う。白衣を翻し、スッと腕を天に伸ばす。

 

「ドッゴーラを落とされたのならば、もう並大抵のガジェットでは太刀打ちできないだろう。ならば私も切り札の一枚を切らなければいけないね。では、いでませいっ!! 私の切り札その一ッ!!」

 

 猛烈な気合いと共に、スカリエッティの指が高らかに弾かれる。

 それと同時に空に生まれる魔法陣にシュテルは息を飲んだ。

 その大きさたるや、通常人間が使う魔法陣の何倍もあるだろう。そしてスカリエッティは切り札と言った。となれば、考えられる魔法は一つしか彼女は思いつかない。

 

「召喚魔法……!」

「ご明察だ。幸いな事にルーテシアは召喚魔法の使い手でね。その術式を解析し、プログラミングしてしまえばこの通り。私の様な者でも召喚魔法を使う事ができるというわけさ。だが驚くのはまだ早いよ。召喚魔法であるという事は……」

「一体何を召喚するつもりですか!」

「話は最後まで聞いてほしいねぇ。まぁ、それは見てのお楽しみだ!」

 

 スカリエッティが得意気に語る。突如空に現れた巨大魔法陣に、ゆりかご周辺の魔導士達も攻撃の手を止めていた。後退していく姿が見える。きっとはやてが後退命令を下したに違いない。

 何かが魔法陣からゆっくりと降りてくる。爪先からゆっくり、ゆっくりとそれは空中に姿を見せた。

 シュテルは再び言葉を失う。予想は半分当たり、半分外れと言った所だろうか。

 それはモビルスーツ。ガジェットの様にサイズダウンしたものではない正式サイズのモビルスーツ。

 そこまではシュテルの予想通り。

しかし問題は外れた内容にある。見慣れた配色にツインアンテナとフェイス。背中に設置されたコーンスラスター。そこから吹き出す淡緑色の光は神々しく、光の翼を模している。

 

「0ガンダム……、ですよね?」

 

 思わず歯切れが悪くなる。確かにあのフォルムはGN-000 0ガンダムに間違いないのだが、その背にあるあれは何だ。彼女の知る0ガンダムはいくらGNドライヴを積んでいてもあんな現象は起こさなかったはずだとシュテルは、ゆっくりとアースラや魔導士達に向けて振り返る0ガンダムを見て思う。

 と、0ガンダムが銃を持ちあげた。ぞくりとシュテルの背筋が凍る。あれを撃たせてはいけない。彼女の勘が全力で警報を鳴らす。とっさにルシフェリオンを爪形態から銃槍形態に戻し、魔力を集束し始める。

 しかし突然甲板から伸びてきた赤い魔力糸がシュテルの体を縛り上げてしまった。全身を締め上げた上に口も塞がれ、シュテルが苦しげに呻く。忌々し気にスカリエッティを睨んでも彼は人差し指を口に当てている。黙って見ていろという事か。

 冗談ではない。この程度の魔力糸、こっちも魔力を集中させれば引き千切るのは容易いとシュテルが魔力を集中させようとしたその時だ。

 

「余計な抵抗はするな。お前はここで黙って見ているんだ」

 

 その声と同時にシュテルの周りにナイフが次々と突き立てられる。その瞬間、シュテルの魔力が次々と霧散していった。ナイフを起点に彼女を囲むようにAMFが発生したのだ。しかもそれは彼女の魔力を抑えこむほどに強力なもの。全身に感じる虚脱感と共にシュテルが倒れ込む。

 しかしその目はずっと一点を睨みつけていた。こちらに歩いてくる人影。それがこのナイフを投げつけた張本人。シュテルはその声を忘れない。忘れるはずがない声なのだ。

 

「お前を傷つけるとレンの奴が怒るからな。無事に帰してやるためにもお前はここで少し大人しくしていてくれ」

 

 背後からナイフがシュテルの頬に当てられる。

 ラナロウ・シェイド。かつてシュテル達と苦楽を共にし、この世界では敵になってしまった彼が冷やかな視線で彼女を見降ろしていた。

 

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