魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第5話 願い事、一つ

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 突如、衛星軌道上に出現した建造物。円盤状のそれと正面に位置する尖塔でワンセットが二機。

 円盤と尖塔にはミラーが付いており、太陽の光をギラギラと反射している。

 その名はジェネシス。

 Spiritsが疑似体験した世界において決戦兵器とまで言わしめた代物である。正体は核エネルギーを利用した超巨大ガンマ線レーザー砲。一発で地球の全生命体の80%が死滅するであろうと言う計測結果が出ている、正に悪魔の兵器。

 そんな兵器が二機。突如として現れたのだ。

 そしてそれは一度発射されてしまっていた。偵察に向かった一個師団に反撃とばかりに発射。ただの一撃で全滅させたのである。次々と光の中で爆散していくそれをレン達は画面越しにただ見ている事しかできなかった。

 当然対応に追われる地球連邦だったが、その対応は決してお世辞にも早いとは言えない。何せ相手はいつでも地球を狙える位置にいるのだ。民間人のパニックを抑える事と、一部の上層部による身の保身。それらが地球連邦の対応を後手に回らせていたのである。

 既にジェネシスが出現してから2時間。その周りにはニューロモビルスーツが出現し、悪魔の兵器を守っている。そしてジェネシスも発射の為の準備を終えていた。だが、それ以上撃って来る様子は無い。

 それはただ静かに沈黙を貫いていた。

 

 

 第00遊撃隊Spiritsの母艦ディーヴァ。そのブリッジで艦長ニキ・テイラーは静かに瞳を閉じている。

 その横では副艦長のマリアがパネルを操作し、状況の分析を行っている。

 

「マリア、地球連邦の対応はどうなっています?」

 

 不意に瞳を開き、ニキが尋ねた。

 マリアはモニターに現在の状況を映し出すと力無さげに報告を行う。

 

「状況は変わらずですね。上層部はまだ明確な結論を出していません。一応、部隊の集結は整いつつありますが、議会ではそれが逆にジェネシスとニューロを刺激するといった意見も出ています」

「仕方ありませんね。下手な攻撃は逆効果でしょうから。それにニューロの目的も分からないのが気になります。もう既に二時間。本当ならば、すでに地球は滅んでいてもおかしくはないのですから」

「何かを待っているのでしょうか?」

 

 マリアの呟きにニキは目を細めた。それは彼女も考えていた事。何かがおかしい。ニューロがあれを撃ってこないこと。あからさまにジェネシスの攻撃力を見せつけたこと。ニューロの転移システムがあれば、唯の一撃で勝敗は決していた筈だ。なのにそれをしない。それはとても不合理な事だ。マリアの言う通り、何かを待っている。そう思えて仕方ない。

 考えられる一つとして思い出されるのはあの巨大モビルアーマー、バルバドロとマスターフェニックスだ。そう言えば前回、アクシズの落下とバルバドロの出現には時間的誤差があった。そしてバルバドロの撤退と同時にアクシズが消滅。まるでそれが連動しているかの様に。

 不意に彼女の脳裏に閃くものがある。そして立ち上がったニキにマリアもクルーも全員が目を見開いた。

 

「ミラ! すぐに地球連邦上層部に繋いで下さい!そしてすぐにモビルスーツ隊に発進準備! 後はカチュアにバリアフィールドとハイパーブースターの準備を急がせて下さい!」

「え、え?」

「早く!事態は一刻を争うかもしれないのですよ!?」

「は、はい!」

 

 大急ぎで艦内に緊急放送が流れると共に、オペレーターのラ・ミラ・ルナは地球連邦上層部に通信を繋ぐ。すぐにブリッジの大型パネルが開き、そこに歴戦の勇士を思わせる初老の男性が映し出された。

 ゼノン・ディーゲル中将。Spiritsを編成した人物だ。

 

『何事だね?ニキ君』

「中将、ニューロの目的について些か見解を述べさせてもらってもよろしいでしょうか?」

『……何か思い当たる節でもあるのか?』

 

 ニキの言葉にゼノンの目が鋭くなった。そしてニキは語る。あのジェネシスは前回のアクシズの時と同様にニューロはバルバドロが転送されるまでの時間、自分達を張りつける為のものではないか。

 前回はあからさまにアクシズを地球に落とそうとした為に、地球連邦が出てきてしまった。結果、バルバドロへの攻撃が始まり、撤退せざるを得なくなった。今回は最初から力を見せつけ、地球連邦をその場に釘付けにする。そうする事で安全にバルバドロを転送できる。勿論バルバドロがどんな目的で転送されてくるかは不明だが、可能性としては低くはないはずだ、と。

 

『成程……な。確かその意見を否定する材料は無い……か。しかし現にジェネシスはそこにあるのだぞ?下手に刺激すれば、あれが地球に撃たれる危険性もある。そこの所はどうするのかね?』

「……本艦が囮になります。ディーヴァにバリアフィールドを設置し、ハイパーブースターで加速。バリアフィールドなら理論上一度だけジェネシスのガンマ線レーザーを防ぐ事ができます。射線に注意すれば地球が狙われる事もありません。そしてジェネシスは一度発射すればそのカートリッジの交換に時間を要します。その時間は調整も含めて約三十分。その間にディーバがジェネシスに張り付き、本艦のフォトンブラスターで破壊します」

 

 バリアフィールド。

 ニキ達Spiritsがオーバーワールドシステムでの疑似体験で手に入れた装備である。

 何層ものi-フィールドにより特殊な力場を発生させる強力なバリアだ。しかし技術的にまだ試験段階であり、数は二つしかない。更に連続稼働が出来ないという代物だが、ニキの言う通り理論上ならジェネシスクラスの一撃にも耐える事ができる。そしてニキの提案はその一発防ぐ事が出来れば良いというもの。

 

「無茶です艦長!ジェネシスは二つあるんですよ!?一つを本艦に向けたとしても、もう一つが地球に発射される恐れがあります!」

『その通りだニキ君。そこはどう対処するつもりだね?』

 

 マリアとゼノンの問いにニキは瞳を閉じる。ブリッジクルーもニキに視線を集め、その答えを待った。

 そしてニキは何かを決意したように目を開くと、口元に笑みを浮かべそれを口にする。

 

「私が出ます。私のディープストライカーにも同様の装備を行い、もう一機を叩きます」

「艦長! 危険過ぎます!」

「しかしこれ以外に方法はないでしょう。それにあの機体は防御に優れた機体ですよ。生半可な攻撃では落ちません」

 

 ニキとてそれが危険な賭けである事は承知の上だ。しかしそれ以外に手が思いつかない。ニキはマリアを安心させるように微笑み、ゼノンに向き直る。後はゼノンの指示を待つだけ。ゼノンもその危険性を分かっている。しかし決断をしなければならない。そして彼が決断を述べようとした時だった。

 

「何も艦長自らが出て行く必要もあるまい」

「XLサイズの機体を持っているのは何も艦長だけじゃないってね」

 

 振りかえるとそこにはディアーチェ、ユーリ。そしてキールとアミタの四人が居た。驚くニキを尻目に、四人は不敵な笑みを浮かべながらブリッジに入って来る。

 

「艦長はそこでどーんと構えておれば良い。もう一機のジェネシスは我とユーリ。そしてキールとアミタの四人で破壊してみせようぞ」

「一機よりは二機。それにこの艦にあるバリアフィールドは二つ。一つはディーヴァに。後の一つはディアーチェのフリーダムにミーティアを換装させて積んでやればいいさ。一つでモビルスーツ二機分は展開できるんだろ?俺はエクシアにGNアーマーを換装させて出る。もしディアーチェがタイミングをミスってもGNフィールドなら数秒は耐えれるはずだ」

「それに最悪、私達の機体ならパージして戦闘が続行できます。これはディープストライカーにはできない事です。つまり私達の方が戦闘継続時間を長く取れます。正に打ってつけですね」

 

 フンと胸を張るディアーチェ。その横でいつものゆるふわな笑顔を浮かべているユーリ。そしてニキの前にあるパネルを勝手に操作し、作戦に修正をかけるキールとアミタ。

 確かにこの二機が揃えば状況は良くなる。広域殲滅が得意なディアーチェとユーリのフリーダム。斬り込み型であるキールとアミタのエクシア。ニキが単機で出るよりも確率は高くなるだろう。

 

「ってなわけだ艦長。艦長がやろうとしていた役。俺達にやらせてくれないかな」

「……危険ですよ?最悪一発で蒸発する恐れもあります」

「それはディーヴァだって同じです。むしろ危険性はディーヴァの方が大きいんですよ?」

 

 アミタの言う通りである。艦は大きく、小回りが効かない。一度張りつかれた艦は絶好の的だ。

 そして攻撃、防御両方の要。いくらモビルスーツが強力でも艦が撃沈されてしまっては被害が明らかにこちらの方が甚大だろう。

 

「俺達ならきっと上手くできる。だから頼むよ。じいちゃん」

『……私の事はここではじいちゃんと呼ぶなと言っておるだろ』

 

 画面の向こう、ゼノンが溜息をつき、キールは鼻の頭を掻いた。

キールはゼノンの孫である。だがそんな事と関係無くキールはここに居る。

作戦成功の確率と孫の命。本来なら天秤にかける事もないだろうが、今の二人は上司と部下。私情を挟む事はできない。実力も知っている。なれば、優先すべきは作戦成功確率の高い方だ。

 

『ニキ君。この作戦、うちの馬鹿孫にやらせてもらえないだろうか』

「しかし中将!」

 

 ニキが声を上げるのも無理は無い。しかしゼノンは諦めた様だ。そしてニキも分かっている。より適しているのはどちらの意見であるかを。

 そして遂に彼女も諦めた。声を張り上げ、改めて指示を出す。

 

「これより本艦はあのジェネシス二機を破壊する為の作戦に入ります!一機はバリアフィールドを装備したディーヴァがハイパーブースターを使って可能な限り接近。近距離でフォトンブラスターによる一撃を与えます。もう一機は同様の装備をしたディアーチェ、ユーリのミーティア。ハイパーブースターを装備したキール、アミタのGNアーマータイプE。破壊の手段は問いません。確実に落としなさい! 但し! キールとアミタはバリアフィールドが無いのです。くれぐれも先行し過ぎないように。そして必ず帰って来なさい!」

「「「「了解!!」」」」

 

 ディアーチェ以外の三人が敬礼をする。例によってディアーチェはふふんと鼻を鳴らしていた。そしてそれも束の間、すぐに四人はブリッジを出て行く。

 

『すまんなニキ君。うちの馬鹿孫に作戦を任せるのは不安かもしれんが』

「何を仰いますか。キールはもう立派なパイロットです。中将が思っている以上に彼は優秀ですよ。でなければこのSpiritsに彼の居場所はありません」

『これは手厳しい。ではニキ艦長。作戦の総指揮は君に一任する。見事やり遂げてくれたまえ!』

「ハッ!」

 

 敬礼を返した所でモニターが消える。腰かけた椅子に深く体を預け、ニキは溜息をついた。

 

「心配ですか? あの四人が」

「当たり前です。ですが、ここはあの子達を信じるしかないでしょう。さぁマリア、ここからは時間の勝負です。地球への射線以外でジェネシスに最短で近づけるルートの検索。お願いしますよ?」

「了解です♪」

 

 ディーヴァ自ら突貫をかけるというのに、マリアを含めブリッジクルーは誰もそれへの不安は感じていないかのように笑顔で作業を進めて行く。

 実際に前線で戦ったのはパイロット達だが、クルーもまたその激戦で勝利を収めたメンバーである事には変わりない。そんな彼女らを頼もしく思える。

 艦長冥利に尽きる。ニキは人知れず笑みをこぼしていた。

 

 

「GNドライブ正常作動。GNアーマーとの連結問題無し。システムオールグリーン。うん。今日もこの子は絶好調だね!」

「そいつは結構。カチュア、こっちの準備は完了したぞ」

『こっちもだ。フリーダムとミーティアの連結問題無し。核動力エンジンも正常。いつでも行けるぞ!』

 

 ディーヴァの外。宇宙空間でキールとアミタのエクシアとディアーチェ、ユーリのフリーダムがそれぞれユニットとの接続が完了した旨を整備班班長のカチュアに連絡を入れている。

 GNアーマーもミーティアも大型のユニットだ。艦内で連結させるには無理がある。故に宇宙空間内で直接ドッキングが行われていた。そして更にその後部に大型のブースター。ハイパーブースターユニットが接続されていく。

 カチュアが四人に注意事項を告げる。それに自信たっぷりに返すディアーチェ。そんな彼女にユーリも絶対の信頼を寄せた声で気合いを入れている。

 

 おーおー、自信たっぷりな事で。

 

 キールは苦笑いを浮かべた。きっとユーリもディアーチェも一緒だから不安を感じていないのだろう。

 二人一緒ならどんな事にも耐えられるし、どんな事でもやり遂げてみせる。

 そう心から思えるのがあの二人の強みだ。改めて感じる二人の絆にキールはほとほと感服してしまう。

 そう言えば、自分のパートナーはどんな感じだろうか。

 改めて見ればホログラム姿のアミタが気合いを入れて、鼻息を荒くしていた。相変わらずの熱血少女ぶりに肩を竦める。アミタは猛然と抗議してくるが、それを聞く気は無い。ただ薄く笑いながら、システムの再確認を進めていく。

 

「ジェネシスの発射タイミングに合わせてGNフィールドを展開させる。タイミングはアミタに任せたぞ」

「了解です! どーんと大船に乗ったつもりでいて下さいね!」

「信頼してるぞ?お前がミスったら俺達は一瞬で蒸発だからな」

 

 特に脅したつもりは無かった。しかし直前に任せろといったものの、アミタの顔が急に強張っていく。

 恐らく今更自分の責任が重大であることに気付いたのだろう。

 おいおい、勘弁してくれ。

 キールは思わずそう言いそうになってしまった。アミタを信頼していないのではない。むしろ、これまで共に戦場を駆けてきて、無二のパートナーだと思っているくらいだ。正直危ない場面も何度かあったが、それを自分達は越えてきた。これくらいで緊張されても困る。

 

「よーし、なら無事に返ってきたら一つ俺のお願いが聞いてくれるか? アミタ」

「お願い……ですか?」

「命賭けるんだ。ご褒美の一つや二つあっても良いだろ?」

 

 突然お願いなどと言いだしたキールにアミタは首を傾げる。するとキールは意地悪な笑みを浮かべて、彼女にこう告げる。

 

「無事に帰ってきたら、メイド服着てくれ。あ、勿論ミニスカでってお前元からミニスカか……。まぁ良いや。んで、「お帰りなさいませ、ご主人様」とか言ってご奉仕してもらおうかな」

「メ、メイド服ですか!? それにご、ご奉仕ですか!?」

 

 急速に顔が真っ赤に染めあがる。瞬間湯沸かし器もビックリな速度だ。口をパクパクさせ、何かを言おうとしている姿は滑稽極まりない。そしてその様子がおもしろくてキールは堪え切れずに「クククッ」と笑い声に出してしまう始末。

 そんなタイミングでニキから確認通信が入った。ディアーチェとユーリのミーティアも準備は完了。キールも完了した旨を伝える。そこでニキからミッション開始の号令がかかった。

 まだ顔が真っ赤なアミタを無視して全ては進行していく。

 

『キール、先に行くぞ!』

「了解だ。先鋒は譲るぞディアーチェ! なぁにすぐに追いつくさ」

『我らのスピードについて来れるものならな! ……ミーティア・フリーダム。ロード・ディアーチェ!』

『ユーリ・エーベルヴァイン!』

『『行きます!』』

 

 その声と共にミーティアの後ろに装着されたハイパーブースターが火を噴き出した。巨体であるミーティアはそれ以前に大型のブースターが付いており、機動力は見た目以上にある。しかしそれ以上の加速で飛び出して行くその姿は正に隕石の名に相応しいと言えよう。

 

「それじゃ、俺達も行くかアミタ」

「メイド服……。しかもご奉仕なんて……」

「駄目だこりゃ。んじゃ、俺の楽しみの為に! キール・アルドとアミティエ・フローリアン! GNアーマータイプE、行くぜ!」

 

 まだ泡食っているアミタを放っておき、キールはGNアーマーを発進させた。

 同時にハイパーブースターを点火。これまで味わった事のないような加速とGに思わず呻き声を漏れる。

 

「頼むぜアミタ!」

「キール! それは夜のご奉仕についてですかっ!? キ、キールなら私。が、がんばります!!」

「どうしてそうなった!? そこまで求めてないからな!?」

 

 システム管理の事を言いたかったキールだが、返ってきたのはアミタのぶっ飛んだ発言。思わず突っ込みを入れつつ、GNアーマーは緑色の尾を引きながらジェネシスに向かって飛翔していった。

 

 

 

2

 

 

 海というのは、何処の世界でもやはり塩味がするようだ。

 レンは波打ち際にしゃがみ、ペロリとその海水を舐めてそんな事を思う。

 

「……やべ。海鮮丼食いたくなってきた」

「現実逃避はどうかと思うな~」

「いやいやレヴィ。正直な感想だよ?レヴィだって海鮮丼食いたくないか?」

「食べたいっ!」

「だろ?」

「ほんなら今夜は海の幸盛りだくさんで行こうか~?」

「「いぇーい♪」」

 

 レヴィとハイタッチを交わし、レンは後ろを振り返る。

 そこにはニコニコと笑顔の八神はやての姿。

 

「でもその前に、魔法のお勉強しとこか~。思いっきり動いた後のご飯は格別やし」

「「へ~い」」

 

 にこやかな笑顔の後ろでは、どこの戦場かと突っ込みたくなるような光景が広がっていた。

 

 

 はやて達に管理局入隊の意思を伝えた日の午後。

 早速なのは達の提案でレン、マーク、マリアの魔力状態を見る事になった。午後にははやての守護騎士の内、湖の騎士シャマルと守護獣ザフィーラも合流。という事で、シャマルが海岸に広域結界を張り、その中で魔力状態を見るという名目の高町式訓練が始まる。

 

 Step1。

 まずは魔力を感じてみよう。

なのはに言われるまま、まずは体内にあるリンカーコアに意識を集中させる。とは言っても元々魔法とは縁が無かったレン達だ。その感覚が分からない。それでも集中していくと、次第にではあるが『流れ』の様な物を感じる事ができた。なのは曰く、これが魔力でありそれが集まって行く場所がリンカーコアなのだという。

 

 Step2。

 デバイスを使ってみよう。

 魔力の運用に慣れてきた所で、なのはは本格的な魔法の運用に入る。そして彼女に言われて三人は各自のデバイスを取りだした。

 

 レンのデバイス。キリエ・フローリアンをAIとするインテリジェントデバイス『ヴァリアントザッパー』。

 マークのデバイス。彼の搭乗していたガンダムが保存されたストレージデバイス『フェニックス』。

 マリアのデバイス。アプロディアをAIとするインテリジェントデバイス『アプロディア』。

 

 無事にそれぞれのガンダムがインストールされたデバイス達である。

 そしてアプロディアはマリアのデバイスに移っていた。流石は魔道書型ストレージデバイス。容量の大きさには目を見張る物がある。元々はストレージデバイスだが、アプロディアが管制を行う事でそれは立派なインテリジェントデバイスになっていた。

 そして三人は頷きあうとデバイスを掲げ、声高らかに宣言する。

 

「「「セットアップ!!」」」

 

 瞬間眩い光が三人を包んだ。

 レンのホワイトブルー。マークのスカーレット。マリアのイエロー。

 三者三様の色。それは即ち三人の魔力光である。

 そしてその光が弾けた時、その姿は別の衣服を纏っていた。

 

 レンは黒のインナー及びパンツ。上着は黄色く縁取られた濃紺色のショートジャケット。防具は膝まであるブーツと肘まで覆うガントレット。そのどちらもがメタリックな漆黒だ。

 そして特徴的なのが肩部分に浮かぶ濃紺の四枚翼。彼の腕よりも長いそれは羽というには機械的。しかしはっきりと翼と認識できる代物だった。

 黒を基調とするレンと対照的なのはマークである。白のインナーとパンツ。真っ赤なロングコートをバックルで閉じている。防具はレンよりも小さめな赤と白の籠手のみ。そしてレンと同じく紅白の四枚翼が浮いていた。

 攻撃的な二人の姿。その中で唯一ほっと胸を撫で下ろしたのはマリアである。魔力によって構成されたのは彼女にとって身近な物だったからだ。白のケープの下は黒に金縁の上着とミニスカート。そしてブーツ。彼女が元の世界で好んで着ていた軍服のデザインそのままだ。そのデザインに懐かしさを覚えつつ彼女の手に魔道書と杖を取る。

 

 その姿に満足げな高町教導官。三人はまじまじと自分の姿を見た。なんだか不思議な気分を味わいつつも、同時にそれが自分の魔力によって構成されたものだと思うとなかなか感慨深いものだ。

 

「これがバリアジャケット。魔力で組まれた防護服です! 服のデザインは主に自分が思い描いたイメージをデバイスがより良い形に最適化しています。服の形をしているけど、これも立派な防御魔法なんですよ。では、バリアジャケットが展開できた所でStep3。行ってみようか!」

 

 Step3。

 実際に魔法を使ってみよう。

 一同から離れた所に氷柱のようなものがある。それはザフィーラの鋼の軛を使った臨時の的だ。

 そしてその横にはザフィーラとシャマルが待機している。

 三人の中で最初に指名されたのはマリア。突然指名されて慌てる彼女だが、フェイトが横に付きその杖と手を取ると鋼の軛に向けさせた。

 

「大丈夫。意識をゆっくり集中して下さい。魔力であれを撃ち抜くイメージです。そうすれば後は貴方のパートナーがプログラムの中から最適な魔法を選択してくれます」

『そうですね。マリアならミネルバで敵を撃った時の事をイメージしてみると良いでしょう』

「撃ち抜くイメージ……」

 

 フェイトとアプロディアに言われた通り、意識を杖の先に向けて瞳を閉じる。

 的を撃ち抜くイメージ。思い描くのはミネルバから発射されるミサイルだ。

 落ち着いてイメージを固めながらリンカーコアに魔力を集中。瞬間、マリアの足元に黄色の魔法陣が広がった。それはミッド式魔法陣。魔法陣の展開と同時にマリアの周囲に発生する光弾。それが形を固めた瞬間、杖からアプロディアの声が上がった。

 

『トリスタン!』

 

 光弾が宙を走る。発射される光弾は4。光の尾を引きながら飛ぶそれはマリアの思い描いた通り、魔力のミサイルだ。指向性を持った黄色の光弾は弧を描きつつも全て鋼の軛に命中。炸裂音と共に粒子となって消えて行く。

 

「こ、これが魔法……。本当に撃てた……」

「なかなかですね。しかもいきなり4発か。マリアさん良い筋してますよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 バラバラとガラスの様に砕け散る鋼の軛がその威力を物語っていた。だがそれを放ったマリア自身は、驚きの余りフェイトによりかかりながら目を白黒させている。無我夢中で放ったのでまだピンと来ていないのか。それでも見上げた先で微笑んでいるフェイトに苦笑を返す余裕はあるようだ。

 

「成程ね。なんとなく感じは掴めた気がするな」

「え?マークさん、見ただけでしょ?」

 

 そんな時に静かに声を上げたのはマークである。その発言になのはが首を傾げるが、彼は不敵に笑うと自身の右肩にある翼を起動させた。

 要は、自分の中で最も身近なものをイメージすれば良いのだ。

 それをマークが確信した瞬間、真紅のミッド式魔法陣が起動した。それと同時に強大な魔力が彼の構えた翼の先に収束されていく。魔力は次第に形を整え、赤々と燃えあがる炎の塊へ。

 

『ブラストファイアー!』

 

 臨界点に達した瞬間、翼の先端にもう一つ魔法陣が発生した。そしてフェニックスのシステム音がトリガーを発し、放たれる炎の砲撃。

 そう。放たれた魔法は砲撃魔法だった。人一人は簡単に飲み込めるだろう炎が渦を巻き、一直線に鋼の軛を飲み込む。それでも砲撃は止まらず、海上で爆発を巻き起こす。

 雨の様に海水が降る中、それを呆然と眺めるなのは達。まさかマリアの魔法発射シークエンスを見ただけで砲撃魔法を撃つとは考えていなかった。そしてシャマルに至っては、直前にザフィーラに助けられてはいたもののペタリと砂浜に座りこんでいる。しかし唯一人。マークだけは意気揚々と笑い声を上げていた。

 

「はっはっはっ!まさかここまで威力があるとはなぁ。こりゃ俺も驚きだぜ」

「笑いごとではないですよマーク。いきなりブラストファイアーですか。確かにプログラムを組んだのは私ですが、正直初手であれを撃つとは思いませんでした。しかも炎熱変換とは……パクリですか?」

「そう言うなよシュテル。っていうかパクリ言うな。俺だって驚きだっての」

 

 思わず誰もが「おいっ!」と突っ込みを入れたくなるような内容だった。

 まさかの砲撃。しかも炎熱変換というおまけ付き。

 本人も驚いているようだが、もっと驚いたのはなのは達だ。そしてその中、フェイトはかつてマーク達に語ったリンカーコアの後天的発生の事を思い出す。あの時考えていた『異常性』がこうして目の前で現実の物になっていた。更に彼女が感じた異常性。それは……。

 

<ね、ねぇなのは……。今の魔力量って……>

<うん。魔力量だけならAAランク。まさかのまさかだよ>

<正に規格外やねぇ。なんかユーノ君の気持ちがちょっと分かったわ>

<あうっ……>

 

 念話で会話をする三人。幼き頃の自分を思い出し、なのはは言葉に詰まってしまう。とはいえ、このままだと面白がったはやてに弄られるだけので、彼女はコホンと一つ咳払い。

 とりあえず、空気を変えようという意思表示。

 

 

「え~っと、マークさん。いきなり砲撃はどうかと思いますよ?一応ここは住宅地だと言う事をお忘れなく……ですからね?」

「全くですよ~!あのままだったら私直撃だったんですからね!」

「あ、そっちもスマン」

 

 そして遠くでシャマルもまた大声で文句を言っていた。狙って砲撃を撃ったのではないのだが、涙目になっているシャマルを見るとなんとも言えない罪悪感に襲われてしまう。

 

「まぁそういうわけだ。お前はいきなり砲撃はやめておけよ?」

「多分、マークさんレベルは元から無理だと思います……」

 

 マークに肩を叩かれ。げんなりと肩を落としたレンが前に出た。ザフィーラがまた作ってくれた鋼の軛製の的。それを見て、レンは少し唸る。確かに雰囲気的に砲撃なんぞ撃てる状態ではない。

 その手には漆黒に変色したヴァリアントザッパー。ザッパーモードと呼ばれる銃が二挺。その一つを構え、レンは静かに瞳を的へ向けた。マリアとマーク。二人の先輩がやったように、自分も魔力をリンカーコアに集中させる。

 

『そう。落ち着いて、意識を集中するの。流れ込む魔力に逆らわないで、レンの思うがまま形にしてみて』

(ああ。分かってるよキリエ)

 

 ヴァリアントザッパーからキリエの声が聞こえる。体から余計な力を抜いて、レンは己の内に流れ込む魔力をその銃身に誘導する。

 蒼白の魔法陣が広がった。

 レンの魔力に応え、足元に展開された魔法陣。ミッド式でもベルカ式でもない魔法陣だ。

 誰かが驚きの声を上げた。しかしレンにはその驚きを確認する気は無い。構わずに紡いだ魔力は蒼白の輝きを更に強める。

 

『ラピッドトリガー!』

 

 キリエの声と共にレンがトリガーを引いた。途端に銃を握る手に連続で感じる衝撃。

 放たれたのは蒼炎の弾丸だ。一度の射撃で六発。寸分の狂いも無く、一直線に並んだ蒼炎の弾丸が連続で鋼の軛を捕える。ドドドドドドッとまるでそれが一つの弾丸であるかのような炸裂音。

 見れば、鋼の軛に大きな穴を穿っていた。一点集中で放たれた弾丸が開けた穴だ。

 

「……俺がやったのか?」

『うん! 大成功だね!』

 

 それを撃った本人が、信じられないといった面持ちでそれを眺めている。だがその相棒からかけられる称賛の言葉に、ジワジワと興奮が込みあげてくる。

 

「……へへっ。いよっしゃあ!!」

 

 遂にその興奮のあまり、レンはガッツポーズと共に声を張り上げた。

 

 その様子を遠くから見ていたシュテル。その肩をなのはが叩く。

 素直にシュテルは驚いていた。それはきっとなのはも同様だろう。

 レンが展開した魔法陣。その名はフォーミュラプレート。ミッド式でもベルカ式でもない、エルトリアの魔導力運用技術フォーミュラ・エルトリア。それを使用した者のみが展開できるテンプレート。それがフォーミュラプレートだ。

 

<それをレン君が展開した。シュテル、どう見る?>

<恐らくキリエですね。ヴァリアントザッパーには彼女がいます。彼女を介して魔法が発動していますから、自然と魔力の運用形態もフォーミュラ・エルトリアになっているのでしょう。となると、レンが着ているのも厳密にはバリアジャケットではなく、プロテクトスーツという事になりますか>

<なるほどね。加えてレン君も結構な魔力量と蒼い炎の魔力変換資質か……。これは鍛えるのが楽しみになってきたよ~>

<ほどほどにお願いしますね?>

 

 念話で会話をしながらでも分かるほど、今のなのはの目はらんらんと輝いている。

 磨けばきっと輝く。そんなダイヤの原石を見つけたのだ。教導官としての血が騒いでいるのに違いない。

 きっと今夜は動けなくなりますね。

 シュテルは一人、三人の行く末を思い肩を竦めていた。

 

 

 そして彼女の予想通り、その夜三人は揃って動けなくなっていた。

 理由は簡単。魔力の使い過ぎである。どんなに魔力保有量があっても使い続ければ枯渇する。加えて、なのはの課した訓練で体力まで根こそぎ奪われているのだ。

 レンとレヴィの要望の通り夕食は海鮮尽くし。それに舌鼓をうち、部屋に戻るとそのまま倒れ込むように夢の中に旅立ってしまう。マテリアル達も少しはしゃいでいたのだろう。何せ、なのはの訓練で触発されたレヴィと交代で模擬戦を繰り返したのだ。今はベッドで四人揃って眠っている。そんな彼らの様子を見て、はやては静かに扉を閉めた。

 

「まったく掘り出しモンにも程があるで。まさか三人そろってAクラスオーバーなんて思いもせぇへんかったわ」

「ですが、なかなか興味深い人物であるのは確かなようですね」

「だよなぁ。なのはが教導に熱を入れるのも分かる気がするわ」

「そのおかげでこっちは結界の維持に大変だったんだからね!」

 

 リビングでお茶を飲みながら昼間の映像を見ていたピンク髪のポニーテール、シグナムが呟く。

 アイスを食べながら相槌を打つのは見た目は少女。心もどちらかと言えば少女のヴィータだが、シャマルは机に突っ伏したままそれに反論する。

 確かに今回影の功労者はシャマルだろう。なんせ、結界の維持に全力を尽くしていたのだから。

 

「まぁなのはちゃんからは訓練メニューも貰ってるし、もう暫く付き合ってな?明日はシグナムとヴィータも付き合えるんやろ?」

「勿論です」

「うん!」

 

 今から楽しみだと言わんばかりのシグナムに、見た目相応の反応をするヴィータ。若干涙目のシャマルにはやては心の中で小さく合掌した。

 

 

 不意にレンは目を覚ました。

 しばらくぼーっとしていたが、なんだか目が冴えてしまった。

 体の調子は良い。魔力エンプティが嘘の様にすっきりしている。時刻は午前二時。彼は少し考えるとベッドを抜け出した。

 

 夜の波打ち際。

 一定のリズムで聞こえる波音を聞きながら、レンは大きく伸びをする。潮風を胸一杯に吸い込み、彼はそれを大きく吐き出した。そして砂浜に座りこむ。

 思い返すのは昼間の出来事だ。

 初めての魔法。初めての単独飛行。まさか本当に空を飛べるとは思わなかった。初めてのetc……。本当にきりが無い。

 しかしまだ手に残った感触。魔法を行使したという感覚が、嘘ではなく現実であるという事を教えてくれる。

 まず自分に驚いた。あんなに魔法が使えるのかという事に。

 キリエのサポートがあるというのは分かっている。それでもまさか魔法があれほどとは思わなかった。

 言ってみれば魔法はモビルスーツと同じだ。使い方一つで如何様にも結果を変える、途方も無い力。

 時空管理局というものが何故存在し、その地位を築けたかも納得できる。

 しかしそれは側面でしかない。魔法は誰かを守る為のもの。今日の訓練でなのはが言った言葉が頭の中でリフレインする。

 

「同様に万能じゃない……か。シュテルの言う通りかも」

 

 魔法を使うのは一人の人間だ。一人の人間にできる事は限られている。そういう意味では魔法は万能ではないというシュテルの意見は正しい。

 

「どうやら理解したみたいですね」

「シュテル?」

 

 振り返るとピンクのパジャマにカーディガンを着たシュテルが居た。腰に手を当てて、やれやれといったいつもの顔。逆にいつも通りで安心するのは何故だろうか。

 

「なんでここに?」

「水を飲みに来たらレンが見えたので。隣、良いですか?」

「どうぞ」

 

 ちょこんとレンの隣に座る。そしてレンと何か会話をするでもなく二人で海を眺めていた。

 

「どうでした?初めての魔法は」

 

 不意に彼女はそんな事を尋ねた。こちらを向いている訳ではない。頬杖をつきながら、目線を海にむけてシュテルが呟くように言ったのだ。レンは「ん~」と首を捻りながらも、正直に自分の思った事を言う。

 先ほどから考えていた事。魔法はモビルスーツと同じく、使い方一つで如何様にも結果が変わる事。

 全てを語り終えた後、シュテルは満足そうに口元に笑みを浮かべていた。

 

「何だよ」

「いいえ。初日でそこまで気付けたのなら私から言う事はありません。ですがレン。一つだけ。私のお願いを聞いてくれますか?」

「ん?」

 

 見るとシュテルの目が真っ直ぐレンを捕えていた。気恥しくなり思わず顔を逸らすが、シュテルは両手でその頬を挟み、強制的に自分へ向けさせる。その真剣なまなざしにレンの頬が熱くなる。息がかかるほどに近づけられた顔。ドクンとレンの鼓動が跳ね上がる。

 しかし、そんな事はどうでも良いとばかりにシュテルはレンの瞳を捉えて離さない。

 

「きっとこれから先、貴方は魔法という力で困難にぶつかる事もあると思います。何かを救えても何かを救えない。そんな事が必ずあると思います。でも今日の事を忘れないで下さい。それが貴方を助けてくれる。そんな気がするのです」

 

 それは魔法を使う上での心構え。魔法とは何であるかを熟知した者が、いきなり力を得た初心者に送る言葉。その言葉の重みが分からないレンではない。が、少しおどけたように肩を竦めた。

 

「……シュテルが言うと嘘に聞こえないんだよな。これが」

「嘘は言いたくないと前に言ったでしょう?それに私を誰だと思っているのです?」

 

 からかわれたとでも思ったのだろうか。それともやっと状況に気付いたからなのか。

レンから手を離し、顔を赤くして少し口を尖らせたシュテルの頭をレンは「ごめんごめん」と言いながら撫でる。が、すぐに表情を引き締めた。

 

「そりゃあ俺の大事なパートナー……かな」

「後は魔導士としての先輩ですね。先輩の言う事は素直に聞いておくべきですよ?」

「ははっ!そりゃごもっともだ」

 

 二人は笑い合う。

 新米魔導士にもまだなっていない魔法初心者と歴戦の魔導士。

 そしてこのシュテルの言葉が何度もレンをこの先救う事になるとは。

 この時まだレンだけではなく、言ったシュテルですら思いもよらなかったのだった。

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