パチリとシュテルは目を覚ました。いつも通り、規則正しい朝の目覚め。
でもいつもと違う点がただ一つ。
隣でまだ眠っている“彼”がいるという事。
「う~ん……、うにゃうにゃ……すー、すー……」
「ふふっ。だらしない寝顔ですね」
片肘をついてその人の寝顔を楽しみながら、その幸福感にシュテルの顔もふにゃりと緩む。
そしてベッドから降りるとシャツを一枚着込み、いつもの習慣でコーヒーの支度に取りかかる。
そうしている内に色々と頭の中で考える。ジェネレーションシステムの事、スカリエッティの事、アメリアスの事。……キリエの事、
だがとりあえず差し当たっては問題なのは。
「王達にどう説明しましょうか」
医務室に置いて来てしまったディアーチェ達の事だった。
1
月周回軌道上に出現したジェネレーションシステムに到達したスカリエッティに対し、管理局は徹底抗戦の採決を下した。その結果を聞いたはやても異論は無い。アースラの会議室に集まった六課主要陣とミネルバから来たニキ。そしてSpiritsも同様だ。
しかし会議室からは次々と非難の声が上がっている。はやてはこめかみに青スジを浮かべながらもう一度、画面に映るクロノに確認を求めた。
「ジェネレーションシステムと聖王のゆりかごの完全破壊。それが管理局の下した決断なんか?」
『お、落ち着いてくれはやて。聖王のゆりかごはユーノからの情報で現在非常に危険な状態にある事が分かったんだ。月周回軌道上にある以上、管理局はその排除に乗り出さなければいけない。ただジェネレーションシステムについては上層部でも意見が分かれているんだ。システム単体だけで見れば、第一種危険指定ロストロギアとして見れるだろう。けれども内包した世界を次元世界として考えた場合、システムの破壊は世界の崩壊を意味する。だから条件付きで、というのが管理局から下した決断なんだ』
「システムがスカリエッティに完全掌握される前に、速やかにスカリエッティを捕獲。それが叶わない場合にのみ、システムを完全破壊しろっちゅーんやろ」
『有体に言えばそういう事だ。管理局も無闇に破壊しろと言ってるんじゃない。ギリギリまで状況を見極めるつもりなんだ』
『ただし、その為の時間は残り少ない。クロノ提督、次元航行部隊の再編までにどれくらいの時間が必要だ? 地上部隊とて受けたダメージが大きい。とてもではないが今から突入部隊を再編するには時間が足りない。その間スカリエッティは待ってはくれんぞ?』
はやて達の前には空間ディスプレイが二枚。そこには互いに包帯を頭に巻いたクロノとレジアスが映っていた。そしてレジアスの言葉にクロノが言葉を詰まらせる。レジアスの言いたい事はつまり、打撃を受けた陸と海の部隊が再編するまでにスカリエッティがシステムを掌握してしまえば、管理局は第一種危険指定ロストロギアとして、時空世界の平和を守る為にシステムを破壊する口実ができるという訳だ。
そして目下の所、誰もスカリエッティが死んだと思っていない。現にシュテルとレン、キリエの三人がスカリエッティと対峙している。そのからくりをこの際言及する必要はないだろう。スカリエッティが生きているという事実があれば良い。だったら捕獲するまでである。
「私達にそれをやれ、って事やろ? アースラとミネルバ。今まで管理局でタブーとされた戦力一点集中をしている部隊と、質量兵器の塊である異世界の部隊。質量兵器の事はこの際目を瞑るから、その二大戦力は速やかに事態の収拾を行え。上層部はそう言いたいんや。それに事実、今自由に動けるのは私らだけやしな」
『……こちらでも上層部の説得は続ける。再編に時間がかかると言うなら全力で短縮させる。君達だけに負担をかけさせはしない』
「その言葉、信じるよ?」
青スジを浮かべたままのはやての笑顔にクロノは何度も頷いた。クロノとてジェネレーションシステムの破壊には賛成できないし、彼女達の気持ちも理解している。しかし上層部のメッセンジャーに指定された以上、汚れ役と分かっていても伝えなければならない。もしも他の人ならもっと酷い事になっていた可能性だってある。
『まったく、海の方は相変わらずだな。自分達は表に出ずに縁の深い貴様を使って子狸達を言いくるめようとしたのだろうよ』
『返す言葉もありません。しかしこちらの事情もご理解頂きたい。何せ艦隊がたった二機のモビルスーツに壊滅させられたのですから。幸い死者は出ませんでしたが、そのダメージとインパクトは計り知れない。言ってしまえば腰が引けてしまったのですよ。普通なら安易な方向に向かってもおかしくはない所ですが、猶予を設けられただけまだマシという事です』
『当然だ。数多の次元世界をより良い方向に導こうとする管理局が、その世界を一つでも自らの手で崩壊させたとあっては笑い話にもならん。とは言え、状況が厳しい事には変わりはない。海の方が出した条件も酷く曖昧だ。これではいつシステムが第一種危険指定ロストロギアにされてもおかしくは無いぞ。どうする? 子狸』
「さっきからえらくナチュラルに子狸言うてくれますね」
レジアスの子狸発言に口を尖らせながらも、はやての頭はフル回転していた。確かにレジアスの言う通り、海の出してきた猶予は酷く脆いものだ。時間がない。一分一秒でも早く事に当たらなければならない。
そしてチラリとアプロディアを見る。こっちが持っている最大のカードは彼女だ。ジェネレーションシステムと直結している彼女の存在そのものが、まだシステムが乗っ取られていない証なのである。
「アプロディア。まだ時間はあるんやな?」
「はい。断続的にシステムへの攻撃は続いていますが、表層部は幾らかされてしまいましたが、掌握までには至っていません。そう簡単に防御壁を突破されるほどヤワな作りはしていませんから。それにシステムの完全掌握にはどうしても中枢に辿り着く必要があります」
「どうしてそう言い切れるんや?」
「中枢からのアクセス以外の方法で無理矢理掌握しようとすれば、トラップが働きます。好ましい方法ではありませんが、システムプログラムが自動消去される仕組みです。故にあのナハトヴァールもニューロ・レンもそのルールに従う必要がありました。ましてシステムを手に入れるのがスカリエッティの目的であるのならば、必ずそのルールに従わなければならない。そしてそこには頼もしい味方もいます」
「……なるほどね」
『どういう事だ?』
「あっちの世界にも世界の魂を守ろうとする精神があるって事ですよ」
首を傾げるレジアスにはやては自信たっぷりな笑みを浮かべるのだった。
◆
「成程、了解した。そのスカリエッティとやらがシステムを掌握するにはどうしてもここに来る必要がある。我々はそれを迎撃、システムを死守すれば良いのだな?」
『はい。ですが気を付けて下さい。スカリエッティがどんな手でそちらに攻撃してくるか全く見当もつきません。モビルスーツで対抗できるならまだ良いのですが……』
「そこはホレ、上手くやるさ。それに逆に考えろ。システムが施した最終防壁がここならば、必ず儂らと同じ舞台に上がらねばならない。迂回路がない以上、追い込んだとも言える」
『さすが。そのポジティブさ、見習いますよ』
ジェネレーションシステム中枢部。リーンホースJr.の艦長席に座ったゼノンに大型ディスプレイに映るレンが肩を竦める。
ここに留まっていたGeist全員がこのやり取りを聞いていた。今度はシステムを守る戦いが待っているというのに、全員の顔に悲壮感はない。むしろ上等だと言わんばかりに士気が上がっていく。それに今度は彼らだけではない。以前自分達にも作動したシステムのファイアーウォールが今度はスカリエッティに向けられるのだ。決して絶望するほどの戦いではないと誰もが理解している。
『ん? なんだよはやて。え? 挨拶したい? ああ、そうだよな。中将、うちの部隊長が挨拶をしたいとの事ですが』
「うむ。代わってくれ」
そして画面に少女が映し出された時、さすがのゼノンも息を飲んだ。いや、噂というか本人から聞いてはいたものの、ここまでそっくり。瓜二つだとは思ってもみなかったからである。八神はやて機動六課部隊長。ディアーチェのモデルとなった少女が目の前のディスプレイに映っていた。
『お初にお目にかかります。機動六課部隊長八神はやてと言います』
「あ、ああ。地球連邦中将。今はGeistの部隊長代理をしているゼノン・ディーゲルだ」
どうにも知っている顔故にイメージと一致しない。それ故にゼノンは少し調子が狂ってしまう。そしてそれに気付いたのかはやてもくすくすと笑った。
『そない似てますか? あ~、似ていて当たり前と言えば当たり前なんですけれどね』
「これは失礼した。どうにもディアーチェのイメージばかりが先行してしまってな。気に障ったのなら謝らせてくれ」
『大丈夫ですよ。最初はみんな驚きますから。いっそ姉やんと言って紹介したい程ですよ。あ、でも年齢的には私の方が上なんで、妹になりますかね? だとしたらえらく優秀な妹様になってまうなぁ』
「いやいや、君こそその若さで部隊を率いているのだ。それこそ私もレン達から君の優秀さは聞いている。だから自信を持って良いと思うぞ」
本心からの言葉にはやても気分が良くなったのか、少し照れて前髪を弄り始める。こうして見ると年相応の少女。いっそう彼女が一部隊を率いる事に驚きを隠せない。いや、自分達の世界の常識を当てはめて考えるのはよそう。ゼノンはそう考えを改めると再び口を開いた。
「それに君に会えたのなら言おうと思っていた事がある」
『はて。なんですか?』
「レン達がそちらに行った時、色々と世話を焼いてくれたそうじゃないか。君達がいなかったら彼らは路頭に迷っていたかもしれん。彼らの部隊を結成した者として。何よりも彼らの長として、君達には感謝の言葉をいくら尽くしても足りない」
そう言って頭を垂れるゼノンに驚いたはやてがあたふたとし始める。
『そ、そないな事、困っている人がいたら助ける。それは当り前の事です。大した事はしてませんよ。そんな事言うたら、ゼノン中将もティアナ達を保護してくれました。お互い様です』
「そうか。そう言ってもらえるとありがたい」
『それにまだお礼を言われるには早いです。全ては事を終えてから、笑ってお互いの無事を確認できたその時こそ、今度はこの様な画面越しではなく、顔と顔を合わせてお話しましょう』
「……そうだな」
レンにはああ言ったものの、スカリエッティに対しこちらがどれだけできるか分からない部分が多く、不安もある。しかしそれでも希望はある。それをはやてから教えられた様な気がした。まだうら若い乙女でありながら、その言葉には力がある。やれやれ、敵わん。ゼノンは画面越しの若い部隊長に頭が下がる思いだった。
「レン達は良き友に出会えたようだ。話に聞いていた以上に君は素晴らしい女性だよ」
『……』
「ん? どうした?」
『なんや久しぶりに女扱いされたな~と思いまして。というか、そう言われると……照れますね』
そう言って頬を掻くはやて。するとどうだろう、ブリッジの男性陣がガタリと音を立てて一斉に立ちあがった。一体何事かと目を丸くするはやてと他女性陣。男達の顔は皆、一様に信じられないといった顔をしていた。
「こんな女性を女扱いしないとはミッドの男の目は節穴か!?」
「全くだ! ロリ上司、最高じゃないか!!」
「中将! 俺もあんな上司が欲しいッス! く~! 俺もあっちに行きてぇ~!」
「はやてさーん! この戦いが終わったらデートして下さーい!」
「あっ、テメェ馬鹿野郎! 抜け駆けすんじゃねぇ!! 俺が先に申し込もうと思ってたんだ!」
「おいおいお前達。まずはこの戦いを生き抜け! 話はそれからだ。そうしたら何かご褒美がもらえるかもしれんぞ?」
『イィィィィヤッホ――ッ!!』
ゼノンの煽りに途端にブリッジに集まっていた男達が歓声を上げる。逆に女性陣には「こいつら馬鹿だ」と白い目で見られているが構わずに彼らは口々に画面のはやてに向かってアピールを続ける。それにはやても気を良くしたのか、手を振りウィンクしながら一言。
『じゃあこの戦いが終わったら受付けますよ~』
『おおっしゃ――ッ!!』
『おいこら馬鹿。火に油を注いでどーする』
『いたッ!』
見かねたレンのチョップがはやての脳天に振り降ろされた。涙目で口を尖らせるはやてとレンにブーイングを飛ばす男達。だがエルフリーデの一睨みで男達の喧騒は一気に収束した。
『だってぇ~、こんなにちやほやされたの初めてなんやもーん』
『状況を考えろ状況を。あ~、すんません中将。うちの狸が変に悪ノリした所為でわけわかんなくなりました』
『狸言うな!』
「構わん構わん。良い意味で肩の力も抜けたしな。それよりもレン。むしろ儂が心配なのはお前の体だ。行けるのか?」
『えっ!? 狸はスルーですか!?』
「そうですよレンさん。絶対に無理しないで下さいね?」
「まだまだ教えて貰いたい事があるんです。絶対に、絶対に無理しないで下さいよ!」
『ガンスルー!』
ゼノンの問いにエリスとレイチェルも続ける。エルフリーデは壁に寄りかかりながら、フンと鼻を鳴らして睨みつけているのは相変わらず。レンは苦笑しつつ、隣でふてくされているはやての頭を撫でながら参ったなと頭を掻いた。
『心配すんなって。俺は……』
『大丈夫です。レンは私が守りますから』
『大丈夫よ~。レンは私が守るから~』
突然画面の両端からシュテルとキリエがニュッと顔を出してきた。少女二人のアップでブリッジがざわつく。当の本人達は互いに同じ事を言った事が気に食わないのか、しばし睨みあった後、改めて「私が!」と言った所で顔を赤くしたレンに止められていた。そしてそこで漸く二人はゼノンに手を振り始める。本当、今更だ。
『中将、お久しぶりです』
『おじ様~。お元気~?』
「君達も相変わらずだな。シュテル、キリエ。まだレンを取り合っているのかい?」
その言葉にグッとサムズアップするシュテルと、フンとそっぽを向くキリエ。それに「ああ」とゼノンも状況を察した。とりあえずその点について言及はしないでおこう。だから、という事ではないが、ゼノンは一際真面目な顔で二人に言う。
「二人とも、レンを頼んだ。こいつは両親に似て平気で無茶をする。そしてレンの母親、セリカ・アマミヤは儂のもう一人の娘にも等しかった。ならばレンも儂にとってはキールと同じ孫。儂は娘に続いて孫まで失いたくはない。だから君達に託す。レンを守ってやってくれ」
『ご安心を。私達もレンを失いたくないですから』
『私とシュテルちゃんでしっかりレンは守るから安心してね。おじ様』
「無論、君達も孫と変わらんのだぞ? だから全員生きて帰って来い。この老いぼれに未来を見せてくれ」
『承知しました』
『私達に任せて安心のWMAよ~』
「後、あまり喧嘩はするものではないぞ?」
『大丈夫よ~。私達仲良しなのおじ様も知ってるでしょ~?』
『キリエ、暑苦しいです』
『あ~ん、シュテルちゃんひどーい』
シュテルに抱きついたものの、辛辣な彼女の言葉にキリエが声を上げるのをゼノンは笑いながら見ている。男達がまたレンにブーイングを飛ばすが、エルフリーデの睨みが再度飛んで鎮静化した。
『作戦開始は十二時間後。それまでにできるだけの準備をしておいて下さい。ただその前にスカリエッティが動く事も考えられますから……』
「分かっている。これから臨戦態勢にこちらも移行する。だが何があっても良いように回線を繋がるようにしておいてくれ」
『了解しました。では中将、ご武運を』
「お前もな」
そうして回線が閉じられる。深い溜息と共にシートに深く身を預けるゼノンにエリスがドリンクを差し出した。受け取りストローから一気に中身を吸い上げると、からからだった喉がようやく潤いを取り戻す。
やれやれ、かしましいとはこの事か。孫ほど離れた少女達と話をするのがこんなに大変だとは、自分も歳をとったものだとゼノンは一息ついた。そんな彼の心情を読んだエリスがくすくす笑う。
「すごく愉快な人達ですね。正直、驚きました」
「だろ? 昔から彼女らはあんな調子でな。それよりもこれから忙しくなるぞ。こちらが動くのは十二時間後。しかしいつ攻めてくるかは不明なのだから時間にはこだわるな。いつでも動けるように機体のチェックを急げ。いざとなったら儂も出る。だが要はエリス、レイチェル、エルフリーデ。君達だ。頼むぞ」
名前を呼ばれた三人。Geist最後の戦力であり要。その意味の重さを噛み締め、三人はゼノンに敬礼をするのであった。
◆
出撃まであと十時間を切った。アースラとミネルバは一気に慌ただしくなる。十時間はあくまで目安。スカリエッティが動けばこちらも動かざるを得ない。それを理解しているのか、皆その前に準備を終えようと急いでいる。
勿論レン達も例外ではない。各々のデバイスのフルドライブがモビルスーツである以上、モビルスーツのチェックはそのままデバイスのチェックに繋がる。レンもハルファスベーゼのコックピットに座り、機体のチェックに余念がない。勿論そのサポートにはキリエもついている。二人で出力調整やら何やらやる事は山積みだ。
「ねぇレン。本当に出撃を控えるつもりはない?」
「くどいよ。っていうか、俺達が先陣を切るんだし、そうでなくても俺達のモビルスーツには限りがある。俺だけ控えに回る余裕はないよ」
「でもぉ……」
いきなりレンの後ろに現れたキリエがしなだれかかる。心配だと言わんばかりの声にレンの胸がチクリと痛んだ。昨夜の告白。そして何よりもレンの事を最優先すると言った彼女の楔が今もレンの胸に突き刺さる。
「大丈夫だよ。ハルファスにはサイコフレームやナイトロみたいな物はない。ファンネルだってスクィーズになって感応力の負担は減ってる。だから心配ないって」
「でもやっぱり心配なものは心配なの! 良い? 私は昨夜の事絶対守るからね! レンがどんなに無茶しようとしても今度は絶対止めるからね!」
「ん。期待してる」
正直、自制する自信がない。だから最後の一線でキリエに止めてもらう事を期待している。昨夜、彼女を振り切ってシュテルを選んだというのにだ。きっとそれはパートナーとしてキリエを頼っているレンの甘えであり、ずるさ。たとえ恋人という形でなくても、それに負けないくらいの絆があると思っているレンの我儘である。そんないつもと違い、余裕のあるレンの言葉にキリエは後ろで頬を膨らませた。
「ずるい」
「なんとでも。でもそんだけキリエを信頼してる証拠だよ」
「も~! だからそれは卑怯だってば! ほんっとずるいわ。そんな事言われたら私頑張るしかないじゃない!」
「いや、そこは頑張ってよ」
こんな事を言いあえるのもキリエだから。その証拠にキリエの顔にもいつの間にか笑顔が浮かんでいた。
なんだかんだと言いながら、やはりキリエもレンに頼られるのは嬉しいのだ。それが望んだ形ではなくても、愛する人に頼られる事はそれだけで胸が躍る。
こちらを振り返らずに機体の調整を続けるレンをじっと見ているだけで、胸が幸せに包まれる。
諦める? ノンノン。だったらむしろ振り向かせる。私の方が良い女だって気付かせる。
キリエ・フローリアンはどこまでもポジティブな思考の持ち主だった。
「ね~え、レン。ギュッとして良い?」
「駄目。忙しいの。それにシュテルに見つかったらなんて言われるか……」
「そうねぇ。でも聞かな~い」
「おい! ちょっとやめろって!」
「や~だ❤」
口に出して気持ちを伝えたからだろうか。それとも新たな目標を見つけたからだろうか。キリエはもう自分の気持ちに対し、むしろ以前より正直に行動できるようになっていた。それどころではないというレンに構わず後ろから抱きしめる。嫌がっても離さない。これが彼女の生きる道。
「……随分と仲が宜しいことで」
「げっ!」
「あら~ん? シュテルちゃんの方は調整、もう良いの?」
「とっくに完了しましたよ」
コックピットの入り口から半目でじ~っと見ているシュテルがそこにいても、キリエは変わらない。むしろレンの方がすっかり青くなってしまう。当然だ。晴れて恋人同士になった翌日にこれなのだから。だから駄目って言ったのに! シュテルの性格を顧みるにレンが青くなるのも無理はない。
「あ、あの、こ、これは……」
「良いですよ。私は全然気にしてませんから。えぇ、全ッ然! 気にしてませんから」
ああ、なんて分かりやすい。やっぱりシュテルはシュテルだ。気にしてる癖に気にしてないという天邪鬼。さてさて如何したものかと思案するレンだったが、そこはシュテルの方が一枚上手といった所。
のそりとコックピットの中に入ると、ちょこんとレンの膝の上に座る。呆気を取られるレンとキリエに向けてシュテルはさも当然だと言わんばかりの顔をした。
「時間がありません。作戦開始までに休息する時間も必要でしょう? 私も手伝いますからさっさと終わらせてしまいましょう」
「あら~ん。私達の事が信用できないのかしら?」
「違いますよ。信用も信頼もしています。けれど私も手伝いたい。ただそれだけです。一度戦場に出ればレンはキリエに任せるしかなくなります。悔しいですが、私はキリエほどレンの近くにはいられないんです。だからせめて調整くらいは手伝わせて下さい。こうする事で私にもレンを守らせて下さい」
その言葉にキリエも毒気が抜かれてしまう。シュテルの気持ちも分かるからだ。そしてレンもキリエの腕を軽く叩く。やれやれとキリエが肩を竦めた。
「じゃあシュテルちゃんは駆動系のチェックを宜しくね。レンは武装系統の再確認。私は動力周りとアレの再確認をするから」
「了解。よっし、シュテル頼むよ」
「当然です」
そして再開される作業の続き。その途中でキリエが思いついたようにシュテルを呼ぶ。シュテルも顔は向けなかったが、一度視線を向けて返事とした。
「負けないわよ。隙を見せたら私が奪っちゃうから」
「私も負けません。折角手に入れたのにみすみす手放すものですか」
宣戦布告と防衛宣言。吹き荒れる嵐の様なやり取りにレンは苦笑いを浮かべる事もできなかった。
2
「あれほどいがみ合っていた陸と海が私達という驚異を前に手を組むか。なんとも皮肉なものだね」
聖王のゆりかごにある玉座。本来ならそこに座るべきは歴代の聖王である。しかし今は世界に脅威を振りまく一人の天才科学者のものになっていた。世界に脅威を振りまくという点だけを見れば確かに相応しいかもしれない。古代ベルカ戦乱の世であればその力を諸国の王の目に焼き付ける為に。この太平の世であればその平和を守ろうとする魔導士の目に焼き付ける為に。
いつの時代になっても結局この玉座に座る者は世界の脅威であり、この時代においてはそれがジェイル・スカリエッティであったという事だけの話である。
だがこの男の顔には一種の憂いにも似た表情が浮かんでいた。自分の様な者が現れなければ手を取り合う事もできない管理局。そしてその矢面に立つのはトップではなく、組織の中の一部隊。しかも曖昧な条件で下手をすれば自分達が守るべき次元世界を一つ犠牲にしても良いときたものだ。
大の為に小を潰す。それ自身に間違いはない。だができるなら全てを救ってみせるとの気概を見せてほしいものだと思ってしまう。
「時空管理局。本来数多の次元世界を管理し、平和に導く為の組織である彼らが何故陸と海に分かれてこうも意見が合わなかったのか。考えてみれば当然だ。結局時空管理局上層部の多くが英雄と呼ばれた貴方達が“自分達が望む平和を実現する為に管理する組織”とする為に集められた者だからだ。大した理想もなく私達という驚異が目の前にあっても、貴方達というバックがなければ全てを現場に任せて尻ごみをする臆病な奴ら。これではまとまるものもまとまる筈がない。これならまだそうと知りながらも自らの信念の下に動くあの部隊の方がまだマシというものだよ」
彼の目の前にある培養ポッドに入れられた三つの脳は何も答えない。端から答えなど求めてはいないのだが、言わずにはいられない。かつて最高評議会と呼ばれ、法の守護者たる管理局を裏から操ったそれは身体を捨て、こんな醜悪なカタチになってもまだ世界に固執した。だがこうなってはもう人とは呼べない。ただのタンパク質の塊だ。現にもう彼らは話すことすらできない。見る事も、触れる事も、目の前の現実を認識する事もできない。
脳には幾つものコードが繋がり、そこから送られる電気信号は彼らに夢を見せている。己が理想に叶えて、世界から祝福された本当の英雄になる幸せな夢だ。夢は夢のままに、それを守る為に精々必死になって貰おうじゃないか。世界を守る英雄として必死に戦いたまえ。
「ウーノ」
「はい」
「予定を繰り上げる。指揮を任せて良いかな?」
「承知しました」
「それと彼女には注意しておきなさい。とは言っても私には逆らえないのだけれどもね」
「いいえ、油断は禁物です。無論、管理局の方も」
「そうだね。不測の事態が起こった時の対処は分かっているね?」
「はい。その点については抜かりなく。間もなく配置の方も完了します。配置が済み次第、照射を開始する予定です」
「宜しい」
闇の中から現れたウーノの言葉にスカリエッティも口元が緩む。そして玉座に座ったまま瞳を閉じる。
すると玉座の後方、壁を伝う様に光が走った。それは水が水路を流れるが如く、電気が回路を走るが如く、玉座から天井に向けて放射状に広がっていく。
残されたウーノはその光景をただじっと見つめていた。闇の中、スカリエッティの玉座から放たれる光だけがこの場を照らし、彼女の白い肌を浮き上がらせる。その顔に不安はない。全てが上手くいくと確信したその顔はただそのまましばらく走る光をじっと見つめていた。
◆
地上本部もにわかに騒がしくなってきた。
レジアスから出された管理局の方針に各部隊が集結し始めているのである。先の戦いで各部隊も消耗が激しいというのに、それでも動くのは管理局の誇り故か。レジアスは一人、自室からその様子を眺めていた。
「中将、宜しいでしょうか」
「うむ。入れ」
扉が開き入って来るのはオーリス。レジアス自慢の娘にして信頼する副官。彼女は書類を片手にレジアスの前に進み出る。
「現状報告に参りました」
「続けろ」
「はい。地上部隊の戦力は現在六割を切っています。その中で機動六課と共にゆりかごに向かえるのは二割弱。市民の避難、混乱に乗じた犯罪の取り締まり、地上本部の防衛。とてもではありませんがそれ以上は割けません」
「致し方あるまい。だが六課の援護には各部隊からの精鋭で組め。援護に数が割けぬ分、質で補うのだ。サポート体制も忘れるな。管制室には地上と宇宙の情報を常に各部隊に送り、少しの遅延も許さぬと伝えろ」
「承知致しました」
「……陸士108部隊の娘はどうしている?」
「ギンガ・ナカジマですか?」
報告を終えた後、不意にレジアスがギンガの事を尋ねたのでオーリスは一瞬面食らった顔をしていたが、すぐに表情を和らげ書類をめくった。
「先の戦いで負傷致しましたが、さすが戦闘機人ですね。その部分は専属の技術者ならびにSpiritsから提供された技術によって既に回復しているとの事。今回彼女は六課支援部隊のリーダーとなってもらう事が決定しています、そしてその中には彼女が選んだ者達もいるとの事です」
「戦乙女ヴァルキュリアとなってもらうわけか」
「確か管理外第97世界、地球における歴史上の人物でしたか」
「微妙に違う。ヴァルキュリアとは神話に出てくる戦死した者の魂を選定する者の事だ。そのヴァルキュリアに選ばれた者はエインヘリャルと呼ばれ、終末の戦いラグナロクでは神と共に戦うのだそうだ」
「なるほど記憶違いですか。失礼しました」
「構わん。時に、そのラグラロクの別名をなんと呼ぶか知っているか?」
レジアスの問いにオーリスは首を傾げる。彼はその問いと共に後ろ大窓にかかったカーテンを開くように指示を出した。無言でそれに従うオーリス。カーテンを開くと、丁度太陽が沈み、空はその赤に染まる様子が大窓一面に広がった。ここからは首都クラナガンが一望できる。その都市を埋め尽くした鮮やかな赤にオーリスは目を細める。しかしレジアスは指示を出したにも関わらず、一度もその光景に目を向けずに言葉を続けた。
「ラグラロクの別名は神々の黄昏。主神オーディンを中心に世界を収めていた神の中の一人、ロキによって引き起こされた神の時代の終焉を告げる最終戦争だ。皮肉とは思わないか? 世界を管理せんとした最高評議会によって生み出されたスカリエッティによって引き起こされた今回の件。まるで最高評議会が主神オーディンでスカリエッティがロキではないか。そして主神オーディンはラグラロク開始早々に魔狼フェンリルに飲まれ退場。そのフェンリルもロキの生みだしたモノだ。最高評議会もスカリエッティの生みだした戦闘機人に連れて行かれ、退場している」
「……中将は今回の戦いがそのラグナロクで、その後には何も残らない。管理局の終焉が訪れると言いたいのですか?」
「そこまでは言わんよ。ただこの神話、ラグナロクを生き残った若い神々が新たな世界の神となると続き、それは新たな時代の幕開けを暗示している。もしかしたら管理局も新たな時代に入る時が来た、という事なのかもしれん」
そう言って自嘲気味な笑いを浮かべるレジアス。それを後ろから見ていたオーリスの眼鏡が残光に反射しギラリと光った。そして音も無く、振り上げられた左手には先ほどまでは無かった盾とそれから伸びる二本の斬撃爪。
オーリスの口元が嗤いを浮かべる。同じ人物かと思える程の嗤いにレジアスは背を向けたまま。
狙いはレジアスの首。頸動脈ただ一点目掛けて爪が振り降ろされた。
キィィィン!
「なん……ですって……?」
「甘かったな。貴様が入り込んでいる事など既にお見通しだよ。戦闘機人ナンバーズNo.2、ドゥーエ」
甲高い音が響き、オーリスの爪はレジアスを守る光の障壁によって弾かれていた。そして驚愕に顔を歪めるオーリスに対し、レジアスはドゥーエの名で彼女を呼んだ。更に彼女の顔が歪む。相変わらず彼女を見ようとはせず、レジアスは腕を組んだままほくそ笑む。
瞬間、オーリス。いやドゥーエの左手が大きく弾かれた。何かが窓を突き破り彼女の腕に直撃したのである。幸い盾があったから良かったものの、もしも右手であったならその一撃に貫かれていただろう。とっさに腰のエクステンショナルアレスターを起動。ワイヤー付きのアンカーが天井に突き刺さる。そしてその巻き戻りを利用し、ドゥーエは一気に扉付近まで飛び退いた。
「させん!」
レジアスもリモコンを操作し、部屋の隔壁を起動。逃げ道であった扉がそれに閉ざされ、ドゥーエは逃げ場を失くす。突如レジアスの後方、窓の向こう側、沈む太陽を背にヘリが姿を見せた。JF-704式ヘリ。機動六課で採用されたそれにはストームレイダーの銃口を向けるヴァイス・グランセニックと、彼に寄り添うマリア・オーエンス。そして何よりも驚いたのはそこにドゥーエが姿を真似ていたオーリス・ゲイズの姿があった事だった。
「入れ替わったのは先の戦いの時。オーリスをゲンヤ・ナカジマの所に送った時だな?」
大窓を開くと、ヘリからの風と一緒にマリアとオーリスが入って来た。オーリスはそのまま父であるレジアスに抱きつき、彼もまたそれを受け止める。しかし視線はそのまま、ドゥーエを睨みつけていた。
そしてドゥーエももう隠す必要はない。自らの素顔をさらけ出し、口惜し気に言葉を吐く。
「……いつから気付いていたのかしら?」
「気付いていたわけではない。知らされていた、が正しい」
「知らされていた? ……そう。あの男が裏切ったのね?」
「司法取引をしたと言って欲しいな。おかげでオーリスを助け出す事ができた」
よく言う。ドゥーエの頭の中はレジアスの物言いと共に一人の男の名が浮かび上がっていた。
ブラッド・ラインハルト。情報を漏らしたのは奴に違いない。助けられた恩も忘れ、時空管理局の側についたというのか。元々野犬の様な男だったが、遂に管理局に尻尾を振った恥知らずな駄犬め。
憎悪が一気に膨れ上がる。今すぐにでも八つ裂きにしてやりたい気分だった。
「それに貴方は手の内を晒し過ぎたのよ。地上本部襲撃の時に手の内を晒した時点で警戒するのは当然でしょう? となれば自ずと貴方の狙いは絞りこめる。管理局がゆりかごに乗り込もうとしているタイミングでレジアス中将を狙うと考えるのは当然よ。だから敢えて泳がせる事で罠を張らせてもらったの」
「マリア・オーエンス……。レジアスを守ったあれは貴方の仕業ね?」
「当然。予め中将にはアプロディアを持ってもらっていたわ。彼女が帰って来たのだもの。危険を察知次第、障壁を張って守ってもらう事ができる。助かったわアプロディア」
『いいえ。ようやくお役に立てました』
レジアスから受け取ったデバイスからアプロディアの声が聞こえる。なるほど。全て予め組まれていたもの。こちらが見事にハマったという事か。セットアップを完了し、杖を向けたマリア。怒りと憎悪の中、ドゥーエはそれでも打開策を探す。だが逃げ道はもう前方の窓しかない。退路は完全に断たれている。しかし唯一彼女にとって救いだったのは、既にスカリエッティ達が動きだしている事だった。管理局側の情報はリークしている。自分が捕まろうとも、それよりも早く……。
そこまで考えたドゥーエはようやく失策に気付く。さっきマリアは泳がせたと言った。既に自分が入り込んでいた事は知られていた。となれば、あの情報は……。
「しまった!! ウーノ……ッ!!」
とっさにウーノに緊急通信を送ろうとするも、それよりも早くインカムが撃ち抜かれる。何事かと思えば、目に入って来るヘリでストームレイダーを構えたヴァイスの姿。狙撃された? どうして? あの男は撃てないはずじゃなかったのか? そう。妹の目を誤射したというトラウマが彼をスナイパーから脱落させたはずだ。……いや、そう言えばさっきも撃たれた。何故? 何故彼は撃てる?
ドゥーエの中にある情報の食い違いが更に彼女を混乱させる。
「いつまでも彼がトラウマを抱えたままだと思わない事ね。彼はもう十分に苦しんだし、その解決に私達が協力しないはずがないでしょう? 人と人の繋がりをあまり甘く見ない事ね、ドゥーエ」
そう言ったマリアが後ろのヴァイスに親指を立ててウィンクをする。ヴァイスもやれやれと肩を竦めて見せた。そして改めてドゥーエを見据えるマリア。
だがドゥーエの顔からはまだ笑みが消えたわけではなかった。
◆
ドゥーエとの連絡が途切れた。その事にウーノは目を細める。
地上で彼女に何かがあった事は明白だ。そしてそれはこれから実行されようとしている事から彼女が逃げ切れない事も意味している。彼女は私を恨むだろうか。そして姉妹達も私を非難するだろうか。今、私は妹を一人犠牲にしようとしている。ドクターが目指す未来の為、その生贄にしようとしている。スカリエッティから全権を託された時は何も不安は無かった。不測の事態にも対応できると思っていた。しかしいざそれが実際に起こった今、ウーノは自分の指が震えているのにやっと気付く。
「迷っているのですか?」
「そうかもしれません」
かけられた声にウーノは少し弱々しい顔を返した。聖王のゆりかご管制室。そこにいるのはウーノとゾディアックただ二人。彼女が見せたその顔にゾディアックも目を伏せた。
「迷っているなら止めた方が良いです。必ず良い結果にはならない」
「分かっています。けれど実行に変更はありません」
「……ドクターの命令こそが至上、ですか。無駄に命を散らす必要があるとは思えませんね」
「お気遣い感謝致します。しかしそれこそが私達ナンバーズの最優先事項。彼女も危険を承知で入り込んでいるのです。……そうですね。自分で言って改めて気付きました。私達は、特にファーストロットである私達はドクターの為なら命も惜しくない。きっとドゥーエも同じです。だからこそ私はこれを実行しなければなりません」
「それは本当に貴方の望む事なのでしょうか。それともスカリエッティにプログラムされた事なのでしょうか……」
ゾディアックの呟きを聞かなかった事にしてウーノは大型のモニターを表示する。そこに映っていたのは小型の衛星。リフレクターが地上に向けて傘の様に開いている。そして別のモニターには聖王のゆりかごの前に並んだ十二体のモビルスーツ。その一体が背部リフレクターを開き、肩の砲台を衛星に向けていた。FX-9900 GXビット。元々ジェネレーションシステムは自己進化を遂げてその規模を衛星サイズまで巨大化させた。そしてその過程で多くのモビルスーツが自衛用に生産されている。このGXビットもその中の一つ。未だシステムを完全掌握できずとも、このモビルスーツ達を掌握する事は既に完了していた。そしてこのGXビットが構えているのはサテライトキャノン。と言う事はつまり。
「出力を60%に設定。ジェネレーションシステムからのマイクロウェーブ照射開始」
それを撃つ為のマイクロウェーブ送電施設もまたジェネレーションシステムには搭載されているという事だ。既にそれもウーノの手の中。彼女のIS、フローレス・セクレタリーの制御化にある。
「最大出力ではないのですね」
「試作機ですからね。流石にサテライトキャノンを受け切れるだけの物を用意する事はできませんでした。ですが60%でも地上本部を壊滅させる事はできます」
そう。彼女の狙いは地上本部。衛星のリフレクターを使いサテライトキャノンをそこに撃ちこもうとしているのである。げに恐ろしきはその威力。ゾディアックも改めて自分達が何を扱っているのかを認識し、鳥肌が立った。管理局が何故質量兵器を禁止したのか。今ならそれが理解できる。
だがそれを理解してもゾディアックはウーノを止めようとはしない。そして二人の目の前でGXビットの背部リフレクターの輝きが最高潮に達したようとしたその時だった。
突如、管制室内に警報が鳴り響く。それは敵襲を告げる警戒警報。一体何事かと画面を開いたウーノの顔が驚愕に染まり、ゾディアックの顔には笑みが浮かぶ。
それは地上から飛び上がる二羽の不死鳥の姿だった。
紫炎を纏い、緋炎を纏い、それは縦に連なり一直線に、星の重力に逆らってぐんぐんと立ち昇って来る。
ハルファスベーゼとフェニックスガンダムだ。
紫炎の不死鳥が雄々しく翼を広げ、緋炎の不死鳥を守っているように見えるが実際そうなのであろう。
先頭に立つ高機動形態のハルファスベーゼが、同じく高機動形態フェニックスガンダムの進路を確保している。少しでも大気の影響を少なくする為にハルファスベーゼが前に出ているのだ。
そしてその姿。フェニックスガンダムにブースターが設置されているのは理解できる。だがハルファスベーゼにはその様な類は見えない。いや、追加武装をされてはいるのだがあれは……。
「ハルバードユニット。あんな物までミネルバは入手していたのですか」
かつてアメリアスが一度だけ使ったハルファスベーゼの追加ユニット。それがハルバードユニットだ。
そしてそれを装着したあれはハルファスベーゼハルバード。ストライクフリーダムのミーティアなどに見られる設計思想と同じ類の物だ。
「くっ! サテライトキャノン発射!!」
「ウーノさん!?」
「彼らの狙いはサテライトリフレクターです! このままみすみす破壊されるわけにはいきません。ここで一網打尽にします!」
「しかし!」
ゾディアックの制止を聞かずに放たれるサテライトキャノン。GXビットから放出された爆大なエネルギーの奔流が宇宙を貫く。それでも飛び続ける二羽の不死鳥。
本来の開始時刻まで残り三時間と少し。開戦の笛の音は予定よりも早く鳴り響いた。
INNOCENTS二巻を買って思う事。
やっべ、普段着スカさんと二乃さん良いわ!
後、大人版マテリアルズ! 結構イメージ通り!
……単行本派なんで今更かよと思う方もいるかもしれませんが。
やはりINNOCENTの世界観は大好きです。