魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第61話 フライングスタート

1

 

 

 

 揺れる機体の中、レンのモニターにもサテライトキャノンの輝きは捉えられている。それと同時にリフレクターを展開する衛星も。サテライトリフレクター。レン達の記憶にもない衛星兵器。サテライトキャノンを反射し、方向を変えるなど本当にできるのかと疑いたくなる。しかしもしもそれができてしまったらと思うと気が気ではない。モビルスーツサイズで放たれる戦略兵器の光は容赦なく地上に降り注ぎ、都市部など簡単に消し去ってしまうだろう。そしてその軸線上にいる自分達もそれに巻き込まれる。生き残るにはあれを破壊する以外に手は無い。既に賽は投げられた。やるしかない。

 紫炎の尾を引き、ハルファスベーゼハルバードが遂に大気圏を突破する。もう視認できるほどに衛星は近い。サテライトキャノンの輝きがぐんぐん大きくなってくる。

 

「シュテル分かってるな! やるぞ!」

『いつでも! こちらの準備は整っています!』

 

 聞こえてくるのはシュテルの声。

 マークから託された機体。新たな時代の不死鳥。何度も破壊と再生を繰り返した世界で生まれたその機体は進化を遂げ、マスターフェニックスへと生まれ変わった。しかし再び不死鳥は生まれる。新たな時代を紡ぐ為に生まれたのが今のフェニックスガンダム。その躁主に選ばれたのはシュテル・ザ・デストラクターだった。そして乗り込んで一発目からこのミッションだと言うのにシュテルの声に気負いはない。たとえ数秒でもタイムラグが許されないこの状況で大したものだ。苦笑が恐怖を和らげる。やれるという自信がレンに沸き上がる。ロックオンマーカーの色が変わる。

 ここだ! 

 

「やるぞ! まずは俺達で開戦の狼煙を上げるんだ!」

「ミサイル全発射!」

 

 キリエが告げる発射の合図と共にハルファスベーゼハルバードがミサイルを次々と放った。そのミサイルと共に紫炎の不死鳥が速度を上げる。ミサイルの集中砲火、一点攻撃。火力を衛星に集め、暗闇に大量の爆花が咲いた。その脇を通り過ぎるハルファスベーゼハルバード。本命はここから。追いかけてくるシュテルとフェニックスガンダムが本当の一撃。レンの攻撃は緋炎の不死鳥の一撃をより確実に届かせる為の露払いだ。

 

「行きますよフェニックス! バーニング・ファイアです!」

 

 そしてシュテルもフェニックスガンダムの力を解放させる。ブースターを切り離し、文字通りの不死鳥、火の鳥へとその身を変貌させた。その勢いと揺れるコックピットにシュテルの顔が歪むも操縦桿を握った手は離さない。もう少し、あとほんの少し。目指すべきはただ一点。目の前の衛星、それだけだ。

 

「いっけぇぇぇっ!!」

 

 その声は少女が自分を鼓舞するものか。それとも少女に期待を込めた男の願いの声か。いずれにせよ緋炎の不死鳥が雄々しく炎の翼を広げる。目の前の衛星を飲み込まんと、突き破らんと飛び続ける。

 緋炎が宇宙に線を引き、僅かに遅れた破壊の光が衛星を飲み込んだ。

 破壊の光を受け止めるはずだった鏡は二羽の不死鳥によって既に鏡としての役割を果たしていない。無論それでは破壊の光を受け止める事ができるはずもなく、ただ飲み込まれていくだけ。

 一瞬の静寂の後、宇宙に一際眩い爆破の光。それはレンの言う通り開戦を告げる狼煙となり、ハルファスとフェニックスを焼くように照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 ダンっとウーノの拳を叩きつける音が管制室に響く。悔しさに顔をいっぱいにした彼女が俯いたまま唇を噛み締めている。

 数秒。たった数秒の差だった。後数秒早くサテライトキャノンを撃っていれば、サテライトリフレクターを破壊される事もなく、大きな障害も取り除き、地上本部は火の海になっていたはずだ。だがその数秒を生んでしまったのは自分の迷いだ。ドゥーエを犠牲にするべきかと迷ったあの数秒。そしてハルファスとフェニックスの突然の出現に驚いたあの数秒。それが全てに明暗を分けてしまったのだ。

 その姿にゾディアックが溜息を吐く。

 

「だから言ったでしょう? 良い結果には必ずならないと」

「うるさい……です」

「ですがこれで貴方は姉妹殺しをせずに済んだ。確かに予定は狂ってしまいましたが、僕はこれで良いと思っています」

「うるさいと言っています!!」

「怒る気力があるのならば、次の手を考えなさい。彼らは待ってくれませんよ」

 

 ゾディアックが諌めるように見せたその映像に、ウーノの顔から怒りが消えていく。

 ミッドチルダをバックにそこから更に昇って来る影があったからだ。既に戦いは始まっていると再認識させられた。確かにゾディアックの言う通りかもしれない。怒りにまかせて冷静さを失うなど愚の骨頂。頭を切り替えなければとウーノは大きく息を吸い込んだ。

 

「ジェネレーションシステムとゆりかごの防衛システムを起動させます。ゾディさん。貴方達にも出て貰います。ゆめゆめ、手心など加えないで下さいね?」

「仰せのままに。ただ、最初から手心加える余裕なんてありませんよ」

 

 ウーノに背を向けて歩きだすゾディアック。その顔をウーノが見る事はない。むしろ見なくて良かったのかもしれない。

 何故ならその顔は今すぐにも戦いたくて堪らないと言わんばかりに、醜悪に歪んでいたのだから。

 

 

 

 

 

 

「第一段階は順調と見るべきですかね」

「結構ギリギリやったけどな。正直、サテライトキャノンっちゅーのが撃たれた時は肝を冷やしたよ」

「ですが信じていたのでしょう?」

「当然。あのバカップルがしくじるなんて考えられへんからな」

「バカップルって……。シュテルさんが聞いたら怒りますよ?」

「えーんやえーんや。ここぞとばかりに見せつけてくるんやし、これくらい言っても罰は当たらんよ」

 

 ミッドチルダから昇って来た内の一つ。アースラの艦長席ではやてはひらひらと手を振り、隣に立つグリフィスはやれやれと肩を竦める。はやては少々大きい軍帽を目深にかぶり、ふんと鼻を鳴らして悪びれる様子は全く無い。

 

「八神部隊長、もしかして機嫌悪いですか?」

「もしかしてももしかしなくても当たり前やろ! 何が楽しくて他人のイチャイチャぶりを見せつけられなあかんのや? あーもう! 私だって彼氏ほし――ッ!!」

「それで募集かけてたんですか……。まぁこれが無事に終わればきっとできますよ。だから今はこっちに集中して下さい」

「むー。なんかグリフィス君のあしらいが上手くなってる気がする~」

「この半年で貴方の我儘には鍛えられましたから」

 

 適度にはやてをあしらい、グリフィスはパネルを操作する。そこには今回の作戦における“本来の”タイムスケジュール。はやても頭を切り替え、改めてそれに目を通す。

 そもそも計画の修正が決まったのは予定時刻を十二時間後としたあの会議の後。きっかけはブラッドとの司法取引が成立した事だった。彼から引き出せたのは既にあのドゥーエが地上本部に入り込んでいるという事。なり変わられたオーリスが監禁されている場所。そしてサテライトリフレクターの存在。

 はやて達はこれを利用する事にした。幸い情報がリークされているという事に気付いている様子は無い。そこで予定をギリギリまで繰り上げ、まずはサテライトリフレクターの破壊とオーリスの救出を急いだのである。ドゥーエもオーリスとして動く以上、下手に手を抜けない事を逆手に取れば彼女自身の優先順位は他二つに対して必然的に下がるので、好きに泳がせる事にする。

 オーリスの救出に向かったのはマリアとヴァイス。ブランクのあるヴァイスは心配だったが、十分に任務をこなしてくれた。そしてマリアのSpiritsとしての権限を活かし、秘密裏にレジアスと接触。事の詳細を伝え、やっとドゥーエの捕獲に動きだす。無論クロノとゼノンにも連絡済み。そしてドゥーエからの偽のタイムスケジュールを受け取ったスカリエッティ側は当然予定を早めてくるだろう。だがここでもドゥーエの存在が役に立つ。ナンバーズの繋がりが深い事は共に行動したレン達から報告されている。故に彼女の安全が保障されている限り、馬鹿な動きはないと踏んだのだ。

 これが賭けにも近いギリギリの綱渡りである事は承知している。だがスカリエッティを出し抜くにはこれくらいのリスクは負わなければいけない。故にレンとキリエ。シュテルの三人にはかなり危険な橋を渡ってもらう事になってしまった事に関してははやても分かっている。それでもやるしかない。ドゥーエの連絡が途切れれば、必ずサテライトキャノンを動かそうとするだろう。先の繋がりに矛盾するようではあるが、ナンバーズの行動理念から察するにドゥーエを切り捨てざるを得ないのだ。だからその前にサテライトリフレクターを叩く必要がある。

 ドゥーエをマリアとヴァイスが押さえたその瞬間こそがミッション開始の合図。

 そしてここまでは全てはやての思い描いた通りに事が進んでいる。彼女が言っていた通り、サテライトキャノンが撃たれた時は肝を冷やした。だがそれでも、たった数秒でも上回る事ができた。この数秒は大きい。ペロリとはやてが唇を舐める。

 

「さぁ本番はこっからや。スタートダッシュは上々。後はどうやって取りつくか。グリフィス君。ミネルバに繋いでくれる?」

「分かりました」

 

 返事と共にグリフィスがミッドチルダから上がって来たもう一つの艦、ミネルバへ通信を繋ぐ。大型モニターにはやてと同じ軍帽を被ったニキが映し出された。

 

「ニキ艦長。そちらの準備は如何ほどですか?」

『すでにマリアを除くSpirits全機が所定位置にいます。後ははやてさんが号令をくれれば発進させる事が可能です。その後は予定通りミネルバがアースラの前に出て護衛艦として動きます』

「すみません。ミネルバには必然的に矢面に立ってもらう事になります」

『構いません。この艦はその為にあるのですから。きっちりアースラをゆりかごまで届けてみせますよ』

 

 なんと力強い言葉だろう。はやては軍帽の唾に手を当てて、再び深く被った。これはニキからはやてに渡された物。Spirits結成時からずっとニキが被り、Spiritsがこれまで生きてこられた彼女のお守りの様な物だという。そしてニキが被っているのはセリカの物だ。先輩と後輩。その思いを託し託され、二人の艦長は頷き合う。

 

「では全機発進を! 目標、聖王のゆりかごとジェネレーションシステム!!」

『了解!』

 

 アースラとミネルバ。そのブリッジから一斉にはやての命令を承諾する声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 カタパルトに乗ったモビルスーツがゆっくりせり上がっていく。計器が輝きを灯し、彼のバイザーに映り込む。操縦桿を何度も握りしめて感触を確かめると、信じられない程に手に吸いついてきた。

 マスターフェニックス。アプロディアによればこの機体こそが繰り返される世界においてマークと共に駆けたフェニックスガンダムが進化した姿だと言う。夢の様な話だがそれにマークは何の疑問を抱かない。デバイスとして使って、モビルスーツとして搭乗して、不思議な程にこの機体の事が良く分かる。マスターフェニックスもこうして真のパイロットが戻った事に歓喜するように、全身を震わせた。

 

「騒ぐなよフェネクス。飛び出したいのは俺も一緒さ。それにお前もティーダを止めたいんだろ? 四年も一緒にいたもう一人のマスターをお前も止めたいんだろ?」

 

 語りかけるが勿論返してくる言葉はない。だが不思議とマスターフェニックスがそうだと言っている気がしてならない。長い間生まれ変わりを繰り返した事で本当に命が宿ったのではないかと思えてしまう。

 マークはもう一度操縦桿を握り直した。既に機体は所定の位置。無重力に機体が浮き上がる。

 

『マーク』

「シャマル。どうした?」

 

 ディスプレイに映し出される恋人の声にマークは視線を向けた。その顔を見れば言わずとも分かる。彼を心配する顔。しかしマークは笑って軽く敬礼をした。必ず生きて帰って来る。これはその誓い。

 そしてシャマルも同じ様に笑顔を向けてきた。そして一言。

 

『行ってらっしゃい』

「ああ、行ってくる。……マーク・ギルダー。マスターフェニックス、出る!」

 

 閉ざされたディスプレイ。代わりに映るは出撃のサインを示すランプ。そのランプが三つ全て灯った瞬間、マークは操縦桿を一気に押し出した。背部から炎を噴き出させマスターフェニックスが漆黒の宇宙へと飛び出していく。

 そしてその後に続くのは全身を重火器で包んだガンダムアストレアタイプF2と紫を基調としたモビルスーツだった。真紅と紫の二機がカタパルトに並んで出撃を待っている。そしてその紫の機体に乗ったレヴィのモニターにブラッドの顔が映った。

 

『どうよレヴィ。久しぶりに乗った気分は』

「心配ナシナシだね! 四年振りでもこの子の感覚はきっちり覚えてる。しっかり乗りこなして見せるよ。でもそれよりブラッドこそ大丈夫なの? 重装型なんて今まで使った事なかったじゃん。それに相手は……」

 

 レヴィの言いたい事も分かる。だがブラッドはそれこそ心配するだけ無駄だとばかりに鼻で笑った。アストレアの事は誰より理解しており、それこそ目を瞑ってでも操縦する自信があるのだ。例えこれがスカリエッティの技術によって生まれたアストレアであったとしても乗りこなせない道理はない。そしてレヴィが一番懸念しているのは相手がキール達とナンバーズだと言う事だ。結果的にブラッドはキール達を裏切るという形になった。その理由は唯一つ。単純に気に入らなかっただけ。昔ならいざ知らず、今のやり方をブラッドが気に入っていない。それだけのたった一つのシンプルな理由だ。

 

『心配すんな。それよりもテメェ自身の心配をしな。レンから聞いたぜ。スカリエッティの狙いはお前らマテリアルズだ。お前を好きにして良いのは俺だけだからな。勝手に捕まるんじゃねぇぞ』

「だっ、誰がそんな事許した! エッチぃの禁止だってば!」

『エッチぃ事言ったつもりはねーぞ。ったく、とんだムッツリだなレヴィは。それともそれをお望みか?』

「んにゃ!? そ、そそそそそんな事ないもん!」

『どもってちゃ説得力ねーぞ。んじゃ、俺は先に行くからな。……ブラッド・ラインハルト。ガンダムアストレアタイプF2。出るぜ!』

 

 このままでは顔を真っ赤にしたレヴィに後ろから狙い撃ちされかねない。ブラッドはその前にさっさと出撃する事にする。マークと同様ランプが三つ灯るタイミングでアストレアが飛び出した。

 そしてレヴィは頬を膨らませながら機体を前に進ませる。

 ZMT-S37S ザンスパイン。ビギニング30に代わりレヴィが乗っている彼女のセカンド機体である。所定の位置についたザンスパインの狐目に光が灯る。そして背部ミノフスキードライブユニットから鮮やかな紫色の光が噴き出した。

 

「むぅ……。いいもん。ブラッドが助けてって言っても絶対助けてあげないんだから! レヴィ・ザ・スラッシャー、ザンスパイン。行っくよ~!」

 

 そしてレヴィのザンスパインもアストレアを追って出撃していく。

 光の翼を広げてすぐにブラッドのアストレアに追い付けば、捕まえてみろとばかりにクルクルと旋回。

 負けじとアストレアも速度を上げていく様を彼女は呆れた顔で眺めていた。

 

「レヴィらしくて良いじゃないですか。ブラッドもなんか調子出てきたみたいですし」

 

 彼女の言いたい事が伝わったのか、後部座席でシステムの最終チェックをしていたユーリがやんわりと彼女をなだめる。そんなユーリに毒気も抜かれた彼女。ディアーチェはやれやれと肩を竦めた。

 二人の機体から赤い粒子が噴き出す。一見すれば戦闘機にも見えるフォルム。しかし大きさは非ではない。大型モビルアーマー、GNMA-0001V レグナント。殲滅力はストライクフリーダム・ミーティアにこそ劣るものの、感覚的にはさほど変わらない。紫と赤が禍々しい? だがそれが良い。

 

「ユーリ。これまで以上の激戦となろうが、それでもやらねばならぬ。力を貸してくれるか?」

「勿論ですよ。紫天の王在る所、紫天の盟主在り。私はいつでも貴方と共に在ります」

 

 ユーリの優しい声が後ろから聞こえる。その声にディアーチェは安らぎを覚え、一度瞳を閉じた。いつも近くに在る優しい声。そこにはかつてシステムU-Dだった頃の悲しい面影は無い。もしもジェネレーションシステムが示す未来が現実になってしまえば彼女は再びシステムU-Dとして、誰かを傷つける事に涙し、また自分を閉ざしてしまう。

 それをディアーチェは望まない。だがこの様な場所も似つかわしくない。ユーリはやはり柔らかい日差しの下、咲き乱れる花々と共に笑顔でいる方が似合っている。いつか共に行こう。そして感謝の言葉と両手いっぱいの花束を贈ろう。その為には生き残らなければならない。生きてこの馬鹿げた行いを止めなければならない。

 決意を新たにディアーチェが目を見開いた。

 

「行くぞユーリ。我らでこの世界と未来に新たな夜明けを迎えるのだ」

「はいっ!」

 

 ミネルバから射出されたレグナントが真っ赤なGN粒子と共に飛翔する。

 その先で待っている仲間達。ハルファスベーゼハルバード、フェニックスガンダム、マスターフェニックス、アストレアタイプF2、ザンスパイン。レグナントを含めて六機。後方にはミネルバとアースラ。

 前方にはジェネレーションシステムの防衛システムであるモビルスーツ。その数は視認できるだけでも軽く百体は越えているだろう。だが数は問題ではない。ここに揃った者は誰もが一騎当千。かつてのニューロ戦役ではこれくらいが当たり前だった。彼らはそれを乗り越え、今ここに存在している。

 

「お前ら、準備は良いか? やる事は唯一つ。ミネルバとアースラにゆりかごとジェネレーションシステムへの道を切り開く事。俺達お得意の一点突破だ」

 

 だからマークの声にも一切の気負いがない。そして誰もがそれに頷いているのはモニターで確認しなくても分かる。ゴキリと肩を一度鳴らし、マークは大きく息を吸いこんだ。

 

「行くぞ! Spirits、突撃だ!!」

 

 

 

2

 

 

 

「ハルファスベーゼハルバード、道を切り開く!」

 

 最初に飛び出したのはレンとキリエだった。キリエが無茶をするなと言っているが、これだけは譲れない。前方からモビルスーツの群れが押し寄せてくる。この機体の前にそんなに出て良いのかい? モニターにロックオンマーカーを幾つも点滅した。

 

「キリエ!」

「ああンもう! バーストモード、セーフティ解除!」

「全弾持ってけぇぇぇッ!」

 

 高機動型からモビルスーツモードへ変形したハルファスベーゼ。その両肩に設置されたハルバードユニットの羽から閃光が、背部ミサイルポッドからはミサイルが放たれた。それらが次々と宇宙の闇を切り裂き、一拍遅れて今度は盛大な火球が幾つも花開く。

 フレア・バーストモード。ハルファスベーゼハルバードの砲撃兵装の一斉正射。そしてその光に照らされたハルファスが悠々と前進する。さすがにこれで全てが終わるとは思えないが、チマチマと雑魚に構っている暇もないのだ。可能な限りレン達がこのモビルスーツ達を殲滅しなければミネルバとアースラが前に進めない。

 

「つうっ!!」

「レン!? だから無茶を……」

「大丈夫だ! これくらいいつもと同じさ。それよりまだ来るぞ!」

 

 ズキンと頭に痛みが走り、思わず苦悶の声が出た。目ざとくキリエが気付いたがレンはそれよりも前を見る事を彼女に指示。数の差からここで手を抜く事はできない。向かう先には必ず別のモビルスーツ、レギナがいる。さすがジェネレーションシステムの防御システム。ファイアーウォールの時と寸分違わぬ連携にさしものハルファスも追い込まれていく。

 前方のレギナならミサイルで撃ち落とせる。しかし追いつかれたレギナに後ろを取られてしまった。MAと変わらぬ大きさになったハルファスベーゼハルバードの弱点はその大きさ故に小回りが利かない事と、背部、側面に対し攻撃手段がないこと。ただひたすらに前へ、前へと突き進む一点突破を具現化したが故の弊害だった。それが後ろを取られたら逃げの一手しか残されていない。だと言うのに、レギナが振り切れない。だがレンとキリエに焦りは無く、むしろこれで良いと笑みを浮かべる。十分にレギナは誘いこめた。

 後方から放たれた大出力の粒子ビームがレギナを焼き払う。突如遅い来るそれから距離を取ろうにも、粒子ビームが曲がりレギナを逃がしはしない。更に別の方向には誘導兵器。フェザーファンネルとティンクルビットが待ち構えている。

 調子に乗って誘いこまれた挙句一網打尽にされたレギナ達の残骸の中、速度を落としたハルファスにシュテルのフェニックスが近づいてきた。

 

『レン、無理は禁物です。いくら遊撃に適した機体でも囲まれ過ぎては貴方が危険になります』

「そこはほら、必ずフォローしてくれるってシュテル達を信じてるからさ」

『ええ、貴方を必ず守る。それに嘘偽りはありません。ですが、それで貴方が無理をして良い理由にはなりません。……心臓に悪いんですよ。今まで以上に、ずっと。貴方を危険に晒す事が私は怖いんです』

「シュテル……」

 

 モニターに映るシュテルの瞳を潤んでいる。その目は反則だ。そんな目で見られると戦場だというのを忘れて抱きしめたくなる。勿論お互いにモビルスーツに乗っている以上そんな事できはしないが。が、そこに割り込む様にディアーチェの顔が映し出された。

 

『お前らいい加減にせんか――ッ!! こんな時まで甘ったるい空気を作るな! せめてオープンチャンネルを切ってやれ! なんかこう……ムズ痒くて敵わん!!』

「『あ……』」

『にゃっはは~。王様~、恋する乙女は無敵なのダ! 言ったって無駄無駄!』

『そうそう。付き合い始めってオープンになり過ぎて周りが見えなくなるもんだ。だから俺達がする事は唯一つ!!』

 

 ディアーチェの雷が落ちる中、飛び出したのはザンスパインとマスターフェニックス。どちらも背中から光と炎の翼を噴き出して、前に進んでいく。

 

『『生温かい目でニヤニヤ見守る事だけだっ!!』』

 

 声を揃えて斬撃の嵐を起こした。ザンスパインは両手にミノフスキードライブユニットを持ち、ビームファンとして。マスターフェニックスはクロスバインダーソードを同じく両手に構えて。

 たちまち切り刻まれたレギナの残骸が彼らの周囲に出来上がる。

 

「……なんだニヤニヤ見守るって。しかも生温かい目って」

「つまりリア充爆発しろ❤って事ですよディアーチェ」

 

 ブツブツ言いながらもディアーチェはレグナントを飛翔させた。すれ違いざまに翼でもある対艦用GNソードでレギナを切り裂く。そこに他のレギナのバインダーライフルが狙いを定めた。乱れ飛ぶビームの中、GNフィールドを張ったレグナントが人型形態へ形を変える。そして両手から飛び出すアンカー。本来であればそこから更に四基の電磁鞭を放てるのだが、ディアーチェに変わってユーリはそれを大きく振り回すではないか。その巨体と相まってアンカーはそのままフレイルへと変貌。近づくレギナを加速のついた質量で叩き潰してしまう。

 

『レンちゃんよ~……。さすがに俺も引くわ~。こうもオープンにやられると俺、後ろからミサラン撃ち込みたくなるくらいドン引きだわ~』

「ちょっ!? ハルファスの死角からそういうの止めてくんない? 割とマジで洒落になんないから!」

『ケケケケッ! だったら結果で示しな! 結果さえだしゃ、誰も文句言わねぇだろうよ!』

 

 そう言ってアストレアタイプF2のミサイルランチャーが逃げるレギナを執拗に追いかけ逃がしはしない。再度起こる爆発の中、それを隠れ蓑にして背後から奇襲をかけるレギナ。しかしブラッドはそちらを見ようともせず、今度はNGNバズーカで撃ち落とす。ライフルではなくバズーカで、だ。

 その天性の嗅覚は全く衰えていないようである。

 

「う~ん。励まされたのかな」

『かもしれませんね。いやはや私も少し浮かれ過ぎていたようです。お互い気を引き締めましょう』

「合点!」

 

 そしてフェニックスとハルファスも動きだす。ミサイルとビームでハルファスが道を切り開き、その死角をフェニックスがフォローする。浮かれていようとなんであろうと、一度戦場に立てばそれでも無敵のコンビネーションを見せる。それがレンとシュテルだ。

 時に、先ほどから一度も声を出さないキリエにレンは一抹の不安を覚える。声が聞こえないのが逆に怖い。攻撃の合間を見計らい、レンは彼女に声をかけてみた。

 

「あの~、キリエさん?」

「……ずるい」

「は?」

「私だってレンとイチャイチャしたいのに!! シュテルちゃんだけずるい!!」

「『そこですかっ!?』」

 

 やはりキリエはキリエ。マイペースな彼女にレンとシュテルは揃って声を上げた。

 

 

 

 

 

 

「……」

「艦長、あまり難しい顔をするとシワが増えますよ」

「……スキンケアに抜かりはありません。あとミラは減俸ですね」

「酷いっ!! 別に良いじゃありませんか。実に私達らしくて」

「はぁ……。分かっていますよ。ああなった彼らは止められない。止めるだけ無駄ですからね」

 

 ミネルバの艦長席でニキはオープンチャンネルで流れてくるレン達の会話を聞きながら、それでも頭が痛い思いだった。今も聞こえる彼らの声は今更ではあるが、本当に戦場かと思う程に自由。だがそれでも不思議と連携は取れている。どれだけ時が流れようとも、その不思議な連携の取り方は変わっていなかった。マーク達はまだ分かる。しかしそこに敵であったブラッドが入っても変わらない辺り、やはり体に染みついた感覚なのだろうか。

 だが気掛かりなのは“テンションが高すぎる”という点だ。

 この連携で最も評価できる点は、パイロットのテンションが高まるという事。相乗効果で力を高め合い、引っ張り合う事でパイロット同士の力を発揮させる事。しかし作戦が始まってまだ半刻も経過していないのに今回はテンションが高すぎる。悪い事ではないのだが、その分反動も大きいのだ。

 それでもまだジェネレーションシステムと聖王のゆりかごに近づけずにいる。

 過去類を見ないほどのテンション状態のパイロット達であっても、思う様に進めていないという現実。

 それ以上に敵の数と防衛力が高いという事か。相手は切り札をまだ持っているし、カード自体は既に切られている為、それを守る防御布陣に力を注いでいるのだろう。

 その切り札はGXビット。サテライトキャノンだ。

 サテライトリフレクターは破壊した。だがそれは地上に降り注ぐ懸念を排除しただけ。サテライトキャノン自体はまだ生きている。それが十二体も。サテライトキャノンはその一撃で戦況を変える力を持った戦略兵器だ。代えがきくレギナで足止めしてサテライトキャノンを撃つ戦法を取るのが定石であろう。

 だが撃ってこない。何故だ。

 追い詰めている筈が何故か追い詰められている。そんな嫌な空気に顔をしかめたその時だった。

 

「艦長! ジェネレーションシステムに動きがあります! マイクロウェーブです!」

「各機散開! GXビットの動きは!?」

「急に統制が崩れました! どのビットから撃たれるかまだ分かりません!」

 

 これだ。これが怖かったのだ。GXビットはいわば動く砲台。しかも数が数だけにマイクロウェーブが照射されるまでどの機体がサテライトキャノンを撃つのかさっぱり分からない。だがチャージの間機体は固定される。直進してくるサテライトキャノンの軸線をずらす事ができればまだなんとかできる。

 そう思っていた。ミラの報告を受けるまでは。

 

「デブリの影に隠れて展開する機影あり。これは……サテライトリフレクターです!」

「まだありましたか! 至急アースラに連絡! バリアフィールド緊急展開!」

「最大展開間に合いません!」

「直撃よりは良い! 総員耐ショック防御!」

 

 画面に現れる別のサテライトリフレクター。デブリの影に隠れて既に展開は完了している。退避も迎撃も間に合わない。バリアフィールド展開率40%。決して安心できる数字ではなかった。

 

 

 気付かれたか。

 ミネルバとアースラの動きからウーノは眉を潜める。既に敵モビルスーツは散開し衛星へ進路を向けているが、それはこの際捨て置こう。狙いは攻撃の要になっているミネルバとアースラだ。その為の防衛布陣。別のサテライトリフレクターの展開に気付かれぬように、展開を広くし注意を引きつけた結果、今度は間に合った。ミネルバにバリアフィールドと呼ばれる絶対防御フィールドがあるのは知っている。しかしこのタイミングでは展開は十分にできないだろう。

 出力は先ほどと同じ60%。だが十分だ。

彼女のコマンドを受け付け、GXビットの砲台から溢れんばかりの閃光が走った。一縷の望みをかけて衛星へ向けて飛ぶレン達を尻目に、光は宇宙を奔る。そしてリフレクターに到達した光が「く」の字に折れ曲がった。射線上にあるレギナも、デブリも、一切合財飲み込んでサテライトキャノンがミネルバとアースラに襲いかかる。

 一瞬の静寂から遅れてやって来た衝撃波が聖王のゆりかごを大きく揺らした。

 その威力、撃った本人すらも驚く。これが力。破壊のみに生み出された異世界のオーバーテクノロジー。

 

「ふっ、ふふふふふふっ。凄いわ! この力があれば管理局も一網打尽にできる! ドクターの夢もより盤石な物になるに違いないわ!」

 

 それは歓喜。大きな力を手に入れ、それがスカリエッティの為に必ずなる事を証明できた事の歓喜にウーノは全身を震わせた。だがそれはあまりに束の間の歓喜。光の中に見える影にウーノの笑いは、一気になりを潜める事になる。

 光の中に見える影。サテライトキャノンの光を浴びてもなお、その姿をとどめている二隻の艦。

 ミネルバとアースラは健在だった。

 

「そんな……、何故!?」

 

 バリアフィールドを最大展開できる時間は無かったはずだ。しかし二隻を包む光はそれに間違いない。

 そしてミネルバからは煙も上がっている。ダメージを受けた事には間違いなのだが、何故落ちない。何故その姿をとどめている。その疑問に答える者はおらず、ウーノの頭は予期せぬ事に混乱していく。

 経験の浅さが浮き彫りになっていた。確かにウーノはファーストロットで長くスカリエッティと共に生きている。だがここまでの大規模な戦闘は経験がない。ましてサテライトキャノンという一撃必殺のオーバーテクノロジーを得て、絶対の勝利を確信していたのにそれが覆された。それによる混乱がますます彼女を追い詰めていた。

 そもそも戦場においての絶対は存在しない。絶対にこれをしておけば必ず勝てるという定石などありはしない。定石が崩れたなら臨機応変に対応するのが本来だ。しかし経験の浅いウーノにそれを求めるのは酷というもの。まして、これまで彼女が得た勝利の中に自分自身の力のみで勝ち取った勝利が存在しないなら尚更だ。

 だから判断が遅れる。予想外の事態に適切な解を導き出すのに時間がかかる。

 そんな中で、それでも聖王のゆりかごにGNフィールドを纏わせる判断に辿り着いたのはまだ“マシ”と言わざるを得ない。

 聖王のゆりかごを大きな衝撃が揺らす。ウーノはその揺れに耐えようと身近なものにしがみついた。

 それは攻撃を受けた証拠。彼女が再起動するまでの時間にミネルバがタンホイザーを撃ってきたのだ。

 サテライトキャノンのダメージがミネルバに無いわけではない。そのおかげで僅かに照準がずれ、直撃は免れた。だがまだまだウーノの予想外は続く。

 

「まさか、アースラが前に出る!?」

 

 画面に映るアースラが前進を開始していた。タンホイザーによってできた道をひたすら真っ直ぐ、全速力で向かってくる。そしてその中にかつてのアースラには見られない部位が見えた。後方部に設置されたブースターがそれだ。そして艦を取り巻くGNフィールドにも似たバリアが二層で展開されている。

 そういう事かと気付いた時には遅い。アースラもまたジェネレーションシステムからの技術でとことんまで防御と突破力を強化していたのだ。おそらくサテライトキャノンを防いだのもこれによるもの。ミネルバとアースラが同時にバリアフィールドを展開し、最大展開とまではいかなくても、被害を最小限に食い止めたのだろう。

 勢いのついたアースラとそれを守る不死鳥達。もう止められない。ウーノがそれに気付いた時にはもうアースラは防御布陣を突破。ゆりかごに肉薄するまで迫っている。

 そして更に大きな衝撃にウーノは床に倒れ込む。その顔は信じられないと言わんばかり。

 目の前のモニターはゆりかごに正面から突っ込み、互いの防御フィールドが火花を散らすアースラの姿が映っていたのだから。

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