魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第62話 防衛ラインを突破せよ

1

 

 

 

 アースラブリッジが暗転し、警報がけたたましく鳴り響く。当然だ。バリアとバリアのぶつかり合いを最大速度で派手にぶちかましたのだ。当然その衝撃で艦内の至る所が悲鳴を上げている。

 エネルギーのフィードバックによる艦内外の温度上昇。焼き切れんとばかりに唸りを上げている動力炉と各防御装置。次々と報告される状況を聞きながらも、はやては艦長席に座ったまま微動だにしない。

 軍帽を目深に被ったまま腕を組み、じっとその時を待っている。

 

「部隊長……」

 

 流石にグリフィスも声をかけたその時だ。急に立ち上がったはやてが心は決まったとばかりに声を張り上げる。

 

「緊急用のオーバーブーストも使って! ねじ込むのは艦首だけで良い。それで十分や!」

「はいっ!」

 

 その指示にルキノが迷わずオーバーブーストのスイッチを入れる。ギガブースターが更に勢いを増し、徐々に徐々にアースラの艦首がゆりかごのGNフィールドに入り始めた。それでも後ひと押しが遠い。GNフィールドを突き抜けるのが先か、アースラの魔力炉が焼き切れるのが先か。そのチキンレースにはやての顔にも冷や汗が流れる。画面に表示される目標到達までのカウントの減りが遅い。時間としては数秒しか経っていないにも関わらず、その時間すら遅く感じる。カウントは減り続ける。アースラの限界時間も刻一刻と減り続ける。

 

「魔力炉とジェネレーター出力が120%を突破! このままではアースラを空中分解してしまいます!」

「なんとか維持して! あともう少し。もう少しなんや!」

 

 シャーリーの報告に対する答えだって無茶だと言うのは十二分に承知している。アースラクルーの命を小さな双肩に乗せての大博打。とてもじゃないがまともな神経でできる博打ではないだろう。しかしやらねばならない。小刻みに震える肩を自分の腕で無理矢理抑えつけ、はやてはじっとカウントを見続ける。

 そしてカウントがゼロになる。待ちに待ったこの瞬間。大博打に勝ったのははやてだ。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん! 今や!!」

 

 待ってましたと小型艇が空白の中に向けて弾丸の様に飛び出した。それを操縦するのはフェイト。乗り込んでいるのはスターズ、ライトニングのフルメンバー。そして無事に小型艇がGNフィールドの中に入り込んだのを確認し、はやては急ぎ全速離脱と防御フィールドの解除を告げた。既にどちらも限界ギリギリ。魔力炉、ジェネレーター共に誘爆寸前まで至っている故仕方ない。魔力炉がクールダウンするまで魔力兵装が使えない為、守りは護衛のレン達に一任し、アースラはゆりかごから退避していく。

 

「ふぅ~。なんとかなったなぁ」

「本当に。整備班には後でボーナスを出さないといけませんね」

 

 どっかりと椅子に深く座り息を吐くはやてにグリフィスも眼鏡を直しながら、冷や汗を拭う。

 賭けには勝ったが安心してもいられない。この特攻はミネルバが盾になってくれたおかげだ。はやては急ぎ、ミネルバへ通信を繋ぐように指示。程なくして画面にニキの顔が映し出される。

 

『なんとか潜り込めたみたいですね』

「ニキ艦長のおかげです。ミネルバは大丈夫なんですか?」

『相手はサテライトキャノンですからね。中破で済んだだけまだ救われています。ですがまだ兵装は生きていますし、戦う事はできますよ』

「ならアースラは急ぎミネルバと合流します。今度はこっちが盾になるくらいはできますから」

『過信は禁物ですよ。それにGNフィールドの中に入れたと言っても、フェイトさん達の無事を確認しなければならないでしょう?』

「あ~、それなら心配ないかと」

 

 ニキの言う事も確かなのだが、はやてはそれに対しあっけらかんと答えた。それこそニキが目を丸くする程に。そしてはやてはニッと笑い、絶対の自信と共にニキに告げる。

 

「フェイトちゃんのドライビングテクニックは超一流ですから」

 

 

 

 

 

 

 GNフィールドの中に入った小型艇が、聖王のゆりかごから放たれる光線の中を猛スピードで駆け抜けていた。最低限の魔力兵装しか持たないこの小型艇では反撃の意味は無く、しかも当たり所が悪ければそのまま爆散。回避に専念しつつ前に進むしかないこの状況で操縦するフェイトは集中力を最大限まで高める。それによって生み出されるギリギリの操縦技術に、一緒に乗っているフォワード達は何回も青くなっていた。彼女達の賭けはまだ終わっていないのだ。

 だがそれでもフェイトの隣でなのはは、至って平然と着艦ポイントを探している。

 

「フェイトちゃん二時の方向、あそこから入れない?」

「う~ん、あそこは密度が濃いかな。それに入り口が小さくて結構ギリギリっぽくない?」

「それはちょっと危険だね。なら別の所を探してみるよ」

「うん。頼むね、なのは」

「な、なんでそんなに平然としていられるんですか……」

 

 何度も小型艇は旋回し、左右に大きく振れて上下も分からなくなっている。だというのに前の二人はそんな事関係無し。モビルスーツ同士の戦闘宙域をウィングロードで滑り下りた経験のあるティアナでさえ、何かにしがみついていないと恐ろしくて敵わないというのに。そんな中、一人平然と腕組をして瞳を閉じていたシグナムが口を開いた。

 

「情けない声を出すな。テスタロッサの本気はこんなものではないぞ」

「フェイトさんの本気ってこれより凄いんですか!?」

「なんだエリオ。お前はまだ味わった事がないのか?」

「味わうも何も、僕が乗っている時はもっと安全運転ですよ!」

「私もです!」

 

 信じられないとエリオに続いてキャロも声をあげる。だがシグナムは相変わらず悠然と座ったまま。その落ち着きが逆に怖い。信じているのか慣れているのか、慌てるそぶりは全く無い。

 

「犯罪者とカーチェイスをした時に乗り合わせた事があるが、その時はもっと容赦なくてな。ドリフトはかますわ、道無き道は走るわ本当に容赦がない。あれでよく事故を起こさないものだと逆に感心したものだ」

「やだなぁシグナム。あれは緊急の時だけで、普段からこんな運転しませんよ。それに変な事教えないで下さい。エリオとキャロが私の車に乗ってくれなくなったらどうするんですか」

「い、いや~、もう手遅れだと思うぜ?」

 

 そう言うヴィータも手すりにつかまりガチガチと歯を鳴らしている。そして別のポイントを見つけたなのはがフェイトに声をかけた。

 

「あ、フェイトちゃん。あそこはどう?」

「うん。あそこなら行けるね。じゃあ皆、ちゃんと捕まっててね。もう少しスピード上げるから」

「も、もう少しってどれくらいですか?」

「ん~、全開フルスロットル、かな」

 

 スバルの問いかけに答えたフェイトがカクンと操縦桿を前に倒した瞬間、グンッとGがきつくなりフォワード達とヴィータは声にならない悲鳴を上げた。

 依然降り注ぐ光の嵐の中を小型艇が突き進む。近づけば近づくほどかゆりかごの攻撃が激しさを増し、荒れ狂う光の密度が濃くなる。流石にフェイトの顔が少し曇り、全員にすぐに動けるように指示を出した。

 上下左右、もう現状を正確に把握できているのはフェイトとなのはとシグナムだけに違いない。

 その時一際大きな衝撃が小型艇を襲った。フェイトの腕を以ってしてもやはり被弾は避けられなかったのだろう。警報がけたたましく鳴り響く。しかも入り口も閉まり始める。だが扉が閉まり切る前のほんの僅かな隙間を縫って、フェイトは小型艇を滑りこませた。着艦と同時に扉が閉まり、被弾の炎を上げながら床面を小型艇が滑り進む。キャッチネットなど在りはしない。衝撃に揺れる小型艇をフェイトが必死にバランスを取ろうとしている。だが先の一撃でバランサーがイカレたのか、微塵も彼女の制御を受け付けていない。

 

「シグナム!!」

「承知!」

 

 そんな中、フェイトに呼ばれたシグナムがレヴァンティンを鞘から走らせる。その一刀が斬るは小型艇の扉。一振り、二振りの後、シグナムは扉を蹴り飛ばす。

 ごぅ、という音と共に熱風が入り込んできた。しかし構わずシグナムは近くにいたキャロとフリードをむんずと掴み、そのまま外に飛び出す。「ひゃああぁぁぁぁぁっ」とキャロの悲鳴が木霊した所でスバル達もやっと状況を飲み込んだ。まずはヴィータとエリオが飛び出していく。スバルがティアナを抱き上げてそれに続く。最後はフェイトとなのは。ゴロゴロと床を転がった瞬間、遂に小型艇が限界を迎え爆発を起こし、通路は強烈な炎の風に包まれたのであった。

 

 

 

2

 

 

 

 GGH-010 レギナ。面影はほとんどないがハルファスガンダムの量産機である。何がどうしてこのデザインになったかまでは不明ではあるが、ジェネレーションシステムを守る機体として大量に配置されている。そして今それを動かしているのはニューロだという事をレン達はアプロディアから聞かされていた。

 ニューロ。それはジェネレーションシステムの情報端末。電脳世界であろうとも現実世界であろうともその本質は変わらない。

 本来は守護者であったもの。しかし今は操られ、殺戮者になる一歩手前。

 分かっていた事だ。許せとは言わない。本当の意味でニューロを解放するには一刻も早くジェネレーションシステムをスカリエッティから取り戻す他ないが、今は振りかかる火の粉として払わせてもらう。

 先頭を切るレン達Spiritsのモビルスーツ達はその思いと共に攻撃を繰り返す。ミネルバとアースラがそれに続き、目指すはジェネレーションシステム本体。聖王のゆりかごは機動六課の突入部隊に任せた。Spiritsとアースラはジェネレーションシステムに辿り着き、外側からシステムを解放しなければならない。

 だが近づくにつれて弾幕はいっそうの激しさを増していく。次第にSpiritsの足も止まり始めていた。

 

『ちっ!! まさかこれほどとはねぇ!』

「ブラッド、俺とお前で切り開くぞ! 乗れ!!」

『そんじゃーま、遠慮無く!』

 

 レンの声に合わせてアストレアがハルファスベーゼハルバードの背へ。二機でレギナの群れに突っ込み火力を全開放する。重装型のアストレアとハルファスのフルバースト。その火力は凄まじいの一言だ。

 爆花の中、優先すべきは十二機のGXビット。第一射、第二射は防げた。だが第三射を防げる保障はどこにもない。むしろ撃たれれば撃たれるほど状況は悪くなる。

 

『一機目!!』

『続けて二機目!!』

 

 マスターフェニックスが大剣を振り一刀両断にした後に、フェニックスガンダムがビームサーベルを投げつけた。そして跳ねかえったサーベルを掴むとシュテルはすぐさまフェザーファンネルを射出。感応力者ではないシュテルはその制御をルシフェリオンに任せているが、ルシフェリオンはシュテルの分身とも言えるデバイスだ。その意思に従い三機目がそれに怯んだ隙に、連結させたビームライフルが撃ち抜く。

 これで三機目。四、五機目にはレンとブラッドが向かう。ブレストバルカンとシールドバスターライフルの反撃は魔力障壁を張って防ぐ。だがモビルスーツクラスの攻撃は何度も受けられる物ではない。できるだけ被弾を最小限に抑えながらレンが引き金を引き、四機目を貫いた。五機目はブラッドがすれ違い様にプロトGNソードで切り捨てる。

 

『ん~、チマチマやるのめんどい!!』

『ほぅ、珍しく意見が合うではないか。ならば一網打尽と洒落こもうぞ!』

『こもうぞ~!!』

 

 ザンスパインから飛び立つティンクルビットが散開しようとするGXビットの逃げ道を塞いだ。マークやレンほどではないにしろレヴィも立派な感応力の持ち主である。彼女の意思に従い飛ぶティンクルビットは誘導。全ては彼女が信じる王の一撃を叩き込む為の物。

 

『良い働きだ!!』

『射線通りました!』

 

 ティンクルビットによって一箇所に集められたGXビットはディアーチェにとって格好の餌食に他ならない。開放された圧縮粒子にマイクロミサイルもおまけにつけて、一際大きな爆発が彼女達の目の前で起こる。これで一気に九機。残るは三機だ。しかし。

 

「マークさん!!」

『レン、お前も感じたか!』

「はいっ!!」

『ボクも感じたよ。これはとっても嫌なヤツだ!』

『各機、サテライトキャノンを撃たせるな!!』

 

 レンとマーク。そしてレヴィの感応力が迫る悪意を感じ取っていた。一番奥にいたGXビットがリフレクターを展開している。サテライトキャノンの発射体勢だ。しかしだからと言って退く者はここには誰一人としていなかった。むしろ撃たせる前に落としきると前へと進んだ。

 ザンスパインが光の翼を広げる。レグナントが圧縮粒子を開放する。不死鳥が三羽飛び交い、アストレアが撃ちまくる。撃たせてなるものか。壁となるレギナを撃ち落とし、切り裂き、Spiritsが前線を押し上げる。

 それでも。それでもまだ届かない。レン達の前でマイクロウェーブの光が闇を裂いた。各コックピットに発射までのカウントダウンが表示される。後もう少し。もう少しなのに。もう少しで手が、剣が、ミサイルと銃弾が届く所まで来ているというのに。

 砲身に収束する光に向かって手を伸ばし続ける。レンの頭痛が増していく。サテライトキャノンの光に飲まれるのが先か、脳が焼き切れるのが先か。どちらもごめんだ。だから諦めてなるものかとレンは手を伸ばし続ける。

 

「邪魔だぁぁぁっ!!」

 

 浴びせられるビームの雨が魔力障壁に当たり、チラつく光の中でレンが声を上げた。放つミサイルの後を追って飛び、爆発と光が視界を防いでもそれでも飛び、ミサイルとビームをばら撒き前へと前へと飛ぶ。

 無謀なまでの前進は攻撃の的になる。加速度的に削れられていく障壁からのフィードバックがレンに襲いかかり、頭痛が更に激しさを増す。それでも前へ。前へ進まなければ……。

 

「駄目! もう無理っ!!」

 

 キリエが突然レンからハルファスからコントロールを奪い取った。彼女の意思に従いハルファスがコースから外れる。何をするんだと睨むレンの頬をヘルメットの上からキリエが引っ叩いた。呆然とするレンの目に大量の涙をこぼすキリエが映り込む。

 

「レヴィ! ブラッド! さっさとやっちゃいなさい!!」

『りょーかい!』

『食らいつけよレヴィ! トランザム!!』

 

 ハルファスの脇をザンスパインとアストレア通り抜けた。光の翼を羽ばたかせるザンスパインが、真紅の輝きに包まれたアストレアが、レンが切り開き進もうとした道を突き進む。爆炎を纏い、邪魔するレギナを薙ぎ払い、二機の足は止まらない。それを援護するフェニックスガンダムとマスターフェニックス、レグナントの砲撃。臨界に達しようとするサテライトキャノンの輝きまでもう少し。そこでアストレアがトランザムの力を全て斬撃に乗せて、最後の壁とGXビット二機を薙ぎ払った。

 これで残るは今まさにサテライトキャノンを撃とうとする一機のみ。

 

『レヴィ!!』

『届けぇぇぇッ!』

 

 手を伸ばしたザンスパインから伸びるビームストリングスがGXビットに絡みついた。途端にスパークする電撃が一瞬だけGXビットの動きを止める。その一瞬で十分。レヴィはグンとワイヤーを引っ張り交差するザンスパインとGXビット。

 十二機目。最後の一機は光の翼によって胴を切り裂かれ、光が膨れ上がった。

 

「……」

「言ったでしょ。私が優先するのはレンの命だって」

「……そうだね。感謝してる。止めてくれてありがとう」

「分かれば良いのよ。分かれば」

 

 サテライトキャノンの膨大なエネルギーが四散し、輝く姿はまるで一つの恒星だ。その光を背にザンスパインが光の翼を広げて飛ぶ姿にレンは目を細める。きっとコックピットではレヴィが満面の笑みを浮かべている事だろう。どうだ。見たかと胸を張っているかもしれない。勿論大金星だ。戦略兵器サテライトキャノンを止められたのは大きい。

 しかしそれが故に生まれる物がある。

 油断だ。

 

「レヴィ!!」

『ほえ?』

 

 強烈な悪意。サテライトキャノンの時よりも遥かに強い生身の悪意にレンがレヴィを呼んだ。一瞬間の抜けた声を上げたレヴィもその悪意をやっと感じたのか、すぐにビームシールドを展開させた途端降り注ぐ光線の雨がザンスパインに襲いかかる。

 

『ちぃっ!』

『すぐに救援を!』

『待って下さいシュテル! こちらに高速接近する機影があります……けど、この速度は!!』

 

 ユーリの声にディアーチェとシュテルが動こうとするより速くそれは二機の間に舞い降りた。その速度に二人の反応が追いつかない。分かるのはそれがレギナではないという事。青い装甲を纏うガンダムのツインアイがギラリと光を灯した。

 その冷たい光に反応する体よりも先に衝撃がシュテルに襲いかかった。それがそのガンダムの蹴りだと気付いたと同時に浴びせられる機銃の雨。とっさに魔力障壁を張り防ぐシュテルのモニターに肩部装甲から短剣を抜きだす姿が映る。青のガンダムはそれを振りむき様レグナントへ。自推式の短剣が真っ直ぐ飛んでいく中、レグナントはGNフィールドと魔力障壁の二重層の防御姿勢をとる。しかしガンダムも前腕部に隠していたビームガンを両手に取って次々と撃ち放った。先に投げつけた短剣の燃料に引火し起こる爆発と共にレグナントを包み込む。それでもガンダムは連射を続けた。その光景にシュテルは強く確信する。このガンダムは知っているのだ。ユーリの防御魔法とGNフィールドがあの爆発ぐらいでは砕けないという事に。だから攻撃の手を緩めない。防御の上からそれを削り取ろうとしている。

 いけない! シュテルは咄嗟にビームライフルを構えさせた。右肩に設置された盾裏にある銃器が見えたからだ。この機体がもしもシュテルの知っているあの機体ならばあれは貫通能力に長けたレールガン。今レグナントにそれを撃たせるわけにはいかない。

 ビームライフルが閃光を放つ。タイミングは問題無しの直撃コース。だがそのガンダムの動きはシュテルの予想を遥かに上回り、直撃コースであるはずの閃光を紙一重で避けてみせていた。驚いている暇は無い。ならばとビームサーベルで切りつける。ガンダムも脚部からビームサーベルを抜き放ち、光刃が交わる。スパークする光の中、シュテルの頬に流れる冷や汗。何故ならそのガンダムはぴくりともそこから動かず、悠々とフェニックスガンダムの一撃を受け止めていたからだ。そして発射されたレールガン。魔力障壁とGNフィールドの二重層すら貫き、弾丸はレグナントに直撃。幾らか威力こそ弱められたものの、ディアーチェとユーリの悲鳴がスピーカーから聞こえてきた。舌打ちと一緒にもう一本ビームサーベルを抜く。が、その光刃が空を切り、背部から襲ってきた衝撃に今度はシュテルが悲鳴を上げることになった。

 

「シュテル!!」

 

 レンの声に後押されシュテルは頭を軽く振る。声の方を見ると彼もそれ所ではない事が分かった。マークとブラッドとレン。その三機を一機で相手をする機体がそこにいたからだ。異様に伸びたアームを巧みに使い、全く三機を寄せ付けないその機体にも見覚えがある。

 GB-9700 ガンダムベルフェゴール。一際目を引くアームは左右肩部に折り畳まれた伸縮性の鍵爪、ストライククロー。いくらレン達の機体でもそれに掴まれたら握り潰されてしまうほど強力な武器だ。

 そして自分の目の前でビームガンを突き付けているのは間違いない。GAT-X1022 ブルデュエルだ。元々バランスの良い機体であるデュエルガンダムを再設計、追加装甲等を行う事で更に汎用性が上がった機体。突出した武装は無い物の、そのバランスの良さはそれを補って余る。つまり搭乗者の力量が最も如実に出る機体と言っても良いだろう。

 そしてこんな機体を選びそうな人物にも心当たりがある。勿論ベルフェゴールも。趣味、というかそれぞれの機体に搭乗者の好みがはっきり浮き上がっていた。

 

『ブルデュエルとはお前らしいなラナロウ』

『人を褒めている暇があるのかディアーチェ』

 

 レグナントのGNマイクロミサイルをブルデュエルが両手のビームガンで次々と撃ち落とし、爆発が起こる。その爆炎を尽く破る様に両手から撃ち出されるアンカー。今度こそ本来の使い道であるエグナーウィップでブルデュエルを止めようとする算段だ。その間にシュテルもフェニックスガンダムを変形させてレヴィの下へ向かおうとする。遠目に見ても分かる。深い青のボディ。血塗れの赤き翼を広げたあの機体にザンスパインが押されているのだ。そしてそこに向かえというディアーチェの意思。シュテルがペダルを踏み締めようとしたその時だ。

 

『何処に行こうってんだ?』

「なっ!? 速すぎる!!」

 

 エグナーウィップはブルデュエルを押さえる事が出来ていなかった。しかもいつの間にかフェニックスガンダムの所までラナロウが機体を推し進めている。驚くシュテルのフェニックスガンダムをブルデユエルのビームサーベルが狙う。咄嗟に機体を旋回させて一撃をやり過ごすも、ラナロウはすぐさまビームガンの連射を仕掛けてきた。これでは進む事ができない。振り切る事もできない。仕方なくシュテルはレグナントまで身を寄せる。

 

『この機動力、機体のポテンシャルが段違いだな』

「ええ。でもこのままではレヴィが」

『分かっておる! しかしラナロウを止めない事には我らも身動きが取れん』

 

 口惜しいのはシュテルも一緒だ。再度フェニックスガンダムを変形させ両手にビームライフルを持つ。

 一体どんなチートを使った。いや、どんなチートを使おうとラナロウとブルデュエルを突破しなければ先に進めないという事実は変わらない。ならば何としても突破するしか二機に残された道は無かった。

 

 

 ハルファスやフェニックスの他にも悪魔の名を持つガンダムは存在する。ヴァサーゴ、アシュタロン。そしてその二機の祖になったのがこのベルフェゴールだという。伸縮アームの先にあるストライククローを振る姿を見れば誰もがこの機体が悪魔の名を持つ事に納得するだろう。

 そしてその爪が容赦なく三機に襲いかかって来る。一刻も早くレヴィの所へ行きたいレン達だが、ベルフェゴールに搭乗しているのはゾディアック。確実に道を潰され、なかなか先へと進む事ができない。

 

「キリエ! 他にコースは無いのか!?」

「さっきから最短最適コースを出してるのに潰されちゃってるよ!」

「ちっ! この感覚。あの機体に乗ってるのは絶対アイツだってのに!!」

 

 ザンスパインを襲うのは最後の不死鳥。何故彼があれに乗っているのかを今は問うまい。レンがハルファスに導かれたように。マークがマスターフェニックスに巡り合ったように。彼もまたあの機体に辿り着いた。前世界からの繋がりが起こす必然としか言いようがない。

 

『レン!』

「分かってます!」

 

 マスターフェニックスが大剣を構えた。レンもハルファスの手に大型ビームサイズを握らせる。同時攻撃だ。赤と紫の刃が左右からベルフェゴールに切りかかる。が、ベルフェゴールもストライククローからビームサーベルを放ちこれを受け止めた。

 レンとマーク、揃ってニヤリ笑う。

 

『ブラッド! 今だ。レヴィの所に行け!!』

「しっかり足止めしてろよぉ!!」

 

 レンとマークはベルフェゴールの足止めだ。すかさずアストレアが飛び出す。だがゾディアックもそれくらい読めていない訳ではない。胸部が展開し、エネルギーが収束し始めた。

 

「キリエ! ハルバードユニットだ!!」

「うん!」

 

 砲撃が放たれるその直前、レンは連結を解除。オートで射線にハルバードユニットを割り込ませる。そして放たれたソニックスマッシュ砲がハルバードユニットを直撃。見事、盾としての役目を全うしハルバードユニットが強烈な爆発を起こす。

 爆風に煽られた機体を無理矢理安定させ、ハルファスベーゼのスラスターが火を噴く。一瞬の溜めの後、ハルファスベーゼが矢の様に飛び出した。体勢の整っていないベルフェゴールにビームサイズで切りかかる。しかし。

 

『甘いですよレン君』

「なっ!?」

 

 ベルフェゴールの脚部から伸びてきたアトミックシザースがハルファスベーゼを捕まえた。両腕を掴まれて身動きが取れない。しかも万力の様にギリギリと締めつけ、さしものハルファスベーゼでも機体が悲鳴を上げ始めた。

 

『レンっ!!』

『貴方はそこで見ていなさい!』

 

 助けに入ろうとしたマスターフェニックスもストライククローに弾かれる。そしてハルファスベーゼを正面に捉えたベルフェゴールの胸部が再び開いた。そのままソニックスマッシュ砲で飲み込むつもりか。しかしレンもそのまま指を咥えて見ているつもりはない。ハルファスベーゼから無数の翼フェザースクィーズを伸ばして反撃。堪らずベルフェゴールがハルファスベーゼを離す。

 だがソニックスマッシュ砲は止まらない。止まらないならとハルファスベーゼの砲身を向ける。間に合うか? いや間に合わせる。八門の砲撃を中心に集束させればチャージが間に合わずとも!

 たちまち爆発が二機を包んだ。その中から余波に弾かれ、吹き飛ぶ二機。

 まだ勝負はついていない。二機のツインアイはまだ輝きを灯したままだ。

 

 

 ビームシールドに弾けた光にレヴィが目を細める。ビームライフルの応戦も焼け石に水。降り注ぐ光の弾幕が厚過ぎる。その中に混ざる砲撃はビームシールドでも防ぐ事は難しいだろう。

 GGV-000 バルバトス・ミラージュ。闇に溶けてしまいそうな深い青。血濡れの赤い翼。搭乗しているのはアメリアス・ナハトヴァールではなく、キール・アルドだという事をレヴィは感じ取っていた。

 

「キールもう止めてよ! アミタんをゆりかごの動力にしてまでアンタ何がしたいのさっ!!」

 

 その機体を操っている彼に向けて声を上げるも、光の雨は止まらない。声は届いているはずなのに、彼は一切の反応を見せなかった。だがレヴィの感応力はしっかりとキールの意識を感じている。全てを燃やし尽くす煉獄の炎。全てを凍てつかせる極寒の凍土。それは拒絶だ。炎で他者を寄せ付けず、氷の中に自分の心を閉じ込めている。

 

「キール……。どうして? どうしてこんなに悲しいの?」

 

 大粒の涙が紅玉の瞳から流れていた。拒絶の炎が身を焼き、凍てつく氷に身が凍えたその先にある物は悲しみだと、レヴィの心は素直に受け入れていた。他者を寄せ付けない炎と心を守る為の氷。そうでもしなければキールの心が壊れてしまう。どうしてそう思ったのか分からない。分からないけれど分かる。だから教えて欲しい。何がそんな悲しいのか、歩み寄る気がないのならば、こちらから歩み寄るだけだ。

 

「キー……」

『俺の中に入って来るな!!』

 

 レヴィがキールの深淵に触れようとした時だった。より強い炎がレヴィの心を更に拒絶した。歩み寄りを拒絶し、分かりたいと思うレヴィをキールの炎が拒絶し、近寄らせない。

 氷は厚みを増し、炎は更に猛る。銃撃の雨はいっそうの苛烈を増して降り注ぐ。その雨の中、血塗れの翼が広がった。その一枚一枚に灯る光がレヴィを縛り付ける。

 

『ボーっとしてんじゃねぇ!!』

 

 一喝する声がレヴィの縛りを解いた。割り込んできたブラッドのアストレアがプロトGNソードを抜き、バルバトス・ミラージュに切りかかる姿が目に入る。しかしその一撃もガンブレイドの刃が受け止める。反った刃で大剣をいなし飛び散る火花の中、銃口から飛んだ光がアストレアの右肩を撃ち抜いた。吹き飛ぶ右腕に構わず振られるプロトGNソード。だがバルバトス・ミラージュには届かない。再びいなされ、刃が胴を裂く。

 

『こいつは怖ぇんだよ! 自分の中にあるドロドロしたモンを誰かに知られるのが怖くて仕方ねぇんだ!』

『うるさい!』

『だったら反論してみろよ良い子ちゃんで怖がりのキールちゃんよぉ!』

『うるさいと言っている!!』

『うるせぇのはテメェの方だっ!!』

 

 するりと抜け出たアストレアの蹴りがバルバトス・ミラージュの顔面を蹴り抜いた。追撃のプロトGNソードの斬撃が襲いかかる。しかし血塗れの翼で身を守るバルバトスの体まではそれが届かない。むしろ翼が開かれた衝撃にアストレアが吹き飛んだ。次々と翼に光が宿る。幾筋の砲撃が走り翻弄されるアストレアの中でブラッドが舌打ちを打つ。粒子残量がまだ回復していない。トランザムは事実上使用不可能だ。刃を折り畳み脚部ホルダーからGNピストルを取り出し牽制をかける。今度は防御など無い。けれどもその銃撃にバルバトス・ミラージュは身じろぎもしない。装甲表面が少し削られた程度ではハイパー・ナノスキン装甲が損傷を塞いでしまうからだ。この程度牽制にもならないか。やはりもっと大きな一撃をと思った刹那、反撃の銃撃がアストレアを襲った。幾条もの光に貫かれ、アストレアが小さな爆発を幾つも起こす。

 

『ブラッドォォォォッ!!』

『調子出てきたじゃねぇか大将。そうだよ。それがお前の本質だ。いつもスカした顔でなんでも受け入れたフリしてウジウジしてるより、今のお前の方がよっぽどお前らしい。アミタの為? 世界の為? ましてやテメエらの目的なんて知ったこっちゃねぇ! お前はただ許せぇだけだ。あいつと自分。何が違かったのか。自分の方がセンスも、技量も優れているのに何で自分じゃねぇのか。どうしてあいつばかり選ばれるのか。それが許せなくて、ウサ晴らしできる場所が欲しかったんだろうがよぉ! えぇ? キール・アルド! なんとか言えやゴラァ!!』

『駄犬は黙ってろ! お前に俺の何が分かる! 分かってたまるかよ!!』

『生憎俺は特別な力なんかねぇんでな。分かるわけねぇだろバーカ! だがな! 俺は俺の好きに生きる。欲しいモンも欲しい女も必ず手に入れてやる。誰かを羨んで妬んでついでに劣等感感じてる癖にそいつを殺して、さも平気なフリして影みたいに生きる人生なんざまっぴらごめんだ。テメェみてぇに物分かりの良いお利口さんじゃねぇんだよ。こちとらな!!』

『もういい黙れ! そしてここで死ね! 死んでまでその減らず口は叩けんだろ!』

 

 アストレアのこめかみ部分に銃口を押し付け、銃声が上がる。頭部を貫かれたアストレアの顔面を更に拳で殴る。殴る殴る。バイザーが砕け、ツインアイが砕け、装甲がひしゃげても、バルバトス・ミラージュは殴る事を止めない。ブラッドはそれでも大剣を突き立てようとした。が、その腕を掴んだバルバトス・ミラージュは拳を振り降ろし、アストレアの左腕を砕く。

 両腕を失ったアストレア。キールはそれでも容赦なくガンブレイドを連射。爆発がコックピットまで届いたのだろう。ブラッドの苦悶の声がレヴィのコックピット内に響く。

 

『……じゃあな駄犬。お前にだけは殺されてたまるかよ』

「駄目だよキール!!」

 

 漂うプロトGNソードを掴み、アストレアに突き立てられそうになった刹那。レヴィがザンスパインを割り込ませた。ビームファンでその刃を受け止める。バルバトス・ミラージュのツインアイが冷たく見降ろしている。

 

『どけレヴィ』

「嫌だ!」

『どくんだ!!』

「嫌だっ!! 今のキールおかしいよ! そんなの絶対アミタんだって望んでない!!」

 

 バルバトス・ミラージュがビクリと震え、押し付けるプロトGNソードの力が緩まった。その隙にアストレアを掴みレヴィはザンスパインを飛ばした。スピーカーからブラッドの呻き声が聞こえる。良かった。まだ息がある。その事に安堵し目指すはミネルバ。一刻も早く治療をしなければ。

 キールは追って来ない。バルバトス・ミラージュは呆然と立ち尽くしている。代わりにレギナがレヴィの前に立ちはだかる。

 

「どけぇぇぇぇっ!!」

 

 光の翼の羽ばたきがレギナを裂いた。しかし波状攻撃は止まない。弱った相手を狙うのは狩りの常識。追い詰めて追い詰めてなぶり殺す。囚われたのはレヴィ。逃げ場は無い。

 

「ブラッド……」

『んな情けない声出すんじゃねぇよ……。どうやら俺にも悪運って奴はあるらしいな』

「え? ……あ!!」

 

 その言葉の意味をレヴィは即座に理解した。

 ミッドチルダ母星の方向に出現する「それ」が目に入ってきたからだ。数は無数。この圧倒的数量差を一気にチャラにしてしまうほどの数の艦隊。そしてそれがレギナ達に向けて一斉正射を開始した。

 乱れ飛ぶ砲撃は魔力兵装。幾色幾筋もの閃光の帯。突如として沸いたその光にレギナ達が次々と飲み込まれていく。

 

『早くミネルバへ行きなさい!』

『私達でここは抑えます!』

「マリア! それにアプロディアも!」

 

 そこから突き進んでくるモビルスーツと声にレヴィは迷わずザンスパインを動かした。すれ違い様、互いにグッと親指を立てるその機体はハイペリオン。その正規パイロットであるマリア・オーエンスとそのパートナー、アプロディアと共にその機体は宇宙を駆ける。レヴィの退路を守る様に彼女達はザスタバ・スティグマトをばら撒いてからの砲撃、フォルファントリーを放った。

 爆発の閃光を背にレヴィはミネルバへの道を急ぐ。そこに入る通信。それは彼女も知る男。この艦隊のリーダー、クロノ・ハラオウンだ。

 

「クロスケ!!」

『ク・ロ・ノだ! 全く、君はいつまで経っても僕をそう呼ぶんだな』

「クロスケはクロスケでしょ? それよりもこの艦隊。許可が出たんだね!」

『それよりって……、まぁ良い。これでようやく君達の力になる事ができるよ。だが忘れないでくれ。まだ上層部はジェネレーションシステムの危険性を捨てていない。いつ破壊命令が出てもおかしくはないぞ』

『その前になんとかする。その為の機動六課とSpiritsや』

 

 割り込み通信の相手ははやてだ。彼女のその言葉にレヴィも頷く。そうだ。その為の自分達だ。数の劣勢はこれで五分に戻せる。モビルスーツとの戦闘を考慮に入れた「海」の艦隊兵装のバックアップがあれば一層本来の目的に集中できる。

 ミネルバにアストレアを預け、ザンスパインはクルリと振り返った。ジェネレーションシステムまでもう少し。キールの事が気になるが、とりあえず頭の片隅へ。レン達はまだ戦闘中。今フリーで動けるのはレヴィだけだが、この距離なら光の翼でレギナ達を薙ぎ払いジェネレーションシステムまでの道を切り開ける。

 ミネルバからデュートリオンの光が伸びた。長期戦を考慮し取り付けられた受信機がそれを受け、ザンスパインのエネルギーがみるみる回復していく。

 

『作戦はあるのか?』

『作戦? そんなもんここまで来たらやる事は一つやろ?』

「ボクのザンスパインでジェネレーションシステムまでの道を一気に切り開く!」

『後はミネルバとアースラで突入して内部占拠!』

『至ってシンプル……という名の力押しか。分かりやす過ぎて何も言えないよ』

『まぁそう言わんと。その後の準備もユーノ君が地上でしてくれてる事やし、私らは私らのやれる事を精一杯するだけや。そんならレヴィ。準備はええか?』

「オッケー! ザンスパイン、フルパワー。いっちゃうよ――ッ!!」

 

 呆れるクロノに一度ウィンクをして、はやてはレヴィに指示を出す。レヴィもそれに応え、ザンスパインが一際大きな光の翼を広げた。ミネルバとアースラ。「海」の艦隊の援護射撃を受けて、ザンスパインが宇宙に羽ばたく。

 

 ジェネレーションシステムはもう目の前だ!

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