魔法戦史リリカルジェネレーション   作:nanase

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第63話 彼女達の理由

1

 

 

 

「ユーノ。そちらの調子はどうだ? 間に合いそうか?」

『無茶言わないでよ! まったく君もはやてもどうしてこう無茶苦茶な依頼をしてくるんだ?』

「レジアス中将から正式に話が行っただろう? つまりはそういう事さ」

『あー、はいはい。中将もグルなんでしょ? 分かってますよそんな事は! 僕が言いたいのはね、あっちのオペレートをしながらの作業をこの短時間で終わらせろっていう事に文句を言ってるんだ!』

「非常事態だからな。だから陸と海両方の情報部エキスパートをバックにつけている。その総指揮を君に任せているんだからむしろ誇りに思った方が良いぞ。何せ陸と海。そして無限書庫。そのネットワーク権限を一つに統括するなんて前代未聞な事をしてるんだ。これが成功すれば君の名前は間違いなく管理局の歴史に残るだろうよ」

「おだてたって何も出やしませんって。そのおかげでこっちはてんてこ舞いだ」

『これはこっちの切り札だ。それくらいで済むならまだ良いだろ。……それよりもあっちの様子はどうだ。こっちの準備が整う前にあっちが崩れたら全てが無駄になる』

「あまり良いとは言えないね」

 

 次元航行部隊XV級大型次元航行船クラウディア。アースラとミネルバの支援砲撃を行う次元航行艦隊の旗艦であり、その艦長であるクロノ提督が連絡を取っていたのは次元書庫司書長であるユーノ・スクライアだ。

 十年来の友人である二人の言葉には遠慮がない。クラウディアのクルー達は平気で文句をぶつけるユーノに若干の驚きを隠せないまま二人の会話に耳を立てていた。画面に映るユーノの後ろではアルフや陸と海と次元書庫職員が大勢右往左往行き交っている。

 そしてそのクロノから投げかけられた問いに顔を曇らせるユーノ。すぐさま情報が送られてきた旨をオペレーターがクロノに告げる。以前ならこの通信にももう少しタイムラグがあったというのに、陸と海と無限書庫が一つとなっている事で今はそれすらも無くなっている事にクロノは苦笑混じりに肩を竦めた。

 

「映像、出します」

「頼む」

 

 オペレーターにそう指示を出すや、すぐさま画面が二分割された。右にユーノ。左にここではない宙域で行われるもう一つの戦場。ジェネレーションシステム内のリアルタイム中継。そしてユーノはあちらで何が起こっているのかをクロノに語り始めた。

 

 

 ゼノン達が決戦の場に選んだのは月面である。ジェネレーションシステム本体のある空洞で戦う事を危険と踏み、入り口を閉鎖して事が始まるのを待ったのである。あの空洞に向かうにはゼノン達が通った道を辿る以外に道はない事もその理由だ。ゼノン達Geist。ジェネレーションシステム本来のファイアーウォール機能に従うレギナと丸い悪魔ハロ。そしてそのオペレーターバックアップにはユーノを筆頭とした管理局。全ての準備は万全に整っていたかに見えた。

 しかし宙域に姿を見せたそれに、ゼノン達は一時騒然となる。

 見覚えのある艦隊。見覚えのあるモビルスーツ達。それは地球連邦が所持している物そのもの。そしてその筆頭にいるのはかつてSpiritsが運用していた戦艦ディーヴァだったのだから。そのディーヴァからゼノン達のリーンホースJr.へ送られる直接通信。映し出されたのは白衣姿に金色の瞳をらんらんと輝かすあの男だった。

 

『初めましてGeistの諸君。私がジェイル・スカリエッティだ』

 

 リーンホースJr.のブリッジ。大型スクリーンに映し出された彼は丁寧に頭を下げる。

 そう。ジェイル・スカリエッティと彼は名乗った。が、ゼノンは鼻を鳴らすとすぐさま言い放つ。

 

「正確にはそのアバターだろう? レンやチンク殿。アプロディアから君の話は聞いている。無論、君の目的もね」

『それなら話が早い。そう。私はジェイル・スカリエッティのアバターだ。だが同時に本人でもある事をお忘れでなくあってほしい』

「当然だ。だが疑問もある。アバタープログラムはアプロディアによって拡散も侵入も止められた筈。しかし君はここにいて、その軍勢は地球連邦の物だ。これは一体どういう事か、答えを是非聞いておきたい所だね」

『これはこれはおかしな事を。簡単な事さ。私は最初からこの世界にいたというだけの事だよ。そしてこの軍勢は水面下で私の娘であるクアットロが進めていた連邦強硬派の物。なんなら調べてみると良い。地球で今、何が起こっているのか。バックに管理局がいるのだろう? レン・アマミヤ達が再度扉を開いた事でミッドとこの世界の繋がりはより強くなり、通信くらいは簡単にできるようになった事はとっくにお見通しだからね。それを調べるくらいの時間は待ってあげよう』

 

 その上からの言葉に顔をしかめたゼノンだが、すぐにユーノに確認を取った。そしてそれを調べたユーノから受けた報告に彼の顔は更に険しい物へと変わる。

 同時多発テロ、とでも言えば良いか。地上のあらゆる場所で強硬派が決起し、連邦穏健派はその対処に追われていたのである。連邦同士のぶつかり合いに情報は混乱し、統制が取れていない。宇宙もまた同様。今やあらゆる場所が戦場と化していた。そしてその隙にまんまとスカリエッティ達はここまでやってきたという訳だ。

 

『ついでに一つ補足ですわ。チンクお姉さま達には申し訳ないんですがぁ、お姉さま達は陽動なんですぅ。連邦上層部に潜り込んでアバタープログラムを拡散させたのはワ・タ・シ❤ 上層部トップにドクターを据えて、私はその右腕としてあのおっ死んだ大佐に指示を出していたんです。彼はよく働いてくれましたわ~。ニューロ・レンもまぁ、陽動としては役に立ったんじゃありません?』

 

 そうか。お前が黒幕か。画面に映り込むクアットロにゼノンの腸は煮えくり返る気分だった。チンク達の報告でも大佐とニューロ・レンの後ろにいる強硬派のトップは特定できなかった。だがその本人がこうして画面に映っているのだ。当然である。そしてチンク達が何故自由意思をここで与えられたのかがようやく分かった。全ては自分達が動きやすくする為。彼女達はただニューロ・レンと共に場をそちらに集中させられればそれで良い。全く以って反吐が出るやり方だとゼノンは思う。

 

『大変でしたわ~。アバタープログラムは感染系ですから、あの手この手でやりまくり。ま、一度拡散してしまえばあとは見ているだけでしたけどね』

『アプロディアができたのは拡散と侵入を止める事。広まったアバタープログラムを消す事はその人間を消すのと同義だからそれはできない。だからプログラム自体はまだ生きている。後は眠っているプログラムに命令を与えればこの通り、という訳さ』

「参ったな。まるでパンデミックじゃないか」

『そう取ってもらっても良いね。そうそう。更に加えておけばここに来ているのは彼らの意思だよ。連邦上層部強硬派トップである私の命令に従ってね』

 

 意思だと? バカバカしい。貴様の後ろに控える者の何処に意思があるというのか。しかも既に連邦の殆どがスカリエッティに牛耳られているも同じ。予想以上に規模が大きくなってきた。これは最早ニューロ戦役以上の戦争にまで発展してしまっている。

 そんなゼノンの考えは筒抜けだと、愉快そうに笑うスカリエッティは立ち上がり両手を広げて宣誓する。

 

『さぁ戦争を始めよう。君達がジェネレーションシステムを守れるか、私が奪うか。世界の行く末を決める世界大戦、ここに開幕だ!!』

 

 

『……とまぁこんな事があってね。悔しいけど、スカリエッティは僕らの予想以上に準備を進めていたみたいなんだ。戦況は六対四でこちらが押し込まれ気味』

「愚痴を吐いても仕方ない。ユーノは引き続きゼノン殿達のサポートと例の作業を進めてくれ。さっきも言ったが、それは切り札だ。ジェネレーションシステムの世界を守る為の、文字通り最後のな」

『分かってる。何か動きがあったらまた連絡するよ。クロノも気を付けて』

「ああ。……そうだな。全部終わったら飲みにでも行こうか」

『君、下戸でしょ? まぁ期待しないで待ってるよ』

 

 切れる映像。再び画面には現在の宙域の映像が映る。一度クラウディアもクロノもモビルスーツには辛酸を舐めさせられた。だが今度は違う。情報は以前よりもあるし、その為の装備も整えてきた。簡単に落ちてたまるか。

 

「俺だってな、たまには勝利の美酒って奴に酔ってみたいんだよ」

 

 それが下戸であってもな。

 そんな呟きを他所に目の前の戦場は尚も爆花を咲かせていた。

 

 

 

 

 

 

 聖王のゆりかご突入部隊、チームスターズとチームライトニング。

 チームスターズは動力炉へ、チームライトニングは管制室へ。その両方を潰さない限りゆりかごが止まる事はない。突入時の小型艇爆発を切り抜けた一向は当初の予定通り、二手に分かれるそれぞれの目的地に向かっている。

 その片方、高速で接近し続けるスターズの面々をモニターでディエチはずっと見ていた。

 イナーメスカノンをバージョンアップさせたG-バードの準備は完了している。ちゃんと準備を整えれば相手がいくら歴戦のエースでも負けるはずがないとの自信があった。不意打ちのようであまり気が進まないが、これもみんなを守るため。このゆりかごを守るためには必要な手段の一つだ。

 

(守るため……か)

 

 自分で思ったその言葉が重くのしかかり、ちくりと胸が痛む。

 あの日、襲撃したヘリにカチュアとヴィヴィオが乗っている事をディエチは知らなかった。目標は撃ち落とせば良いと、それが彼の為になるとばかり思っていた。だからヘリを守ったキールに少なからず怒りを覚えたのは事実だ。けれども真実を聞き、キールが何に対し怒っていたのかを知り、それが彼も同じだという事を知った時彼女は恐怖した。彼はディエチを責める事はしない。ただ「お前は命令に従っただけだ。悪いのは全部あいつだよ」と笑って頭を撫でてくれたけれど、もしもキールが間に合わなかったらラナロウは本当にそう言ってくれただろうか。

 

「ディエチ姉様。無理しなくても良いんだよ」

「オットーの言う通りです。それに顔色も良くない」

「それを言うなら君達だってそうでしょ。正直やりにくいんじゃない?」

 

 後ろからかけられた声はオットーとディード。自分を心配してくれるのは嬉しいが、彼女達も負けず劣らず顔色が悪い。今から来るのは共同戦線とはいえ、共に苦楽を共にした者。二人の妹を案じるディエチだが、二人は揃って首を横に振った。

 

「今なら分かるんだ。ドクターが何故ボクらをジェネレーションシステムに送ったのか。……陽動だったんだよ。自分達が確実に準備を進める為の、ね。でも、それでもボクはドクターに感謝する。そのおかげで彼女達と話す事ができたから。今はぶつかる事になっても、その事に後悔は無いよ」

「そうですね。それに私達にはそれぞれ果たすべき約束もあります。望んでここにいるんですよ」

「君達は強いね。少し嫉妬しちゃうよ」

 

 ディエチも少しばかり笑った。システムから帰って来たディードとオットーは自分達なりの答えを見つけたようだ。この戦い、何が正しいのかもうディエチにも分からない。けれどもここにいるのは確かに自分の意思だと言わんばかりの妹二人に彼女は少しばかり気持ちが晴れるようだった。

 

「随分と小難しい事言ってんなぁ。あたしはあいつをぶちのめすチャンスがあるんならそれで良い」

「ノーヴェはシンプルで良いねぇ。私もそれくらい割り切れたら良いんだけど」

「ディエチ姉ぇ……バカにしてるだろ?」

「そんな事ないよ。ノーヴェは真っ直ぐで良い子。お姉ちゃん、ちゃんと知ってるよ」

 

 絶対バカにしてる。口を尖らせ、両腕の新装備をカチャカチャ鳴らすノーヴェにディエチはくすりと笑って再びモニターに目を向けた。おしゃべりはここまで。相手はもうすぐそこまで来ている。そこの角を曲がった時が勝負だ。

 オットーがカウントダウンを始める。

 五。ディエチの足元にテンプレートが広がり、G-バードにエネルギーが集まり始める。

 四。ノーヴェの右手、改良型ガンナックル。アームド・アーマーBSのフィンが開く。

 三。ディードがオットーの肩に手を置き、自分の力を彼女に同調させる。

 二。オットーのテンプレートが広がり、掌に光が渦を巻く。

 一。四人の射撃体勢が整った。

 

「ゼロ!! 一斉正射始め!!」

 

 オットーの指示が響き渡った瞬間、幾筋もの光が通路に満ち満ちた。

 四人全員全てのエネルギーが束になり、曲がり角から出てきたなのは達の顔が驚きに染まる。だが誰よりも先に前に出たなのはが放つエクセリオンバスターが正面からぶつかった。互いに譲らず、押しては押し返され、押しては押し返されを繰り返す。

 まさか。今度はディエチ達の顔が驚きに染まった。いくら相手がエースオブエースでも、抜き撃ちで十分に力を溜めたこちらの攻撃に拮抗するなんて思いも寄らない。しかも更に信じられないのは、なのはがが声を上げた瞬間。

 

「ブラスターシステム。リミット1、リリース!」

『Blaster Set!』

 

 魔力が跳ね上がったのだ。

 頭の中で記録が再生される。あれは確かゾディアックと戦った時に見せた自己ブーストだ。悪い予感が頭をよぎる。M-Systemを手に入れたエースオブエースが自己ブーストまでかけたその意味を分からないディエチではない。

 だが、とディエチはG-バードに力を込めた。見えたのだ。その爆大な力になのはが顔を歪めているのが。

 いくら強大な力を使おうが、人である事には変わりない。まして戦闘機人の様に身体能力を強化しているわけでもない。フィードバックは必ずある。“ただの人間”がそれ耐えるには限界があるはずだ。

 

「負けるかぁぁっ!!」

「ブラスター……シュ――トッ!!」

 

 エネルギーが通路に膨れ上がる。限界が訪れ行き場を失ったエネルギーが所構わず四散を始めたのだ。しかもここは狭い一本道。それが向かうのはディエチ達となのは達の方向しかない。

 荒れ狂うエネルギーの渦に息がつまる。体を小さくし、エネルギーの奔流を最小限に抑えていてなお四肢に力を込めなければそれだけで吹き飛んでしまいそうだ。ディードは? オットーとノーヴェは? 姉妹達の姿が見えない。みんなどこ? そう声をあげそうになったその時だった。

 轟音と共に感じる急な浮遊感。飛び散る瓦礫の中、左拳を床に叩きつけた姿勢でニヤリとするノーヴェが見えた。拳をすっかり覆うアームド・アーマーVNで床にダメージを与えたのだろう。ダムが決壊するようにエネルギーは簡単に床を砕き、一気に崩落したのだ。床の下は大きな空洞。八人はその空洞に放り出される。

 

「行くぜぇっ!」

 

 ノーヴェの声が響くと同時にIS エアライナーが走りまわった。それを察知したのかスバルもウィングロードを伸ばし、空洞に黄色と空色の道が出来上がる。その上を走るノーヴェとディード。ディエチとオットーもその上に立つと、支援砲撃を開始する。

飛び交う弾丸の中、ディードが真っ先に狙うのはティアナ。両手に装備したナックルガードを伝い、肘まで光刃が走っている。恐らくはインファイト強化の新装備だとティアナは睨む。

 今度会った時は全力で。

 ジェネレーションシステム内、ディードが姿を消す時の言葉が頭の中で反響していた。そうだ。彼女との激突は避けられない約束。それを果たす時がやってきたのだ。

牽制の魔力弾を次々と放つ。しかし高機動型であるディードはその弾丸を右へ左へ跳ねつつ全てを避け切り一気に懐に入り込む。とっさに身を引くティアナ。アッパー気味に放たれた斬撃が目の前を下から通り過ぎて行った。バック転をしながらゾクリと寒気がティアナの背筋に走る。

 しかし彼女は踏み出した。敢えてディードの距離へ踏み出し、クロスミラージュを薙ぎ払ったのだ。銃身から伸びた光刃とナックルガードを走る光刃が擦り合い、火花が激しく散る。いなすディード、振り抜くティアナ。すぐ次に繋げたのはディードだった。

 いくら踏み込まなくてはならないと思っても、分はやはり彼女にある。接近戦を得意とするディードの方が次の行動への切り替えが段違いで早い。分かっていた事だ。回転の力を殺さずに迫る刃にティアナはガードを選択する。重要なのは二の太刀を出させ、それをきっちりガードする事だ。受け止めた力を使い、大きく彼女は後ろに跳ねる。両手が痺れる。ガードの上からでも衝撃が体を突き抜けて行く。しかし距離を離す事はできた。作戦通り。反撃はここからだと銃口がディードを向いたその時である。

 

「ティア! 上!!」

「任せろ!!」

 

 スバルの声とヴィータの声が同時に響いた。すると頭上でいきなり光が弾け、彼女は思わず目を細めた。オットーに向かうヴィータの姿が見える。きっとオットーの攻撃をヴィータが相殺してくれたのだろう。そしてスバルもノーヴェと拳を交わしながら、ティアナにニッと笑って見せた。

 ティアナもそれに頷き、再びディードに向き直る。彼女もティアナを見据えていた。

 

「追撃してこないなんて余裕? 今ならチャンスだったでしょうに」

「まさか。しっかりと銃口はこちらを向いていたではないですか。撃たれると分かって飛び込むほど愚かではありませんよ」

 

 読まれていたか。ティアナは苦笑する。M-Systemのおかげでティアナの視界はクロスミラージュとリンクしている為、多少視界が塞がれようとも問題はない。それ故にさらした隙は罠だったのだが、看破されていては仕方ない。

 改めてディードがナックルガードを構えた。走る刃の光が強さを増す。

 

「既にお気付きだと思いますがこれは私の新装備。名をストライカーと言います。このストライカーを介してのツインブレイズはリーチこそ短くなりましたが、集束率は以前の比ではありません」

「だろうと思ったわよ。高機動型のあんたなら相手の懐に入るのはお手の物だもんね。結構ピッタリの装備だと思うわよ」

「ええ。私も気に入っています。これは余談ですが管理局ではエースの他に優れた魔導士をストライカーと呼ぶと聞きました。それこそティアナ。貴方達の様な人をそう呼ぶのでしょう。そんな貴方達と同じ名を持つこの力を私は誇りに思いますよ」

「素直にありがとうと言っておくわ。その名に恥じないよう、全力で貴方と戦う事を誓うわ」

「感謝します。……では再開と行きましょう。戦闘機人ナンバーズが十二番目。ディード、参ります!」

「機動六課フォワード、ティアナ・ランスター。受けて立つわ!」

 

 クロスミラージュ・ノワールから放たれる魔力弾。その雨を掻い潜り、急接近するディード。

 激突する両者の顔にはお互い笑みが浮かんでいた。

 

 

 

2

 

 

 

 あいつ、また迷ってやがる。

 なのはのマニューバを見ながらヴィータは思う。

 M-Systemとブラスターシステムを起動させたなのはの力はこんなものではないはず。しかし目に見えて精細さが欠けている。理由は単純。状況を変える為の選択肢、最善解に納得できないから。この状況を打破する最適な選択はヴィータにだって分かる。けれどそれはきっとなのはの理想とはかけ離れたものに違いない。だから何度も何度も考えている。考えているから全力を出し切れていない。

 

(あんの馬鹿! 目の前の事に気を取られてて、目的がごちゃごちゃになってやがる!)

 

 あの撃墜事件以降、なのはは極端に無茶を嫌うようになった。自覚はなくても、自然と体が、思考がそれを嫌っているのが分かる。だがヴィータ達はそれがなのはの負担を和らげる事になるならと見て見ぬフリをしてきた。

 しかし機動六課が発足して、ティアナが命令違反をして、皆がバラバラになりかけて、レンから指摘されてやっと気付いた。なのはの負担を和らげる為だと思っていた行動が、自分を安心させる為の行動だった事に。もうあんな姿を見たくない。だから大切にしてきた。しかしそれは果たして誰の為だったのだろうか。自分が傷つきたくないだけの代償行為だったのではないか。

 もっと向き合わなければならない。例えそれが彼女の真意とは違う結果であっても言うべき事は言わなければならない。自分達の関係は決して慣れ合いなんかじゃないと証明する為にも。

 

<命令をくれ。なのは>

<ヴィータちゃん……>

<もうとっくに答えは出てんだろ!! あたしにだって分かる事をぐだぐだ考えてんじゃねぇ!!>

<でも!>

「なのは!!」

 

 煌めく光渦をなのはの前に立ったヴィータの障壁が一身に受けた。その小さな体を宙でしっかりと固定させ、ヴィータは念話を止めて直接の声を荒げる。自分の本心を、今本当にしなければならない事を。

 

「お前があたし達のリーダーだ。お前の命令があればあたしはそれに従う。でもな、戦ってるのはあたし達だけじゃねぇんだよ。思い出せ! あたし達の役目はこいつらと戦う事か? 違ぇだろ。このデカブツの動力炉をぶっ壊す事だろうが!!」

「そんな事させるもんか!!」

 

 ディエチの砲撃が光に混ざる。幾らヴィータでも直撃を受ければ大破は免れない。チッという騎士の舌打ち。だがその砲撃は騎士の前に出た天使の砲撃に食い止められた。衝突したエネルギーがたちまち四散し、深い底へと消えて行く。

 

「スターズ01より全員に通達!!」

 

 そしてなのはは顔を上げた。ヴィータが、スバルが、ティアナが視線をなのはに送る。

 そうだよ。それで良いんだよ。ニッとヴィータが笑う。

 

「これよりスターズ01が単機で動力炉を目指します! ここの指揮はスターズ02に委任。スターズ03、04と共に敵戦闘機人、ナンバーズの撃破捕獲を。その後に動力炉に向かって下さい!」

「「「了解!!」」」

 

 なのはの背にあるアクセルフィンが大きく羽ばたき、彼女を上空へと舞い上げる。行かせまいとするオットーとディエチの攻撃も全開マニューバの前に当てる事すらできない。しかも彼女達の敵はすでになのはではなくなっていた。突如上空から襲いかかる鉄槌に慌てて飛び退く。立ちこめる煙の中からグラーフアイゼンを肩に担いだヴィータが不敵に笑みを浮かべ、ディエチとオットーの間に立ちはだかっていた。

 

「03、04聞こえっか!? 早速だが命令だ。おめーらはおめーらの相手をきっちり片付けろ! こいつら二人はあたしがまとめて面倒みっから、存分にやりあえ! んで、三人揃って01の援護に向かう。良いな!!」

「スターズ03、了解でっす!」

「スターズ04、了解しました!」

「良い返事だ」

 

 笑みを崩さないままヴィータの視線はディエチとオットーへ。雰囲気が一変していた。解き放たれた猛獣の如き威圧感に二人は一歩後ずさる。

 

「なんなのこいつ。さっきと全然雰囲気が違う……」

「飲まれちゃ駄目だよディエチ姉様。こいつ、逆境になるほど力を増すタイプだ」

「逆境? バカ言ってんじゃねぇよ。てめぇらなんぞ逆境の内にも入らねぇ。そもそもなのはは優し過ぎるんだ。この状況で四人揃って動力炉に行く事ばっか考えてたんだぜ? しかもお前らもできるだけ無傷で無力化してな。んなのちっと考えりゃ無理だっつーの。そうだろ? お前らだって全力であたしらに向かってきてるんだからな」

 

 もう一歩、二人は後退していた。あの小さな体が何倍にも膨れ上がって見える。完全に雰囲気に飲まれた体に鞭を打ち、二人は照準をヴィータに合わせた。いくらなんでも二対一。数で優勢なのはこちらだと、何度も体に言い聞かせる。しかしヴィータは平然と、余裕の表情を崩さない。

 それが二人の神経を逆撫で、砲撃と流星を放たせた。しかしヴィータは素早くそこから離脱する。

 二対一。上等だ。例えどんな障害であろうともそれを叩いてブッ壊して突き進むのがベルカの騎士。二種の閃光をやり過ごし、ヴィータは狙いをオットーに定めた。急旋回のマニューバで空中ドリフトをかまして一気に懐に潜り込む。こういう時はまず一人を確実に潰す。ガードもチャージの時間も与えてなるものか。

 ギッと急ブレーキをかけ、その反動を全て引いた右拳に乗せる。

 ヴィータの武器は何もグラーフアイゼンだけではないのだ。

 ドンっと鈍い音が響き、ヴィータの拳がオットーの鳩尾に深く突き刺さる。予想外の攻撃とあまりの威力にオットーのフレーム強化された骨格が歪み、素の内臓が悲鳴を上げる。肺の空気が全て押し出された上に一発で筋肉が痙攣し、呼吸ができない。いくら戦闘機人でも痛みと呼吸困難は地獄の苦しみ。膝をついたオットーの口が酸素を求めてヒューヒューと音を立てていた。

 ヴィータは古代ベルカの正当なる騎士。その体全てが一つの武器なのである。鉄槌の拳を受けてそれだけで済んだのはまだ幸運だろうが、とにかくこれでまずは一人目。突き出した拳を引き、ヴィータの視線はすぐに光剣を抜いたディエチに向いていた。良い判断だ。ここで撃てばどうしてもオットーを巻き込んでしまう。故に接近戦に持ち込もうという判断は間違いではない。

 

「だが遅ぇ!!」

 

 既にヴィータはグラーフアイゼンのロケット噴射を使って飛び上がっていた。その軌道を操り、彼女はくるくると独楽のように回転する。ディエチが光剣を構える。

はっ! そんなか細い剣でヴィータ様を止めるには十年早い! っていうか、あたしとアイゼンを止められるもんなら止めてみろ!

 

「テートリヒ・シュラ――ク!!」

 

 鉄槌が光剣を砕く。飛び散る破片の中、文句無しのタイミングで鉄槌がディエチの左肩に食い込んだ。

 ミシリという音と何かを砕いた感触。衝撃がスーツを弾き飛ばし露わになる素肌の左腕と乳房。会心の一撃と言っても差し支えない。しかし次の瞬間、ヴィータの体に衝撃が襲いかかった。体を突き抜けた衝撃に一瞬意識が吹っ飛びかけるのを堪えた目に入って来たのは、振り抜かれたG-バード。その大きさを利用し、鈍器としてヴィータにカウンターを浴びせたのだ。しかもそれで終わりではない。視界を光の渦が埋め尽くし、気付いた時にはヴィータの体はあっという間に光渦に飲み込まれていた。

 

「……へっ、やるじゃねぇか」

 

 左肩を壊されても、それに耐えてのカウンター。呼吸困難になりながらも仕掛けてきた追撃。どちらも気持ちの入った良い攻撃だと素直に称賛する。しかし、だからと言って倒れてやるわけにはいかない。

 全身から魔力を放ち、煙を吹き飛ばす。騎士甲冑はボロボロ。頭から流れてくるぬるりとした感触と、口いっぱいに広がる鉄の味。ペッと吐きだすと、床に小さな血溜まりができた。

 古い記憶が蘇る。戦場の最前線。何度も血を流し、それでも主の為にと戦い続けた古代ベルカ戦乱の日々。

 何度力の差を見せつけても向かってくる兵士達と同じ目を二人はしていた。

 戦場で本当に怖いのはこういう目をした者だという事をヴィータは知っている。故に手を抜く事はしない。手を抜いてはいけない。

 だから全力で叩き潰す。持てる力の全てを使って。

 

 

 とんでもねぇ悪魔がいたもんだ。

 エアライナーの上でノーヴェは小さな紅騎士にゾッとした。

 しかし視線をすぐに正面のスバルへ戻す。システム内でぶつかった時の様な不抜けた顔などではない真剣な、自分と良く似た顔。その顔を見ているだけで胸がムカムカする。何故? 理由はノーヴェにも分からない。ただそれでも理由を求められたのならば、その目が気に入らないと言うだろう。

 希望に満ちた目が気に入らない。勝利を諦めない目が気に入らない。

 一点の曇りもない澄んだ目が気に入らない。

 先をずっと見続けられる目が気に入らない。

 

「畜生。本当に気に入らねぇ」

「ノーヴェ?」

「くそっ、くそっ! なんだかよく分かんねぇけどイライラして仕方ねぇ!」

「い、意味が分かんないよ……」

「こっちだって分かんねぇよ! あ~、くそっ! なんでこんなにイラつくんだよ!!」

 

 ノーヴェの叫びに応えるように足元に広がるテンプレート。その光の中でジェットエッジが装甲を展開する。スバルのM-Systemユニコーンと同じ現象だが色が違う。スバルが蒼穹の青であるならノーヴェのそれは煉獄の赤。まったくもって対照的な二人を象徴するその色の中、ノーヴェは走りだす。このイライラをスバルにぶつける事で解消できるのかは分からない。だがぶつけなければ気が収まらない。だからありったけの力を足に込めて彼女は飛び上がった。

 

「おぉラッ!!」

 

 ガードされているならそれすらも蹴り破ればいい。力の限り打ち込んだ蹴りが一発でスバルのガードを崩す。

 まだだ。そんなもんじゃあたしのイライラは全然晴れねぇ!

 着地と同時にノーヴェは体を捻った。大きく振り上げた足が弧を描き、スバルを上から襲う。そして今度はまた体を捻っての胴回し。上に意識のあったスバルの胴にノーヴェの踵が食い込んだ。堪らず吹き飛んだスバルが光道の上を転がっていく。更にノーヴェは走った。左手を覆うアームド・アーマーVNで一気に殴りかかる。しかしスバルもただではやられない。その拳にアッパーを合わせて弾き上げたのだ。

 体勢が崩れる。すかさず滑りこんだスバルの左拳によるボディーブロー。衝撃がノーヴェの体を貫いた。だが踏み止まる。痛みがなんだ。そんなものは気力で押し込め、ノーヴェが取った行動は頭突き。勿論彼女自身も脳天がくらくらと眩暈を起こしても、視線はスバルから離さずにアームド・アーマーBSからうねる光でスバルの足元を薙ぎ払った。その威力に光道が砕ける。落下を始める二人だが若干早く動いたのはノーヴェ。左の拳を力任せに叩きつける。間一髪盾で防いだスバルの体が二度三度、光道を跳ねていく。そしてノーヴェも着地と同時に走りだした。大きく開かれる左手。その五指は超振動に震える獅子の爪だ。

 これでズタズタにしてやる。自分のイライラも、何もかも!

 だがノーヴェの視界、スバルと自分の間に舞いこんで来た黒い風。凍てついた視線で彼女を睨みつけ、二つの銃口が既に自分を狙いすましていた。マズイ。直感的にそう思った頭と体がこれ以上先に進む事を拒む。ついた勢いは止まらない

 

「がぁっ!?」

 

 胸部に感じる衝撃に声が上がる。カウンターをモロに食らっちまったと、ノーヴェが思う間もなく、頭に衝撃が走った。やっと見えたのは足を振り上げたティアナ。蹴りか。まさかただのガンナーだと思っていた奴に接近戦で不覚を取るなんてと思う頃、既に体が横たわっている。体と一緒に意識まで吹っ飛ばされたらしい。頭を振っているとディードが血相を変えて横に降りてきた。

 

「ノーヴェ姉様!」

「つつつ、なかなか良い蹴りしてくれるぜ。ったく、ディード。お前しっかりあいつを押さえとけよ……。」

「すみません。えっと、立てますか?」

「ああ、問題ない。お前こそ大丈夫なのか?」

「はい。まだ戦えます」

 

 そうか。それなら良い。ノーヴェはディードの手を借りて立ち上がる。軽く頭は痛むが、戦えない程じゃないし、イライラも収まっていない。そう。まだ戦える。

 そんな彼女にスバルが何か言おうと手を伸ばそうとするも、ティアナに止められている。何だ? まぁどの道聞くつもりはない。

 

「いい加減決めるぞ。ディエチ姉とオットーの奴も心配だからな」

「……もう遅いかと」

「あぁん?」

 

 ディードが指さす先、そこにはあの小さな騎士がいた。脇にはバインドで縛られたディエチとオットー。

 気絶しているのか、ピクリとも動かない。そしてボロボロになりながらも、こちらを睨みつけているヴィータはフンと鼻を鳴らすとどっかり座りこんだ。ヒクリ。ノーヴェが唇の端をわなつかせる。

 そうかい。あくまでテメェは手をださねぇって訳かい。上等だ。こいつらを倒したら次はテメェだから首洗って待ってろ!

 ディードを横目で見ると彼女は頷くだけの返事をする。いい加減決める。それに異論は無いと見た。

 

「行くぞ!」

「はいっ!」

 

 飛び出す二人。スバルとティアナも動きだす。

 拳と拳がぶつかった。刃と刃が交わった。拳と剣が弾き合う。弾かれた力を回転に変えた赤き閃光が踵を蹴り上げ、剣士は踏み止まった反動を使って拳刃を振り降ろす。

赤き閃光が切り裂いたのは一角獣の盾。何度も少女を守って来た鉄壁の盾が遂に破られる。

 剣士が切り裂いたのは黒き銃使いの体。黒き衣の少女の体が両断される。

 だが一角獣の少女は前に出た。半分になった盾を構えたまま、体ごと当たりにいったのだ。

 だが黒き銃使いの少女の体が蜃気楼の様に消え去った。その背後で銃使いが魔法陣を敷いている。

 少女は踏み止まった。しっかりと道を踏み締め、逆にジェットエッジが炎を噴き出す。

 少女は二の太刀を繰り出した。縦の一撃からの横の一撃に繋げる電光石火の連撃。

 赤き閃光と閃刃が揃って半円を描いた。白いハチマキがはらりと舞い、黒いアンダーウェアに線が走る。

 裂いたのは薄皮一枚。得られたのは少しだけ飛び散る赤い血。決定打には後少し、しかし遠い半歩。

 一角獣の装甲が開き、青い光が漏れた。その足には一対の翼。開く金色の瞳。

 銃使いの足に集まる魔力。連結される銃の左右に広がる翼。短く吐かれる息。

 突き刺さるスバルの左ボディーブロー。その拳から魔力スフィアが膨れ上がる。

 振り抜かれるティアナの右足。その軌跡に合わせて魔力の衝撃が噴き上がる。

 ノーヴェの体が折れ曲がり、ディードの体が上空高く飛び上がった。唸りを上げるリボルバーナックルの車輪と、上空に狙いを定めるクロスミラージュの銃口。

 

「ディバインバスタ――ッ!!」

「ファントムブレイザ――ッ!!」

 

 突き出されたリボルバーナックルから噴き出す空色の魔力砲撃がノーヴェを飲み込む。

 狙いすまされたクロスミラージュから放たれる橙色の魔力砲撃がディードを飲み込む。

 突き抜ける衝撃。それぞれの視界いっぱいに広がる光の奔流。……頬を伝う涙。

 その涙が持つ意味は、きっと彼女達にしか分からない。

 言えるのはただ一つ。この瞬間、彼女達が負けたという事実だけだった。

 

 

 

 

 

 

「うっ……」

「目が覚めましたか? ノーヴェお姉様」

「ディー……ドか。そうか、負けたんだよな。あたし達」

「ええ」

 

 全身の痛みが意識をはっきりさせていく。記憶はスバルの砲撃を受けた時点でぷっつりと途絶えているが、負けた実感だけはしっかり残っている。ディードの膝枕で寝かせられている事がより実感として湧き立てる。

 

「……あいつらは?」

「先に行きましたよ。私達はここでノーヴェ姉様が目を覚ますのを待っていたんです」

「そうか。……ちくしょう。悔しいな。全力を出しても負けるってのはやっぱ悔しいな」

「そうですね。本当にそう思います。けれど、後悔はありません」

「あたしは、後悔ばっかりだ」

 

 結局何も出来なかった。イライラを晴らす事も、あいつらをここで食い止める事も。何も出来なかったという事実しかノーヴェの心に残らない。一体何が足りなかったのか。それすらも分からないまま、敗北だけが重なっていく。

 

「……後悔ができるって事はまだやり直せるって事だよノーヴェ」

「ディエチ姉……」

「イライラしちゃうのは、自分が何をやりたいのかまだ分からなくて不安だからだと思う。でもそれはノーヴェも先を見ているから。先を望んでいるから。いつかきっとノーヴェがやりたい事が見つかるよ」

「何それ? ポエム?」

「タイプゼロ・セカンド。スバルって言ったっけ。あの子が伝えてくれって。なんか拳を合わせてたらノーヴェの事分かっちゃったって言ってた」

「……」

 

 いちいち癪に障るお節介め。微笑むディエチの向こうにあの能天気な顔が見えた気がした。でも何故だろうか。今はすんなりとその言葉が耳に入って来る。イライラも起こらない。多分その通りなのだろう。寄りにも寄ってあいつに指摘されたのは癪だが。

 

「私も何が悪かったのか全然整理できてないんだけど、それでも後悔ができる事はまだ良いと思うんだ。だからこれから皆で考えよう。最初から。そして許されるならやり直そう。皆で」

「うん」

「はい」

 

 ディエチの言葉にオットーとディードが頷く。けれどもノーヴェは一人口を尖らせたままだ。

 

「あたしは頭ワリーからよく分かんないや。だからそういうのはパス。……ディエチ姉達の意見に従うよ」

「だーめ。しっかりノーヴェも考えるの。でないとノーヴェが本当にやりたい事、見つからないよ? 大丈夫。お姉ちゃんもオットーもディードもちゃんと待ってるから」

「……ウゼー」

 

 ごろりと体勢を変え、ポツリと呟く。それはまるで拗ねた子供の様で、三人は揃って忍び笑いを漏らした。それにますます口を尖らせるノーヴェ。ディードに髪を撫でられて、これではどっちが姉だか分からない。

 

「んで? これからどうすんだ? あたしが目を覚ますのを待ってたって言ってたけどよ、これからのアテはあんのか?」

「勿論です」

 

 そう言えばバインドをかけられた様子もない。手足の拘束もしないままでいるのは、さすがのノーヴェもおかしいと思う。故に尋ねてみたが、返って来たのはディードの断言だった。

 

「友との約束を果たしに行こうかと思います」

「……は?」

 

 意味が分からない。ノーヴェは自信たっぷりに言い切ったディードに間の抜けた声を返す事しかできなかった。

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