ダンジョンにキリトが潜ってるのは間違っているだろうか 作:ボストーク
なんとか今晩は日付が変わる前にアップすることができ、ホッとしています。
今回のエピソードは、キリトとエリュシオンと渋いドワーフ神(?)がメインの話となっています。
「オレか? オレは”ヴィータ・アームストロング”。【ゴブニュ・ファミリア】の副団長を務めてるケチな女さ」
その幼女……いや”女性”は力強くニカッと笑った。
***
ここは魔界都市……じゃなかった迷宮都市オラリオ。その北西のメインルートに沿う路地裏にひっそりと佇むのは【ゴブニュ・ファミリア】の本拠地、
キリト・ノワールはある用事、【
(ど、どうしよう……)
あ、ありのまま起こったことを話すぜ? 『思わず思ったことを口にしたら、周囲のヤローどもが大騒ぎになり収拾がつかなくなっちまった。オマケに性別まで誤認された』……一体何を何を言ってるか判らないだろうが、俺もなにが起きたか想像したくない。
というのがキリトの心情だろうか?
だが、その場を収めたのが冒頭の
驚いたことに本人の言葉が正しいのなら、知る人ぞ知るマニアックな鍛治名工集団【ゴブニュ・ファミリア】の副団長様ときていた。
(なんというカオス……!)
ヤロー達は大はしゃぎで自分は性別を間違われ、おまけに事態を鶴の一声で収めたのはファミリア上層部の”
キリトにとって当面の問題は、この騒ぎ起こしてしまった原因を釈明して、奇しくもエンカウントできたファミリア副団長にどう用件を伝えるかだった。
ヴィータ本人は、「でもよ、バカどもに便乗するわけじゃねーけどさ……アンタのさっきの一言、流石のオレもグッときたぜ!」と言ってる通り、キリトの発言にマイナス感情をもっていなさそうなのが救いだった。
だが問題なのは、キリトには本来の要求にどうつなげていこうかという明確な答えが今のところノー・アイデアなことだった。
人間やモンスターとの”戦闘”なら、いくらでも先の先や後の先を取れるのだが、ことコミュニケーション能力としてはキリトは自分が『ごく普通の14歳程度』と自覚している。
もっとも彼をよく知る周囲の人物の評価では、特に対女性コミュニケーション能力は大分異なることになるだろうが。
しかし、予想の斜め上の展開の連続に困惑気味だったキリトを尻目に、再び場を動かしたのはハンマーロリだった。
ヴィータは何を思ったかツカツカとキリトに近づくと、おもむろに……
”ぽむ”
「……ほへ?」
思わず間抜けな声になったのは、キリト自身でもわかった。
いや、でも、まさか……
「ふむ……」
(何故に俺は幼女に胸を揉まれてるぅ~~~っ!!?)
まあ正確には揉むほどの脂肪の塊などキリトの胸部にはついてないのだが。
だからペタペタと片手で胸に触れられてるという感じだ。
言い忘れていたが、普段キリトがダンジョンを攻略するときに着る『
原作と比べるなら重装備ではあるが、”この世界”における一般的な甲冑や鎧を基準にすれば十分に軽装備で、キリトは自身の筋力やバネを考えて『最大の武器である速さと軽快さを損なわせさせない上限の重さ防具』として選んだようだ。
ただし、いくら軽甲冑に分類される装備だとしても、”
そういう意味においては、今の姿はまんまSAO時代のそれだ。
別の言い方をするならヴィータの行動を阻む物、キリトの胸を触るのに邪魔な代物はない。
幼女の乳揉み攻撃(?)という反則技に更なる混乱に陥ることになるキリトだったが、幼女は幼女で『揉み飽きた』といわんばかりにあっさりと手を離し、その感触を確かめるように手の平をじっと見つめてしばらく閉じたり開いたりしていたが……
「なんだ。可愛い姉ちゃんかと思ったら男でやんの」
「「「「「な、なんだってぇぇぇーーーっ!? WYRriiiiiiiiiiiーーーーー!!」」」」」
工房に集う鍛治ヤロー共の血の涙を流しそうな哀しみの絶叫が響いたのは言うまでもない。
ただボソッと「俺、男でもいいかも……」という呟きがあったようだが、キリトは何も聞こえなかったことにした。
そう。聞こえない発言は存在しないのだ。
そう思わないとキリトは引きつった頬を緩められそうもなかった。
そして、その喧騒が一通り終わった(ヴィータが武力介入で強制的に終わらせた)後、彼女はこう切り出す。
「キリトってのはお前だろ? 話はアイズ嬢ちゃんから聞いてるぜ」
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「まっ、いきなりオレを子供呼ばわりしなかったのは評価してやんよ」
キリト・ノワールは今、工房の内部を歩いていた。
あの騒ぎがプラスに働いたのか? 打ち解けて「まっ、とりあえずオレについてきな」と男前な台詞と共に建屋の案内を買って出てくれたのは、目の前の低い位置で笑う、見た目は幼女でもファミリアの副団長さんである”ヴィータ・アームストロング”だった。
「まあ見た目と雰囲気がちぐはぐだったというか……ぶっちゃけ、あの場で明らかに俺より強いのはヴィータ”さん”だけだって直感でわかったし」
キリトは苦笑しつつ、
「まだ子供の身、若輩者の俺が言うのもなんですが……”ただの子供”に遅れをとるようなやわな鍛え方はしてないつもりですよ?」
「まだ卵の殻が取れきってねぇような小僧の分際で言うじゃねぇか!」
だが、それと同時に……
(こりゃ確かに”
とキリトに見えぬよう、ヴィータは『母親の顔』で微笑んだ。
直接会ったことは無いが……”キリト”という名前とアイズ・ヴァレンシュタインが取り留めなく語った人物像に、彼女は少なからず心当たりがあるようだった。
***
「着いた。ここだぜ」
その扉は他の部屋に比べてもいっそう
「”親方”、入るぜ」
そう徐にドアを開ける。
キリトとヴィータを待っていたのは、
(ド、ドワーフの神様……?)
キリトが思わずそう思ってしまったのも無理はない。
頭身的な意味で寸詰まりながら筋骨隆々とした
確かにその雰囲気は、幾星霜の歳とともに技を重ね、名工から名匠へと至り天の頂へと辿り着いた【マイスター・ドワーフ】と紹介されても違和感は無かった。
「おう」
そのドワーフを思わせる人物は短くそう返した。
「小僧、挨拶しな。この方がお前が許しを貰うべき存在……我らが【ゴブニュ・ファミリア】の主神、鍛治神”ゴブニュ”様だ」
(ど、どうしたらいいんだ……?)
ゴブニュ・ファミリアの本丸で許可をテスター権の譲渡許可を得るのは最初から目的だったが、まさかのっけから副団長に案内されていきなり
とにかくなんとか失礼にならない程度の挨拶でもと思ったが、
「坊主、慣れない事ならしなくていいぜ」
先にそう切り出したのはドワーフ神……もといゴブニュだった。
「それより剣を見せろ」
「あっ、はい」
容姿に見合ってゴブニュの声は重くて渋い。
その有無を言わさない迫力に、キリトは多少面を喰らいながらも背中に背負うエリュシオンを鞘ごと外してゴブニュに手渡した。
***
「ふむ……荒っぽい使い方はしてるが、雑には使ってないみてぇだな。及第点だ」
柄を握り、刃を指でなぞったゴブニュが最初に言ったのはそんな台詞だった。
「斬ってみてどうだった? あやふやでも抽象的でもかまわん。言ってみろ」
その老人神の鋭い眼光に、キリトは振るってる情景を思い出しながら告げる。
「初めて柄を握ったときから、恐ろしく手に馴染みました。それにとても軽く感じました。大げさではなく羽根のように軽く」
ゴブニュは表情こそ変えなかったが、
(どうやら”
と結論付ける。
「坊主、他には?」
「強いて言うなら……俺の斬り方や太刀筋に応じて”押し刃”と”引き刃”がその都度に切り替わったことに驚きました。あと刃が触れたときに逆算したみたいに対象に応じて硬度や靭性が切り替わったような気がします」
少しキリトの台詞を捕捉すると、『押し刃』とは”押すときに切れる刃”のことで西洋のナイフや刀剣刃物類は大抵これに当たる。和式剣術として考えるなら、”突く”ときに威力を発揮する刃の付け方と言える。蛇足ながら日本では押し刃は槍の穂先などがそうだ。
『引き刃』はその逆で”引くときに切れる刃”で、日本刀をはじめ身近なところでは大体の包丁がこれにあたる。
和式剣術や剣道の動きを見てる、”薙ぐ”動きが多いことに気付くと思う。薙ぐという刃の動かし方は、対象に刃を当て引いて斬るという動作なのだ。
硬度は言うまでも無くまんま”硬さ”のことで、刃物での靱性は粘り強さを差す。
「ほほう。なるほど……面白い」
ゴブニュはキリトの台詞を聞くなり微かに口の端を歪めて、実に漢臭い微笑を浮かべた。
「???」
だが、その微笑んでるのかそうでないのかわからない笑みにキリトはどう反応していいのか迷っていた。
もっとも困惑という意味ではヴィータのほうが強いのかもしれない。
(うわぁ~。親方があんな楽しそうに笑ってるのなんて、アイズ嬢ちゃんの為に【デスペレート】打って以来だぜ……)
***
現在のキリトの
何故、キリトが原作と違いそんな物騒な技術体系を習得していたのかは、いつか語られるかもしれないが……今は割愛させて貰う。
何が言いたいかと言えば、キリトにとって斬ることはその身に着けた技術から『引き刃を薙いで斬る』ことであった。
だが、オラリオでは基本的に”押し切る”もしくは”圧し斬る”西洋拵えの刀剣類が主流で、そのためにキリトの剣術を最大限に生かせる剣は中々見つからなかった。
本来ならキリトが最も得意とするのは『反りのある引き刃をもつ片刃剣(つまり日本刀)』であるのだが……この世界ではそれはレア、かなりの”変り種武器”の分類でわざわざ鍛冶屋に注文しない限り簡単には見つからない代物だった。
逆に鍛冶屋に発注すれば作れなくはないが……それはそれでキリトの要求を満たす片刃剣を造れる職人はめったにおらず、仮に居たとしても高額すぎて手が出なかった。
その代替としてキリトが好んでいたのは入手し易い両刃の直剣で、片方を普通の押し刃のまま、切っ先を挟んで反対側の刃を引き刃として研ぎ直して使っていた。
実はミノタウロス戦で折られたキリトの愛剣だった”ブラックバーン”は、そういった剣の一振りだった。
(なるほど、使い手としての最初の関門をクリアできたからこそ、第一の”
キリトがブラックバーンであれだけ苦労したミノタウロスをエリュシオンを握った直後に一太刀で屠れたのは、単純な性能だけではなくエリュシオンが太刀筋にあわせて引き刃となり、またミノタウロスの首を刎ねるに足る硬度と靭性に刃を変質させたことも一因だった。
「いいだろう。たしかに【エリュシオン】の適合者は……いや最適者は、アイズじゃなくて坊主のようだな。
「えっ?」
あまりにあっさりした結論に一番驚いたのは、キリトだった。
「どうやら坊主は【エリュシオン】に随分と気に入られたらしいな? なら
ゴブニュはクックックと喉の奥からしゃがれた笑い声を洩らし、
「精々存分に使ってくれ。【エリュシオン】ってのは、根本的に【
皆様、ご愛読ありがとうございました。
オラトリオにご登場したゴブニュ様の登場回は、楽しんでいただけたでしょうか?
前回に続いて何故かヤローやオッサンが活躍する回でしたね~(^^
何やら、キリトはベル君と違ってヘファイストス・ファミリアでなくゴブニュ・ファミリアとの繋がりをもちそうな予感が……
ところでヴィータって、とある登場人物のお母さんなんですが……一体誰のオカンなのかな~と(棒)
次回は再び女の子メインの話かな?
楽しみに待っていただければ嬉しいです。
ではまた次回にてお会いしましょう。