ダンジョンにキリトが潜ってるのは間違っているだろうか   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ。
今回のエピソードは、どういうわけかエリュシオンとサブタイ通りにゴブニュ様がクローズアップされているような?

また今回のエピソードから神々の在り方に関して独自解釈をとらせてもらってます。


第014話 ”鍛治神が失われた風景の追憶に浸るのは間違っているだろうか”

 

 

 

「精々存分に使ってくれ。【ΕΛΥΣΙΟΝ(エリュシオン)】ってのは、根本的に【最適化する剣(オプティマス・ソード)】だ。使えば使うほど……振るうほどに斬るほどに、坊主に”馴染む”」

 

それが漆黒の長剣エリュシオンと共に鍛治神”ゴブニュ”から賜った言葉だった。

 

 

 

***

 

 

 

「あの、いくつか質問があるんですが……いいですか?」

 

「ああ。答えられることなら答えてやる」

 

キリトは鷹揚に頷くドワーフの神と言いたくなる風貌のゴブニュに、慣れないながらも最大限の経緯と共に物怖じせずに訊ねる。

 

「【最適化する剣(オプティマス・ソード)】というのは、一体なんですか……?」

 

「そうだな。一言で言ってしまえば、名前の通り『持ち主に合わせて最適化してゆく剣』なんだが……まあいい。坊主を試し切り役(テスター)に選んだのはこのワシだ。少しぐらい話してやるとするか。大して面白くもない……退屈な話だぞ?」

 

「かまいません」

 

むしろ興味津々と言う感じのキリトにゴブニュは少し呆れるように作業机へ移動するよう促した。

 

「物好きな奴だ……少々長くなる。ヴィータ、茶の用意をしてくれ」

 

「あいよ」

 

見かけはロリでも実は一児の母であるヴィータは、何気に女子力がファミリアでも飛びぬけて高い。

今は半引退状態だが優れた冒険者で鍛治技能もファミリア屈指だが、家事全般をそつなくこなすことも彼女が副団長という地位に押し上げられた理由の一つだった。

本人曰く『副団長なんてオレの柄じゃねーよ』とのことだが、ファミリアの面々から『姐さん』と慕われているのも、口は悪いし鉄火肌だが気風も面倒見もいいこんなところが原因なのかもしれない。

 

(それにしてもあの小僧、気付いちゃねーんだろうな~)

 

茶器を用意しながらヴィータは、ベッドにもなりそうな大きさの見るからに剛健な作業机に置かれたエリュシオンを挟み、差し向かいに座る彼女らの主神と若い客人を肩越しに見ながら苦笑する。

 

(偏屈で知られる”親方”が、初対面者(いちげん)相手に茶を出すように言うなんざ、それこそ驚愕モンなんだけどよ)

 

レアな光景ではあるが、二人ともどことなく楽しげに見えたのはきっと気のせいじゃないだろう。

 

 

 

***

 

 

 

「さて……どこから話したもんかな」

 

ゴブニュは、懐から彼によく似合う古ぼけてるが故に味が出てきたブライヤー製のパイプを取り出し火をともす。

紫煙をたなびかせながら、

 

「ワシはかつて、悪友……神代の昔からの腐れ縁と連れ立って【銀の義手(アガートラム)】ってアイテムを二度拵えたことがある。一度目はまだ天上に至る前……”遥かなりし失われた土地(トゥアサ・デー・ダナン)”にいた頃だ」

 

どこか懐かしそうに目を細めた。

 

「我ながら悪くない出来でな。義手でありながらアイツの切り落とされた腕に比べても何ら遜色ない、自分の意思どおりに動かすことが出来る腕だった」

 

そしてゆっくりと紫煙を吐き出し、

 

「二度目は、オラリオ(ここ)に降りてきてからさ。もう組むことはあるまいと思っていた悪友とまた組んで、二個目のアガートラムを製造することになった。しかも義手製作の依頼主はその悪友の息子だ。我ながら、何の因果かと思ったもんさ」

 

その時、ゴブニュの心に渦巻いていた心情はなんなんだろうか?

かつて彼は悪友と共に”自分達が王と信じた男”のためにアガートラムを創った。

だが、後に悪友の息子は治るはずのない”その男”の右腕を蘇生/完治させてしまった。

だが、自分を遥かに越える医学の才能に嫉妬した悪友は、よりによって自分の息子を殺してしまう。

あまつさえ復活させられる機会さえあったのに、それさえ邪魔してしまった。

ゴブニュが悪友と『もう二度と組むまい』と縁を切ったのはこの時だった。

 

 

 

***

 

 

 

神という存在に本当の意味での死という概念は存在しない。

死んだ神/滅んだ神/没した神はその自らが生まれ生きてきた神話体系(ミトス)という世界から弾き出され、顕現する力を失う。

例え【神々の黄昏《ラグナレク》】が訪れようとそれは一つのミトスの終焉に過ぎず、神の存在消滅と同義ではない。

そして世界より放逐された神々は、【神々()()が住まう天上界】へと導かれる。

 

そして時の流れは人も神も冷静にさせる。

特に永遠の時を生き、変わることのない世界に住むことを余儀なくされた神性(干渉力)を失った神々なら尚更だ。

悠久の時と『生死という変化』さえも許容されない世界では、神々でさえもやれることは多くはない。

例えかつて自分達の生きていたミトスで思うがままに振るい、人が言う様々な奇跡(ふじょうり)を起こし時には容易く世界すらも滅ぼす”神通力(アルカナム)”を用いてさえも、【退屈な天上界(パンテオン)】は変えられない。

 

だから多くの神々は、かつて自分が生きてきた『生々しい変化に富んだ旧世界(ミトス)』に思いを巡らせることに多くの時間を費やすようになる。

そして嫌が上でも『かつての自分達の所業』を良い物も悪い物も振り返ることになる。

 

 

 

退屈に厭き厭きし、かつて自分達もその渦中に居た『予測不能の変化(しげき)』に思いを馳せ、かつて多くの神々が共に生きてきた『自分達より遥かに不完全でありながら、そうであるが故に完全に焦がれ常に変化し続ける生物』……それ即ち【人間(ひと)】を懐かしく思い出したとき、彼らの行動に躊躇はなかった。

 

ゴブニュとて『懐かしき遠い日々』に焦がれ重力(ひと)に魂を惹かれて墜天した神々の一人に過ぎない。

そして、『人とさして力の変わらぬ存在』として再び鎚を……天上界ではいつしか握らなくなっていた鎚を手に取りまた鋼を鍛え始めたとき、再び巡り合った。

あの袂を分かった『腐れ縁の悪友(ディアンケヒト)』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

 

 

『よお、悪友(しんゆう)。久しいな』

 

最初にそう声をかけてきたのはディアンケヒトの方だった。

再会はほんの偶然……ではなく、どうやらディアンケヒトは【人間達の街(オラリオ)】にゴブニュが居ることを聞きつけ探し回っていたらしい。

だというのに「久しい」というわりには口調はつい昨日も会ってたような雰囲気を醸し出すあたり、ゴブニュは悪友の相変わらずの性格の悪さに少しだけ安心した。

 

『悪友、さっそくだがまた俺っちと組んじゃくれねーか?』

 

『フン……理由は?』

 

例えば「過去を水に流して」などという胡散臭い枕詞を入れなかったが故に、ゴブニュは話を聞く気になった。

ゴブニュにとってこの悪友は、『例え悪行を働こうが、それを歯牙にもかけぬ傲岸不遜さ』が売りの神なのだから。だからこそ水に流すような過去はないし、そうでなければならない。

だが、次の言葉はゴブニュを心底驚かせ、また彼にロキの例を出すまでもなく『神とてまた不変ではない』と確証を持たせた。

 

『また【銀の義手(アガートラム)】を作りてぇのさ。医術なら俺っちでもどうにでもなるが、義手自体の製作となるとどうしてもお前さんの技巧がいる』

 

『何故、造る?』

 

『……ちょっとばかり息子(ミアハ)に頭下げられちまってな。今更、親だなんて言う気はねーけど、たまにはこんなのも悪くねーさ』

 

 

 

***

 

 

 

「色々と成り行きがあってな……ワシは結局、二つ目のアガートラムを製造した。厳密には昔のそれと同じでじゃねえ。ワシも今となってはアルカナムは使えん。だから今のワシの使える技術と人間界にある技術のみを使い全てではないが『アガートラムを再現(レプリカ)した』というのが精々だろうな。差し詰め【|偽・銀の義手《レア・アガートラム】というところか?」

 

ゴブニュの名誉のために言っておくが、彼が再現できなかったところはあくまで「神威発動(アルカナム)に関わる部位」であり、人間が使うことを前提とした「単純な義手としての機能」ならば”真・アガートラム(マスターピース)”に比べても見劣りはしない。

 

「神々の事情ですか……」

 

感嘆するように呟くキリトにゴブニュは今度こそ苦笑し、

 

「そんな大層な代物じゃねぇさ。ところで坊主、こっからが本題だ。お前さんはアガートラムにとって何が重要だったと思う?」

 

「えっと……」

 

唐突に言われてもキリトにそれを答えることはできない。

自分もそうだが幸いにして彼の親しい面々は、今のところ義手の世話にならねばならぬほどの重傷を負った者はいなかった。

 

「まずは『使い手への適合性(フィッティング)』だ。失われた持ち主の腕と同じように馴染み、自分の腕のように感じられることが重要だな」

 

「なるほど、確かに」

 

「その次の段階が『使い手に合わせた最適化(オプティミニエーション)』。実際に腕として使い、使い手のクセを学びより自然に合理的に動きや構造を収斂させてゆく」

 

ゴブニュはニヤリと癖のある笑みを浮かべ、

 

「坊主、もう察しはついたんじゃねぇか?」

 

ゴブニュの視線を真正面から受け止めたキリトは気圧されるような感覚を味わいながら返答する。

 

「それってまさか……【エリュシオン】の特性……?」

 

 

 

「正解だ。坊主」

 

ゴブニュは笑みの種類を満足そうな物に変え、

 

「【エリュシオン】はワシが【アガートラム】を創る段階で培った技術を剣に結集させた代物なのさ。ワシは鍛治神の頃から剣や槍の穂先部分を最も得意としていてな。これも当然の帰結だろう?」

 

 

 

***

 

 

 

(なんてこった……!)

 

キリトは素直に驚愕していた。

規格外の切れ味から相当の業物だとは思っていたが……いくらなんでもそこまでとんでもない代物だとは、完全に予想の範疇外もいいとこだ。

 

「いやその……話を全部聞いた後にこう聞くのもなんですが、本当に俺が試し切り役(テスター)でいいんですか?」

 

「ワシの鍛造(しつけ)が悪かったせいか、エリュシオンは随分な『我侭娘』に育っちまったらしくてな。どうにも選り好みが激しくていけねぇ」

 

その時、後ろから笑いを噛み殺した小さな声が聞こえた。

声の主は空気を読んで、創り手と使い手の違いはあれど、どうやら揃いも揃って剣馬鹿らしい二人の邪魔せぬようそっとお茶と茶菓子を出してから静かにしていたヴィータだった。

 

「一番有力だったアイズでさえも適合せず、フィッティングすら起きなかったのさ。そこに現れたのが坊主、お前だ」

 

そして有無を言わさぬ声でゴブニュは告げた。

 

「問うまでもねぇ。坊主、ワシが知る限り、お前が唯一のエリュシオンの【適合者(マスター)】なのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
今回は多分、今までのエピソードの中で一番渋い雰囲気になってしまったような気がしますが、楽しんでいただけましたでしょうか?

実は今回のエピソードは、第006話の伏線回収話で『エリュシオンとアガートラムの関係』の決着だったりします(^^

あとゴブニュ様の過去話を実際のケルト神話をベースに捏造するのが楽しいこと楽しいこと(笑)
神々の存在について、このシリーズなりの独自解釈をしてみましたが如何だったでしょうか?
考えようによっては、神々もまた広義で言えば転生者なのかもしれませんね。

次回はおそらくゴブニュ・ファミリアのシーンのラストとなります。
それではまた次回にてお会いしましょう。

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