ダンジョンにキリトが潜ってるのは間違っているだろうか   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ。
今回のエピソードで一応、『キリトとエリュシオン』編ともいえる第1章は終了です。
原作にないシーンばかりになってしまいましたが、これも原作から分岐するエピソード群と思っていただければと(^-^

でもこの章の主人公ってなんとなくゴブニュ様だったような……?


追伸:ちょっと物足りなかったので修正すると同時に一部表現を変更しました。


第015話 ”キリトに未完の大剣を預けたゴブニュは間違っているのだろうか”

 

 

 

【エリュシオン】

古代ギリシャ語のスペルは”ΕΛΥΣΙΟΝ”ないし”ελυσιον”。

本来の意味は世界の西の果てにある【神々に祝福された死者達の楽園】とされる島。

ただし一説によれば、ハーデスが統治する地獄の中に浮かぶ楽園らしい。

 

いずれにせよ『生者が行き着くことのできない場所』であることは確かなようだ。

 

 

 

***

 

 

 

ΕΛΥΣΙΟΝ(エリュシオン)】は、かつて鍛治神ゴブニュが悪友である医神ディアンケヒトと共に創り上げた【銀の義手(アガートラム)】の技術が惜しみなく投入され鍛造された”漆黒両刃の長剣”だった。

ある意味においては『剣の形をしたアガートラム』こそがエリュシオンと言ってもいいかもしれない。

 

元来、ゴブニュは剣や鑓の穂先に特化した鍛造技術を持つ神とされている。

ならばオラリオに降臨した後に得た神の力(アルカナム)を封じても、義手としての能力だけなら、かつて地上神だった時代に創り上げた『”真なるアガートラム”に匹敵する物をオラリオで製造できる技術』を剣に使わないわけはなかった。

 

『問うまでもねぇ。坊主、ワシが知る限り、お前が唯一のエリュシオンの【適合者(マスター)】なのさ』

 

それが鍛治神ゴブニュの結論だった。

 

「【ΕΛΥΣΙΟΝ(エリュシオン)】はお前を気に入り、自分の使い手(マスター)として認め、”使い手への適合(フィッティング)”を済ませた」

 

差し向かいに座る鍛治神ゴブニュの重い眼光をキリトは真正面から受けながら、

 

「聞いていいですか?」

 

「ああ。なんだ」

 

「ひどく手に馴染み、羽根のように軽い……それがアガートラムより継承したフィッティングの影響ですか?」

 

「勿論だ。自分の腕に違和感や重さを感じたりする奴はいないだろう?」

 

アガートラムは『自分の腕と比べても違和感なく使える』のがウリのアイテム、である以上はあっても不思議ではない特性ではあるが……

しかし、ゴブニュが半ば感心していたのは、その先にあった事象だった。

 

「正直に言えば驚いているが……お前さんは”使い手に合わせた最適化(オプティミニエーション)”まで引き出した。確かにその機能はあるはずだが、設計どおりなら例え適合してもそう簡単に最適化は起きないはずなんだが……まあ、それはいい。ここまではいいな?」

 

「はい」

 

頷くキリトに対し、

 

「だが厄介なのはこの最適化だ。適合した以上、【エリュシオン】は『良かれ悪かれ』お前さんに最適化する……言ってる意味はわかるか?」

 

「それってまさか……」

 

悪い予感しかしない言い回しにキリトの顔色がはっきりと変わった。

 

「おそらく坊主の考えてる通りだ。お前さんは確かにミノタウロスを倒した。だが、もうお前さんに伸び代がなく『ミノタウロスを一匹屠れるのが上限』の剣士で止まるならば、【エリュシオン】もその上限にあわせて最適化されちまうってこったな。平たく言えばでっかい”牛刀”になるってことだ」

 

愛用の古ぼけたパイプをくねらせながら、ゴブニュはニヤリと笑う。

その文字通り”真剣な”気配のせいか、やや緊張気味のキリトはゴブニュの自分に対する呼び方が時折変わるのに気付いてなかった。

 

「【最適化する剣(オプティマス・ソード)】ってのは自己成長や自己進化して勝手に頂点に至る便利アイテムじゃねぇ。お前さんがもしヘボ剣士に落ちぶれるなら、【エリュシオン】もまたどうしようもない”鈍”(なまくら)に成り下がる」

 

 

 

***

 

 

 

「剣に合わせるのが良い剣士であり王道の剣術なら、【エリュシオン】は剣士に合わせる『王道ならざる剣(アストレイ・ソード)』だ。全てはお前さん次第で決まる」

 

ゴブニュの重々しい言葉にキリトは思わず息を飲み込んだ。

 

「別に難しい話じゃねぇさ。研鑽を止めるな。強さを渇望し続けろ。お前の目指す”強さの遥かな高み”を強くイメージしろ。一歩づつでもかまわん。迷い苦しむなら、時には立ち止まってもいいさ。だが踏みしめるように高みを目指し続けることに躊躇うな」

 

ゴブニュは一度言葉を区切る。

キリトに考える時間を、あるいは覚悟を決める時間を与えるように。

 

「今の強さに満足するな。高望み大いに結構だ。そしてそのお前さんの長い旅路の相棒として、『剣を可愛がれ』」

 

「剣を……可愛がる?」

 

疑問を隠さないキリトにゴブニュは頷き、

 

「ああ。『本来の剣の使い方をしろ』とも言い換えられるな。坊主、本来の剣の使い方とは何だ? ピカピカに磨き上げて陳列窓(ショーウィンド)に飾ることか? 宝物庫にしまいこみ、時折取り出してはニヤニヤ眺めることか?」

 

「ちがいます」

 

ゴブニュの問いにキリトはきっぱりと、凛とした眼光を宿らせながら答える。

 

「剣は武器。その目的は己に仇なす全てを、人であれ怪物(モンスター)であれ百災百禍をその刃で斬り伏せ、斬り捨てることです」

 

ゴブニュは満足そうに、

 

「いい返事だ。切れない刃に意味はなく、斬らない剣もまた意味はねぇ。坊主、斬って斬って斬り続けろ。剣風を起こし、存分に血風を浴びろ。それがお前さんとエリュシオンにとっての糧であり、同時に鎚にもなる。【エリュシオン(この子)】はそういう剣だ」

 

「はい……!!」

 

キリトの瞳には、確かな覚悟が宿っていた。

決して折れない意思(デュランダル・ハート)”が彼の胸に在ることを示す、鮮烈にして鋭利な眼光……

 

その時、彼の意思に呼応するようにエリュシオンの漆黒の刀身に刻まれた普段は見えない筈の無数の神聖文字(ヒエログリフ)が青白い燐光を帯び、仄かに輝いていたという。

 

 

 

***

 

 

 

後世のオラリオ史の編纂者達の多くはこう語ることになる。

 

『鍛治神ゴブニュの薫陶を受けたこの瞬間こそが、歴史上稀有な”剣聖”が誕生する最初の胎動だった』

 

と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

 

 

「坊主、一つ言い忘れてたことがある」

 

「はい?」

 

エリュシオンを鞘に収めて背負い、礼を告げて退室しようとしたときにふとゴブニュが声をかけてきた。

 

「【エリュシオン】の代金は、お前さんの試し切り役(テスター)料と相殺でかまわん」

 

「えっ!?」

 

流石のキリトもこれには驚いた。

知る人ぞ知る名工揃いのマニアック・ファクトリー【ゴブニュ・ファミリア】の一級装備級なら、例え短刀(ナイフ)程度でも500万ヴァリスは下回らないだろう。

あまつさえ、話から理解するに主神ゴブニュが自ら鍛えた、それこそ”神格級”と称してもおかしくない傑出の大業物おまけにいわくありげな特殊機能付きならば、その10倍……いや20倍を下ることはまずはない。

 

「話は聞いてたろ? 【エリュシオン】は適合者(マスター)じゃねぇと力の片鱗すら見せようとしねぇ。お前以外が使ったなら、打ち損ねとは言わねぇが……精々、普通の剣だな」

 

その時、茶器一式を片付けていたヴィータが「選り好み激しく気難しいとこは親方そっくり。さすが親子だぜ」と呟いたが、幸い誰の耳にも届いてないようだ。

 

「ただし、いくつか条件がある。まずは最低でも五年は使い続けろ」

 

「も、もちろんです!」

 

これほどの名剣はそう滅多にお目にかかれない。

正直、旧世界でも現世界でもそれなりの刀剣を見てきたキリトでも、これほどの剣とまた巡りあえる自信はなかった。

 

「もう一つは……メンテは必ずワシのところに直接もってこい。他所のファミリアの鍛冶師や研師は言うに及ばず、ウチのファミリアの連中にも任せられん。そいつの面倒を見れるのは、おそらく世界でワシだけだ」

 

「いいんですか……?」

 

ゴブニュ自身が面倒を見る……その意味がわからないほどキリトは子供ではない。

 

「良いも悪いも無ぇさ。それが最良だってだけだ」

 

そう癖のある笑みを浮かべながらゴブニュは紫煙を吐き出した。

 

 

 

***

 

 

 

契約書に署名し、キリトは再び礼を告げて部屋を出た。

 

重厚な扉が締まり気配が完全に消えた後……

 

「親方、本当によかったのかよ? アイズ嬢ちゃんの言葉を信じないわけじゃねーけど、小僧はまだまだ未熟だぜ?」

 

そう切り出したのは、茶器を戸棚にしまい終えたヴィータだった。

 

「かまわん。ワシの見立てじゃ坊主の器はまだまだ深い。ありゃ何度も大化けする珠だ」

 

「そんなもんかねー。でもよ、ありゃ製造資金だけで2億ヴァリス以上って代物だぜ? 売値でいやぁ3億ヴァリスにはなる。そもそも素材が素材だからな。ファミリア(うち)としちゃあ大損だ」

 

ヴィータの「もったいねーなー」という趣旨のぼやきにゴブニュは苦笑し、

 

「馬鹿言うな。持ち主となれば誰しもが性能を引き出せる剣が理想の剣なら、適合者(マスター)を選びマスターにしか”真の力”を引き出せねぇ剣なんざ、駄作もいいとこだ。とてもじゃねぇが売り物にはなんねぇさ」

 

「親方ぁー、そんな売り物になんねーもんに大枚叩いたのかよー」

 

一応、ファミリアの運営に携わるだけあってヴィータは聞き捨てなら無い台詞に頬を膨らませるが、ゴブニュはただ愉快そうに……

 

「そうブーたれるな。それにお前は鍛冶屋の一人として面白いとは思わねぇのか?」

 

「面白い? 何がだよ?」

 

「創り手の予想さえも超える、”完成した姿が予測できない作品”って奴が、さ」

 

 

 

 

「完成した……姿? ちょっと待てよ。【エリュシオン】はもう完成した剣だろ?」

 

焦った表情をするヴィータだったが、

 

「はん。ヴィータ、お前もまだまだ修行が足りんな。あの剣は今の姿が完成形じゃねえ。完成してるわけもねぇ」

 

「えっ?」

 

「【エリュシオン】は使い手であるマスターが完成し、それに最適化して初めて完成に至るのさ。『全てはお前さん次第』……そう言ったろ? マスターと剣は対なるもんだ。俺は”最初の形”を創ったにすぎん」

 

ゴブニュはいつの間にか笑みの種類を変えていた。

それは言うならば彼本来の存在としての笑み、『人の生き様を娯楽として楽しむ、神としての傲慢さ』を内包した笑みだった……

 

(刃に刻みしは『変化に必要な不定数化の権化たる”不確定要素(カオス)”』……)

 

「キリト・ノワール……お前は、一体ワシにどんな完成した姿を見せるのだろうな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
深夜アップになってしまましたが、なんとか週末に二本を上げられてホッとしてます(^^

前書きにも書きましたが、このエピソードで第1章が終わりとなります。
原作にないエピソードばかりでしたのに、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
楽しんでいただけましたでしょうか?

実はこの第1章は原作のベル君の代名詞である『ヘスティア・ナイフ』に変えて、キリトのSAOにおける主武装である『エリシュデータ』をいかに登場させるか?を考えているときに原案が浮かんだエピソードが出発点となっています(^^

次章からはようやく再び原作の流れと合流しますが、ベル君とヘスティア様の絆の象徴ともいえるナイフ製造イベントとかはどうなるのでしょうか?

そんなあたりも含めて、次話&次章を楽しみにお待ちいただけたら幸いです。

では、また次回にてお会いしましょう!




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