ダンジョンにキリトが潜ってるのは間違っているだろうか   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ。
いよいよこのエピソードから新章突入です。
お陰でちょい難産気味だったのはお約束(^^

というよりようやく原作と少しずつクロスオーバーするような……?
いや、むしろようやく”彼女”が出てくるようです。


第002章:神と眷属の関係が斜め上になってるのは間違っているだろうか
第016話 ”のんびり妖精っぽい神様が同時にワン娘ちっくなのは間違っているのだろうか


 

 

 

ゴブニュ・ファミリアを出たキリト・ノワール(Kirito Noir)は、街を横切るように北西のメインストリートを抜け、都市の西地区の沿いを郊外に向け歩いていた。

 

オラリオの西地区は【ファミリア】に加入していない無所属の労働者の多くが住居を構え、彼らの家族も生活することで大規模な住宅街を形成しているとされていて、いわゆる低所得者層も多い雑居地区だ。

もっとも21世紀の日本人が想像する”荒廃地区(スラム)”と比べればまだ治安は悪くはない。

確かにインフラストラクチャーなどは摩天楼施設(バベル)がある都市中央や高級住宅街が並ぶ北地区と比べれば未熟ではあるが、活気に溢れた庶民的な街とも言えた。

 

やがてキリトは街並みを抜けて廃墟が立ち並ぶ(うら)寂しい地区へと出る。

こんなところで何がしたいのかとも思うが、彼は迷いない足取りで一点へと歩んでいた。

 

 

 

やがて辿り着いたのは、放棄された教会だった。

時は夕暮れ黄昏時。昼と夜の狭間の刻、どこか血を思わせる薄暗く紅い光の中で朽ち果てた教会の前に佇む死を連想させる黒衣の剣士……確かに絵になる構図ではあるが、なんとなく妖しいというか、ゴシック的な意味での惨劇を予想される不穏な風景でもある。

 

そして自分が何をすべきかをよく知っていたキリトは徐に扉を潜り……

 

 

 

「キーくん!! おかえりー!!」

 

本来は救済を謳う教会でするには少々後ろ暗い謀のための隠し部屋として作られていたが、教会が捨てられたためにその役目を失い今はただの無害で平和な居間(リビング)として使われているその部屋に入るなり、ご主人様の帰りを長らく待っていた飼い犬のようにキリトの胸に飛び込んできたのは、

 

「ただいま。”ヘスティア(ΕΣΤΙΑ)”」

 

嬉しそうにぐりぐりと押し付けてくるツインテールの黒髪の映える頭を、キリトは慈しむように優しく撫でた。

 

 

 

***

 

 

 

【ヘスティア】

スペルは”ΕΣΤΙΑ”もしくは”εστια”。

ギリシャ神話体系(グリーク・ミトス)に登場する女神で、アテナやアルテミスと並んでギリシャ神話の誇る三大処女神(おとめ)の一柱。

炉の象徴とされ、それが転じて家庭の守り神、ひいては全ての孤児達の保護者とされる。

その一方、古代ギリシャの哲学者プラトンによれば「彼女1人だけがのんびりしていた」などの表記があるように、非常に呑気な印象の女神らしい。

一説によればクロノスとレアーの長女であるのだが……そうなるとゼウスの姉ということになってしまうが、”オラリオのある世界”での真偽は不明である。

 

以上は凡そ21世紀の地球に伝わる女神ヘスティアの概要なのだが、ここオラリオに降臨したヘスティアは、その伝承に合ってるような合ってないような『女の子』であった。

 

真っ白なリボンで結わえた黒髪のツインテールに、くりくりとよく動く好奇心を隠そうともしない大きくつぶらな瑠璃色(ラピスラズリ)の瞳……

顔つきは明らかに美人顔ではなく可愛い系、ぶっちゃけて言えばかなりの童顔で背丈も低い。

だが、胸と背中に割と大胆なカットがされた純白ミニのワンピースに包まれた肢体は全体サイズはミニマムだが幼児体系ではなく、それなりにくびれているところはくびれていて、何より他が小さい分、マキシマムと言っていい双丘……オパーイが胸元のアクセントである瞳の色と良く似た青いリボンを押し上げ強烈なまでの自己主張をしていた。

ついでに肢体に巻きつけている瞳と同じラピス色の紐は、何故か微妙にエロい。

 

まったく他の神々から「ロリ巨乳女神」と呼ばれるわけである。

 

 

 

さて、そんな世にも愛らしいのんびり妖精……もとい。のんびり女神様が、キリトとこんな寂れた教会で密会(?)をしているのは海よりも深いわけがある、というわけではない。

 

「今日はいつもより遅かったみたいだね? お陰で昨晩はさびしかったよ~」

 

会話から察するに、キリトは昨日は朝から一日中ダンジョンにいたらしく、ダンジョンを出てギルドに足を運んだのが昼前で、ゴブニュ・ファミリアへ向かったのが昼食後という感じのようだ。

 

「ごめんな、ヘスティア。ちょっと浅い階層でミノタウロスとエンカウトしてバトったら勝っちゃってさ。それで調子乗ってつい下まで降りてたんだよ」

 

「ちょ!? ミ、ミノタウロスぅーーーっ!? キー君、無事なの!? ねぇ、怪我とかしてないよね!? 痛いとことかないかいっ!?」

 

彼女……”ヘスティア”は抱きついてた身体をパッと放し、キリトの周囲を回る様にして慌ててぺたぺたと触りまくるが、

 

「大丈夫だよ。無理もしてないしやせ我慢もしてないさ」

 

「わわっ!?」

 

何を思ったかキリトはくるくる回るヘスティアを捕まえると同時に両脇の下に手をいれ、子供に『高いたか~い』をするようにひょいと持ち上げ、

 

「このくらいできる程度には元気だぜ?」

 

「にゃあぁぁ~! お~ろ~し~て~!」

 

 

 

***

 

 

 

「でもホッとしたよ。キー君に大怪我されたり死んだりされたら、ボクは大ショックだよ!」

 

そう心底胸を撫で下ろしてるのはキリトの膝の上にちょこんと座るヘスティアだった。

この部屋に二人でいるときの不文律(ルール)は、とりあえずキリトがソファに座り、その上にヘスティアが座るというものだった。

それを最初に決めたときは、『ボクは神様なんだしこのくらいの役得はあってもいいと思うんだ』『男の膝の上なんてゴツゴツして座っていいもんじゃないだろうに』『ボクにとっては最高の座り心地なんだよ♪』というやり取りがあったそうな。

キリト、炸裂しろ。

 

「そう簡単にくたばりゃしないよ。これでもしぶとさには定評あるし、悪運の強さも折り紙つきだ」

 

「でも、ボクはいつだってキー君のことが心配なんだよ~」

 

キリトの膝の上で膝を抱えるという器用なことをする心配性ののんびり女神様をキリトはきゅっと抱きしめ、

 

「キー君……」

 

「俺は【ヘスティア・ファミリア】唯一の団員だ。ヘスティア一人だけを遺して哀しませるような真似はしないさ。まぁ、とりあえず俺を信じろ」

 

「よぉ~し言ったなぁ~! ならばボクは大船に乗ったつもりでいるからね♪」

 

笑顔の戻るヘスティアにキリトは大きく頷き、

 

「まかせておけって!」

 

 

 

***

 

 

 

既にお察しかもしれませんが改めて言えば、ヘスティアとキリトの関係は比喩的に言うなら”親子”にござい。

一般的に言えば【眷属(ファミリア)】というものであるのだが。

 

主神ヘスティアを中心ないし頂点とする【ヘスティアの眷属(ヘスティア・ファミリア)】、言葉通りに今のところ唯一の眷属がキリトだった。

 

「そういえば今日は、キー君が帰ってくると思ってお土産があったんだよ♪」

 

ぴょんと擬音が付きそうな感じでヘスティアはキリトの膝から飛び降りると、テーブルの上に用意していた大皿に被せていた布をめくり、

 

「じゃっじゃぁ~ん♪」

 

「おおっ。”じゃがまるくん”の山盛りじゃないか」

 

「へへ~ん♪ バイトの売り上げがいいからご褒美に貰ったんだよ~!」

 

この女神様は会話から察するに、”じゃがまるくん”という食品を販売するアルバイトに従事しているらしい。

世の中には「働かざる者食うべからず」なる名言も存在するが、微妙に切ない気持ちになるのはなぜだろう?

もっとも彼女の場合は、幸いにしてあまり暗い事情は無いようではあるが。

 

実際にその仕草は、何やら女神というより初めて作った料理を親に自慢する子供に見えなくもないが、キリトはキリトで”この世界での年齢”に似合わない父性に溢れた笑みを浮かべ、

 

「すごいぞヘスティア。客商売ってのはあれで中々難しいんだ。少なくとも愛想のない俺にはできないさ」

 

そして、両腕を大きく広げて、

 

「ヘスティア、おいで」

 

「うんっ!」

 

じゃがまるくんを乗せた大皿をキリトの横に置き、またぽふっとキリトの胸に反転ダイブして膝の上に着地&胸板に後頭部を押し付けご満悦そうなヘスティア様である。

大事なことなのでもう一度言うが、ヘスティアは”女神”でありキリトはその”眷属”たる人間なのだが……なぜかご主人様に甘える真っ白の愛玩犬を連想させるのは気のせいだろうか?

 

 

 

「ほら、ヘスティア。あーん」

 

「あ~ん♪」

 

食べ易いサイズにしたじゃがまるくんを女神の口に放り込む黒の剣士……なぜだろう? 字面にするとひどくシュールだ。

絵面から言えば、単にキリトは無自覚にヘスティアは意識的にいちゃこらしてるだけなのだが。

 

(そういえば、スグもよくこうやって膝の上に乗せて食べさせてたっけ……)

 

既視感(デジュヴュ)と言いたくなるような感覚を感じながら、今はどこにいるのかわからない血の繋がらない妹のことを思い出してしまう。

前世(?)のこととはいえ、小さい頃の思い出なら微笑ましいで済むが、実はこれSAOへの最初で最後のダイブの直前までの日常風景であるらしい。

蛇足ながら桐ヶ谷和人も桐ヶ谷直葉も思春期真っ只中のはずなのだが……

 

今生の爺様主催の日常ハーレム(エリート教育)もさることながら、前世のうちから一番近い位置に居た女の子から自然と食事も一緒寝るのも一緒お風呂も一緒の無自覚の同棲生活をしていたキリトにとり、この程度の事柄は『ドキドキ☆シチュエーション』どころか近しい間柄のスキンシップにもあたらないことだろう。

それがヘスティアにとって幸なのか不幸なのか。

 

 

 

「そういえばキー君、その剣はどうしたんだい? 昨日出るときに持っていたのと違うみたいだけど?」

 

ふとヘスティアは、ソファに立てかけてある鞘拵えすらも立派な”漆黒の長剣”を目に留めた。

 

「ああ、これか? 【ΕΛΥΣΙΟΝ(エリュシオン)】って剣なんだけど……実はさ、」

 

 

 

***

 

 

 

キリトの奇妙な冒険(ストレンジ・デイ)』となった昨日から今日にかけての一両日の出来事を聞いたヘスティアは、腕を組んで難しい顔をしてしまう。

ただし座り場所は相変わらずキリトの膝の上だったが。

 

「つまりキー君はミノタウロスとミノタウロスを逃がしたパーティーの一人のヴァレン某とエンカウトとして、バトルに勝利してモンスター・ドロップの【エリュシオン】をゲットしたということだね?」

 

「いや、細部がかなり違うから。エンカウントまではいいとしても、倒したのはミノタウロスでアイズは倒してないよ。というか今の俺の実力じゃ、とてもじゃないが倒せないさ。あと剣をドロップしたのはモンスターじゃなくてアイズの方だけど」

 

絶対わざと言ってるだろう言い回しに、あえて生真面目に返答するキリト。

ヘスティアもそうだが、キリトも中々いい性格をしている。

 

「そこだ!」

 

「どこだ?」

 

膝の上で器用に半回転して向かい合わせになり(ヘスティアはどうやらキリトの膝から降りる気はないらしい)、ビシッと指差すヘスティアに、キリトは古典的(クラシカル)と言ってもいいボケを返すが、

 

「君は何で出会ったばかりのヴァレン某をさらっと呼び捨てにしてるのさっ!!」

 

「いや、本人にそう呼べって言われたから……かな? まあ俺もアイズの方が呼びやすいし」

 

「呼びやすいって、キー君は一体何度ヴァレン某の名を呼ぶ気なのさっ!?」

 

「さあ。それこそ『神のみぞ知る(God Only Knows)』じゃないのか?」

 

「ええーい! 同じ神族としてそんなの絶対に認めないんだからねっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。

ご挨拶もそこそこに先ずは一言……

「ようやくヘスティア様が描けたぁーーーっ!!」

いやぁ~、冒頭のモノローグから実に15話ぶりの登場でした(^^
その反動(フラストレーション)のせいで、原作以上にいちゃこらになってしまったのは否定できない事実です(笑)

ヘスティアは好きなキャラですし、早く登場させたいとおもっていたのですが、このシリーズのみならずボストーク作品は亀展開が持ち味なので、ここまで伸びてしまった次第です。
しかも、なんとなく(ワン)娘っぽくもなってしまったという罠。

こんなヘスティアですが、新章共々気に入っていただければ嬉しいです。

それではまた次回にてお会いしましょう。

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