ダンジョンにキリトが潜ってるのは間違っているだろうか 作:ボストーク
今回のエピソードでは、キリト達がダンまちの世界へ神様転生ならぬ”人様転生”させられた秘密が、ほんのり語られれます(^^
執筆時間が一度にあまり長く取れないせいもありますが、この『ダンキリ』シリーズは1話あたりの文字数は少なく、勢いがあるうちに可能な限り早いアップを心がけようと思っています。
西暦2022年
東京、某所
「ねぇ、晶彦……本当にいいの?」
「ああ、かまわないさ」
この電子機器に埋め尽くされた巨大な部屋……おそらくはどこかの研究所の一室なのだろう。そこで女に問われた一人の男が僅かな苦悩をにじませながらも迷いなく頷く。
彼が見つめるモニターには、ある数字が映っていた。
『256,446』
それは現在、サービスが始まったばかりのVRMMOROG【ソードアート・オンライン】にアクセスし、ヴァーチャル空間にダイブしている日本国籍ユーザーの総数だった。
「私達は今、25万人以上の人間を騙してるのね」
女……神代凛子の言葉に男、茅場晶彦は肯定の意思を示し、
「だが、これでいい。これだけの人数を『外側の世界』に一気に”跳躍”させる方法は他にない」
「それが貴方の望み?」
「いいや。私の望みは【浮遊城(アインクラッド)】という仮想現実の中にしか存在できない空間を完成させることさ。その世界を完成させるには本当ならこんな人数はいらなかったんだけどな。せいぜい一割も居ればよかった」
「それこそ仕方のないことよ。いつの間にかこの計画は政府に売られ、政府はこれを極秘裏に”国策”の一つにしてしまったんだから」
だからこそ本来なら13万円近い低下だったVRゲームマシンは10万円を切る価格で、しかも全ての初回生産分がVRゲーム【ソードアート・オンライン】の同梱販売になり、当初の予定の10倍以上が生産/出荷されたのだった。
「まさか役人風情に私の願望を看破されるとは思わなかったさ」
そう茅場は苦笑した。
***
「本当なら私が昔から幻視するアインクラッドに招待したかったんだがな……」
少し寂しげに茅場は呟くが、
「でも、まさかそれに”酷似する世界観の世界”が実在するとは思わなかったわね?」
「まったくだ。”現実は小説より奇なり”とはよく言ったもんさ。しかも、SAOが”その世界”に転送できる人材を選ぶ試金石にされるとも思わなかった」
凛子はクスクスと楽しげに笑い、
「『SAOで生きれてゆける存在なら、あの非近代化のまま存在する世界でも生き残れる公算が大きい。例え待っているのがゲームオーバーではなくリアルな死だとしても』……たしか”菊岡”さんて言ったかしら? あのお役人。中々面白いことを言うわね」
すると茅場も凛子に応えるような笑みを浮かべ、
「本当にな。だがSAOには”神は実在する”なんて設定はないんだが……」
「貴方も行ってみたい? 神々の闊歩する世界に」
「出来ればこの目で見たかったな。しかし、そうも言ってられない。私も君も、256,446人の日本人を”送り出す側”の人間だ」
彼女は頷き、
「そうね。そろそろ”最後の責任”をはたさないと」
「そうだな。もう時間はない」
茅場は天井を見上げ、その先にある天上を見るような瞳をしていた。
(我々の空も神々の世界の空と繋がっているのだろうか……?)
「ほどなく現代文明は滅ぶのだから……」
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「はぁぁぁっ!」
”ギィン!”
キリトだぉ。
いや冗談だから。だからそんなに引かないで欲しい。
何の因果か俺は今、オラリオという街にある地下迷宮(ダンジョン)に潜っていたらミノタウロスとエンカウントした上に追いかけられ、逃げ切れそうもないので長剣一振りで対峙するという無理ゲー状態にある。
いやゲームじゃなくてリアルなんだけどね。
(”この世界”に来たばかりの頃は、リアルにモンスターがいるってことに驚いたけど……)
「セイッ!」
こうして今は『倒すべき現実の壁』って認識して張り合える程度には慣れてきた。
(もっともVRゲームで遊ぶはずが、いきなり赤ん坊に転生させられるとは思わなかったけど)
何を言ってるか判らないかもしれないけど、正直俺も未だに何がどうなったかわからない部分が多い。
とりあえず今わかっているのは、あの時SAOにダイブしていたプレイヤーは『脳の中にある心や記憶なんかの魂と呼ばれるものを量子化された』後に”この世界”に転送させられたということだ。
質量の大きい肉体の転送はできなかったらしくて、魂だけがコッチの世界に来た。
ただ、全員が肉体情報を初期化……つまり赤ん坊となることで、神々が地上を闊歩する”この世界”で受肉することに成功したらしい。
コンピュータやネットワークに例えるなら、処理速度とか回線の問題で重いハードウェアは送れないけど、軽いソフトウェアだけは世界間に繋がるネットワークを通じてこの世界に転送され、そのソフトウェアを収めるハードウェアがコッチの世界で新たに構築されたってノリのようだ。
(それが今から約14年前か……)
我ながらそれなりに色々あったものだ。
でも結果として冒険者になってしまうあたり、
「俺はSAOに未練でもあるのか?」
でも未だにあのβテスターとしてプレイした記憶は、鮮烈な思い出として残っているんだ。
(それにスグと一緒にプレイした最後のゲームだしな……)
ゲーム開発者、茅場晶彦の”遺言(ラスト・メッセージ)”が事実なら妹、直葉もこの世界に転生して受肉しているはずなんだ。
だから……
「お前のような牛頭に殺されてやるわけにはいかないんだっ!!」
***
「流石にミノタウロス、武器も持ってないくせに蹄の威力だけでもそこらのメイス使いの比じゃないか……」
悔しいが力勝負では明らかに不利。
そのため、俺はさっきからミノタウロスに比べ数少ない人間の長所である敏捷性と小回りのよさを生かし、蹄の攻撃を掻い潜り懐にもぐりこんで一撃を加えて離脱する『一撃離脱(ヒット&アウェイ)』を繰り返している。
随分とヒットポイントを削ったはずで、手傷から相手の動きも鈍くなってきたけど……
(こっちもそろそろ限界か……)
俺は”こっちの世界”で相応に鍛えている甲斐あってスタミナはまだまだ持つし、戦闘に支障が出るような手傷も負ってない。だけど俺の愛剣”ブラックバーン”は、もはや剣として機能を半ば喪失しつつあった。
ぶっちゃけ刃毀れしまくりで、切れ味は『駄目主婦の買って以来研いだことのない包丁』程度じゃないだろうか?
それというのもミノタウロスの全身を覆う獣皮が硬くて剛毛過ぎるのと、
(蹄も硬すぎなんだよ……!!)
ミノタウロスはパワーも怖いがその硬さも侮れない。
いくらヒット&アウェイを繰り返すと言っても時には避け損ねだってある。盾をもってない俺は剣で受けるしかないのだが、
(油断したら一発で圧し折られそうだ)
まともにミノタウロスの一撃を受けたら、そこそこの出来の剣でも一発でペキンだろう。
だから俺はまともに受けず逸らすように流し、衝撃を逃がすようにインパクトの瞬間自ら打撃と反対方向に跳ぶ。
そこまでやってもなお剣がボロボロになってしまうあたり、やはりモンスターは人間の基準じゃ語れない。
「斬り合えるのは、持ってあと数合……」
なら、俺も覚悟を決めるしかない。
(狙うは胸の”魔石”ただ一点のみ……!)
”魔石”は全てのモンスターが例外なく胸部にもつ力の源であると同時に急所、文字通りの『モンスターの心臓』だ。
無論、モンスターだって知能は高くなくても本能でそれはわかってる。
だからそう簡単に突けはしないんだけど……
(だけどここまで弱らせれば、あるいは)
「いざ尋常に……」
この一撃にかけるべく剣を構え直し、
「勝負……!!」
俺は地面を蹴った!!
皆様、ご愛読ありがとうございました。
実はまだミノタウロスとの戦いが終わってない罠(^^
『ダンキリ』でも亀展開は相変わらずですね~。
ヴァレン某(なにがし)の登場は次回くらいでしょうか?
それではまた次回お会いできることを祈りつつ。
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