ダンジョンにキリトが潜ってるのは間違っているだろうか   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ。
今夜も懲りずに深夜アップです(^^

今回のエピソードは……キリトやリズ、転生者(フォリナー)にまつわる、珍しくシリアスな感じです。

2015/09/17、作中にとある名前を追加しました。


第024話 ”神々の闊歩する世界で棺桶が笑うのは間違っているのだろうか”

 

 

 

その紅蓮の舞台で、二人の男は邂逅していた。

一人は鉈とも包丁とも呼べる短刀を携え、膝まである暗黒色のポンチョを纏いフードを目深に被った顔の見えない長身の男だ。

もう一人は返り血で汚れたマントを纏い同じくフードを被り、いぶし銀の牡山羊(ゴウト)を象ったマスクで顔の上半分を隠し、漆黒の片手長剣を構えたポンチョ男よりもやや小柄な男、あるいは少年だった。

 

『なあ、【打斬者(バッシュ)】……どうしてお前は”そちら側”にいる? お前は、お前だけは明らかに”こっち側”だろ? 俺とお前は同じ存在な筈だ』

 

むしろ親しげにポンチョ男が問えば、

 

『否定はしないさ。否定するほど厚顔無恥でもない』

 

どこか幻影騎士団(ミラージュナイツ)を思わせる格好の少年は、無感情に答える。

元は純白ではあったが今は煤と泥と血で薄汚れたマントに浮かぶ【剣と盾と十字架】をモチーフにした赤い紋章と、紅に塗られた右の肩当だけがやけにに目立っていた。

 

 

 

『そうだろうさ。血と臓物の匂いだけが俺たちを満足させる。戦いの中でしか、殺し合いの中でしか俺達は生きられん。そういう生物だろ?』

 

『命の爆ぜる瞬間しか、俺達の(せい)は無いと言いたいのか?』

 

『それが真実だ。元の世界から追い出され、ただの神々の暇つぶしのための玩具に成り下がった俺達(フォリナー)に唯一残る自由が”命”だろ? ただの傀儡(くぐつ)となっても生殺与奪だけは俺達の物だ。命を奪い奪われる時だけが、俺達を人形から人間へと戻す』

 

『だから命が失われる最後の瞬間の輝きを、まるで花火でも見物するように楽しむか? 悪いが俺はそこまで悪趣味じゃないさ』

 

『お前とて所詮、体から鉄錆の匂いと腐臭が立ち込める人殺しだろうに』

 

『だからこそだ……所詮は同じ人殺しだからこそ、俺とPoH(オマエ)は相容れない!!』

 

『 HA-ha!! Now It's SHOW TIME!! 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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篭手(ガントレット)の方は問題ないみたいね」

 

作業机の上に並べられたキリトの防具……ガントレットに脛甲(レガース)胸当て(ブレスプレート)肩当て(ショルダーガード)の中で、特に自分が製作したガントレットとレガースを入念にリズベット・アームストロングはチェックしていた。

 

特にガントレットは多重連結(キャタピラ)構造を持ち、ソードブレイカーの機能を持たせながらメタルストリング・リールを仕込んだ凝った造りのために調整には気を使うのだった。

 

「キリトもちゃんとメンテしてくれてるみたいだし、荒っぽく使われてる痕跡はあるけど機能不全の兆候はないわ。使用頻度から考えたら状態は悪くないわ。流石ね♪」

 

するとキリトは苦笑しながら、

 

「武具だから荒っぽく使うのは当たり前だけど、雑には扱わないよ。せっかくリズが作ってくれたものなんだし」

 

キリトの一言が嬉しかったのかリズは上機嫌に、

 

「重畳重畳♪ 私の作った道具に無理をさせるな……な~んてことは、口が裂けても言わないわよ。だけど無理させなきゃいけない時に無理が出来ない状態で放置されてたら、ちょっといただけないもんね」

 

「そういうことだな。それにリズの雷も怖い」

 

そうおどけるキリトにリズはいかにも心外という顔で、

 

「あら? 私の怒った顔はそんなに怖い?」

 

「少なくとも俺にとっては、ご褒美にならないくらいには怖いぞ?」

 

見つめあいながらプッと思わず噴き出す二人だった。

 

 

 

***

 

 

 

「レガースは特にギミックは組み込んでないけど、連結部の磨耗が予想以上ね。確かにパーツ一個一個の重さがガントレットより重いってのもあるけど……一体、どんな人間やめてる動きをしてるんだか」

 

レガースもガントレットと同じくフレキシブルに稼動し装着者の動きを極力妨げない多重連結(キャタピラ)構造を採用してるのだが、リズの言うとおりガントレットと同じ素材を使っているために一個一個のパーツが大きくその分だけ重い。

特にキリトの変態歩法による負荷は半端な物ではないらしく、特にパーツとパーツ接合に使ってる回転軸の磨耗が激しいらしい。

 

「いっそ接合軸受けにボールベアリング構造でも採用しようかな? そこまで精度にこだわなければ自作できなくはないし」

 

すでにいくつものアイデアが脳内に飛び回ってるらしいリズ。その笑みからすると心底楽しそうだ。

 

「あっ、でもキリトって蹴り技は使うほうだよね?」

 

「ああ。基本的に両腕は武器で埋まるから、必然的に格闘体術は限られるし」

 

「そっかそっか。ねぇ、レガースはもう少し重くなっても平気?」

 

「程度にもよるけど、まだ余力はあるよ」

 

「なら、ニーガードだけじゃなくてトゥガードとヒールカップも一体化して組み込んだほうがいいかもね。う~ん……となると、改良じゃなくていそ再設計したほうが早いかな?」

 

楽しそうなまま表情のリズはデザインノートにスケッチを描き出す。だが気が付くと、

 

「どうしたの?」

 

いたわるような優しい瞳でキリトは見ていた。

 

「すまないな。いつも面倒かけて」

 

「いいわよ。気にしないで♪ わたしとしては半月前にふらりとオラリオに”戻って”きた時、真っ先にわたしの店に顔を出してくれたことが嬉しかったし……1年前はわたしがまだ店を出してなかったせいもあるけど、ニアミスすることすらなかったから。キリトがいたことも随分後に知ったわけだしね」

 

「あの時はすまない。【赤目の(ブラッディアイ)ザザ】を追ってた時だったからな……目的は果たしたけど、街に長居するのは危険だった。まだジョニー・ブラックやPoH(プー)の足取りが掴めない以上、あの時点で正体がばれるわけにはいかなかったんだ」

 

 

 

「キリトは、まだ追ってたんだよね……」

 

「俺にとっては遣り残した宿題みたいなものさ……目を逸らしては不安ばかりが増えて、終わらないと安心できない。遅れれば遅れるだけ切羽詰って手が付けられなくなる」

 

「あはは♪ キリトって結構、夏休みの前半に宿題終わらすタイプでしょう?」

 

「よくわかったな」

 

リズはふと懐かしそうな……だけど決して楽しいだけではない表情で、

 

「本当に色々あったね……あの頃は」

 

「そうだな。色々在りすぎた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ここにある恐ろしいデータがある。

 

”この世界”に転生し受肉した256,446人の異世界人(フォリナー)のうち5万人以上が既に死亡し、転生者人口は20万人を割っているのだ。

最初のフォリナーが生まれて半世紀も経ってない現状では、当然のように老衰により天寿を全うした人間は居ない。

 

最も死亡者数が多いのは、新生児~2歳までの乳幼児期の死亡だ。

オラリオを含め”この世界”では、現代日本のような手厚い福利厚生制度や医療福祉関連の社会システムは存在しない。

治癒魔法はあっても、当然のように科学的根拠に基づく近代医療は無い。経験則を柱とした統計学的な生薬を用いた薬草学は我々の知る漢方薬膳より発達してるが、化学薬品(ケミカル・メディスン)のような大量生産/安定供給が可能なものはない。

 

衛生環境の整った病院や疫病に対する予防接種や栄養学的な意味での社会補助も存在しなければ、公衆衛生の概念も未発達……つまり抵抗力の弱い乳幼児の死亡率が現代日本と比べるなら異様に高いのだ。

 

現在の地球でも社会システムの整ってない、あるいは内戦などで崩壊したままの国での新生児の死亡率は高く、例えば2013年の統計では新生児の死亡率が10%を超える、つまり10人中1人以上の割合で新生児が死ぬ国が、二つも存在する。

そして、この世界の新生児死亡率は平均的に『それよりはマシ』程度だ。

 

同じ理由で、疫病を含む病気や感染症を含む怪我による死亡率は高く、またあまり近代国家ではあまり聞かない有毒生物の毒素による死亡や、モンスターを含む危険生物に襲われ捕食されての死亡も決して無視できない数字で存在する。

例えば、ダンジョンにおける死者も大抵はここに含まれる。

 

また目立った死亡数を誇るのが意外にも……いや、それとも当然というべきか?

その死因が『自殺』だった。

ゲームを遊びと割り切り、遊びでなら戦うことができてもそれがリアルな殺し合いが頻発する世界となれば話は違ってくる。

例えば、ゲームをやめれば豊かな物資に溢れた”豊かで幸福な現実”に戻れる……現代を生きる日本人としては願うことすらない当たり前な感覚でSAOにダイブしていた人間がほぼ全員だっただろう。

しかし……その当たり前は容赦なく打ち砕かれ、現代生活への帰還は不可能。残されたのは生死が一枚のコインの裏表のように張り付いている非近代的な世界でのサバイバル……

果たしてこの過酷な現実に、どれほどの人間が適応(アジャスト)でき、またどれほどの人間が現実を拒絶したのか……

最大の現実逃避が死であることは、今も昔も変わらない。

 

 

 

無論、人間同士の争いによる死亡も現代日本よりずっと多い。

オラリオなどの大都市や国家系ファミリアを除けば、”この世界”の大半は非法治地域……悪く言えば某世紀末救世主伝説的な意味も含めて、力が物を言う自由と強欲の無法地帯だ。

キリトも前(第005話)に語っていたが、この世界は山賊などの野党はごまんといる。

働くより奪うほうが楽で効率がいいと考える輩は、決して珍しくないのだ。

大は軍隊まがいの大盗賊、小は街の強盗やチンピラの小競り合いまで、とかくこの世界は殺人沙汰が身近にあった。

 

これは単純な治安の問題だけではなく、教育制度や価値観などあまりに多くの要素が含む問題であり、一概にはこれがたった一つの原因とは言えるものはない。

一番よい方法は、一度誰かがこの世界を制覇、きっちりとした法制度を施行し、法治国家を形成することなのだが……今のところその気配は欠片ほどもない。

 

 

 

大きな意味では上記の事例に含まれるのだが……

だが、キリトやリズのようなフォリナーにとって決して”無視できない死、いや殺人”があった。

 

それは『組織的/計画的な殺人による死』を引き起こす者たち……殺人ギルド【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】の存在である。

 

 

 

***

 

 

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)

 

通称”ラフコフ”。

この組織は殺人ギルドであるが、他にもいくつか確認されてる犯罪系結社(ギルド)にはない特徴があった。

それは、『転生者(フォリナー)だけで結成されてる組織』だということだ。

 

ラフィン・コフィンが結成されたのは、今から約6年前とされているが……

それより前に、【ラフィン・コフィン】誕生のきっかけとなった事件がある。

 

皆さんは【闇派閥(イヴィルス)】というものをご存知だろうか?

それは、かつて”邪神”を名乗る神々が興した過激派ファミリアの総称であった。

過去形にしたのは、その本体と呼べるものは過去にギルドを中心とした各有力ファミリアが連携した討伐戦により壊滅したからだ。

だが、残党は未だに存在し地下に潜伏し暗躍してると噂されている。

 

 

 

さて、そのイヴィルス残党の中で最も名を知られ過激な活動を行なっていたのが、邪神系ファミリアの元メンバーのフォリナーで結成された【ラフィン・コフィン】だった。

 

彼らはイヴィルスが壊滅した後に『役立たずな神を捨てる』為にファミリアを抜け、邪神の統制さえも受けつけぬ犯罪結社となり、リーダーの”PoH”を中心に組織だった大量殺人を開始した。

驚くべきことに彼らが組織として実質的な活動をした4年間の間に殺害した延べ人数は、判明してるだけで2000人を超えるとされ、そのうち1037人はフォリナーだったのだ。

 

また、彼らが一種の殺人カルト集団と認識されているのは、彼らの掲げるお題目の一つが『フォリナーの神々からの解放』だったからだ。

 

 

 

実はこの【ラフィン・コフィン】と先に述べた『自殺』は密接に関係をしていた。

死と隣り合わせの世界という現実を拒否したいけど、様々な理由で自ら死を選ぶことも出来ない……そんなフォリナーの何割かが心を狂わせることは、想像に難くない。

自分が死ぬくらいなら誰かまわず巻き込んで道連れにしてやろうというのは、古今東西を問わず自殺型テロリストにはありがちな発想だ。

例えば、『自分だけが死を選ぶほど不幸なんて許せない。こんなクソみたいな世界でそれでも幸せな奴は許せない。妬ましい。どうせなら皆で不幸になり、皆で死ぬべきだ。こんな世界滅んでしまえばいい』というような……

 

そんな狂人化したフォリナーの受け皿となったのも、また【ラフィン・コフィン】だったのだから……

 

 

 

***

 

 

 

しかし、これに対して自然発生的に他のフォリナーから悪性ウイルスに対する免疫反応のようにとある組織が秘密裏に発足する。

ラフィン・コフィン(ウイルス)】の活動開始から遅れること1年……その”抗体(アンチボディ)”の名を、

 

【血盟騎士団】

 

と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
『ダンキリ』における【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】の解釈は如何だったでしょうか?

今回、次回と少しキリトたちの過去を語る回にしようかと思います。
なんせ過去から今に続く彼らとの因縁は、ストーリー全体に関わってきますし……

誰が斬りを結んでいるのかわかりません(笑)が、冒頭のあれは過去の情景です。
あの頃は二人とも人間の範疇の強さだった?

ネクスト・エピソードはいよいよ血盟騎士団の結成秘話になりそうな……?
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう♪

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