ダンジョンにキリトが潜ってるのは間違っているだろうか   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ。
今回は一部の皆様が待っていた……かもしれない(笑)、アイズ・ヴァレンシュタインがメインのエピソードです。
言ってしまえばこれまでのエピソードが『ダンまち』本編的な物だとすると、今回のエピソードは『ソード・オラトリア』的な風味かもしれません(^^




第006話 ”アイズたんがダンジョンで誰かを見つめるのは間違っているだろうか?”

 

 

 

彼を初めて見たとき、気が付くと私は目が離せなくなってた……

 

 

 

***

 

 

 

(困った……)

 

ダンジョン攻略を目指していた私達【ロキ・ファミリア】の選抜パーティーだったけど、第17階層でミノタウロスの集団とエンカウント。

パーティーの戦力的に言えば、それ自体は困ったことにはならない……簡単に返り討ちにできる力が普通にあった。

でも、そこに油断があったと思う。

 

(まさか一斉に上層へ逃げ出すとは思わなかった)

 

ミノタウロスの団体は、自分達の不利を悟ったんろうか?

半分ほど同族を減らした途端、一斉に踵を返して逃げ出した。

まさかミノタウロスがそんなに知恵が回るとは思わなかった私達は反応が一歩遅れた。

 

邪魔なものをモンスターであれ障害物であれ人であれ薙ぎ倒して全速力で逃げるミノタウロスの群れと、それを同じく全速力で追いかける私達のパーティー。

 

仲間(ファミリア)”の腕前は折り紙つき。だから一匹また一匹と追いつき仕留めることができた。

だけど、

 

「まずいな……」

 

そう呟いたのはファミリアの副団長でエルフの魔導師の【リヴェリア・リヨス・アールヴ】だった。

その苦い表情の理由は、最後の一匹が幸運なのか特別なのか他のミノタウロスの犠牲を隠れ蓑に表層近く昇ってしまったことが、リヴェリアの追跡魔法でわかったからだと思う。

 

「アイズ、追跡(チェイス)してもらえますか?」

 

そう提言したのはファミリアの団長でパーティーのリーダーでもある小人族(パルゥム)のフィン、【フィン・ディムナ】だ。

 

「わかった」

 

特に迷うこともなく私は返事をする。

フィンの判断に間違いは極めて少ないし、なにより私も自分が一番の適任だと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

最初に彼を見たとき素直に驚いた。

黒尽くめの、どこかシルフを思わせるほっそりとした少年だ。その顔つきから見ると少女に見えないこともないけど、多分少年だと思う。

多分、身長は私と同じくらいか少し低い感じ。雰囲気から考えると多分、年下。

だけど、その痩躯と言っていい華奢な体つきから放たれる斬撃は体格に反して、

 

(鋭く力強い……!)

 

大事なことなので二度言うけど、私は驚いていた。

その少女のような少年は、私達が逃がした最後の一匹のミノタウロスと『たった()()で斬りあって』いた。

 

それが一級冒険者だとするのなら、さほど珍しい話じゃないかもしれない。

でも見た感じはそういう風には見えない。

うまく言葉にできないけど、『ダンジョンに潜りなれた』感じがしない。

 

私もそれなりにダンジョン攻略に参加してるから肌で判る。

この『ダンジョンの土と泥で汚れた』気配のしない少女っぽい少年は多分、かなりの確度で【下級冒険者(かけだし)】だと思う。

でも、

 

(剣技だけは下級冒険者のそれじゃない……)

 

その片手から繰り出される一太刀は、【神の恩恵(ファルナ)】を受けてない人間なら一撃で屠れるほどの鋭さと重さと速さがあった。

大きな根拠は無いけど、どうしても巧みな一撃離脱(ヒット&アウェイ)を繰り返すその子がミノタウロスに蹂躙される姿が不思議と思い浮かばなかった。

 

その時、私は気付いてしまった。

私がその子から目が離せなくなってることに……

 

「私はもしかして惹かれてる……の?」

 

 

 

***

 

 

 

まるで足に羽根が生えてるような速く軽快なステップから鋭い斬撃を放ち続ける黒い少女っぽい少年剣士(?)だったけど、

 

(そろそろ限界かな?)

 

その子の剣は中級クラスの冒険者が主装備にするようなそこそこ良いものみたい。でも、もう刃が悲鳴を上げているのが聞こえた。

ミノタウロスも傷だらけだけど、黒い少年の剣の方がダメージが大きそうだ。

 

(あの子と剣が釣り合ってないんだ……)

 

速いだけじゃない。見た目よりずっと重そうな剣撃なのだろう。

あのままだとミノタウロスの力とあの子の速度の鬩ぎあいの中で折られるか、

 

(あの子自身の斬撃に耐えられなくて折れてしまう)

 

それはあまり面白くない未来だった。

なんで面白くないの?

剣を失ったあの子が負けてしまうから?

そうじゃない。

私は勝敗はどうでもいいと思っていた。

あの子が殺されるのが良くないなら、勝負がついたその時に割って入ればいい。

無粋かもしれないけど、あの子だって死ぬよりはいいはずだ。

 

(そっか……)

 

なんとなくわかってしまった。

 

(私はあの子を、”あの子の激しい()()”をずっと見ていたかったんだ……)

 

仲間は好き。だからファミリアのメンバーも好き。

でも他にはあまり関心はない。

だから私は自分に少し戸惑う。

自分に関係のない誰かに惹かれるなんて初めてだったから。

誰かの剣閃に目を離させないなんて初めてだから。

 

「もしかしてこれがロキの言ってた”執着”なのかな……?」

 

私の呟きに答える声は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***************************************

 

 

 

 

 

 

 

私の予想通り、その時が来た。

片手で握っていた長剣を両手握りに持ち替え全力を乗せた少年の剣、両手平突きだったけど……ミノタウロスの放ったカウンター気味のロングホーン・アタックでぽきりと折られてしまう。

 

(そろそろかな?)

 

私は腰に下げるのではなく背中に斜めに背負った”暫定の愛剣(スペア・ソード)”、【ΕΛΥΣΙΟΝ(エリュシオン)】の柄を握る。

本来の私の愛剣は左腰に鞘ごと吊るす片手細剣【デスペレート】だけど、今回のダンジョン攻略では武器関係で付き合いが深い【ゴブニュ・ファミリア】の依頼で、試作剣の”試し切り役(テスター)”を仰せつかっていた。

慣れない剣だし、ダーナ神族系の鍛冶神ゴブニュが『銀の義手(アガートラム)を作る過程で試行錯誤した様々な技術やアイデアを戒律に触れない程度にリファインした新機軸』というのを盛り込んだせいで非常に癖が強い……私にとっては扱いにくい剣だけど、階層主級を相手にするならいざ知らずミノタウロスを斬るくらいならどうとでもなる。

 

そう思って駆け出そうとした時、

 

「!?」

 

私は信じられないものを目にしていた。

 

 

 

***

 

 

 

その少女のように華奢な少年は……

長剣を失い、戦う術をなくし立ちすくむしかないはずの少年は……

 

「笑ってる……?」

 

恐怖に飲み込まれ心の均衡を崩したような哄笑じゃない。

もっと純粋で心から滲み出た感情が不純物を交えずに表情になったような……

微かに、でも確かに()()()()に笑っていた。

 

 

 

”ぞくり……”

 

私の背筋に一瞬、悪寒に近い何かが走り抜ける。

 

(確信した……)

 

視線の先にいる”アレ”は、間違っても脆弱な新米冒険者(かけだし)なんかじゃない。

もっと遥かに強靭で危険な生物だ。

きっと”冒険者”って枠組みにも収まらない”何か”……

 

手に持つ武器は、長剣とは比べ物にならないほど小さい二振りのナイフ……

それなりに出来はよさそうな気はするけど、ミノタウロスと戦うにはあまりにか弱い武器だ。

でも、それでも『少年が負ける』というイメージが今なお浮かんでこない。

 

(まるで猫科の獣……)

 

私にはモンスターを相手取るには威力不足なはずの両手のナイフが剥き出しの双牙のように見えた。

さっきの一撃を上回る瞬発力と速度を捻り出そうと縮められた黒い衣装に包んだ身体は、猫科の獣が自分より大きな獲物を仕留めるため必殺の急所を狙う姿を髣髴させる。

 

「綺麗……」

 

本当なら獰猛で荒々しい姿のはずなのに、私は気が付くとそんな言葉を唇から漏らしていた。

 

 

 

***

 

 

 

『このままでいいの?』

 

「だれ?」

 

聞いたことの無いような、でもとても聞き覚えのあるような声に私は左右を見回してしまう。

 

『彼は強い。貴女が警戒するのも、警戒しながらも惹かれるのも当然よ』

 

「うん……」

 

認めよう。

誰の声かはわからないけど。

確かに私は『未知の危険な存在』を警戒している。

そして同時に惹かれている。『危険だけど綺麗な存在』に……

 

『でもこのままだと彼、死んじゃうんじゃない? ナイフだけで戦うにはミノタウロスは危険な相手よ』

 

「それは……嫌。私はもっと彼を見ていたい」

 

それは自分でも驚くほど素直に言葉になった。

 

『ならば、貴女のできることをしなさい。あなたが見たい彼の姿をどうすれば見られるのか考えなさい』

 

私は握ったままの”エリュシオン”の柄に力を加えて、鞘から引き抜いた。

 

『そう。それでいいのよ”私”』

 

私は”漆黒の長剣”を振りかぶって、

 

「使って」

 

剣と同じ黒色に染まる”彼”に向かって投擲した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
原作と比べて大分雰囲気が違うアイズたんは如何だったでしょうか?
原作アイズFanの皆様の反応がちょっと怖いです(^^

いや~、でもこの拙作『ダンキリ』の中のアイズは一度しっかり掘り下げてみたかったんですよ。
何しろキリトにとって『憧憬』ではなく、もっと『リアルで生々しい』存在になっていくと思いますから。

もしかしたら次回もアイズ視点かもしれませんが、楽しみにしていただけると嬉しいです。
皆様のご意見ご感想をお待ちしております。
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