ダンジョンにキリトが潜ってるのは間違っているだろうか 作:ボストーク
皆様、こんにちわ。
本日二度目の投稿となるこのエピソードで、ストーリー全体のプロローグ『キリトとアイズ、ダンジョンでの邂逅』はとりあえずおしまいです。
先ずはここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
まさかまさかお気に入り登録が100件をいつの間にか越えていて、本当に感謝です!
また今回はいつもの後書きではなく、いつもと趣向を変えて少しエピローグ的なものにしてみました(^^
これからもどうかよろしくお願いします。
それは平和(?)なある日、
『キリト、【
爆弾を落とした張本人、エリュシオンの”
「理由はいくつかある。先ずはお詫びとお礼」
けろりと言い放つ。
お詫びは俺がエンカウントしたミノタウロスは下層(17層だっけ?)でアイズのパーティーが逃がした個体だということで、お礼は俺とミノ公のバトルを見物してたかららしい。
それにしたって払いすぎだ。
エリュシオンはゴブニュ・ファミリア謹製の一級装備、ならば500万ヴァリスは下らない。
どこぞのサラ金じゃあるまいし、過払い金の払い戻しなんて応じたくない俺はそのあたりを指摘すると……
「わかってる。だから『あげる』とは言ってない。それに【エリュシオン】は私のものじゃないし」
「? ごめん。意味がわからない」
いや本当に。
「キリト、それはね……」
アイズの口から飛び出したのは、
「キリトが【エリュシオン】の”
ちょっと待ったあっ!
***
「いやホントにちょっと待ってくれ。何をどうしたらそういう突飛な結論に落ち着く?」
読めない。
この娘の思考パターンが読めない。
「凄く簡単な話。キリトは私と種類は違うけど強い。私より【エリュシオン】との相性もいい。テスターをするには私より適任。我ながらいい判断」
うんうんと納得したように頷くアイズだったけど……いや、そういう問題じゃないだろう?
「だから待てって。【エリュシオン】のテスターはロキ・ファミリの誇る”剣姫”、Lv.5の上級冒険者”アイズ・ヴァレンシュタイン”だからこそ鍛冶屋の名門【ゴブニュ・ファミリア】から直々に依頼されたんだろ? それをぽっと出のLV.1冒険者が勝手に受け継るってもんでも受け継いでいいってもんでも……」
「問題ない。私がキリトを代理に推薦しておく。こう見えても交渉は得意」
無表情のドヤ顔ってのもかなりレアだな……
それは置いておくとして、なんなんだろうな? この信憑性の無さは……
「それにキリト……この剣をもっと使ってみたくない?」
「うぐっ……」
痛いところを突かれた。
「キリト、いつも剣が長持ちしないよね?」
まるで見てきたように確信じみて言うアイズに、
「ああ」
俺は頷くしかなかった。
「ミノタウロスに折られなくても、もうあの剣は駄目だった。あの剣はもうキリトの剣撃に耐えられなくなってた」
さすが剣姫というべきか?
見るべきとこはしっかりと鋭く見ていたってことか……
「キリトはいつもこう思ってたんじゃないかな? 『俺が全力で振るっても壊れない剣が欲しい』って」
ぐうの音も出ないとはこのことだろう。
「全てお見通しか~」
「私もそうだったから。見て」
アイズは左腰に下げた鞘からサーベルのような細い両刃の片手剣を抜いた。
(こっちはこっちで凄い業物だな)
使い込まれた剣独特の迫力はもちろんあるが、それ以上に剣そのものが地で持つ迫力がそこいらの剣と違う。
「差し詰め『抜けば玉散る氷の刃』ってところか?」
「私の愛剣【デスペレート】。この子に会うまで何本も剣を駄目にした」
”
いや、それに関してはエリュシオンも人のことは言えないか?
なんせエリュシオンの意味は、
(『神に祝福されし死者の楽園』だからな……)
【ゴブニュ・ファミリア】のネーミングセンスはかなり微妙だ。
「『剣を壊さないように加減しながら戦う』術は覚えたけど、でも壊れることを気にしないで全力で剣を振るってみたいって気持ちはずっとあったから」
剣を壊す可能性のある剣士が持つ悩みは、皆一緒か……
***
「私には【デスペレート】があるから。それに【エリュシオン】はキリトの方が力を引き出せる気がする。きっと【エリュシオン】も私よりキリトに振るってもらいたいと思ってる」
殺し文句だ。
エリュシオンはおそらく俺が今まで握ってきた剣の中で最上ランクの代物だろう。
少なくともエリュシオン以上に手に馴染み、また振りの感触が軽い剣は出会ったことが無い。
認めよう。俺はエリュシオンを気に入り始めてる。
アイズに返すのを心のどこかで惜しいと思ってる。
(名剣を目の前に、ここまで言われて心動かないようなら剣士じゃないよな……)
「だから私はキリトに【エリュシオン】をあげるんじゃなくて、テスターの権利を譲るだけ。これなら対価として高すぎることはない」
「まあ……そうなるのかな?」
だけど、アイズは俺の逡巡を戸惑いや躊躇いに感じたのか、
「それでもキリトが高いと感じるなら……これもらっていい?」
そうひょいっとアイズが地面から拾い上げたのは、
(さっき取り落としたナイフか……)
アイズが投げたエリュシオンを受け取るとき、右手で握っていたナイフだった。
「かまわないが……いいのか? 俺が言えた義理じゃないけど、そのナイフは知り合いのまだ”新米”の枕詞が取れない鍛治師の卵が練習用に作ったものだぞ?」
とても剣姫殿に似合うような代物じゃないと思うが?
「いい」
アイズは短く返すとしげしげと手に取った”リズお手製のナイフ”を時折角度を変えながらじっくり見て、
「たしかにまだ出来は粗いかもしれないけど雑には拵えてない。丹精込めて造ってるのがよくわかる。いいナイフだよ? なんとなくキリトの剣技に似てる」
そしてアイズは微かに微笑んで、
「きっとこれを造った人は腕のいい鍛治師になる。そんな気がする」
**************************************
「交渉成立……でいいのかな?」
アイズはこくんと頷いた。
「もう【エリュシオン】は、俺が使っていいのか?」
言葉の代わりにアイズは背負っていた長く刀身と同じ漆黒に塗られた鞘を俺に手渡した。
「アイズ、感謝する。おかげで良い剣に巡りあえた」
するとアイズは首を横に振って、
「キリトがさっき言った台詞を返す。お礼を言われたり感謝したりされる理由は無いよ。私なりに”ケジメ”をつけただけだから」
「そっか……」
俺は小さくアイズに手を振り、そのままダンジョンの”
「ダンジョンから出ないの?」
声に振り向くと、アイズが小首を傾げてた。
「ああ」
せっかくだし……
「少し試し切りをしてくる。本当にテスターのお鉢が回ってくるのなら、もう少し馴染んでおきたいし性能を把握したい」
「わかった。気をつけて」
「ありがとう」
こうして俺とアイズの邂逅は静かに終わりを告げた。
色々変わった娘だと思うし、独特の雰囲気もあって今一つ会話がかみ合わなかったり、時にはダンジョンの中なのに天を見上げたくもなったけど……
(変わってるけどいい娘なんだろうな。多分)
こうして俺はもう一度、ダンジョンの深部を目指す。
(このまま10層、可能なら11層あたりまで足を伸ばしてみるかな?)
二桁階層のモンスターは、間違ってもダンジョンに潜ってまだ半年の冒険者が戦っていい相手じゃないけど、新たな漆黒の愛剣……エリュシオンとならどこまでも征けるような気がしていた。
この時、俺はもう魅了されていたのかもしれない。
エリュシオンと、それを授けてくれた……
(アイズ・ヴァレンシュタインか……)
それが恋心と呼ぶべきものだったのかは、判らないけど。
余話:狼と好敵手
アイズと別れて下の階層を目指していた俺は、ふととある大岩の前で足を止めた。
「おい」
俺は大岩に近づく僅か前に、岩陰に身を隠した正体不明の”
俺が誰かに覗かれてる気配を察したのは、アイズとずれた会話をしていた時だったろうか?
アイズでなく”明確に”俺に向けられた隠し切れない剥き出しの敵意みたいなものを感じたんだけど、質の悪い悪意や粘つくような感覚じゃなかったせいもあり、特に実害が無いので放置していた。
「出て来いとは言わないし、手を出すつもりがないならこっちから仕掛けるつもりも無い」
大方、アイズのパーティーのメンバーが心配して後を追ってきて、
(出るタイミングを失ったとかだろうな~)
そう俺はあたりをつけた。
さっきのシチュエーションじゃ、確かにタイミングを外すと顔を出しづらいだろう。
「じゃあな」
俺は姿の見えない相手にそう声をかけて奥へと足を向けた。
***
キリトが姿を消し、完全に気配も消えた後……岩陰からばつが悪そうな顔で姿を現したのは銀髪の”
「……気にいらねぇ!」
その声は、隠そうともしない苛立ちに満ちていたという。
だが、誰も聞いてないと思っていたその声はしっかり聞かれてた。
背後から来るその人物に。
「? ”ベート”、こんなところで何してるの?」
「うっ……!」
言葉に詰まるロキ・ファミリアの一員”ベート・ローガ”が不思議そうな顔をしてるアイズにどんな言い訳をしたのか?
残念ながら、どの記録にも残っていないようだ。