問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━   作:針鼠

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一体いつからだっただろうか

 突然の地鳴りがゲーム開始の合図であった。地鳴りと共に景色が光に包まれる。

 次の瞬間には天をつくばかりの境界壁も、巨大なキャンドルランプも忽然と姿を消し、代わりにまったく別の街がそこに広がっていた。

 

 

「これはまさかハーメルンの街!? なら十六夜さんの推理は正しかったというわけでございますね」

 

「謎を解いても意味は無いわ」

 

 

 黒ウサギ、サンドラ、信長の3人が足を止める。敵の主力プレイヤーを前に堂々と姿を晒した斑模様のワンピースの少女――――黒死斑の魔王、ペスト。

 

 

「ただ黙ってステンドグラスを捜させるわけないでしょう?」

 

「いえ、ここで貴女を倒しても黒ウサギ達の勝ちですヨ?」

 

 

 らしからぬ挑発を放つ黒ウサギを、ペストは鼻で笑った。悠然と微笑む少女から黒い風が噴き出す。

 

 

「残念だけど、それも無理ね」

 

「サンドラ様!」

 

 

 後ろで窺っていたサンドラが炎を放つ。同時に黒ウサギも疑似神格(ヴァジュラ・)金剛杵(レプリカ)の雷撃をペストに向けて撃った。

 神格級のギフトによる同時攻撃。

 

 それを、ペストは黒い風を一薙ぎするだけで打ち消した。

 

 

「まさか、この程度で全力とは言わないわよね?」

 

 

 見下し、嘲弄するペスト。死の風は無尽に吹き荒れる。

 

 

「あの風は黒ウサギとサンドラ様で抑えます。信長さんはその隙を突いて下さい!」

 

 

 サンドラが声を出して応え、信長は無言だった。やはり、信長の様子がおかしい。

 そう感じた黒ウサギだったが今更それを待ってくれる状況ではない。いや、たとえ相手が待ってくれても黒ウサギ達には時間が無い。

 

 その後も真正面から火炎を放ち続けるサンドラに対して、黒ウサギは跳躍を繰り返しあらゆる方向から雷を撃つ。

 しかしペストは動かない……というより、動く必要が無いというようにただ風が炎を、雷を掻き消す。再びその隙を突いて信長がペストの懐に飛び込む。振り下ろした刀を、ペストは片手で受け止めた。

 

 

「馬鹿にしているの? それともこれが全力?」

 

「…………」

 

「やっぱり買いかぶりだったみたいね」

 

 

 はぁ、と落胆したようにため息を吐くペスト。その背後から触手のようにうねる風が信長を襲った。

 

 

「信長さん!」

 

 

 寸でのところで後退するも僅かに掠ったのか、屋根に降り立つなり信長は片膝をついた。

 

 

(やっぱり信長さんの動きが悪いです。いつもならあの程度簡単に躱せるはずなのに……)

 

 

 チラリと見たサンドラも息が上がり始めている。

 彼女にとっても初の魔王とのゲーム。いやそれどころか、生まれた頃より類稀なる才を持つ彼女にとっては同格以上の相手との実戦が初めてなのかもしれない。肉体的疲労より、精神的な疲労の方が大きいはずだ。

 

 ここは一旦間を取る必要があると判断した黒ウサギはペストに向けて問いかける。

 

 

「黒死斑の魔王、貴女の正体は神霊の類ですね」

 

「え?」

 

「そうよ」

 

「えっ!?」

 

 

 2人のやり取りに思わずサンドラは声を上げる。黒ウサギの突然の発言にも、それをあっさり肯定するペストにも、だ。

 

 神霊ともなればあの星霊、白夜叉と並びうる霊格の持ち主ということだ。箱庭最強種の一つ。それが彼女の正体だというのか。

 

 

「貴女の持つ霊格は『130人の子供の死の功績』ではなく、14世紀から17世紀にかけて吹き荒れた黒死病の死者――――『8000万人もの死の功績を持つ悪魔』」

 

「はっせん……」サンドラは息を呑んで「それだけの功績があれば神霊に転生することも――――」

 

「無理です」

 

「無理よ」

 

 

 敵味方同時に否定されてサンドラはシュン、とうな垂れる。

 

 

「最強種以外が神霊に転生するには『一定数以上の信仰』が必要となります。如何に規格外の死の功績を積み上げても神霊にはなれません」黒ウサギは一拍置いて「ですが、信仰とは別に恐怖という形でも構わないのです。恐怖もまた信仰足り得る……。しかし後の医学が『黒死病(あなた)』を克服する手段を見つけてしまったことで、貴女は神霊には成りきれなかった。だから、最も貴女を恐怖する対象として完成されていた形骸として《幻想魔道書群(グリム・グリモワール)》の魔道書に記述された《斑模様の死神》を選んだ――――」

 

「残念ながら所々違うわ」

 

 

 黒ウサギが時間稼ぎを狙っていることはペストも気付いていた。しかし時間稼ぎは彼女にとっても望むところ。ペストはその上で語った。

 

 

「私は自分の力でこの箱庭にきたわけではない。私を召喚したのは魔王軍、幻想魔道書群を率いた男よ」

 

 

 一気に黒ウサギの顔に驚愕が浮かぶ。

 

 

「8000万もの死の功績を積み上げた悪魔……いいえ、8000万の悪霊群である私を死神に据えれば神霊として開花出来ると踏んだのでしょうね」

 

 

 その彼は、ペストを召喚する間にギフトゲームでこの世を去った。

 

 

「私……いいえ、()()が主催者権限を得るに至った功績……この功績には、死の時代に生きてきた全ての人の怨嗟を叶える特殊ルールを敷ける権利があった。黒死病を世界中に蔓延させ、飢餓や貧困を呼んだ諸悪の根源――――怠惰な太陽に復讐する権限が!」

 

 

 8000万もの怨嗟に応えるべく太陽に復讐を。彼女の願いはあまりに深く、あまりに無謀で、あまりに大きい。

 

 黒ウサギは背中に冷や汗が流れるのを感じた。いよいよもってこのままでは打つ手が無い。サンドラの火炎も金剛杵もペストには効かない。おまけに信長の様子もおかしい。これでは切り札を出す隙は作れない。

 

 

(十六夜さん……)

 

 

 いつも颯爽と現れては出鱈目な力で薙ぎ倒していく少年を思いながら、黒ウサギは8000万の怨嗟と対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな振動が街を揺らす。交戦していたペストの手が止まった。

 彼女には月の兎のような便利な耳は持ちあわせていない。しかし彼女達は魔道書を通じて互いを感じ合っていた。――――その感覚が消えた。

 

 ラッテンとヴェーザーが負けた。やがて応戦していた敵の増援がここに集まってくるだろう。それでも負けるとは思わないが。

 しかし、ステンドグラスを守りながらとなると話は違う。

 

 ペストはひとつの決断を下す。

 

 

「止めたわ」

 

 

 刹那、黒い風が天を穿つ。雲海を消し飛ばした風が街を包んだ。空気は腐敗し、鳥は落ち、鼠が死に絶える。先ほどまでとはまるで違う。

 奪うのではなく――――死を()()()()

 

 危険を感じた黒ウサギが咄嗟に放った金剛杵の雷撃をも一瞬で消し飛ばす。拮抗など許さない。先程までとは違う濃密な気配。それを見て慌てて黒ウサギとサンドラは逃げ出した。

 

 目で追うペストの指先の動きに導かれて死の風が吹く。逃げ惑う2人の少女を無視して、屋根でしゃがみ込む少年に向かった。

 

 

「信長さん!」

 

「駄目! 黒ウサギ!」

 

 

 取り残された信長を助けようと、死の風の渦に戻ろうとする黒ウサギをサンドラが引き止める。

 屋根に肩膝をついて咳き込む信長。やはり彼は調子が悪かったのだ。もしかしたらすでに黒死病が発症していたのかもしれない。

 だが今更それに気付いたところで遅い。

 

 ペストは黒い風の中心にいる信長を見据え、己の失敗を改める。思えば彼に執着したことが交渉で隙を作ってしまった原因だった。ならば、そのけじめをつけるためにまず彼を殺す。

 それが己の甘さで失った忠臣達へのせめてもの手向けと信じて。

 

 

「死ね」

 

 

 少女の簡潔な命令に風は応える。渦はその隙間を縮めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体いつからだっただろうか?

 

 目にする景色が全て色褪せて見えるようになったのは。

 

 春の暖かさなど感じない。

 夏の生命力など湧いてこない。

 秋の鮮やかさなど目に映らない。

 冬の空はただただ空虚に見えた。

 

 昔は違った。野山を駆け回れば獣を見つけただけで大騒ぎした。洞穴を見つければ未知の世界を夢想し胸を高鳴らせ、木の実は格別のご馳走だった。

 なによりも同年代の仲間と泥に塗れて相撲をとり、刀や弓を学び競い合うことは楽しかった。

 

 あの頃は他愛ないなにもかもに一喜一憂していたはずなのに、いつからかそれはなんの刺激も与えてくれなくなった。

 理由は明らかだった。――――信長が特別だったからだ。

 

 誰も信長には敵わなかった。同年代の子供では束になっても相手にならなかったのだ。赤子と腕相撲をして勝ったところで本気で喜べるはずもない。負ける要素の無い勝負のどこに感動を抱けというのか。

 

 決定的だったのは、信長にとって初陣となる三州吉良大浜での今川との戦。敵の数は2000。対してこちらは800。

 決死の顔付きの者が並ぶ陣中で、信長だけは笑みを抑えられなかった。心臓を高鳴らせながら、当時持てる限りの力を尽くして挑んだ初陣が――――圧勝だった。

 

 信長は呆然とした。

 勝利に沸き立つ家臣達。褒め称える父親の声。

 なにも耳に入ってこなかった。

 

 なにも変わらなかった。あれほど待ち望んだ本物の戦はしかし――――今までとなにも変わらなかったのだ。

 

 織田 三郎 信長はようやくと理解する。この世界において自分という人間は異質なのだと。

 見ているものが違う。聞いているものが違う。

 世界から感じ取るあらゆるものが、常人のそれとは違っていた。

 

 同年代に限らず、家臣や両親、名だたる武将達でさえ終ぞ理解されなかった。出来なかった。

 故に異端だ、と。

 

 唯一近いものが見えていたのは美濃より嫁いでくる帰蝶という名の少女だったが、彼女は信長の事以外見ようとはしなかった。

 

 自分が孤独なのだと理解した信長の人生はただただ虚しいだけだった。いくら自分が命を懸けようが、決して負けないのならば最初から懸けていないのと同じだ。さらに不幸だったのは、信長という人間が平凡な日常に幸せを感じられなかったことだろう。

 

 信長は別に死にたかったわけではない。むしろ誰よりも『生きる』ことに貪欲だったといえよう。しかし死を感じられないのに、一体どうやって生を感じればいいのか彼にはわからなかった。

 だから彼は戦い続けた。戦だらけの時代で、戦いに明け暮れた。そうして積み上がったものは、なにも感じられない勝利だけだった。

 

 そんな信長にとって、この箱庭への召喚は天啓に等しかった。十六夜に白夜叉、そして黒ウサギのコミュニティを壊滅させたという魔王。

 次元違いの格上の存在は、久しくなかった震えを思い出させてくれた。

 

 それなのに彼の空虚が満たされなかったのは、十六夜は仲間で、白夜叉は優しくて、魔王はどこにいるのかもわからなかったから。

 

 そんな空虚が、この数日少しずつ、しかし確実に埋まっていくのを信長は実感していた。理由はわかっている。発症した黒死病の斑を己の体に見たときから。

 あれほど感じることが出来なかった死が、こうも容易く近づいてくる。

 

 体は重く、視界は霞んでいる。それなのにどうして……。

 

 

「止めたわ」

 

 

 自分を囲む黒い風。感覚でわかる。あれは――――『死』だ。

 死を明確な形にしたもの。

 

 あれが僅かでも掠れば、自分は病の進行を待たずして死ぬ。

 

 

(これだ……)

 

 

 あれこそが信長が願ってやまなかったもの。ようやく、ようやく信長は実感出来たのだった。

 

 

(ああ、そうだ。これこそが――――()だ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「信長さん!!」

 

 ペストの死の風が、参加者を庇ったサラマンドラのメンバー諸共信長を呑み込んだ。

 

 

「あ……あぁ……」

 

 

 力なく黒ウサギは膝をついて項垂れる。目からは涙が溢れ出た。

 

 

「また……また仲間を失ってしまいました……」

 

 

 故郷で両親を失い、助けてくれた恩人のコミュニティは崩壊した。そして今また大切な同士を目の前で失った。

 なにが帝釈天の眷属か。なにが箱庭の貴族か。

 仲間のひとりも守れず、いつも失って泣くことしか出来ない自分が憎くて堪らない。

 

 

「く、黒ウサギ! あれ!」

 

「え?」

 

 

 サンドラに肩を揺すられて顔をあげる。彼女が指差す方向には倒れたサラマンドラの戦士達。そう、信長がいない。

 何故。ペストのギフトは死を与える強力なものだが、死体を掻き消すものではない。事実サラマンドラの死体は残っている。ならば一体、

 

 

「どこに――――っ!?」

 

 

 怪訝に眉をひそめたペストは、背後の気配に瞬時に気付いて対応する。振り下ろされる刀をなんとか防御。

 

 

「信長さん!!」

 

 

 喜々と叫ぶ黒ウサギ。どうやって躱したのかはわからない。でもそれは確かに信長だった。それだけで彼女はまた涙を流した。

 

 一方で、奇襲を防がれたことで一旦下がるのかと思いきや、信長は再度刀を振り上げる。

 

 

「舐めるな!」

 

 

 ペストの振り払うような左腕の動きに連動して、風の刃が信長へ放たれる。形状はどんなものであれ、触れれば死ぬことには変わりない。

 黒ウサギでさえ逃げの一手だったそれを、あろうことか信長は向かっていった。紙一重。身を低く潜り抜けてペストの懐へ踏み込む。

 

 予想外の行動に動きが止まるペスト。それでも、刀の動きにだけ注視して備えていたいた思考は、次の瞬間素手で殴り飛ばされたことで真っ白になった。

 

 

「な……がっ!?」

 

 

 十六夜には劣るとはいえ常人を遥かに凌ぐ膂力による打撃は確かにペストにダメージを与えた。それは肉体的にはもちろん。精神的にも大きな傷を負わせた。

 堪らず風を全方位に噴出させたペスト。しかし信長は嘲笑うように軽い跳躍で間合いを取るだけだった。

 

 ふわりと、重さを感じさせない身のこなしで着地した信長。

 

 

「く」

 

 

 ぶるりと震えたかと思うと、次の瞬間喉をそらせて哄笑をあげた。

 

 

「あっはっはっはっはっはっは!!!!」

 

 

 今までとは決定的に何かが違う。だがペストにも、黒ウサギにも、それが一体何なのかがわからなかった。

 

 その考えがまとまらない内に、再び信長が地を蹴った。やはり望むのは接近戦。

 

 

(あり得ない)

 

 

 未だ、ペストは自身に起きたことが信じられなかった。それでも本能は即座に迎撃の構えを取る。

 

 空中に身を投げ出している信長へ殺到する漆黒の風。信長は宙を蹴ると風に向かって前へ跳ぶ。宙返りの様に体を捻り、またしても紙一重で風をやり過ごした。

 

 

「また……!!」

 

 

 叩きつけるかのような刀の一撃。

 それを交差した腕で受けた瞬間、腹部が爆発したかのような衝撃。信長の蹴りだった。

 

 吹き飛んだペストだったが、あわや建物に激突する前に風を操って制動をかける。攻撃を受けた腹を抑えながら、信じられないものを見るように信長を睨んだ。

 

 

「貴方……正気? 素手で私に触るなんて」

 

 

 ペストの言い分は最もだった。

 

 さっきの拳と蹴りの攻撃。もしペストが例の風で体を守っていたら、信長が体に触れた瞬間その場で決着はついていた。

 だからこそペストは武器の攻撃しか警戒していなかったし、黒ウサギ達にしても、最初から遠距離戦にこだわっていたのだ。

 

 それなのに、

 

 

「……こう…………じゃない」

 

 

 刀を持つ右手とは逆の手で鉄片を掴んだ信長。ペストの声すら聴こえない様子でそれを幾度か無造作に振っていたかと思うと、それは起きた。

 

 

「こうだ」

 

 

 バチン、と紫電が走った。黒ウサギが目をまん丸に見開く。当然だ。今自分はあり得ない光景を見ている。

 

 

「も、もしかしてあれは……私の……私の疑似神格・金剛杵?」

 

 

 見紛うはずがない。規模は小さい。感じる霊格も圧倒的に低い。しかし、あれに宿っているのは確かに帝釈天の雷だった。

 

 紫電を纏った鉄片を信長は槍のように投擲。

 だが、黒ウサギのものが通じなかった相手に、さらに威力の落ちた信長のものが通じるはずが無い。ペストが腕を一薙ぎするだけで鉄片は朽ちた。

 

 

「まだまだ!」

 

 

 信長が駆け出す。ペストに対して直進するのではなく、大きく円を描くように走る。その際手近なものを拾い上げてはペストに投げつける。なんとそれら全てに帝釈天の雷が宿っていた。ただの石ころひとつにまで。

 

 

「ありえない……ありえないのですよ」

 

 

 帝釈天の眷属どころか、その存在すら知らなそうな信長があの雷を使えるはずがない。なら、あれを為しているのは彼に宿るギフトだ。

 グリフォンのときのように、黒ウサギのギフトを見よう見真似でコピーしてみせた。

 

 いや、はたして信長のギフトは本当にコピーなのか?

 

 相手のギフトをコピーするギフトは決して珍しくない。身近な者でも例えば耀などは、友達となった動物達の能力を自身に反映させることが出来る。超人的な身体能力に、鋭い感覚器官はそれらを複合させているのだ。

 信長もまた確かにグリフォンのギフトをコピーした。だが、彼は完全にそれを模倣することは出来なかった。風を操り、空を踏みしめるグリフォン……信長がコピー出来たのは、精々数度空を蹴ることくらいだった。

 それに信長はグリフォンのギフトをコピーすることは出来ても、耀の動物と話すことの出来るギフトはコピー出来なかった。飛鳥の威光も、対人には多少の強制力があったがギフトを操るまでには至らなかった。

 

 コピーの精度もバラバラ、条件もまるでわからない。こんなものが本当にコピーのギフトと呼べるのか?

 

 

(十六夜さんも大概ですが、信長さんのギフトは一体なんなのですか!?)

 

 

 それに対する答えは、いつまで待っても得られなかった。

 

 

「くっ」

 

 

 次々と投げつけられる雷の(つぶて)。こんなもの、百も千も投げつけられても脅威にはなり得ないが、目くらましとしては有効だった。

 

 

「目障りよ!」

 

 

 痺れを切らせたペストが大きく腕を薙ぐ。漆黒の風が前面に展開され、礫の雨を一掃。そのまま津波のように大きく両端に開いた風が信長を包み込む。逃げ場は無い。

 

 

「はあっ!」

 

 

 袈裟斬りに一閃。

 十六夜のように完全無効化とはいかずとも、信長の模倣なら無形のギフトにも干渉程度なら出来る。死の風は斬り裂かれ、信長は窮地を脱する――――が、

 

 パキン、と振り切った刀が半ばから折れたかと思うと粉々に朽ちていく。

 

 考えてみればそれも当然のこと。神霊に迫るペストの死の風と幾度となくぶつかれば、神格すら宿していない武具では最早保たない。

 

 ようやく、余裕を取り戻したペストが微笑をたたえて尋ねた。

 

 

「貴方のギフト無効化は、素手でも有効なのかしらね?」

 

 

 言うなり、風が信長の周囲を囲む。

 

 信長のギフト無効化は完全ではない。精々無形の風に干渉程度に抗えるだけ。素手で触れば待っているのは死だけだ。

 

 

「これでもう逃さない」

 

 

 勝利を確信したペスト。

 死の風に曝され、武器も失った信長は――――()()()()()()()()()

 

 

「っ!? もう死になさい!」

 

 

 背筋を走った悪寒を振り払うように、再び笑みが消えたペストは遂に風をけしかける。風は全方位から信長を呑み込み――――そして霧散した。

 

 

「…………は?」

 

 

 神霊に迫る死の恩恵が……帝釈天の雷も、サラマンドラの炎すら殺した死の風が、今目の前で掻き消えた。

 黒い繭を喰い破るように内側から溢れ出すのは紅蓮の炎。

 

 炎の中心で、信長はまだ生きていた。

 

 信長が左手に持つ漆黒のカードから炎は溢れ出していた。まるで喰らうようにペストの風を平らげた炎は、やたら構わず周囲のものを際限なく焼き尽くす。

 信長が右手をカードに添える。

 掴んだのは柄。カードを鞘に、ゆっくり引き抜いたのは長刀。炎はあの刀から生まれていた。

 

 幼いサラマンドラでもわかる濃密な気配。神格級の武器、それも相当な業物だ。火龍である自分が恐れるほど苛烈で凶暴な炎。

 

 

「黒ウサギ、あれは一体なんて名前のギフトなの?」

 

「……レーヴァテイン」

 

 

 震える声で答えた黒ウサギはしかしこちらを見ていなかった。唇を震わせて、青い顔で叫んだ。

 

 

「駄目……駄目です信長さん! 言ったじゃないですか! その刀は、その炎は――――()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」




……閲覧ありがとうございます。

>今だ僕らの信長君が帰ってきません。ちなみに次回もまだ帰ってこないかも。ああ、白夜叉と十六夜との馬鹿馬鹿し過ぎる馬鹿話が馬鹿に懐かしい。

でも!やっぱりバトルって書いててテンション上がりますよね!

やや信長君のギフトが紹介されてましたね。コピーだと思っていた人も多いでしょうが、違いますよー。完全に解明されるのはずっとずっと先ですが。
というか原作で十六夜君のギフトすらまだまともに解明されてませんからね。

そしてそして武器も登場。いやはや相変わらずの厨二全開ですよ!全力疾走ですけどなにかありますかないですよねないに決まってます!!
この武器についての説明は次話に込みなので、もしその手の質問やらあった場合は後々にお願いいたします!

>てな感じで次話もバトル続行ですが、バトル自体は確実に次で終わります。
そのまま二巻をまとめるかどうかは、まあまた書きながら決める感じなのであしからず。

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