問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━   作:針鼠

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番外編②

 男性陣が屋根の上で話し込む中、女性陣は男子禁制と札がかけられた黒ウサギの部屋で顔を合わせていた。

 召喚の際にずぶ濡れとなった帰蝶は例によって白夜叉から黒ウサギに送られた服の一着を纏っていた。それは以前白夜叉と信長が水源施設の正装にしようとしていたミニスカの着物。洋服ダンスには他にも服は色々あったが、こんなものでも着物には違いないと判断したのか、帰蝶自身が顔を赤らめながらそれを選んだ。

 

(それにしても……)

 

 飛鳥は絨毯の上で正座する少女を眺めて思わず唸る。一目見たときから美しいと思っていた天辺からうなじ、背中に流れる黒髪は湯浴みあがりでより一層艶やかに、そして妖艶な魅力を放っていた。加えて小柄な体型と童顔に似合わず大きな胸。露出の多いミニスカの着物が落ち着かないのか恥ずかしそうに頬を染めて裾を掴んでいる姿は正直同性といえどグッとくるものがある。

 

「そんな服しかなくて申し訳ありません。着物はそれ以外無いですが、それより露出の少ない服はいくつかありますよ?」

 

「だ、大丈夫です。むしろ服まで貸していただいて……ありがとうございました」

 

 丁寧に頭を下げる帰蝶に黒ウサギは胸を抉られるような悲壮な顔を浮かべていた。なにせ本当なら彼女を湖に落とさず受け止めることだって出来たのだ。それをあえて見逃したのは他ならぬ自分達。まあ、実際は黒ウサギは受け止めるつもりだったのを飛鳥達問題児が悪魔の囁きをもってして遮ったわけだが。

 

「そうね。黒ウサギやジン君はもっと反省すべきよ。私達のときもそれはそれは酷い仕打ちを受けたのよ」

 

「うん。ずぶ濡れにされた挙句、黒ウサギは陰でそれを笑ってたの」

 

「ちょっと御二人様方!?」

 

 当然の如く罪を黒ウサギ達に押し付けようとする飛鳥と耀。百パーセント嘘ではないにしろ、あんまりの言い方に黒ウサギは涙目で訂正を訴える。無論そんな反応は弄るネタが増えるだけなので無意味と化すわけだが。

 

「改めて自己紹介しましょう。私は久遠 飛鳥」

 

「春日部 耀」

 

「そして私が――――」

 

「我らが《ノーネーム》のマスコット兼愛玩動物兼非常食の黒ウサギ」

 

「違います!」

 

 名誉挽回と勇んで名乗ろうとした黒ウサギは茶々を入れる飛鳥へハリセンを一発。

 

「……じゃあ非常食の黒ウサギ?」

 

「よりにもよってそこをチョイスですか!」

 

 乗ってきた耀にもハリセンを一閃。

 いつも通りのやり取りに、やや萎縮しているように見えた帰蝶がようやくクスリと笑った。その笑顔はこれまた綺麗で、不躾に直視していた飛鳥の視線に気付くとまた恥ずかしそうに首をすぼめてしまった。

 しまった、と飛鳥は思いつつ、しかし少しは緊張も和らいできたようなので会話を続ける。

 

「貴女はえっと……帰蝶さん、でいいのかしら?」

 

 問われた帰蝶は居すまいを正す。

 

「信長様にはそう呼ばれています。でもお城の方々には濃姫、お濃と呼ばれてもいますので、お好きに呼んでいただいて構いませんわ」

 

 思ったよりしっかりとした口調で上品な笑顔と共に帰蝶は名乗った。今の今まで終始おどおどした態度だったので、てっきり気弱なお姫様なのかと思っていたがどうやらそういうわけではないらしい。突然異世界に召喚されたことに当たり前に驚いていたのか。黒ウサギ辺りはそれが当然の反応なのだと言い出しそうだ。なにせ飛鳥達が箱庭に召喚されたときは誰一人として怯えたり狼狽えたり、取り乱す者などいなかったのだから。

 

「帰蝶さんはどうやって黒ウサギ達に召喚されたのかしら? やっぱり例の手紙?」

 

「はい」帰蝶は小さく頷いて「たしか『汝の求めるものはここにある。それを望むなら、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの《箱庭》に来られたし』といった内容の文がいつの間にか自室に届けられていまして、それを開いたらここに」

 

 そのとき飛鳥と耀ははて、と首を傾げた。彼女の言葉の通りなら、どうやら自分達に届けられた手紙とは少々文面が違うようだ。てっきり同じ謳い文句が綴られているものだと思っていた。二人の無言の視線を受けた黒ウサギが答える。

 

「今回はそういう内容で手紙を出すようにと指示がありましたので」

 

 黒ウサギ自身もその差異の理由までは知らないようだった。大した違いでもないし、違うからといって何が変わるわけでもないのだが、『何故違うのだろうか』という疑問だけは残ってしまった。

 

「あ」

 

「どうしたの春日部さん?」

 

 不意に声を出した耀に一同の視線が集まる。彼女は小さく鼻を動かして、帰蝶の顔を見た。

 

「また花の香り」

 

 今度こそ帰蝶は驚いた顔をした。そして語る。

 

「よくわかりましたわね。梅の香りですわ」

 

 飛鳥もその場で意識を集中してみるがまったくわからない。黒ウサギの方は言われて気付いたみたいだ。

 帰蝶は懐から小指ほどの大きさの小筒を取り出して自身の手のひらに筒を傾ける。数滴液体が伝ってきた。そこに鼻を近づけると飛鳥にもわかった。

 

「香水ね」

 

「こうすい?」

 

 言われて今度は帰蝶が首を傾げる。そんな反応で飛鳥は気付く。彼女の時代にはまだ香水などというものはなかった。つまり彼女は香水という存在を知らないまま、おそらく独自にこれを作ったのだろう。

 

「信長様が好きだとおっしゃった花なのです。初めてあの方に出会ったのも梅の木の下でした」

 

 そう語った彼女は嬉しそうに、気恥ずかしそうにはにかんだ。その思い出は彼女にとってよほど温かく、大切なものなのだろうというのは見てわかった。

 

「でも春日部様はよく気付きましたわね。わたくしは湯浴みからあがったばかりで、それも普段からほんの僅かしかこの香りはつけていませんのに」

 

「耀さんは友達になった動物のギフトを扱えるのですよ! 犬並に嗅覚が鋭かったり、鷹みたいに眼がよかったり」

 

「まあ」

 

 事情を知らない帰蝶へ黒ウサギが自分のことのように誇らしげに語る。それに照れる耀と今まで想像だにしなかったであろうギフトの存在に驚いた様子の帰蝶。

 

「飛鳥様も春日部様のようなギフトというのをお持ちなのですか? それに、その黒ウサギ様は……その」

 

 帰蝶は迷ったように言い淀む。その視線の先は黒ウサギの頭の上に立つ耳。

 

「私もギフトは持っているけれど春日部さんとはまた違うわ。それと黒ウサギのあれは本物の耳よ。よかったら引っ張ってみる?」

 

 冗談ぽく笑って告げる飛鳥。

 

「さ、触らせていただけるんですの?」

 

「え? あ……い、YES……どうぞなのです」

 

 飛鳥に勝手に言われ、それに反論する暇もなく帰蝶に訊かれてしまい渋々許可する黒ウサギ。

 おっかなびっくり手を伸ばす帰蝶。黒ウサギは黒ウサギで召喚人に耳を触らせることにあまり良い思い出がないのでこちらもビクビク怯えている。しかし彼女の怯えとは裏腹に帰蝶はまず優しく指先で右の耳に少し触れると、今度は意を決して手のひらで触り、やがて撫で始める。

 

「ん……む……」

 

 撫でる度にこそばゆさでピクピクと動くウサ耳。その振動と伝わる温かさにこれが本物なのだと驚く帰蝶。黒ウサギの方は優しく撫でられると気持ち良いのか嬉しそうに頬をゆるめていた。

 初めて飛鳥達がここへ来たときも彼女の耳を思う存分引っ張らせてもらったものだと思い出す。最近のことのはずなのに妙に懐かしい。あのときとは随分違う反応だ。

 

「この世界には黒ウサギ様のような不思議な方もいらっしゃるのですね」

 

「ここには他に狐の女の子とかもいるわよ」

 

 ひとしきり撫でで満足した帰蝶の言葉に飛鳥が返すと彼女は益々驚いた反応を示した。獣人の存在は飛鳥も箱庭で初めて見た存在だったのでその驚きはわかる。

 

「次は帰蝶の話しを聞かせて」

 

「そうね、私も聞きたいわ。信長君はそこら辺の話し全然してくれないのよね」

 

 耀の発言に同意する飛鳥。黒ウサギを加えて三人の視線に彼女はやがておずおずと語り始めた。

 予想通りというか、帰蝶の話はほとんどが信長に関してのものだった。というか彼女自身のことはほとんど話には出てこず彼の生い立ちばかり。話を聞く限り彼女が信長と実際出会った数はそう多くなさそうだったが、彼の武勇伝をまるで我が事のように誇らしげに、喜々と語る。それを聞いて飛鳥は改めて信長という少年が、自分とも、耀や十六夜とも違う戦乱の日本からやってきているのだと今更ながら思わされた。そして同時に如何に彼女が彼が好きなのかもよくわかった。

 だから、飛鳥は少し意地悪な質問をしてしまった。

 

「じゃあ帰蝶さんは私達をどう思ってるのかしら。信長君が私達と一緒にいたと知って心配にならなかった?」

 

 自分の夫が――――といっても嫁ぐのと入れ違いで信長は箱庭にきてしまったらしいが――――知らない場所で知らない女の子達とずっと一緒にいたのだ。こんな穏やかな少女でも嫉妬をしたりするのだろうか。いや、正直飛鳥はどういった意図でこんな質問をしてしまったのか自分自身よくわからなかった。どんな答えを期待したのか。冗談ぽく笑ってくれるだろうと思っていたのかもしれない。

 不意に、帰蝶は立ち上がると開け放たれた窓際へ。そして振り返ると一層温かな笑顔と共に、

 

「――――はい。大っ嫌いです」

 

 ニッコリと、まるで飛鳥達のよく知るうつけ武将のように貼りつけた笑顔のまま告げられた。

 

 

 

 

 

 

 大人しそうな雰囲気で、目を合わせるとすぐに逸らしてしまうぐらい恥ずかしがり屋で、でもやっぱり何気ない仕草なんかはお姫様っぽい気品が窺える。そして教科書や資料でなんかで見るよりずっとずっと綺麗な和美人。それが飛鳥が帰蝶に抱いた印象だった。

 お姫様というから一体どんな人物なのかと内心身構えているところがあったので、飛鳥が彼女に抱いたのは比較的好ましいものだったといえよう。おそらくそれは耀や黒ウサギも同じく。

 故に残った問題は帰蝶と、今ここにはいない少年との関係。信長が言うには彼女と夫婦となってすぐに箱庭にやってきてしまったらしく、そも接点も数えるほどしかなかったらしい。――――が、それでも関係に間違いはない。自分の夫が見知らぬ女の子達といた、それだけでいい気分はしないだろう。

 

 しかし実際に会って話した彼女の感じからしてそんな勘違いから激昂しだすとも思えない。実際に今こうして普通に談笑しているわけだし。

 故に飛鳥は少し意地悪そうな顔で質問をしてみた。

 

「じゃあ帰蝶さんは私達をどう思ってるのかしら。信長君が私達と一緒にいたと知って心配にならなかった?」

 

 問われた少女は不意に立ち上がり部屋の窓際へ。窓の取っ手に手をかけて、振り返ると先ほどまでとまるで変わらない優しそうな、穏やかな微笑みで応えてくれた。

 

「はい。大っ嫌いです」

 

 その答えを、帰蝶を除く三人はまるで理解出来なかった。正に硬直したといっていい。

 帰蝶は手にかけていた窓を開け放つ。外気が部屋の中に侵入して三人の顔に風が打ちつけられる。途端、

 

「――――っなにこの臭い!?」

 

 最初に耀。次に黒ウサギ、飛鳥の順に思わず立ち上がった。

 異臭。例えようもない強烈な刺激臭が鼻孔を貫いた。強制的に涙が出るほどの。

 

「毒ですわ」

 

 唯一、窓を背に立っている彼女は簡単に言ってのけた。彼女の指に挟まれた小筒。その蓋は開けられている。先ほどの香水と形状は同じようだが中身が別なのは明らかだ。

 

「こ、の!!」

 

 行動を起こしたのは耀。ギフトにより飛鳥よりよっぽど利いてしまう鼻を持つ彼女はこの場の誰よりこの悪臭に参っていた体を懸命に動かす。

 友だちとなって得たグリフォンの大気を踏みしめるギフト。それを応用し、前蹴りのように足を振って空気を前へ押し出した。窓から部屋に流れていた風の流れが逆流。悪臭入り混じった部屋の空気が一掃された。

 

 飛鳥はゆっくり呼吸する。もう例の臭いはしない。

 

「ふぅ」小さなため息「それもギフトというものですの? 風まで操るなんて本当に凄いですわ」

 

 キッ、と飛鳥は帰蝶を睨みつける。

 

「どういうつもり?」

 

「安心してよろしいですわ。毒といっても一息吸った程度では致死には至りません。軽い目眩がする程度です。……残念なことに」

 

「今更冗談でしたと言い訳するつもりはないってことね」

 

 飛鳥はギフトカードを懐から取り出す。耀もすぐに動けるよう後ろで身構える。

 

「ま、待ってください御二人共!」

 

 彼女達の前に遮るように立ちはだかった黒ウサギ。彼女は飛鳥達に背を向けて着物姿の少女へ問う。

 

「帰蝶さん! 何故こんなことをするんですか!?」

 

「理由は先程もお話したと思いますが?」

 

 はて、と首を傾ぐ。

 

「貴女達が嫌いだからです」

 

「それは私達が信長君と一緒にいるから?」

 

「はい」

 

 本当に穏やかに、朗らかに彼女は笑う。それなのに口に出す言葉は嫌悪だというのだからまったく……まるでどこかの少年を見ているようだった。

 たしかに、彼女が飛鳥達を嫌う理由はある。それで毒をぶち撒ける理由にはならないが、少なくとも嫌う理由ではあった。

 

「で、でも黒ウサギ達は別に信長さんとなにかあったわけじゃ……」

 

「そうなのですか?」

 

 一同は頷く。彼と仲良くはしていたがやましいことをしていないのは事実である。

 

「そうですか。なら、そうなのでしょうね」

 

「いやにあっさり信じるのね?」

 

「貴女達がこういった嘘をつくような人でないことぐらいは先程までの会話で充分わかりましたから。きっと良い人なのだということも」

 

「なら」

 

「でも、わたくしが貴女達を嫌うことに変わりはありませんわ」

 

「な、なんでですか?」

 

「信長様の近くにいる。ただそれだけで嫌いなのですから仕方ないじゃありませんか」

 

 黒ウサギの質問にうふふ、と笑い答える。たしかにその理由だとどうしようもない。

 飛鳥としてはもうどうしようもないと思っているのだが、黒ウサギは諦めきれないようだった。まだ説得を続ける。

 

「しかしこれから先、帰蝶さんは皆さんと一緒にギフトゲームに挑んでいくのですよ!? その仲間を嫌いだからという理由で毒殺しようとするのは……。信長さんだってきっと悲しみます」

 

「ええだから、信長様がそういうのでしたらわたくしはそうしますわ」

 

 一瞬、黒ウサギは説得が上手くいったのだと喜んでウサ耳を立てたが、次の瞬間それは凍りつくこととなる。

 

「信長様が皆様と仲良くしろというのなら、そうしましょう。そのために先ほどのことを謝罪しろというのなら地べたを這おうことも、泥水を啜ることも厭いません。死んで償えというのなら死にましょう」

 

 それが当然のことのように彼女は終始穏やかだった。

 

「でも、今はまだ信長様はわたくしに貴女達とどう接しろとは言われていません。ですので、わたくしはわたくしの感情で貴女達を嫌います。何故なら貴女達を、信長様は気に入っているから」

 

「でも信長が仲良くしろって言ったらそうするの?」

 

「ええ」

 

「嫌いなのに?」

 

「いいえ。信長様がそう言えば、わたくしは貴女達を好きになりますわ」

 

 躊躇いなく頷く帰蝶のことを耀は理解出来ないようだった。友達、というものを誰よりも大切に考えている彼女にとって、他人に言われたから仲良くするなんて理解以前の問題なのだろう。

 しかし飛鳥は少しだけ帰蝶という少女がわかった気がした。

 

 彼女は今まで別に猫をかぶっていたわけではない。さっきまでの姿も、飛鳥が彼女に抱いた印象も、おそらく間違っていない。基本的に恥ずかしがり屋で、穏やかで、優しくて、自分同様外の世界をあまり知らない箱入りのお姫様。――――ただその前提に、何よりも大前提に、彼女には優先すべき存在がある。

 織田 三郎 信長。

 それが彼女の根幹であり、前提であり、絶対。

 

 彼女が飛鳥達を嫌う理由は多分というか間違いなく嫉妬だ。好きな異性が他の女性といる、又はいた。それはその人物の人柄云々に関係はない。その事実だけで嫌う対象になる。

 そこまではただの嫉妬と同じ。しかし彼女の場合は嫉妬――――つまり自身の感情よりも優先すべきものがある。

 だから例えば、信長が飛鳥達と仲良くしろといえば彼女はきっと喜んでそうするのだろう。演技をするのでもなく、無理をするのでもなく、心の底からの好意的な態度になるのだろう。何故なら、信長がそう言ったから。

 彼女には自分の意志が無い。信長に従うということそれが彼女の意志だと言われてしまえばそうかもしれないが、少なくとも飛鳥はそれを自分の意志だと認めるつもりはない。

 

 一歩、帰蝶は三人に向かって進めた。身構える三人だったが、彼女はあっさり横切ると部屋の扉へ。

 

「ここでは全力で戦えません。それに信長様に迷惑もかけます」

 

 外へ。帰蝶は扉を開けると部屋を出て行った。

 残された飛鳥達。

 

「望むところだわ。春日部さんは?」

 

「私もやる」

 

 どこか耀は怒っているようだった。理由を考えて、おそらく飛鳥と黒ウサギ、友達をいきなり殺そうとした行為そのものを怒っているのだろう。飛鳥とてほとんど理由は同じ。喧嘩を売られたなら利子をつけて返してやる。最早信長の身内であるという情けも無い。

 

「私ならさっきみたいな毒もすぐ気付ける」

 

 耀の五感は獣並みに冴えている。先ほどのような完全な奇襲であっても通じなかったわけだ。

 帰蝶がそれ以外の攻撃手段を持ち合わせている可能性はあるが、鋭敏な感覚に加えて超人的な身体能力を持つ耀と、ディーンを有する《威光》のギフトを持つ飛鳥何があろうと対処出来るだろう。

 飛鳥達の有利な点はまだある。帰蝶はまだこの箱庭におけるギフトゲームという戦いの特殊性をわかっていない。経験不足は飛鳥達にも言えるが、それでも一日の長がある。

 

「なら行きましょう――――まさか止めないわよね。黒ウサギ」

 

 未だ、仲間同士で争うことを納得出来ない……したくない黒ウサギだったが、ぶつかり合わねば通じ得ないこともあると信じて、複雑な思いで頷いた。

 飛鳥達が外へ出ると予想外にも彼女は堂々と本館前の広いスペースで立っていた。毒による奇襲を使ったことからてっきり似たような手でくると思っていたが。はたしてそれは油断か。はたまたそれほど自信があるのか。

 

「相談は終わりまして? では、始めますわよ」

 

「待ちなさい」

 

 構えようとする帰蝶を飛鳥の声が制する。

 

「私達は貴女をとことんまで叩きのめして、信長君の言葉がなくとも泣いて謝らせてあげる。――――けれどここは箱庭。決着を着けるならギフトゲームで……っ!?」

 

「飛鳥!? どうし……」

 

 突如、飛鳥と耀が倒れた。

 それに慌てて駆け寄ろうとした黒ウサギの視界も歪んだ。倒れるまではしなかったものの、足が止まる。

 

「な、んで」

 

 倒れた耀が呻く。倒れた理由は明らかだ。間違いなく帰蝶の毒。

 しかし何故。先ほどのこともあって常に警戒していたはずなのに。今だって臭いは――――、

 

「なにも臭いが、しない!?」

 

「気付きましたか?」

 

 何も臭いがしない。毒どころではない。普段するべきはずの草の臭い、風の臭い、こんなに近くにいる飛鳥の臭いさえもしない。

 

「申し訳ありません。先ほどわたくしは嘘をつきました」

 

 帰蝶は隠し持っていた、すでに蓋が開けられた小筒を出す。

 

「先刻貴女達に使ったものは毒ではありません。調合したのは強烈な異臭を放つだけのもの。そう、嗅覚が麻痺するほど強烈な(・・・・・・・・・・・・)

 

 初めから、毒を使う帰蝶は耀の嗅覚を最大脅威と認識していた。人間の感覚からすれば無味無臭とされる毒でさえ、彼女が相手では通じないと。だからまず、彼女の鼻を潰しにきた。

 

「帰蝶、さん……黒ウサギはまだ、ゲームを開始していませんよ」

 

 痺れる体を懸命に支えながら黒ウサギは審判として告げる。それに帰蝶は本当に、本当に申し訳なさそうに、

 

「すみません。まさかこんなに甘っちょろい世界だとは思わなかったので」

 

 そう言った。




お休み利用して書いちゃいました。資格の勉強しろ?ハッハ!なんのことやら。

>あれ?おかしいぞ。この番外編を私はギャグとして書くつもりだったのに落とし所がないぞ?

>注意!これは徹頭徹尾完全無欠に番外編なので、出来事、心情全てが番外編仕様ですと今更ながら警告しておきます。そうでないと少なくとも飛鳥のフラグがバッキバキに信長に立ちまくることになってしまいますからね。
ちなみに、耀ちゃんの出番は五巻にある(予定)ので飛鳥に番外編はスポット当てております。

>爆ぜろ信長!と思っているのは私も一緒ですから!!作者なのに

《番外編四話あとがき》

閲覧ありがとうございましたー!

>ほぼ三週間ぶりになってしまい申し訳なかったです。いやはや、とりあえず一言だけ愚痴代わりに言わせてください。
連休をよこせええええええ!!

>さてさて、前回の更新後、私は次回は帰蝶さんが戦うとかのたまわったけれど……あれ?戦っていなくない?――――否、あれが彼女の戦い方だからセーフ。嘘じゃない《いやほんとごめんなさい(心の声)》

>今回で帰蝶という女の子はわかってもらえたでしょうか?これもヤンデレというジャンルに入るかどうかは私にはわからんですが、これが童顔巨乳和服美人……もとい信長君のお嫁さんです!

>本当ならば二万字前後で二話ぐらいで終わる予定だったのですが、ぶつ切りのせいでどんどん伸びてしまってますね。あくまで番外編なのに。
終わるのはとりあえず次回か次々回か。

>ひとりごと。
もの凄い馬鹿馬鹿しい妄想が働いた。学園モノの番外編。

配役
信長君(主人公)
ペスト(信長の妹)
ジン(弟)
レティシア(母)
(父未定)
十六夜(となりのクラスの問題児)
飛鳥(同じクラスのお嬢様委員長)
耀(同じクラスの飼育委員)
黒ウサギ(担任)
白夜叉(校長)
その他諸々の皆様がいたりいなかったり。

うん。想像するだけなら自由ですもんね。書くとしても後々暇があったらにしましょうか。
実は思いついたのアマデウスさんとペスト妹談義してた時とか言えない(笑)

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