問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━   作:針鼠

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二話

「こんにちはキリノちゃん……と、黒ウサちゃん!」

 

 《境界門(アストラルゲート)》で東から再び南へ戻ってきた信長は、まず向かった受付で受付係を務めていた木霊の少女キリノと、キリノと話す見慣れた黒ウサ耳を見つけた。

 

「もう帰ってきてたんだねー」

 

「……あの、信長さん。挨拶早々に黒ウサギの耳を撫でないでください」

 

「何言ってるのさ。本当は毎日……というか常に触っていたいぐらいなのに三日も触れなかったんだから。いっそ切って持ってていい?」

 

「駄目に決まってるでしょう!」

 

 言いながらも信長はウサ耳を撫でては揉みしだいている。特別乱暴にされているわけでもないし、自慢の耳を誉められているからなのか、恥ずかしそうにするものの無下には出来ない心優しき黒ウサギ。しかし彼女は知らない。その三日が、一体誰の発言によって生まれたのかを。知っていればいつもながら素晴らしきハリセン捌きが見られたことだろう。

 信長はざっと周囲を見回して、

 

「みんなは?」

 

「どうやら皆さんバラバラに動いているようなのでございますよ」

 

 黒ウサギの言葉にコクコクと頷くキリノ。十六夜は地下書庫。飛鳥と耀は狩猟祭。ジンはペストや白雪を連れて《六本傷》と会合だそうだ。ちょうど黒ウサギもここにやってきて、どうしようか迷っていたらしい。

 

「黒ウサギはとりあえず手近なところで十六夜さんと合流します。信長さんはどうしますか?」

 

 問われて、うーむと唸る。ジンの会合にはぶっちゃけて興味が無い。話し合いの場に自分が必要だとも思えない。気持ちとしては狩猟祭に参加、もしくは飛鳥達を応援してもいいのだが、キリノの話ではそろそろゲームの方も終わってしまうらしい。

 

「なら僕も黒ウサちゃんと一緒に行こうかな」

 

 地下書庫にも興味は無いが、それならば可愛い黒ウサギと一緒にいた方が潤うと判断した信長だった。

 結論が出たところでキリノが口を開くが、どうにも困ったような顔をしていた。

 

「書庫には水路を渡し船で向かうのですが……今は収穫祭で全員不在で」

 

 申し訳なさそうに頭を下げるキリノ。いっそ自分で漕ぐよ、と信長が言おうとしたところで別の人物の声が割入った。

 

「なんや、そういうことなら僕がやろうか?」

 

 受付の奥からヌッと出てきた隻眼の男。長身細身。細目をさらに細めて胡散臭い笑顔を浮かべる関西弁の男。

 その人物を見たとき、黒ウサギはどこか既視感を覚えた。しかし彼とは間違いなく初対面である。

 

蛟劉(こうりゅう)様……」キリノは男をそう呼んだ「よろしいのですか? 貴方は《龍角を持つ鷲獅子》の客分なのですから無理に仕事をしなくても」

 

「ええよええよ。困ったときはお互い様や」

 

 蛟劉はキリノの頭を撫でで受付から出てくる。

 

「どうも初めまして《箱庭の貴族》殿。僕は蛟劉といいます」

 

 相変わらず胡散臭い笑みで一礼する蛟劉だが、害意は感じられない。黒ウサギも挨拶を返すと彼は隣へ目をやって、

 

「よろしく」

 

「うん、よろしく蛟劉さん。僕は信長」

 

 ――――わかった。彼に感じていた既視感の正体を黒ウサギは理解した。

 似ているのだ。貼り付けたような笑顔。パッと見凄みのある体格ではないが、さりげない身のこなしから窺える実力者の挙動。この蛟劉という眼帯の男は、信長によく似ていた。

 

 

 

 

 

 

 《アンダーウッド》東南の高原とアラサノ樹海・境界線。夕焼けの下、先刻まで樹海を羽ばたいていた幻獣ペリュドンの群れが連なる荷馬車によって運ばれていた。

 

「狩猟祭、これで優勝出来るかな?」

 

 舗装されていない森を跳ねるように軽快に進む耀は道中尋ねる。

 

「それはわからないけれど、これだけの数なら上位を期待していいはずよ」

 

 答えたのは森には到底相応しくない赤いドレスを纏った飛鳥。彼女は荷馬車の縁に腰を下ろしている。

 飛鳥と耀、そして二人と協力している《六本傷》のコミュニティメンバー。その他にも多くの参加者が集った狩猟祭の発案者は彼女達とコミュニティを同じくする十六夜だった。巨龍の一件の後も、殺人種と呼ばれるペリュドンのような幻獣・魔獣が多く居座り続けた。その駆除を決定した折、彼のならばいっそギフトゲームとして参加者を募ればいいのでは、という案に《龍角を持つ鷲獅子》が乗ったのだ。

 こうして開催された狩猟祭。期間は前夜祭の正午から夕暮れ。勝敗は獲物の総重量。加えて、角つきには加点がある。

 ペリュドンは大きさも申し分なければ加点対象の角つき。加えてこの数ならば、たとえ同盟している《六本傷》と分けあってもかなり上位を見込める。――――その見立ては間違ってはいなかった。ただ予想外だったのは、突出した存在がゲームに参加していた。

 

「おお、すげえなアンタ! こりゃ優勝は決まりだ」

 

 聞き捨てならない発言に二人は揃って顔を見合わせ、止まった荷馬車の前方へ。そこには数多のペリュドンと魔獣の骸。そしてそこに立つ仮面の騎士。

 気配に気付いたのか背を向けていた騎士は耀達に振り返る。

 

「貴女達も参加していたのですね」

 

「それはこちらの台詞よ。貴女はこの手の野蛮なゲームには参加しないものと思っていたわ」

 

 仮面の騎士――――フェイス・レス。《クイーン・ハロウィン》の寵愛者。飛鳥達と同じ人間にして、その実力は先の巨人達との戦いで正に鬼神の如しだった。

 フェイス・レスは小さく肩を竦める。

 

「ええ。私も参加するつもりはなかったのですが……人並みの付き合いというものがありますので」

 

 彼女は現在《ウィル・オ・ウィスプ》の客分でもある。付き合いというのはそのことだろうか。

 

「あいやー凄いですね。私達の収穫量の五倍はあるんじゃないですか?」

 

「五倍?」

 

 そこへ空気を読まずキャロロが割り込んでくると、彼女は不思議そうに首を傾げて飛鳥達の後ろの戦果を見る。見るなり今度ははっきりとため息をついた。

 

「ちょっとお待ちなさい! 他人の戦果を見るなりその態度はどういう了見よ」

 

「失礼。貴女達ならもっと収穫を上げていると思ったので」

 

 つまりそれは、二人の実力が期待はずれだったと言われたようなものだった。当然ながらカチン、とくる二人だったが実際戦果は圧倒的にこちらが負けている。そんな状態で言い返しても益々呆れられるだけだ。

 フェイス・レスは仮面の顔を見回した。

 

「彼はいないのですね」

 

「彼?」

 

 耀が小首を傾げる。

 

「たしか信長といいましたか。――――いや、いるはずないですね。彼がいたならこの程度の戦果であるはずがない」

 

 カチンカチン、とさらに頭にくる耀だったが、口をついて出たのは別の質問だった。

 

「貴女は信長と仲良いの?」

 

 フェイス・レスは黙った。しばらくじっと耀の顔を見つめるなりフッ、と口元に小さな笑みを作る。

 

「さあ?」

 

 今度こそ、確実に馬鹿にされたと耀は悟った。しかしフェイス・レスは構わずギフトカードに戦果を収納すると最後にもう一度振り返って耀達の戦果を見てため息を吐いた。

 

「……飛鳥」

 

「……春日部さん」

 

 もっと狩りに行こう! 二人の言葉と狩猟祭終了を告げるドラの音が重なって茜色の空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 精霊達の光に照らされた洞穴。書庫の扉を開いた黒ウサギは後ろを振り返る。

 

「あや? 信長さんは来ないのですか」

 

 船から降りたのは黒ウサギ一人。蛟劉と信長は渡し船から降りてこようとはしない。

 

「うん。別に本には興味ないから黒ウサちゃんが呼んできて」

 

「僕も間違って船が流されたら一大事やからね。ここで待っとるよ」

 

 言いながら蛟劉は愛用の煙管に火を点ける。

 黒ウサギは一瞬悩んだ。実力者と判明している蛟劉と信長を二人にしておくことに。信長は強そうな人物と可愛い女の子には誰彼構わずちょっかいを出したがる。好みもあるようだが、ここで突然暴れられても困る。

 

(……でもまあ、蛟劉さんがその気でなければ平気でございますよね)

 

 蛟劉という人物は短気、もしくは好戦的なタイプでは無さそうだ。そして無抵抗の相手を信長は喜々と斬り殺す人物でもない。

 さっさと十六夜を連れてくれば平気だと結論づけて、黒ウサギは書庫へ入っていく。

 

 バタン、と書庫の扉が閉まる。

 

「さて」

 

 それを確認するや否や立ち上がった信長は懐から漆黒のカードを取り出す。顔には相変わらずの笑み。そして彼の性格もまた、相変わらずだった。

 

「始めようか。蛟劉さん」

 

 蛟劉は座った体勢のまま、呑気に紫煙を吐き出して信長を見上げる。

 

「始めるって、何を?」

 

「嫌だなー。わかってるくせに」

 

 ニコニコニコニコ、笑いながら信長は《レーヴァテイン》を取り出して切っ先を蛟劉の鼻先へ突きつけた。

 

「僕と戦おうよ」

 

 本当に相変わらずだった。もしこの場に黒ウサギがいれば頭を抱えて胃が軋むほどに。

 蛟劉は眼帯に覆われていない隻眼で突きつけられた刀をチラリと見て、やがてクツクツと肩を揺らして笑った。

 

「物騒やんなぁ。信長君やっけ? 悪いけど僕は戦う気はないよ」

 

「どうして?」

 

「見ての通りや」

 

 両腕を広げる蛟劉。

 黒ウサギは覇気が無いと称した。本来なら抑えようと思っても滲み出てしまう威圧。存在感と言い換えてもいい。それが彼には無い。

 

「別に隠そう思うてるわけやないよ。ただもう僕にはその気が無いんよ」

 

「………………」

 

 信長はじっと蛟劉を見下ろす。構える素振りもない。おそらく刀を振り上げ、実際に振り下ろしてみせてもその気はないのだろう。

 

「僕はね、生きているのに死んでるみたいな人が大嫌いなんだ」

 

 洞穴に声が響く。

 

「そか。なら残念やけど、僕は君の大嫌いな人種やね」

 

 自嘲を浮かべて蛟劉は答える。

 信長が切っ先を下ろすと、ちょうど書庫の奥から爆音が響いた。




閲覧ありがとうごぜえまっす!

>まさかの一日二話投稿!ちょいと短めなのは勢いのまま書いてるので調整出来なかったのと、まあ区切りとしてはおかしくないかなと判断しまして。

>蛟劉さん登場。そして蛟劉さん……変換面倒くさいよ、この名前。
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