問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━   作:針鼠

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七話

「手を組もうぜ」

 

 誰もが耳を疑うほどあっけらかんと岸の向こうにいる十六夜はフェイス・レスに提案した。

 

「このままそこのバカ殿に邪魔され続けりゃお互い負ける。少なくともこれ以上の遅れは致命的になりかねない。そこで提案なんだが、こいつを突破するまでのこの数十メートルだけ手を組まないか?」

 

「まだ一度もぶつかり合う前にその提案するの? ここはもうちょっと熱い展開の後にいがみ合う二人が協力したほうが絵的に映える――――」

 

「いいでしょう」

 

「えー……」

 

 フェイス・レスまでもあっさりその提案を呑んだことに信長も顔をひきつらせる。

 

「しかし、彼は元々貴方達の仲間。突破の隙を狙って一斉に攻撃をしない保証はありませんよね?」

 

「案外疑い深いんだな」

 

 十六夜が小さく笑う。けれど彼女の言葉も最もで、協力するというのは罠で後ろから刺されれば堪らないというのは事実だ。

 そんなことは十六夜も承知している。

 

「安心しろ。協力といっても簡単な話だ」

 

 十六夜は信長が立ちはだかる河を指さす。

 

「あんたはあいつの右から、お嬢様は左から、同時に抜ける。あいつがどっちを攻撃するかはわからないが、もしお嬢様に攻撃がいってもあんたが助ける必要はない。こっちもそのつもりだからな」

 

 要はタイミングを同時にしてかく乱する作戦。相手は一人。こっちは二人なら単純に信長の意識も攻撃もどちらかに傾く。仮に二人を狙いにきても中途半端になるだろう。

 それに信長を挟んでいるのでフェイス・レスが最初に懸念した後ろを刺される心配もない。その為に、彼女には十六夜達がいる岸とは逆側を進むよう進言したのだ。

 単純だが効率的な作戦であった。

 

「いいでしょう。乗りました」

 

 飛鳥も不満そうな顔ながら、この勝負にサラの進退がかかっているからなのか言葉にした不平はあげなかった。

 

「ちょ、ちょっと二人共――――」

 

「よーしいくぞ。せーっの!」

 

 信長の言葉を無視して十六夜が号令をかける。

 

「行って、ヒポポさん!」

 

 それを合図に飛鳥のギフトの恩恵を受けたヒポポタママと翡翠の海馬を駆るフェイス・レスが同時に飛び出す。先の作戦通り二手に分かれて。

 

(ま、まずいかも……)

 

 海馬に跨り迫る二人の女子に気を配りながら、内心で焦燥感を覚える信長。

 

(さすがにあの二人を相手にするのはちょーっと厳しいなぁ)

 

 否、二人ではない。向こうには十六夜もいる。いつの間にか耀の姿が消えているが、それは多分先行しているグループを抑えにいったのだろう。もしかすればグリフィスとの決着を着けに。

 耀がいないにしても相手は三人。それもあの(・・)三人だ。いくら信長といえど荷が重い。

 

「それでも負けるつもりはないけど――――っね!」

 

 信長の海馬は左へ舵をきる。つまりは飛鳥の方へ。

 同時に突撃といってもタイミングがピタリと同じになるわけではない。彼女の《威光》の恩恵を受けたヒポポタママの速度は僅かにだがフェイス・レスの海馬を上回っていた。故に到達するのは彼女が先。

 信長が刀を横に薙ぎ払う。炎の波が水上に生まれて飛鳥の進行方向を塞いだ。

 

「まだ序盤だけど、出し惜しみはしないわ!」

 

 彼女が取り出したのは紅の宝石。生み出されるは同じく火。

 飛鳥の火は前方に立ちはだかる信長の炎を、燃やした(・・・・)

 炎の波は崩れ飛鳥はさらに突き進む。

 

「炎を燃やすなんて……本当に面白いね!」

 

 本来ならあり得ない光景に胸をときめかせる信長は――――馬上で反転。瞬時に構え直したのは大弓。

 放たれた紅蓮の矢は対面から飛んできた光と衝突し、消滅。

 光が飛んできた方向で剛弓を構えるフェイス・レスの姿があった。

 

 続けざまに信長は弦を引き絞る。しかし、その悉くは二人の間に閃光を生むだけだった。

 互いが互いの矢を撃ち落とし、撃ち抜く。

 

「ォ、ラアッ!」

 

 言葉を失うほどの絶技の応酬の最中でも、彼は無粋に愉快に割り込んでみせた。一体どこを破壊してきたのか、身の丈を遥かに超える巨岩をまるで球のように放り投げたのは十六夜。狙いは当然信長――――かと思いきや、

 

「届かない?」

 

 僅かにだが飛距離が足りない。これでは落ちるのは信長の目の前。

 

「――――っ!」

 

 そこまで考えて信長は十六夜の意図に気付く。海馬の背を蹴って空中へ。

 十六夜の狙いは馬の転覆だ。足場がなければいくら信長とて落ちるしかない。そしてゲームの禁止事項にはこうある。水中への落下は失格、と。

 同様に騎馬への攻撃も失格だが、これは直接攻撃を叩きつけるわけでもない。これぐらいの荒っぽさは範囲内だろう。

 

 故に信長は巨岩を弾き飛ばす。もしくは燃やし尽くすために空へ飛んだ。

 しかし、信長が手を加える前に巨岩は半分に両断されてしまった。

 真っ二つに分かれた巨岩。内片方を信長は一刀のもと斬り伏せ、燃やした。

 

「よ、避けてヒポポさん!」

 

 残された一方は斬撃のせいで軌道が逸れて飛鳥の進行方向へ落ちた。直前で大きく曲がったことで僅かに飛沫を浴びるに留める。

 

「やってくれるぜあの仮面め!」

 

 獰猛に笑う十六夜の視線の先で蛇腹剣を引き戻したフェイス・レスがいた。その口元は確かな笑みをかたどっている。

 岩を切ったのは彼女の仕業だ。信長が十六夜の意図に気付いて巨岩を処理する前に彼女は遠く離れたあそこから岩を斬った。おかげで逸れた岩の影響であわや飛鳥が脱落しかけた。

 果たして偶然か。否、狙ったのだ。

 彼女にしてみれば十六夜達も敵だ。あわよくば信長諸共の脱落を狙ったのだろう。

 その考えは正しい。これはギフトゲーム。そして事実、岩を避けるために大幅にロスした飛鳥は序盤のリードを失いフェイス・レスと差が開いている。地力ではあの翡翠の海馬の方が上。

 飛鳥のギフトでヒポポタママを強化すれば再び追いつけるだろうが、その手段は海馬に負担をかける。あれはここぞのときに備えて温存しておくべきだろう。

 

(まだ追えなくはないけど……)

 

 見事突破されてしまった信長は彼女達の背を見てから一瞬、ステージの脇へ視線を送った。そこで椅子に座る白夜叉と視線が合い、彼女は深々と頷いた。それに信長も応えて頷く。

 

「まだ安心するのは早いよ飛鳥ちゃん!」

 

 信長の海馬が嘶きとともに走りだし飛鳥を追う。彼は大きく刀を振り上げた。

 

『ハッ! の、信長選手まだ追います!』

 

 あまりの攻防に実況を忘れていた黒ウサギが我に返るなり実況を開始する。ステージの前をフェイス・レス、そして飛鳥が駆け抜ける。

 その後ろへ続く信長は刀を構えている。飛鳥への追撃だ。――――そのはずだった。

 

『――――ってあれ? 信長さん? どこを狙ってるんですか?? こっちはステージ……』

 

「ア、手ガスベッタああああああああああ!!」

 

『ふぇ?』

 

 酷く棒読みだった。そしてとても力の入った声だった。

 炎が迫る。ステージの上の黒ウサギへ。

 

「NOOOOOOOOOO!!」

 

 マイクを放り投げて全力回避する黒ウサギ。その背後を豪炎が掠めていった。

 全力ダイブで難を逃れた黒ウサギは倒れこんだ体勢のまま先程まで自分のいた位置の焦げ跡を見る。そうしてやがて込み上げてきたように声を張り上げた。

 

「な、何をするんですか信長さん! もうちょっとで当たるところだったじゃないですか!!」

 

「……外したか」

 

「やっぱり当てる気だったんですね! どういうおつもりですか!!」

 

「ふっふっふ。バレちゃあしょうがないよね。これが僕の本当の目的だったのさ」

 

 意味深に肩を揺らして笑う信長。

 

「真っ当にゲームに参加したと見せかけて、実は女の子達の水着を脱がす――――というのも実は真の目的じゃない!」

 

「なんですって!?」

 

「…………いや、女の子の裸が見たいのは本当だよ? そっちが目的じゃないかと言われるとそっちも目的だしでもやっぱり」

 

「そんな葛藤どうでもいいですから!」

 

 唐突に弁解を始めた信長にこんな場面でもツッコミを忘れない黒ウサギ。まさにツッコミの鏡。

 コホン、と前置いて、

 

「白ちゃ――――とある美しい神様からお願いされたのは参加者の女の子達の水着を剥ぐことともう一つ! それは!」

 

「――――それは黒ウサギ、おんしの水着を剥ぐことじゃ!」

 

 信長の言葉を引き継いで喋ったのは実況席の白夜叉だった。

 

「私は火龍生誕祭にて信長に教えられた。エロの神秘とは、真理とは、それを着る者の魅力であると。故に!」

 

 白夜叉は椅子を倒すほど勢い良く立ち上がると、片足を実況席の机に乗せて黒ウサギを指さした。

 

「今こそおんしの魅力の全てが私は見たい! 柔らかな肌! 魔性の太もも! 手にあふれるほどの乳房! 羞恥に赤らんだおんしの顔!」

 

「あ、もういいです」

 

「見たい! 黒ウサギの全てを見たい! 裸見たい! 裸体!」

 

「もういいって言ってるでしょうが!!」

 

 ズパーンッッ!

 

 雷が和服の変態を貫く。

 

「――――とまあつまり、信長にゲーム中、偶然を装って黒ウサギの水着を剥いでもらいたいと私が頼んだのじゃ」

 

「くっ……さすがにしぶといですね」

 

 プスプスと黒煙を立ち昇らせながらも平然と起き上がるなり説明をまとめる。

 しかも今の話では偶然を装うとのことだったが、今の一体どこが偶然だというのか。まさかゲームに参加していないのに我が身の貞操が危機に曝されるとは思わなかった。

 

「信長さん!」

 

 ここはあの駄神は無視して説得するしかない。

 

「――――はどうせ言っても聞かないでしょうからいいです!」

 

「さすが黒ウサちゃんはわかってる」

 

「信長さんのヒッポカンプ!」

 

 彼女が説得の対象に選んだのは信長の海馬。《月の兎》たる彼女は大抵の幻獣と会話することが可能だ。

 

「貴方も誇りある幻獣であるのなら、こんなくだらなすぎる行為に心を痛めているはずです! 今からでも遅くはありません。他の同士達のように全力でゴールを目指しませんか!?」

 

『良いおっぱいだ』

 

「もう嫌です! お馬鹿ばっかり!」

 

 交渉失敗。本気で泣きだした黒ウサギだった。




テンション変わらずこんばんわ!閲覧ありがとうございましたー。

>ヒートアップするレースの行方は如何に!?(どの口が言うのか)
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