問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━ 作:針鼠
火龍、化生の連合と巨人達の戦場が都市部中央区画に移りつつあるなか、信長達の戦場はむしろ鍛錬場の真ん中を陣取っていた。
鍛錬場の中央を駆けて突っ切る信長。その先で、薄ら笑いを浮かべて構えも取らないマクスウェルの首を躊躇いなく薙いだ。
「危ない信長!」
耀の叫びと刀が虚空を薙ぐのは同時だった。
振り返れば、氷刃の大波が押し寄せてきていた。
信長の刀、レーヴァテインから炎が生まれ氷の波と激突。真っ白な蒸気をあげて対消滅。
「ふっ!」
さらに一閃。新たな炎が生まれ、波がやってきた方向を軒並み飲み込む。
大地を、壁を焼き尽くす灼熱。
「どこを狙っているんだい?」
しかし、声は明後日の方向から投げかけられた。
ゆっくりと信長が振り返れば、瓦礫に腰をかけて足を組んだマクスウェルがいた。
思わずため息が漏れる。
「やっぱり厄介だね、それ」
手慰みに刀で地面を引っ掻きながら信長は困ったように笑った。
「本当に瞬間的にその場から消失して、別の場所に出現してるんだね」
「ああ、その通り」
マクスウェルは優雅に頷いて肯定する。
空間跳躍。
それは最早超スピードとか、つまらないペテンなどでもない。消えたそのときには別の場所に存在している。
実際、信長はマクスウェルの気配を追いながら戦っているが、なんの痕跡も無く唐突に別の場所から攻撃が飛んでくるのだ。追いきれるはずがない。
「おまけに予備動作も無し。制限らしいものも、今のところ見つからない」
フフ、とマクスウェルは笑い、
「まさか
「思ってても言わないよ。それに、困っているのは本当だけど、面白くてたまらない」
「それでこそノブちゃんだ」
とは言ったもののどう対応しようか、そんなことを呑気に考えていた信長の目の前でマクスウェルが蒼い劫火に呑み込まれた。
その炎は地獄から召喚された炎。蒼い劫火は魂すら燃やし尽くす。
「私との再会が嬉しくて我慢出来なかったのか? 可愛い花嫁だ」
「……きもいぃ」
そんな炎も当たらねば意味は無い。
信長と耀を庇うようにマクスウェルの前に立ちはだかった少女。彼女こそ唯一、この場でマクスウェルに相対することが出来る恩恵の保持者。何故なら彼女もまた境界を操る者。
ウィラにとってこの対峙は恐怖しかなかった。目の前には倒錯した愛情を長年一方的に押し付けてくるナルシスト。それでいて実力があるのだから
故に彼女はパートナーであり保護者でもあるカボチャと共に今日まで逃げまわってきたのだから。
だが、今日ばかりは、少なくとも今この瞬間は逃げるわけにはいかない。自分ひとり逃げることは正直可能だと思う。しかしここには友達がいる。
一度マクスウェルから助けてくれた恩人の娘。耀だけは、置いて逃げるわけにはいかない。
「ああ、怖いのを必死に堪えてプルプルしてるウィラちゃん……萌え」
「…………ひっく」
「信長黙って」
この場において、ウィラの危険センサーなるものは背後に庇った信長にも反応しているのだから救われない。
「さあ、本番といこうか、ウィラ」
陶酔した目でウィラを見るマクスウェル。
ウィラは寒気の走る体を叱咤して、強く杖を握る。
2人の姿は信長達の目から同時に消えた。
★
蒼い劫火が召喚されればマクスウェルが跳ぶ。
炎と吹雪が螺旋に舞えばウィラが跳ぶ。
(凄い……)
耀はただ呆然とその戦いを見つめていた。否、
(目で追うことも出来ない……!)
五桁最強のプレイヤーと謳われる大悪魔。単独で四桁にまで昇りつめた境界の悪魔。
2人の戦いは、これまで知る戦いとは文字通り次元が違っていた。
境界を操る悪魔同士、空間を跳躍する彼女達の動きは、今まで超人的な身体能力と五感で戦ってきた耀には知覚することすら出来ない領域だった。
ウィラ達の戦いにおいてスピードに意味は無い。如何に相手の裏を取るか、動きを読まれないか。
それはチェスや将棋のような一種の戦略ゲームに似ている。
2人に言わせてみれば、もしくは彼女達以外の転移の恩恵を持つ者達からしても、それぞれ転移の方式や制限が違うのだが、そんな違いなど耀はわからない。
「まったく照れ屋だな君は! 恥ずかしがらずに素直に私の胸に飛び込んでおいで!」
「絶対イヤ」
返答の蒼炎を吹雪が相克。すかさず追加で拒絶の炎を召喚するも、道化師は炎と氷の渦と共に姿を消失させる。
消えたと思ったときにはすでに別の場所に現れている。
ここまでの戦いを見る限り、火力はウィラが上。しかし戦況は終始マクスウェルのペースで進んでいるように思える。
元来戦闘向きとは思えない彼女の性格が災いしているのか、それとも理由はどうであれ単独で四桁になるまで研鑽を重ねたマクスウェルが強いのか。
おそらくそのどちらも正しい。
「ふふ、これがツンデレというやつか。なかなか心地が良いものだ」
「もうやだぁ……」
まあ、精神的な疲労がなによりも大きいと思うが。
なにはともあれ、このままでは駄目だ。いずれウィラは追い詰められる。それがわかっていながら耀は動けないことに歯噛みする。
たとえ今、ペガサスとグリフォンを掛け合わせた具足を顕現して無防備のマクスウェルの背中に猛進したとしても絶対にどこかのタイミングで気付かれる。そして気付いた後、一瞬の時間さえあれば彼等が躱すには充分なのだ。
「勝てない、とか思ってる?」
その声にはっ、として横を見ると、信長はいつも通り懐っこい、しかしこういったときに時折見せる冷たさを感じる笑みを貼り付けてウィラとマクスウェルの戦いを見上げる。
「大丈夫。僕達にだってやりようはあるんだよ」
★
ウィラとの
首だけを巡らせれば、すでに眼球の間近にまで迫った
一瞬。しかしその一瞬さえあれば彼には充分過ぎる。
「酷いよマーちゃん。恋敵の僕を無視してお楽しみなんて」
「ああ、ごめんごめん」
矢が虚空を穿つ風切り音を耳で聞きながら、マクスウェルは大弓を構える信長を縁の上から見下ろしながら謝罪する。
間違いなく目で追えているはずのない彼がこちらを完全に向くのを待ってから、次の言葉を投げかけた。
「でももう理解出来ただろう? 悪いが君程度では私とウィラの足元どころか影すら踏めない」
それは、実質的な勝利宣告のつもりだった。
例外を除き、境界を操る者同士の転移の攻防はそれ以外の者にとって知覚することすら許さない正しく別次元の戦いだ。
パワーもスピードも意味を為さない。必要なのは如何に相手の裏を取るか、だ。
今こうしている今も目の前のツインテールの少女はマクスウェルの次の一手を何十通りも考え、それに対応する準備をしている。それはマクスウェルも同じく。
そしてそれは相手を理解しようとする行為であり、この瞬間、この場所で、自分と彼女は最も深く通じあっていると言える。それはなんて、
(なんて素晴らしい! これを相思相愛だと言わずなんと言う!?)
不倶戴天ではないだろうか。ただしウィラの場合、マクスウェルに抱くのは憎しみではなく純粋な嫌悪感だろうが。
「すまないが君との宿縁もここまで――――」
「――――そうでもないよ」
「なに?」
「ウィラそこから離れて!」
視界の端を疾風の如く駆ける少女は、今まで木偶だった人間の娘。輝く具足で空を踏みしめウィラを抱いてさらっていく。
それを怪訝に目で追ったマクスウェルだったが、下からせり上がってくるプレッシャーに自然視線を引き寄せられる。
炎。
視界を埋める荒れ狂った炎。
炎の性質から、この炎は信長が持っていた刀からのものだろうと分析すると即座にこの場から離脱しようととりあえず数メートル右に動いた。
「…………!?」
しかしそこは炎の中。
(転移を失敗した? それとも出現場所を誤ったか)
刻一刻と肌が焼かれていく灼熱の中で、恐ろしいほど冷静に状況を分析したマクスウェルは再度、今度は鍛錬場の天井間際まで大きく空間を跳ぶ。
――――しかしそこもまた炎だった。
それでマクスウェルは信長がしたことを理解した。
(やってくれる……。出現場所がわからないからといって、まさか
転移の利点は一瞬で移動出来ることともうひとつ、相手は次に一体どこに現れるのかわからないということだ。
背後かもしれない。上かもしれない。死角に限らず最初の位置から数メートルしか違わないかもしれない。
360度、いや世界中のあらゆる場所に現れ、消える。
それを感知出来ない限り一瞬の内に首を落とされるかもしれないのだ。
だから信長は全てを焼いた。マクスウェルの場所を暴くのではなく、現れる可能性のあるここら一帯を火の海にした。
吹雪にて周囲の炎を鎮火したマクスウェルは焼け爛れた頬を笑みに吊り上げる。
「なかなか無茶をするね、ノブちゃん」
言ったその先で、上等な着物をブスブスと焦がした信長が微笑を携えていた。
着物だけではない。信長は体中、確実にマクスウェル以上に火傷のダメージを負っていた。
信長はマクスウェルに攻撃を当てるために周囲一帯を攻撃した。それはマクスウェルに逃げる場所を与えては意味が無い。故に信長は、己が身すら巻き込んで攻撃したのだ。
その狂気に理屈をつけろというのなら一応はある。
転移の移動可能範囲はなにもたかが数メートル数十メートルというわけではない。むしろ階層すら含んだ境界門と同じ超長距離移動がその本領である。
つまり、如何に信長が広範囲を攻撃しようともマクスウェルはいつでも逃げることは可能なのだ。ただしそれをしてしまえば同じ空間跳躍者のウィラを逃がす可能性がある。彼女もまた階層を跨いだ跳躍が可能なのだから。
それを見越した上で、マクスウェルがウィラを諦めずここを逃げるはずがないと見切った上で信長は捨て身の攻撃をした。
――――と、一応の理屈をつけることは可能だ。だが、やはり自らを殺すつもりで攻撃するのは狂気の沙汰だ。ましてや、マクスウェルの不死性の恩恵を知った上でなど。
「せめてこれぐらいしないとどうやら倒せなさそうだからね」
ピクリと、マクスウェルの眉根が反応した。
「まだ倒せるつもりでいるのかい?」
「当然――――だよっ!」
再び炎がマクスウェルの視界を埋め尽くす。先程より火力が高い。もしかすればウィラの劫火よりも。
おそらく、また信長は自身を巻き込んでこの炎を放っているだろう。命惜しさに腰が引けるタマではない。
しかし、マクスウェルは気付いていた。この鍛錬場において唯一存在する安全地帯を。
荒れ狂う炎に呑み込まれる寸前、広げた外套から巻き起こる炎と吹雪に包み込まれたマクスウェルの体は消える。
再び現れたそこは、
「っ!!?」
ウィラと耀がいる宙空の一帯。
「アハハハハハ! そうだよねえ、いくら君とて仲間は殺せないとみた!」
突如空間の狭間から現れたマクスウェルに、2人の少女は目を丸くするしか出来なかった。そもマクスウェル達の攻防を理解すらしていなかったかもしれない。
だがそんなこと、マクスウェルにはどうでもよかった。
ここは今最も安全な場所であり、同時に目的の
「さあウィラ! 我が花嫁よ! 今こそその身を――――」
伸ばされた腕が鈍色の刃によってはねられた。
「な……」
マクスウェルの顔が驚愕に一変する。その胸部を、腕を跳ね飛ばした刀が貫いていた。
「ようやく捕まえた」
体ごと預けるような格好で刀を突き刺す信長は、先程より一層深いダメージを受けていた。それはつまり彼が先刻と同じ捨て身の戦法を取った証明でもある。
己を巻き込んで転移を無効化して倒す。転移の恩恵を持たない信長にとって唯一の作戦だったはずなのに。
そうしてマクスウェルはひとつの可能性を頭に浮かべる。
「わざと、残していたのか?」
肯定の声は無く、代わりにさらに深く刀を押し込んでくる。
始めから信長の狙いがこの瞬間にあったとしたら。
我が身も顧みない自爆攻撃。その唯一の穴が仲間の存在であるとマクスウェルは見破った。――――見破ったつもりでいた。
しかし実際は、転移のタイミングも出現場所も、信長によって誘導された結果なのだとしたら。
ゾクリ、とマクスウェルの身の内で言い知れない悪寒が走る。
信長は、己の命だけでなく仲間の存在も駆け引きの道具に使ったということだ。
閲覧ありがとうございましたー。
>前回更新は一章二話の書き直し、その前後に別作品の更新を挟んでしまったので最新話更新が一ヶ月以上遅くなってしまいました。申し訳ござりませぬ。
>てなわけでVSマクスウェルさんです。ウィラちゃん含めてこの人達との戦いはテレポートだなんてチート能力を如何に攻略するかが鍵なのですが、私にそんな頭を使った戦い方は出来ませんです。
実際、禁書目録とか読んでても思うのですが、テレポートってば能力として最強なんじゃないかと私は思ってるので勝つのって難しいですね。
おまけにマーちゃんは不死性(完全ではないらしいですが)も持ってるだなんてもうほんとチーターですよ!
>さて報告ですが、最新話の更新はここまでがやっぱり限界ぽいですねー。実はマクスウェル戦の後の展開を二通りぐらい妄想しているわけなんですが、原作でこのお話をどう終着に持っていくかで信長くんの行動パターンが変わってきそうで。
おおまかにいってしまえば、アジさんと対面させるかさせないか。それ如何で現在バトル中のマクスウェルさんとの決着の仕方にも変化必要になりそうですし。
てゆーかですよ!原作がまさに盛り上がり最高潮早く続きと焦がれている今、この章の完結が想像出来るはずがないのですよ!!(逆ギレ)
とゆーわけで最新刊早くー!
>ではではまた次回ー