問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━ 作:針鼠
「いくよ」
宣言した時にはすでに信長はアジダカーハの懐に飛び込んでいた。
飛ぶように大地を疾空した信長は大上段に大太刀を振りかぶる。
アジ=ダカーハはそれに対して憐れみすら覚えながら右手を掲げた。起こした行動はそれだけ。それ以上は必要無いと判断した。
故に、大太刀が、掲げた右手の皮膚を浅く裂きながら通過したことに、アジ=ダカーハは僅かながらも怪訝な表情を見せた。
「シャッ!」
連撃。
振り下ろした剣閃が、地面に着く寸前に翻り、再度三頭龍の右頭部の首を狙う。
今度こそ確実に刃を掴もうと右手を伸ばし、しかし刀はアジ=ダカーハの予想を裏切り再び掌を浅く斬って離れていく。
信長が後ろに跳んで距離を取る。
アジ=ダカーハはそれを追わなかった。ただ、傷付けられた己の手を眺める。
『貴様、何をした?』
問いには底冷えするほどの圧力が込められていた。
『貴様の
「自分で考えなよ。せっかく頭が3つもあるんだからさ」
クスクスと信長はせせら笑う。最強種、それも災厄とまで恐れられる最古の魔王相手に恐るべき胆力である。
『…………』
一方で、アジ=ダカーハは問いを投げながら実はすでに答えを出しかけていた。
三頭龍の伝承にある千の魔術を操るとは、実際に千の術を操るのではなく、アジ=ダカーハの膨大な知識量を示しているのだった。
ただ暴力振るうだけが魔王ではない。
暴力には暴力を。知謀には知謀でもって捻じ伏せる。
これもまた三頭龍が最強たる所以である。
すでに信長がこの体を傷付けた方法はわかっている。それもかなり単純な方法だ。
だからこそアジ=ダカーハには信じられなかった。
最初の不意打ちを、アジ=ダカーハは腕で払って退けた。攻撃方法は弓矢。しかしそれは、今信長が振るっている大太刀と同じ恩恵が源である。
いくら形を変えようが、根本的な攻撃力に変化は無いはず。
ならば、1撃目を、それも不意を突かれたそれを無造作に払って傷ひとつつけられなかった信長の武具はどう足掻いてもアジ=ダカーハの皮膚を貫けないはずなのだ。ましてやこうして直接対峙しての真正面からの攻撃など。
だが結果は予想を裏切った。
答えは、ひとつ。
『――――初撃は全力ではなかったのか』
そも前提である初撃が本来の威力ではなかった。
それしか答えはない。
信長の口角がつり上がる。
「大正解。よく出来ましたー」
刀を手にしたまま器用に手を叩く。
アジ=ダカーハと信長の間合いはおおよそ数十メートル。遠くはないが、決して近くはない。
それは信長がアジ=ダカーハの戦いを見て、実際に相対して測った絶対安全距離。
なにがあろうと反応することが出来ると判断した距離。
その計算を、アジ=ダカーハはいとも容易く打ち砕いた。
「っ!?」
龍という割に以前見た巨龍とは違ってかなり小さな、だが人間よりは確実に大きい体躯を、信長は目で追うことも出来なかった。
気付いた時には懐に踏み込まれ、濃密な殺意を伴った拳が下から上へ振り抜かれる。
弾丸のように弾き飛ばされ、家屋を3軒倒壊させた。
『立て』
眼前の粉塵に目掛けてアジ=ダカーハは声を投げる。
今の一撃に耐えられる存在が、はたしてこの箱庭にどれほどいたことだろうか。並の神霊程度ならば塵ひとつ残さず消滅しかねない攻撃だったのだから。
それほどの攻撃だったからこそアジ=ダカーハはあの少年が生きていることを確信していた。
並の存在ならば塵ひとつ残さず消滅する。それを、原型を残していたが故に弾き飛ばされ建物を破壊出来たのだ。
「あいてて……。すっごい力。十六夜より凄いかも」
アジ=ダカーハの確信通り声はあった。
粉塵の中心に立つシルエット。
口の端に血を流しながら、しかし信長は五体満足で立っていた。
アジ=ダカーハの一撃が入る直前、信長は咄嗟に刀をアジ=ダカーハの拳と自分の間に差し入れ、尚且つ全力で後ろに跳んで威力を逃した。
反応が遅れて刀を盾に出来なければもちろん、跳ぶのが早くても遅くても信長の体はよくて胴体が千切れ飛んでいたことだろう。
十六夜ほどではないにしろ人間にしては丈夫な肉体と反射神経、それと信長の勘の良さと運、全てが噛み合って生まれた奇跡だった。
『今まで幾百幾千幾万の者達が私を討とうと挑んできたが、手を抜かれたことなど初めてだ』
砂塵がアジ=ダカーハを中心にとぐろを巻く。まるで龍の怒りに呼応するかのように。
『屈辱だ。貴様は、その魂諸共砕いて殺す』
「はは、怖いなぁ」
言葉とは裏腹に、信長は怖じけることも逃げることもしない。それが尚更アジ=ダカーハの琴線に触れる。
アジ=ダカーハの掌から流れ落ちた血液が、先と同じように地面に染み渡ると新たな龍となって立ち上がる。それはやはり神霊級の分身体である。
『下手な傷を付けたのは逆効果だったな』
「かもね」
『さて、己の失態で生み出した我が眷属になぶり殺しにされるか。それとも仲間を殺されるか。どちらの方がより貴様を絶望させられる?』
悪辣に笑う三頭龍。今更魔王に慈悲などありはしない。
邪悪に歪むアジ=ダカーハを前に、信長は淀みなく返答した。
「その心配は無用だよ」
『なにを』とは続けられなかった。アジ=ダカーハが口を開く前に、本体の命令を待っていた2体の分身体が生み出されるやいなや打ち砕かれた。
『…………』
地面に叩きつけられた龍達はバシャリと血液へと戻り、再び龍の姿を象ることはなかった。
分身体とはいえ並の神霊を軽く凌駕するはずのアジ=ダカーハの眷属を一撃で仕留めたのは、やはりというか十六夜であった。
アジ=ダカーハに抉られ、信長によって開いた腹の傷からはまだじわりと彼の制服を赤に染めていた。
それでいて尚一撃。
「凄い凄い。さっすが十六夜だ――――」
無邪気に称賛する信長の胸ぐらを十六夜は問答無用で掴みあげた。
金色の瞳は明らかな憤怒の炎を滾らせていた。
「どういうつもりだ……?」
「なにがかな?」
「テメエは!」
おどけた態度を改めない信長に、十六夜は歯を剥き出しにして睨んだ。
「他の連中を殺す気か!?」
アジ=ダカーハが耀達に分身体を向かわせた時、信長はそれを追おうとはしなかった。それどころか邪魔だと言って十六夜を蹴り飛ばす始末。
今だって十六夜が仕留めなければ、厄介な分身体がさらに増えていた。それが次に誰を襲うのかもわからないのに。
「平気だよ。あれぐらいの敵、みんななら……まあ勝てるでしょ」
「そんな保証誰が出来る」
「勝つことが決まってる戦いなんて退屈だよ」
「誰も彼もがテメエみたいな戦闘狂じゃねえだろうが!」
十六夜の絶叫は彼の優しさから出たものだった。
それに対して信長の反応は――――退屈そうなため息だった。
「随分つまらないことを言うね、十六夜。どうしたの? いつもの余裕がまるで無い」
「……信長」
「死んだらみんなそれまでだったってだけでしょう? それを、今ここで君が喚いたところでなにか変わるの?」
「信長!!」
十六夜は傷だらけの右拳を信長の頬に叩きつけた。感情に任せるまま、だからこそ手加減も出来ない一打だった。
信長はその場に踏み止まった。
十六夜の拳を生身で耐え切ってみせた。
口端から血を流し、冷めた目で十六夜を見る。
「自分の弱さを他人に押し付けるなよ」
「っ!」
「分身体を逃したのも、今もあの三つ首を倒せないのも、全部十六夜の弱さが原因だ。それを僕に当たらないでよ鬱陶しい」
信長は口元の血を袖で拭う。
「さっきから君が喚いてるのは優しさなんかじゃない。君はただ甘えてるだけだ」
辛辣な言葉を投げつけて信長は十六夜を押し退ける。彼の目には今、アジダカーハしか写っていない。
「みんなが心配ならさっさとあれを倒せばいい。僕が気に入らないならぶっ飛ばせよ。我儘を通せるのはいつだって強い奴だけなんだ」
それが信長にとっての絶対真理。他人の意志なんて端から気にしちゃいない。
自分がそうしたいからそうする。
欲しいから奪う。戦う。
きっとそれが、誰もが信長を純粋に歪みきっていると評価する彼の性質なのだろう。
★
「――――はっ、はっはっはっはっはっ! ったく、たしかに全然俺らしくなかった。粗野で凶暴で快楽主義者の三拍子揃った駄目人間。それが俺だってのに」
信長の発言を受けて沈黙していた十六夜は突然腹を抱えて笑い出したかと思うと自分の額をパチンと叩く。
今まで十六夜を相手に正面切ってものを言える者などいなかった。ましてや生き方を語るなど。
それが出来たのは生涯ただひとり。
きっと信長の言い分を聞けば耀や飛鳥は酷い侮辱だと怒るだろう。しかしそれすらねじ伏せればいい。
強者とは勝者だ。敗者は勝者に従うしかない。
故に何時の世も、何処の世界も、正義は正しいのだから。
「そうだな。お前の言う通りだ。気に入らないならお前だろうと倒していけばいい」
「僕も邪魔だと思ったらさっきみたいに退かすから」
「おうそうだ。さっきの借りはのしつけて返すからな」
「うん。楽しみにしてるよ」
十六夜はヤハハと笑う。
信長はカラカラと笑った。
互いの思惑は違えど、ひとまず目的は一致している。
アジダカーハを倒す。
閲覧ありがとうございますー。
>どうもこんばんわ。こんな感じでVSアジさん突入でございます。
十六夜君とのタッグは殿下戦に続いて2度目です。でもアジさんチートだからまだ戦力が足りませんね。ほんとあの人(龍)チートです。
>最近時間が無いから更新がー、というわけで、文章のクオリティよりスピードを優先させてみました。今までだとこれを下地に二度書きするんですが、やっぱり携帯小説は速度も大事だと思います。
クオリティ高ければ万々歳ですが、そこは言い訳と思ってお見逃しください。
>さて次回で胸熱なスター大集合まで行ければいいですなぁ、と思いながら禁書とアクセル・ワールドの新刊が私を待っている!
でも仕事は私を待たないでいい!帰ってください!いや帰らせてください!
ではではまた次回ー