問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━   作:針鼠

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四話

 はたと信長の意識は覚醒した。

 

 そこは真っ白な場所だった。右を向いても左を向いても地平線など見えやせず、上を見ても下を見ても白一色だった。

 

 そもそも天地どころか、信長は今自分が立っているのか座っているのか、はたまた寝ているのかすらわからない。大地が無いというだけでこれほど己を見失ってしまうものなのか。

 しかし足がつかずに不安定かと思いきや、ここはまるで水の中で漂うかのような妙な安心感がある。

 

 故に、信長はそれほど気にすることもなくそのままこの白の世界に意識を漂わせていた。

 

 

 ――――お前は何を望む?

 

 

 声が聞こえてきた。

 

 それは男のようで女のようで、少年のようで少女のような不思議な声の持ち主だった。

 

 声の主に聞き覚えはなかったが、信長は気付けば自然にその問いに答えていた。

 

 

「別になにも」

 

 ――――本当に?

 

「うん」

 

 

 その答えは本心だった。だから迷わず答えられた。

 

 そういえば、アジダカーハも似たような質問をしていたのを思い出す。

 戦いの果てに望むものを問われて、そんなものはなんだっていいと答えたらアジダカーハは大層怒り狂っていたっけ。

 

 しかしそれは本心なのだ。

 

 

 ――――お前は人生がつまらなかったんだろ?

 

「うん」

 

 

 そう、信長は人生に飽いていた。というより、そも自身が生きている実感がもてなかった。

 

 かつて一地方の大名の子供であった頃、信長という少年は他者とは一線を画していた。

 

 信長より剣の腕がたつものはきっといた。頭の良い者も、口が上手い者も。

 商いが出来る者、戦上手な者、人を見る目がある者。

 

 経験は言わずもがな、当時の信長より優れたものを持っている者はおそらく沢山いたと思う。

 

 しかし、そんな程度を誤差だと(・・・・)蹴散らせてしまうほどに信長という人間は世界から逸脱していた。正しく一線を画していたのだ。

 

 見ている景色が違った。聞いている音が違った。

 あらゆる事柄において信長が感じていることは他者とはまるで違っていた。

 

 優秀な人間が一のことから十を学ぶというのなら、信長はそこから万のモノを汲み取っていた。

 

 それは世に言う『天才』というやつだったのかもしれない。

 

 ただし周囲はそれに恐れか嘲りのどちらかしか抱かなかった。抱けなかった。

 

 これがもし常人にでも許容出来る程度の才だったなら、周囲の反応も違かっただろうが。

 

 そしてそれは信長自身の不幸でもあった。

 

 誰にも理解されないということは、誰もいないのと同じだ。

 何をしても、何を話しても、誰も彼も理解出来ない。

 見下しているといわれるだろうが、事実そうだった。

 同時に不幸だったのは、信長という人間がそれに優越感を覚えたりする人間でなかったことだ。

 

 そしてそれはあの日、夢の中で己の未来を知ってしまった瞬間、信長は生きる気力を失ってしまった。

 結局この先ずっと、自分と張り合える存在がいなかったことを知ってしまったから。

 

 ――――しかし、信長はこの箱庭へやってきた。

 

 

「ここは凄い人がいっぱいいた。凄い物が沢山あった」

 

 

 最初に出会ったのは自分と同じ年頃の少年少女。それが元の世界で豪傑と謳われた者達より遥かに強かった。

 

 最強の階層支配者たる白夜叉。初めて自分が理解出来ない強さを持つ者と出会った。

 

 火龍生誕祭ではペストと戦い『死』を感じることで生きている実感を思い出した。

 

 南の地では柄にもなく悩んでいたところを飛鳥に活を入れられたりもした。

 

 フェイス・レス、蛟劉、殿下……死力を尽くして届かない者達がいた。

 

 きっとこの世界にはもっと、信長の想像も及ばないような強者や出来事、刺激が溢れているのだろう。

 

 

「でも僕は満足してる。望みなんてとっくに叶ってる」

 

 

 望むものを問われても、今の自分にはそんなものはない。

 箱庭にやってきて今日までの日々は、元の世界で過ごしたであろう数十年では及びもつかない充足に満ち満ちていた。

 

 だから、たとえこのまま死んだとしても満足……

 

 

 ――――本当に?

 

 

 声の主は笑っていた。つい吹き出してしまった、嘲るような笑いだった。

 

 

 ――――お前、自分が今どんな顔してるのかわかってないだろ?

 

 

 先程から思っていたが、聞こえている声の主の口調が徐々に粗暴なそれに変わっていた。

 それが妙にしっくりするのは、多分こちらの方が素なのだろう。

 

 

「僕の顔? そんな変な顔してるかなー」

 

 ――――鏡がありゃ見せてやりたいもんさ。満足? ハッ、んな物足りなさそうな面(・・・・・・・・・)した奴のどこが満足だってんだよ!?

 

(物足りなさそう?)

 

 

 はて、と首を傾いだ。

 相手の言っていることが本当にわからなかったから。

 

 先程の言葉は本心だ。

 

 願いなど無い。望みなど叶っている。

 

 対等な相手。格上の相手。

 死の恐怖。生の実感。

 

 今のままでも満たされている。そのはずだ。幸せだったと胸を張って言えるはずだ。

 

 それなのに、言われるまま省みて自分の顔はペタペタ触ってみるとその通り不満そうだった。少なくとも満ち足りた笑顔とは程遠い顔をしているようだった。

 

 

「あれ?」

 

 ――――馬鹿言うなよ。思い出してみろ。お前は誰だ? どんな奴だった? 確かにお前は望んだだろうさ。対等な敵を。格上の存在を。生きている実感をどうしようもなく欲していただろうさ

 

 

 声の相手はそれが滑稽だとばかりに嘲る。

 

 

 ――――だがそんな程度で本当にお前は満足してるのか?

 

 

 声の相手は問いかける。すでに答えを知り得ているかのように、確信を持って投げかけていた。

 

 

 ――――もう一度訊くぞ? お前は、本当は何を望んでる?

 

「僕は……」

 

 

 答える前に、白い世界は眩い光に消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると見慣れない天井を見上げていた。

 

 周囲に人の気配は無い。ただ地響きがここまで届いていた。

 パラパラと散った塵が額にかかる。

 

 意識の覚醒と共に体中から痛みの波が押し寄せてきた。

 

 『痛い』と感じられるということは、つまり自分はまだ生きているらしい。

 

 ボロボロの体。見事なまでの瀕死である。

 

 不意に、投げ出された右手に鼓動が伝わる。

 痛む体を押してなんとか視線を向ける。

 

 血塗れの手は刀の柄を握り締めていた。

 

 トクン、と再び刀が脈打つ。

 

 それはまるで、レーヴァテインが何かを訴えているようだった。




閲覧ありがとうございましたああああ!!

>ちょいと予定がたて込みまして更新遅くなりました。すみませんでした。

>さてさて、こうして覚醒フラグを立ててきまして、次回からはおそらく怒涛の如くバトル展開かと思われます。むしろ戦う以外の描写書いたほうがいいんじゃないかと心配していたりもします。まあ書くのはこれからなんですが。

>実際書き進めてみて、色々自分なりに遠回りしてみたものの、やっぱり展開が少し早すぎるでしょうか。なぜかというと、実質ここまでで『兎煉獄(原作タイトル)』までほとんど終わりましたよ!!多分二度書きすれば、少なくとも文字数は今の3倍くらい増えます。でもシーンは変わりません。
前も一時期陥った問題ですが、やはり信長君いない場所をすっ飛ばすとこんな感じになってしまいます……。

まあこの問題は、ゆっくりリメイクしている部分で修正していけばいいとも思いますが。やはり勿体無い感が半端ない!主人公達の熱い戦い信長君を放り込んでやりたい!――――はっ!?いっそ信長君にナルト的な影分身的な技を覚えさせれば……(やめなさい)

>久しぶりにゆっくりあとがきが書けることに嬉しさを覚えつつ、最近不意に問題児のアニメを観直したりしました。
やっぱり黒ウサギに違和感を覚えつつ、でも当時よりはずっと慣れて見ていたわけです。十六夜君かっけー、坊っちゃんマジゲスいわー、てな感じで見続けて……やっぱり最後はペストちゃん可愛い!!に落ち着くわけですね。くそうぅ、それでも私の一番は耀ちゃんなんだ……!!

あ、でも最近原作読んでて迦陵ちゃんの人気が上がってきています
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