問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━   作:針鼠

62 / 77
本編訂正報告

先日とある読者様から七話におけるラグナロクについてのご意見いただきまして、なるほどと納得した結果一部訂正致しました。
訂正は以下に。

・真名解放→神格解放

・解放前レーヴァテインを『木蛇殺しの魔剣』、解放後を『神殺しの魔剣』と致しました。しかし呼称はどちらもレーヴァテインで統一。

映像ではなく文章だからこその表現ということで、ややこしいかもですがこれでご了承を。

突然の訂正となりまして申し訳ございませんでした。


八話

「なんちゅう無茶を」

 

 

 信長から受けた出血で新たに生まれたアジ=ダカーハの分身体。双頭竜を相手にしながら蛟劉は以前までとは比較にならない力を見せる信長を見て嘆ずる。

 

 魔剣レーヴァテイン。大樹ユグドラシルの天辺に棲まう雄鶏ヴィゾーヴニルを殺すことの出来る唯一無二の武器と語られるそれは、一説には巨人スルトルがかの戦争で振るった光の剣だとも謂われている。本来拝火教であるアジ=ダカーハに炎熱系の恩恵は効かないが、終末の属性はアジ=ダカーハとも同種。たとえ拝火教といえど終末の属性に耐性は持っていない。それに光の剣は神々の戦争ラグナロクにおいて最後には九つの世界と名のある多くの神々を焼き払ったほどの武器だ。北欧の神は勿論のこと、神であればたとえ如何なる存在であろうと終わらせる力を持っているのかもしれない。

 

 アジ=ダカーハにあの刀が通じるのはそれで納得出来る。だが、今問題なのはそんなことではない。神を、最強種である生粋の神霊までも殺せるほどの恩恵に、単なる人の身が耐えられるはずがない。不相応の力がどういった結末をもたらすのかは先程のジャックでわかりきっている。しかも信長の場合は、その恩恵を『与えられた』或いは『奪った』というわけでもなく『神殺しの魔剣』をそのまま身に宿している。他者の恩恵を一時的に借り受ける程度ならばまだしも、まったく異質の恩恵に対してその身を器に受け入れるなど自殺行為に等しい。肉体は拒否反応を起こし、魔炎は際限なく燃え続けるだろう。

 

 

「最悪、魂まで喰い潰されかねん」

 

 

 見殺しにするわけにはいかない。そう思いながら蛟劉はまずは倒すべき双頭竜へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『正気とは思えんな』

 

「何が?」

 

 

 自身がどれほど無謀な行いをしているのか、そう問いかけたつもりだったが信長は飄々とした態度で受け流す。――――クスリと口角を吊り上げた。

 

 

「なーんてね。わかってるよ。体の中が熱くて堪らない。内側からバリボリ食べられてるみたいなんだ」

 

 

 胸の辺りを掴んで震える信長。立ち昇る炎は時間が経つほどに大きく、勢いを増している。迸る炎に巻かれながら信長は一足でアジ=ダカーハの懐へと踏み込んだ。

 

 

「だからもう我慢出来ない!」

 

 

 反応したアジ=ダカーハの左を潜り込んで躱す。僅かにこめかみの皮膚を削られながら胴を狙った左切り上げ。半歩退いてアジ=ダカーハが躱し、今度は右の腕を振り回す。信長は身を屈めてやり過ごす。数本散った髪の毛を尻目に、屈んだ膝を伸ばしてアジ=ダカーハの肩に刃を振り下ろした。刃が象牙色の肌に食い込むが、そこで止まる。

 

 

「!」

 

 

 飛び退る――――も僅かに遅かった。すでに暴風を伴って左の爪が眼前に迫る。刀を逆さに。盾にするも勢いを殺しきれず弾き飛ばされた。

 

 

「信長!」

 

 

 蛟劉達と共に分身体を相手していたレティシアが叫ぶ。咄嗟に駆けつけようとするも目の前には通常の分身体よりも一回りは大きい双頭竜が立ちはだかる。

 

 

「余所見は関心しません」

 

 

 フェイス・レスが横槍を入れて分身体の気を逸らす。引き継いで蛟劉が追撃を与えた。

 

 

「す、すまない」

 

「いえ。それにご安心を。信じがたいですが、彼はまだ生きています」

 

 

 巻き上げる土煙が炎に飲み込まれる。額から血を流しながら、しかと両の足で信長は立っていた。再び単騎でアジ=ダカーハへ飛び込む。あくまでも接近戦。それもほとんど足を止めて信長は真っ向からアジ=ダカーハと斬り合う。

 

 

「の、信長! 駄目だ! 正面から勝てる相手ではない! 後ろに回り込め!」

 

 

 たった一度でも受け損なえば信長の体はバラバラにされてしまうかもしれない。堪らず叫ぶレティシアの声もまるで届いた様子はない。そんな中、レティシアとは違う理由から戦慄する者がいた。

 

 

「何故だ! 何故信長は正面から打ち合おうとするんだ!?」

 

「あの少年は、本当に頭のネジが飛んでいるのかもしれませんね」

 

 

 普段感情を見せない仮面の騎士の顔に冷たい汗が流れた。

 

 

「彼は敢えて避けないのですよ」

 

「なんだと?」

 

「正しくは大きく躱さないでいる。なにがあったのかはわかりませんが、今の彼ならば充分三頭龍を翻弄し死角から斬りつけることが可能でしょう」

 

「ならば――――」

 

「しかし、躱すことを前提にすれば必然斬撃は軽くなるものです」

 

 

 相手の攻撃を躱して斬る。それはたとえ如何なる武芸者であれ基本であり、達人ほどその見切りに長ける。最小限の動きで攻撃を躱す。紙一重の見切り。だが、信長のそれはそれよりさらに一歩踏み込んでいる。

 

 

「彼は全身全霊での斬撃でなければ三頭龍を斬れないと判断した。結果、全力の斬撃を出すために――――あれだけしか避けないのです」

 

 

 紙一重で躱すのは神業だ。――――が、そこよりさらに一歩内側に踏み込んで身を削るなんて戦法は尋常の精神ではない。

 

 

「おああああ!!」

 

 

 硬質な音をあげてアジ=ダカーハの腕と信長の刃が激突。強靭な皮膚を突き破って灼熱の刃がアジ=ダカーハの腕を焼く。アジ=ダカーハの顔が僅かにひきつった。

 一転、信長が大きく後退。遅れて今までいたそこに黒い槍が降り注いだ。伸びるそれはアジ=ダカーハの龍影。

 

 怒涛のような攻撃もさすがに永遠には続けられない。信長は間合いを大きくとった。

 

 

「っぷはぁぁぁぁぁ」

 

 

 肩で息をするほど消耗した信長の体は一瞬の内に鮮血に塗れていた。ほとんどは自身の血。文字通り身を削る戦い方の鮮烈さがそこにあった。加えて信長に力を与えている代わりにその霊格を喰らい続けている臙脂の炎は勢いを増すばかり。確実に破滅へと歩を進めているはずの少年は、しかし不敵に笑う。

 

 

「なかなかしんどいなぁ。まあ、でもようやく僕を見てくれるようになったかな?」

 

 

 呼吸を整えながら信長は喋りかける。

 

 

「前の戦いじゃあ、十六夜の方ばかりで僕のことなんて眼中に無かったでしょう?」

 

 

 十六夜との共闘時、一時はアジ=ダカーハと渡り合っているかのようだったが真実はなんてことはない。アジ=ダカーハは端から信長など意にも介しておらず、十六夜にだけ警戒していた。信長の攻撃など分身体を生むには都合が良かっただけ。その証拠にその後は一撃で決着だ。不甲斐ない。

 

 

「結構傷ついたんだよー。でも今はこうして向い合ってくれてる。それはつまり、僕も貴方の『敵』になれたってことでいいんだよ――――ねっ!?」

 

 

 袈裟に斬った炎の刃をアジ=ダカーハは素手で握り込む。両者の動きが止まった。

 

 

『その力は貴様の命を削っている』

 

「そうだね」

 

『箱庭の為に、仲間の為に、己の命も惜しくはないと?』

 

「へ? ――――ぷ……あっはっはっはっはっは!」

 

 

 アジ=ダカーハの問いに目をきょとんとさせていた信長は次の瞬間腹を抱えんばかりに大笑いした。至近距離に立つアジ=ダカーハに向かって、笑って笑って、

 

 

「ばっかみたい!」

 

 

 吐き捨てた。

 

 

「箱庭の為、ね。くく……いや、本当に面白いこと言うね」

 

『何がおかしい』

 

「箱庭を守りたいのはそっちでしょう?」

 

『………………』

 

「貴方の戦い方、どうにも理解出来ないんだよねえ。貴方は本当に強い。一対一で戦ったなら、おそらくこの場の誰も勝てない。――――なら、なんでわざわざ全員をいっぺんに相手しようとしてるのかな? しかもわざわざ相手の土俵でばかり」

 

 

 アジ=ダカーハがもし理性の無い獣のような存在だったらそんな疑いはしなかっただろう。知性の無い暴力の化身であったなら、こちら側が上手く嵌めてやったのだと喜んで終わりだ。しかしアジ=ダカーハは獣ではない。その頭脳もまた信長達では遥か及ばない知識が詰まっている。積み重なるペナルティを避けながら、サラが仕掛けた超高難易度のゲームを僅かな時間で解き明かしたのがその証。知性においても力においても、アジ=ダカーハはこの場において最強であることは疑いようはない。

 ならば何故、アジ=ダカーハは今ここまで追い詰められているのだろうか。単体最強ならば1人ずつ確実に戦力となる者を削っていけばいい。究極、唯一対抗出来る十六夜をさっさと倒してしまえばいい。たったそれだけでこちら側の希望は潰える。

 

 

「力には力で。知略には知略で。確かに、相手の土俵で戦って打ち負かす……相手の心を折る戦い方は有効だよ。効果もある。――――でも貴方のそれはやり過ぎだ」

 

『何が言いたい』

 

「なんていうのかなぁ? 貴方はそう、本当は――――負けたがってるのかな?」

 

 

 龍影と爪の攻撃を、信長は大きく後ろに飛び退いて避ける。攻撃を考えていない、ただ間を取るために。

 

 

 ――――最終作戦決行だ。

 

 

 突如ラプラスの小悪魔達を通じて伝えられる十六夜の言葉に戦況は劇的に動き出す。

 

 

「ここまで来たか。なら、僕も覚悟を決めなあかんな」

 

 

 契約書類を手にした蛟劉は眼帯を外して月を見上げる。その体がみるみる海龍へと変じ、同じく龍となった月と交わる。一匹の星龍となった蛟劉は天に吠え狂う。

 

 

「ここが最後の一番だ。主達ばかりに負担をかけるわけにはいかない!」

 

 

 一方で、白夜叉より託された《蛇遣い座》、太陽の主権によって現れた巨龍。かつてアンダーウッドに現れたそれは吸血鬼の王、レティシア=ドラクレアのもうひとつの姿。

 

 

「いやいや凄いね二人共。負けてられないなぁ」

 

 

 月龍と太陽龍。北の空を引き裂く巨大な力を目の当たりにしても信長はアジ=ダカーハから目を離さない。

 

 

「僕がここまでする理由だったっけ? 前に答えたでしょう。願いなんて無い。理由なんてなんだっていい。僕はただこの人生を面白おかしく生きたいだけさ。全力を尽くさない貴方の戦い方は正直僕には理解出来ないけど、強い貴方と戦うのは楽しい。それで戦う理由は充分。なら、それ以外を(・・・・・)気にかける必要なんて無い。――――箱庭の運命も、僕の命も、正直今はどうだっていい」

 

 

 信長から立ち昇る臙脂色だった炎は徐々にその色を禍々しい黒に変える。器である肉体が耐え切れず肉を喰い破る炎を意にも介さず、どころか喜々と受け入れて、信長は笑う。

 

 

「でも、これだけは譲らない。貴方を倒すのはこの僕だ」




いつも閲覧、感想ありがとうございます!!

>さてさて、いよいよもちましてアジさんとの戦いも佳境でございます。次回戦いは決着出来るかなぁ、と思います。なのでそろそろこの一部の落とし所を考えておかねば。でも二部がどういった話になるのかわからないから、誰と合流させておくべきか悩みますね。
ちなみに、一部を終わらせたらしばらくはリメイクと、後は原作サイドストーリー(コッペリアのとか)をちょろちょろーっと書いていこうかなと思ってます。要はシリーズ完結せず続けますよという報告を今の内にしておきます。更新優先度は下がるかもですが。

>この場を借りてひとつ宣伝を。
先日タジャドル・隼さんにお誘いいただいて問題児のコラボに現在参加させていただいてます。総勢40作品オーバーという規模なのでおそらく端役とは思いますが(現状まだ未登場)、お祭りコラボは参加だけでもやっぱり楽しいですねえ。
私も一度なろう時代にSAO作品でコラボ参加&企画をやりましたが、大変でしたが楽しかったです。また何かで出来たら良いなぁと思ってます。

>ではでは、戦い決着まではこのままなので次話もなるべく早くお届け出来るよう頑張ります!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。