問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━   作:針鼠

64 / 77
十二巻 軍神の進路相談です!
一話


 『ギフトゲーム名《金剛の鉄火場》

 

 参加条件、《サウザンドアイズ》発行金貨一枚。

 

 ※勝敗について。

 一、A~Fグループに分かれて予選を行い、各グループで最も採掘量が多い者が勝者。

 二、以降は勝者6名が採掘した鉱石を奪い合うバトルロワイヤル形式。

 三、予選では複数名で採掘し、戦果をひとりに集中しても良い。

 四、本戦では主催者から金剛鉄の武具を貸し出す。

 五、バトルロワイヤルの勝者は予選・本戦で得た採掘量の集計で決める。

 六、採掘した鉱石はギフトカードに仕舞われる為、カードを奪われることは鉱石を奪われることと同意とする。

 

 ※注意事項

 金剛鉄の不正な持ち出しは反則です。反則行為は全て審判に通達が行くので密輸は諦めましょう。

 

 参加報酬、採掘量に応じて賃金を支払う。尚、略奪分の賃金は採掘した本人に還元。

 優勝者報酬、採掘した金剛鉄で武具を発注出来る。武具以外は要相談。

 

 宣誓、主催者は上記のルールに則り名と御旗の下、公正なゲームを執り行うことを誓います。

 

 同盟代表《六本傷》印』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ノーネーム》が所有する金剛鉄(アダマンテイウム)の鉱山。星の恩恵……本来は神佑地、或いは一等指定の霊地が数百年に一度生み落とすか否かというほど希少なレアメタル。それが名の通り星の数ほど眠る、すでに価値をつけることは出来ない莫大なノーネームの財産。ゲームはここで行われていた。

 

 以前、アンダーウッドにてジンとポロロの交渉の中でこれを掘り出す人員を《六本傷》が提供する、というのが一時的に持ち上がった議題だったが、今回はこれを遊戯として開催した。

 

 一級品の素材である金剛鉄を賞品にすれば人材の確保はもちろん、比例して多くの採掘量が見込める。さらに本戦で武具を使ってもらうことでその性能を広く知ってもらうことも狙い。一石二鳥どころか三鳥も四鳥も狙った、なんとも欲張りな作戦である。

 

 

「さっすがポロロ君だなぁ。こういうまどろっこしいのは僕じゃ絶対思いつかないよ」

 

 

 予選を観客席から眺めながら信長は感心する。その独り言が聞こえたのか隣りにいたリリがヒョコンと耳を震わせてこちらを窺う。

 

 

「信長様なにか言いましたか?」

 

「ううん。なんでもないよ」

 

「……傷が、痛みますか?」

 

 

 額をぐるりと回り、右耳を隠すように巻かれた包帯をはじめ、体中傷だらけの信長はついこの間まで死の淵にいた。アジ=ダカーハとの決戦。その決着の瞬間、彼は意識を失った。空中城塞へ転移されたときから瀕死の重傷を負っていた彼は、レーヴァテインの力を覚醒させて再び戦場へ舞い戻り。三頭龍との死闘を繰り広げた。それは明らかに、今までの信長の力量を遥かに上回る謂わば『暴発』じみた力。器を超えた力の行使。誰もが彼の死を予感していた。――――が、彼は驚くほどあっさりと次の日の朝に目を覚ました。

 そのとき最も泣き腫らしたのが、この狐耳の心優しい少女である。

 

 気遣わしげに瞳を潤ませるリリの耳を左手で撫でる。

 

 

「大丈夫だよ。痛いことはあるけど、僕だって男の子だからね。女の子の前じゃ強がるよー」

 

「あはは、それって言葉にしたら意味ないです」

 

 

 ほっとしたリリは頬を赤らめて撫でられるまま身を委ねる。

 

 

「体の傷は黙ってれば勝手に塞がるからね。僕はそれよりも、せっかく白ちゃんに貰った着物が駄目になったのが残念だよ。あれ気に入ってたのに……」

 

 

 いつも信長が愛着していた着物は以前、賽子遊戯で白夜叉に勝った際、賞品として貰ったものである。あらゆる神の恩恵を宿していたそれも、さしものアジ=ダカーハとの戦いで遂に朽ち果てた。

 今はうぐいす色の甚平を羽織っている。無論なんの恩恵も宿していない。

 

 そんな信長の右側。リリを撫でるのとは逆側の袖はしなだれ揺れ動くだけ。今、そこに彼の腕は無い。

 アジ=ダカーハの最期の攻撃。トドメを狙った信長を牽制する為の影の一撃を、信長は右腕を犠牲にすることで突破した。結果それでも彼の刃はアジ=ダカーハの届かなかったわけだが。

 右腕は溶岩の中に落ちて、もう跡形も無い。この広い箱庭だ。再生の余地はあるだろうが、並大抵の恩恵ではあるまい。

 

 

「………………」

 

 

 リリがそれに気付いて再び気落ちしたのに気付いて、可愛い少女に心配されることに悦に入りながら、しかし信長は彼女の悲しい気を紛らわせることにした。

 

 

「ほらほらリリちゃん。今は耀ちゃんの応援にきたんでしょう?」

 

「そうでした!」

 

 

 ピコーン! と耳を立たせたリリは再び鉱山内を映した映像を食い入る様に見る。ああ、やっぱり可愛いなぁ、とその姿に頬を緩める危ない男がいたとかいないとか。

 

 

 

 今回の遊戯、本来なら主催者側に立つべきノーネームだが、参加者としては歴戦ながら興行については未だ素人である彼等は同盟相手である六本傷へ主催を任せた。――――というのも理由のひとつだが、実はもうひとつの事情の方が理由としては大きい。ジン=ラッセル不在だ。

 彼とペストは先の戦いの最中、殿下の配下であるリンとの交渉に臨んだと信長は聞いている。詳しい内容については知らないし興味も無いが、とりあえず死んではいないらしい。それなのに戻ってこないということは、戻ってこれない状態にあるのか、それとも戻らない理由があるかだ。

 

 

(なんにしてもジン君も逞しくなったよねえ)

 

 

 いやいやこれは喜ばしいことだと、頭首の不在に不謹慎な感想を持つ信長の耳へリリの慌てたような声が飛び込む。

 

 

「信長様信長様! 耀様が……!」

 

 

 どうしたのかな、とラプラスの小悪魔が映し出す鉱山内の映像を覗く。そこには我らがコミュニティの美少女のひとり――――美少女しかいないけど――――、春日部 耀と同盟コミュニティである《ウィル・オ・ウィスプ》のこれまた美少女、アーシャ=イグニファトスが映っている。

 

 

「うん、ふたりともいつも通り可愛いよね」

 

「そうですねえ……って、そうではなくて!」あうあう、と懸命に訴えるリリ「耀様のところにあの方が……」

 

「あの方?」

 

 

 状況としてはこう。地精としての恩恵を駆使して現状トップの採掘量を得ていたアーシャだったが、他参加者の襲撃に合いカードを奪われてしまった。それを耀が助太刀に現れたという感じ。

 

 一応、ルール上予選でも相手の鉱石を奪うことは認めているが、予選の趣旨は全員参加の採掘勝負。力づくは本戦まで控えて欲しいというのが主催者の願いである。まあそれはノーネームや六本傷、主催者側の思惑であって参加者には知ったことではない。もし信長が参加していても多分こちらの手段を選んでいたかも、というのは心の内に秘めておくことにした。

 

 さて、そんな感じで耀と相対しているのはどうやら幻獣のようだった。前半身は鷲、後ろ半身は馬のような形態の幻獣は耀に向かって喚いている。そんな幻獣を見て信長は。

 

 

「馬肉って新鮮なのは美味しいんだよね」

 

「ええ!? わ、忘れたんですか!? ほら! アンダーウッドで信長様戦ったじゃないですか!」

 

「………………」

 

「忘れたんですね」

 

 

 がっくしというリリに後頭部を掻いて笑って誤魔化す信長。そんなこともあったかな、程度には覚えているが、それは結局覚えていないのと同じである。精々、その程度(・・・・)なのだろう。

 

 映像内の幻獣――――グリフィスと耀の会話が信長達がいる観客席側に流れる。

 

 

『驚いた。コミュニティを出てから東へ来てたんだね』

 

『ふん。南側より開拓の余地があると踏んだ迄よ。そしてそれは正しかった。このゲームで金剛鉄の武具を手に入れれば五桁に拠点を移すことも可能! それを貴様等如き《名無し》が……希少な星の恩恵を求めようなど身の程を知るがいい!!』

 

 

 思わず、信長は吹き出した。

 

 

「あっははははははは! 馬畜生で身の程知らずで、おまけに道化だなんて! くくくっ……痛い! お腹の傷が開く!」

 

「の、信長様!」

 

 

 人目憚らず笑い転げる信長にリリは恥ずかしいやらなんやらで顔を赤くする。

 

 実際、グリフィスの言動は正しく道化で、直接言葉をぶつけられている耀やこの遊戯の裏事情を知っているアーシャなんかも微妙な顔をしている。知らないのだから仕方ないとはいえ、なんとも憐れである。

 

 

「はー……笑った笑った。それと、大丈夫だよリリちゃん」

 

「え?」

 

「今の耀ちゃんに勝てる人はそうそういやしない。少なくとも、彼女をただの『猿真似』だなんて侮ってるあのお馬さんには無理かな」

 

 

 信長の言葉を証明するように耀は圧倒的な力の差を見せつけてグリフィスを倒した。それを見て一転、安堵と共に涙を浮かべながら小躍りするリリ。それと、ウサ耳を取り戻して絶賛ウサ耳強調中の黒ウサギの銅鑼の音が予選Cグループ終了、並びに耀の勝ち名乗りをあげた。

 

 

(さてさて、それじゃあ僕なら今の耀ちゃんとどうやって戦うかなぁ?)

 

 

 割れんばかりの歓声があがる観客席で、信長は勝利に困惑する耀の映像を眺めながら、先の戦いでより強く可愛くなった少女とのあるかもわからない戦いを夢想するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当によかったの? 耀ちゃん達と行かなくて」

 

 

 銅鑼の音からしばらくして、予選Cグループ参加者が洞穴から出てくる。その中には当然耀とアーシャの姿もあり、出てくるなり黒ウサギを連れてどこかへ行ってしまった。おそらくは居住区画へと行ったのだろう。

 ちょうど所用でその場を離れていたリリは、予選を勝った耀へお祝いの言葉をかける機会を逃したことに耳をへにょらせ、まだ追いかければ間に合うよ、という信長の提案に首を横に振った。

 

 

「はい。次は十六夜様の番ですし、また入れ違いしたら大変です!」

 

 

 むん、と今度こそ激励の言葉をと張り切る様を微笑ましく思う。そんな少女へ、信長は先程ちょっと足を伸ばして露店で買ってきた焼きとうもろこしを手渡す。

 

 

「はい。リリちゃんの分」

 

「え!? い、いいんですか?」

 

「もちろん」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 ぱぁ、と顔を明るくしたリリがハグハグととうもろこしを食べる傍らで、信長も自分の分を食べることにした。

 

 入れ違いがないように、と会場入口で待っていた2人のもとに十六夜達が現れたのは信長がとうもろこしを食べ終え、リリがあと3分の1を残すくらいの頃だった。

 

 

「十六夜様!」

 

 

 とはまずリリ。

 

 

「やあやあ十六夜。……おはよう?」

 

「ああ、朝っぱらからお嬢様にどやされて参った参った」

 

「そんな! ずるいよ十六夜!」悲愴な顔で叫ぶ信長は「隣りに住んでる可愛い幼なじみに朝起こしに来てもらうのは『はーれむるーと』の第一歩だって白ちゃんが言ってた! 僕まだ飛鳥ちゃんにも耀ちゃんにも起こしにきてもらったことない!」

 

「とりあえず俺とお嬢様は幼なじみじゃねえけどな。頼めばいいじゃねえか」

 

「頼んだことあるよ」

 

「そしたら?」

 

「『だって信長君別に寝坊してこないじゃない』って言われた……」

 

「そらご立派なことで」

 

「信長様! 『はーれむるーと』はわかりませんし、幼なじみではありませんが、お望みなら明日はリリが起こします!」

 

「ありがとうリリちゃん!!」

 

「ああ……なんかあの兎のねえちゃんがいつも疲れてる理由がわかった気がする……」

 

 

 信長と十六夜の掛け合いにポロロが呆れた様子で頭を振る。

 

 

「あれ? ところで『つんでれ』飛鳥ちゃんと『ないすばでぃ』のアルマさんは?」

 

「どこで、んな言葉覚えたんだよ……。お嬢様達は遊覧に行くとさ」

 

「十六夜の旦那に、きっちり勝って来いって激励残して行ったよ」

 

 

 ポロロの言葉ににしし、と笑う信長は十六夜の顔を覗き込み。

 

 

「それじゃあ圧勝してこないとね」

 

「――――さあな。勝負は時の運っていうし。予選はチームプレーも認められてる。まともにやりゃあわからねえよ」

 

「……ふうん?」

 

 

 十六夜の妙な物言いに、信長は眉をひそめた。

 

 

「だ、大丈夫です十六夜様! 私、一生懸命応援します!」

 

「おう」

 

 

 わしわしとリリの頭を撫でくり回す十六夜。

 

 

「ところでさ――――」信長の視線は十六夜とポロロの後ろへ「その人、誰?」

 

「ん? 俺か?」

 

 

 今までのやり取りを傍観していたのは信長同様、東洋系の顔立ちをした歳は三十代頃の男。信長には見慣れぬ格好で、口に咥えた白い棒から煙をふかす。男は口から棒を遠ざける。

 

 

「俺は帝――――」

 

「ちょっとちょっと」

 

「おっといけねえ」ポロロに諌められて訂正「俺の名は御門(みかど) 釈天(とくてる)だ。宜しくな、今代の織田 信長」

 

「僕のこと知ってるの?」

 

「いいや。お前のことは(・・・・・・)知らねえよ。知ってるのは以前に召喚された信長だ」

 

 

 なかなか興味深い話に目を輝かせ始める信長。その間に、そろそろ予選が始まりそうだと十六夜が先に会場へ。ポロロの提案で信長達も中へ入るが、ステージを見たポロロが首を傾げる。

 

 

「あれ? 兎のねえちゃんは?」

 

「そういえば戻ってこないねえ」

 

 

 耀とアーシャと露店街へ下りてから、そろそろ十六夜含めた次グループの予選が始まるのに未だ戻ってくる気配は無い。

 

 

「おいおい困るよ。最悪ゲーム自体は始められるけど、それだと密輸は防げない」

 

 

 元々黒ウサギの審判権限を当てにしての密輸防止のルール。彼女がいなければ不正の防止は完璧にとはいかない。

 

 

「ん? なら俺がやってやろうか?」

 

「帝……釈天さんが?」

 

 

 彼の正体を半ば以上確信を持っているポロロはなるほど、と納得して御門へと審判を依頼する。

 

 

「まあ我が眷属の不始末だしな。どーんと任せておけ!」

 

「でも黒ウサちゃんがいないと華が無いよねー」

 

 

 やたらテンションの高い御門を放って、信長は言う。しかしながらそれにはポロロも同意せざるを得ない。実際彼女のファンもいて、黒ウサギ目当てでここまでやってきている者もいる。そんな彼等も興行成功の大切なお客様だ。それなのに急に変わった審判が男となれば、落胆は大きかろう。

 

 

「よし、リリちゃんに頼もう」

 

 

 信長は言う。

 

 

「え?」

 

「リリちゃんに進行を任せて、御門さんは審判で」

 

「六本傷頭首権限で採用」

 

「む、無理です! 私に進行なんて!」

 

「大丈夫可愛いから」

 

「や、そんな……」

 

 

 顔を真っ赤に俯いてしまうリリ。そんな彼女へポロロは。

 

 

「兎のねえちゃんを助けると思って」

 

 

 その一言は絶大であった。はっ、としたリリは己の羞恥心を捻じ伏せて、緊張に引きつりながらも覚悟を決めた顔つきになる。

 

 

「微力ながら頑張ります! コミュニティの為に!」

 

 

 『でも信長様もついてきてください』と、ひしと手を握られれば信長が行かないはずがない。元よりついていくつもりだったが。

 そんなこんなで4人は予選進行を務めるのだった。




閲覧&感想ありがとうございます!

>これがリリちゃんが進行をしている顛末でした!(嘘ばっかり

>さてさてエピローグ的な最新刊開始です。この調子だと話数は3~4くらいでしょうか。非常に残念ながら、今回は耀ちゃん飛鳥ちゃんの出番は少なめで、珍しく信長君視点多めの展開となりそうです。まあ、いざ書いてみると変わるかもですが。
リリちゃん成分が多いのは癒やしを求めて。物分かりが良いポロロ君てば素敵です。

>ちなみの補足。
信長君は負傷の為、鉄火場のゲームには不参加です。

>ではでは次話でまたー。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。