問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━ 作:針鼠
一話
どうしてこうなった?
ゴールデンウィーク手前。世間は早くも連休に浮かれているこの頃。
愛する
それでも焔が本気でやれば、ましてや有能な兄妹もいればそれもなんとか終わらせられるはずだったのだが、せっかちな
その一つとして、愛する兄妹、
「いやぁ、美味しいねえこれ」
焔の目の前に積み上げられていく空皿。すでに尋常でない量だが、実はすでに一度店員さんが皿の塔を回収している。それでいてさらに二つの塔が積み上がっている。それも全てケーキやらの甘いスイーツだというのだから、見ているこっちが胸焼けしそうだ。
「おう……本当にすっごいねえ。私も甘いものは結構好きだけど、こりゃ敵わない」
焔の正面席。花柄の髪飾りで髪を纏め、いつもよりちょっとオシャレをしているものの、やはり動きやすさを重視した格好をした鈴華。隣りで積み上げられる皿の塔を口を半開きにして見上げている。
「彩鳥お嬢様、これ平気か?」
焔は鈴華の隣りに座る人物へ訊ねる。
ブロンドの髪に翡翠色の瞳。絵画から抜け出た女神と言われても納得するほど整った容姿。焔達の出資者にして、世界有数の大企業、エブリシングカンパニーのご令嬢は、どうやら聞こえていないようで、難しい顔をして黙り込んでいる。
「彩鳥?」
「え? あ、はい何ですか先輩」
ようやく気付いた彩鳥は、声をあげて聞き返してくる。普段は隙も見せない完璧優等生なのだが。
「金足りるかって話」
「あ、はい。なんとか。食べ放題にして助かりました。危うく持ち合わせでは足りなくなるところでした」
そういってピンク色の可愛らしい財布の中身を確認しながら苦笑を浮かべる。
ホームの貧苦を知る彼女は、一緒に遊びに行くとき度々食事などを奢ってくれる。元々焔も鈴華も特段大食らいではないので、普段ならそう大したモノではないのだが、今日は些かイレギュラーがあった。
「まさかこのご時世に、行き倒れに遭遇するとはな」
そう、焔達は行き倒れの少年を拾った。
華乃国屋書店を回った後、軽い食事でもしようかと話になった丁度そのとき、都会のアスファルトのど真ん中にぶっ倒れる同い年くらいの少年を見つけたのだ。
道行く人々は、誰も彼も見ないふり。無論焔とて、如何にも問題事がありそうなイベントに好き好んで顔を突っ込みたいとは思わない。今はいない彼の
とまあ、平穏主義の焔は、ここはスルーが正解だと思っていたのだが、今日はそうもいかなかった。
品行方正。謹厳実直。清廉潔白たる学園の聖女様は、行き倒れた少年を心配して声をかけてしまったのだ。仕方がなしと肩を竦めつつ、こちらも根っこは世話焼きの兄妹も加われば、もう焔に少年を無視するという選択肢は残されていなかった。
気を失っているのかと思い抱き起こした少年は、存外すぐ口を開いた。『……お腹、空いた』と。盛大な腹の虫と共に。
「
「そうだぜ兄妹。俺たち弱者が生きていけるのは、彩鳥お嬢様みたいな心優しい雇い主様がいるからだ」
「先輩も鈴華もそういう小芝居はやめて下さい」
人情溢れる感動小芝居(笑)に対し、彩鳥はジト目で劇の幕を強制的に下ろす。
焔達としては、感謝をしているのは本当のことなのだが、どうにもふざけてるだけだと捉えられてしまったらしい。
「――――はぁ、美味しかった。ご馳走様でした」
カラン、とさらに皿が重ねられる。だがそれきり、ずっと途切れることが無いかと思われていたそれが聞こえなくなる。
そこでようやく焔は隣りに座る人物をまじまじと見つめた。
高く通った鼻筋。少し野性味がある形の眉。切れ長の双眸。なるほど顔立ちは良い――――が、それを台無しにするのは、まずそのゆるみきった顔だ。ふにゃ、と表現したくなる笑い顔。
そしてそれ以上におかしいのが格好だ。
眼帯。十字架やらのアクセサリー。黒のロングコート(背中に十字架イラスト入り)。左手には包帯ぐるぐる。右腕は袖に隠しているのか見えない。
「なに? もしかして病気を患ってるの? その腕とか眼は封印とかされちゃってるの? 疼くの?」
「昔から風邪ひとつひいたことないよー?」
コテン、と小首を傾げて少年は言う。会話が成り立っていないのは、果たしてわざとなのか。焔では表情から真意を知ることは出来なかった。
「さてそこな黒歴史さんや。なにか言うことがあるんじゃないのかね?」
コホン、とわざとらしい咳をたて、これまた演技がかった言い回しをする鈴華。
正直、何もしていない鈴華が言うことではないが、行き倒れているところを救い腹を満たしたのだ。この場の代金を支払った彩鳥には、感謝の言葉ひとつでも言うのが筋というものだろう。重ねて、何もしていない鈴華が言うことではないが。
厨二小僧は、しばし考えたあと、ポンと手を叩いた。
「へい彼女、僕と一緒に茶でもしばかない?」
「いきなり軟派か!」
「……しかも言い回しが古いですね」
思わぬ発言に全力でツッコミを入れる鈴華。
あの彩鳥お嬢様までもツッコミを入れている。侮れない人物かもしれない。――――いや、ないな。
「しかもばっちりお茶しちゃってるしね」と鈴華。
「おお! 本当だ! やったね!」
ひゃっほー、と小躍りし始める。見た目通りやはりおかしな人物らしい。これは妙なものを拾ってしまったかと若干後悔し始める焔だった。
「今更だが自己紹介をしちまおうぜ」
「本当に今更ですね、先輩」
「そういうなよお嬢様。俺だって圧倒されてるんだ」
肩を竦める焔。ふと、感じた気配に視線を向ける。
「何をニヤニヤしてるんだ?」
「んー。なんか懐かしいなぁ、って」
何が楽しいのか。少年は尚、焔と彩鳥を見て笑う。
「それで? おにいさん名前なんていうんだい?」
鈴華が話を戻す。彼は満面の笑みで言うのだ。
「サブロー!」
苗字は。
「もしくはサブちゃんで!」
だから本名を名乗れ、と焔は心の中で叫んだ。
閲覧ありがとうございましたー。
>お久しぶりで御座います。さてさてと、まずはなんとご挨拶したら良いかと悩みましたが、やっぱりお久しぶりですというのが正しいかな、と。そして長らくと停止してしまい申し訳ございませんでした。
>一先ず執筆意欲が戻ってきたので書いてみました新章。速度は相変わらず。量も少なくなってしまうかもしれませんが、こうして再開することが出来ました。いやほんと良かった。
ただ大問題なのが、最新刊まで読んだ感想。
最近設定が複雑でよく理解出来ない!やばい!
>とまあまあ、不安いっぱいだけども、あまり気を張らず進めて聞けたらと思います。改めましてよろしくお願い致します。
ではではー