問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━   作:針鼠

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あまりにもあんまりだったので、途中まで書いてやめていた《ペルセウス》戦の内容です。終わりが尻切れ感なのはご愛嬌ということで。

漫画のラフ画気分というか、没ネタのおまけとして読んでくだされ。


おまけ

 《ペルセウス》のギフトゲーム概要はざっと以下の通り。プレイヤー側はホスト側のゲームマスターを除いた人間に見つかってはならない。ただし見つかっても失うのはゲームマスターへの挑戦権であってゲームそのものを続行することは出来る。《ノーネーム》はゲームマスターであるジンが誰かに見つかる、もしくは降伏すれば敗北となる。

 

 本来このゲームは百人規模で挑み、一握りをホスト側ゲームマスター、ルイオスの前に到達させることがゲームの攻略法である。

 しかしジンを含めてもたった五人しかいない《ノーネーム》は明確な役割分担が必要となる。ジンと共にルイオスを倒す者。彼等をそこに導く索敵と撃退の役。そして最後に、最初から失格覚悟で大多数を相手にする囮だ。

 

「はっはー! 捕まえた」

 

 グリフォンの大気を踏みしめる、その劣化ギフトで空を跳ねた信長は羽の生えた靴を履く騎士の頭を掴んで重力のまま引きずり落とす。有無を言わさず大地へ叩きつけた。

 気絶させた騎士を打ち捨て、空を舞う騎士達を眺めながら信長はつまらなそうにため息を吐く。

 

「勿体ないなー。立派なギフトを使ってるのに――――」

 

 砕いた破片を何気なく周囲に放ると、破片が『何かに当たって跳ね返った』。

 

「しま――――がっ」

 

「使ってる君達がお粗末すぎるよ」

 

 先に虚空から苦鳴が漏れ、衝撃で兜が取れた騎士が虚空から現れた。ハデスの兜――――不可視のギフトだ。信長は兜を拾い上げると指で回した。

 

「この兜は透明になってるだけで、別に本当に消えてるわけじゃないんでしょ?」

 

 信長の言う通り、ハデスの兜は姿を透明にするギフトであって透過するギフトではない。それは騎士達が使うレプリカも、近衛が使っている本物も変わらない。本物の兜であっても音や臭いを消せても、手を伸ばせば触れることは出来る――――ということは、石の破片が当たれば跳ね返る。そこに敵はいる。

 

「それにね、本当はわざわざこんなことしなくていいんだよ」

 

 騎士達の姿は間違いなく見えてない。それなのに、今度は破片を投げて探ったわけでもないのに、信長はまるで見えているかのように『虚空へ向けて拳を振った』。顔面を殴られた騎士が錐もみしながら倒れた。

 

「何故!? 貴様見えているのか!!?」

 

「もちろん。――――『君達が歩く度に足元で舞う塵が丸見えだよ』」

 

 なんてことはないように彼は言い放った。さすがの騎士達も言葉を失った。

 理屈としてはさっきの破片を使った索敵と同じ。そこに実体がある以上、彼らが動いて起こる現象までは消えない。故に足音は消せても動いた拍子に動く塵までは消せない。

 しかしこの白亜の宮殿は砂地ではなく石床。それも今は戦闘中だ。歩いて起こる程度の塵埃が巻き上がる瞬間を見極めるなんて芸当、一体誰が出来るというのか。

 

「貴方、そんなことが出来るなら春日部さんと一緒にジン君を守っていた方が良かったのではないかしら?」

 

 水樹の枝に腰掛ける飛鳥が尋ねる。

 

「あっちは十六夜がいるから平気だよ。僕は飛鳥ちゃんを守ってあげる」

 

「結構よ。間に合ってるわ」

 

「あれ? 怒った?」

 

 心外とばかりにふいと顔を逸らす飛鳥は鬱憤を晴らすように水で宮殿をさらに破壊する。信長は苦笑して、気付いたときには空中の騎士の背後を取っていた。

 男が気付くより先に振り上げた拳を薙ぎ払う。殴られた騎士は鎧を砕かれ、柱をへし折り、壁を抉ってようやく停止した。それは星を砕くには遠く及ばないまでも、『どこか十六夜の馬鹿げた力にも似ていた』。

 

 驚いている飛鳥に向けて、信長は朗らかに微笑む。

 

「それに僕、目立ちたがりだし」

 

「そうね」フッと飛鳥も笑う「それなら精々派手にいきましょう!」

 

「止めろ! 奴等を止めろ!」

 

 本来のギフトゲームなら本拠の私財は全て宝物庫に保管するのだが、今回は急に過ぎた。計り知れない価値を持つ品々が信長の暴力で破壊され、飛鳥の水に押し流される。

 

 宮殿外の騎士達の半分近くを素手で叩きのめした信長はほぼ浸水した一階から逃れるように宮殿広場の石像の上に飛び乗った。剣を構える初代ペルセウスの像だ。不遜にも像に腰掛ける少年は如何にも高そうなクリスタルの壺を片手で弄んでいる。

 周囲を取り囲んだ騎士が壺を見るなり顔を青ざめる。

 

「やめ――――」

 

「やーめない」

 

 弾んだ声で信長は騎士達の目の前で壺を破壊してみせた。粉々になったクリスタルは水に流されていく。騎士達は憤怒の顔で信長を睨んだ。

 

「貴様あれにどんな価値があるのかわかっているのか!!」

 

「わかってないのは君達だよ」

 

 クスクスと、信長は口元を歪ませた。

 

「もしかして君達はまだ、僕達がレティシアちゃんを取り戻しただけで終わると思ってる?」

 

 騎士達は彼が何を言わんとしたいのかわからない。彼等は仲間であるレティシアを取り戻すためにこのゲームを仕掛けていたはずだ。仮に彼等がこのゲームに勝利すれば、奪った《ペルセウス》の旗印と彼女を交換するつもりだろうと。それが余計に彼を楽しませた。滑稽だと言わんばかりに。

 

「冗談じゃない。『この程度で終わらせるわけないだろう』」

 

 ゾクリと、言い知れない悪寒が走った。

 

「僕達の領地を侵して、旗を貶して、レティシアちゃんを苦しませて――――そして黒ウサちゃんを泣かせた君達をたかが一度の敗北で終わらせるつもりなんてない。何度でも、何度でも……奪って奪って奪って奪って奪って、奪い尽くして壊し尽くす。賭けるものがなくても続けるよ。永遠と。君達の生きる気力がなくなるまでず-っと、ね」

 

 それは奇しくもこの後十六夜がルイオスへ宣言するものと同じものだった。ならばこれは総意だ。《ノーネーム》は《ペルセウス》を――――潰す。

 

「悪魔め……!」

 

「違うよ。僕はね――――」薄く、信長は微笑む「魔王を名乗るつもりだから」




結局ルイオスとアルゴールの出番はありませんですね(笑)

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