問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━   作:針鼠

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四話

 『ギフトゲーム名《ヒッポカンプの水上騎手》

 

 ・参加資格:主催者側が招いた者。

 ・勝利条件:主催者、白雪姫より早く大樹を一周する。

 ・ルール概要:一、参加者側は地図を見て好きなルートを選択してよし。二、主催者側もルート選択は自由だが、海上に頭を上げる際は立ち止まること。三、参加者側は転覆した場合、即座に立て直せばその場で再スタート可。四、ゲーム中は等間隔で相手を妨害することが出来る。

 ・参加者側の勝利報酬:ギフトカードを一枚贈与。及び衣食住の保障。

 ・主催者側の勝利報酬:逆廻 十六夜に今日までの無礼を全て謝罪するよう説得する。

 

 宣誓、上記のルールを尊重し、誇りと御旗の下、ゲームを開催することを誓います。

 

 《ノーネーム》白雪姫 印』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンダーウッド舞台区画、精霊列車の出入り口前。そこが今回のゲームのスタート位置だった。

 

 白蛇、白雪姫とのゲームが決定してから一日が経過している。

 

 彩鳥達が控えている水路の先。アンダーウッドの街は、大規模な観客席やら出店でたいへん賑わっている。どうやら地主達が、ゲームのことを聞きつけて商売に絡ませているらしい。

 なんとも逞しいと、彩鳥は苦笑した。それと同時に、これほどの観客の前だ。不甲斐ない姿は晒せないと気合も入る。

 

 

『ヒヒン』

 

 

 彩鳥の昂ぶりを感じ取ったのか、彼女が跨る海馬――――ヒュトスが一鳴きする。

 ヒュトスは、彩鳥が転生する前に(・・・・・・・)、共に女王のコミュニティに従軍していた特別な海馬である。

 

 本来なら飛鳥に敗北したあの日、記憶を洗い流され外界に転生するはずだった彼女は、どういうわけか記憶を保ったまま久藤 彩鳥として転生を果たした。

 以後、焔のサポートをする為に行動していた彼女だが、かつて最強種をも唸らせた技量は、平和な外界に浸りすぎた為に見る影もない。フェイス・レスとして女王騎士の三席を務めていた頃とは違う。

 

 それでもヒュトスは自分を選んでくれた。気付いてくれた。

 それが嬉しく、そしてこの愛馬に応える為に、彼女は手綱を握ったのだ。

 

 

「ええ、そうですね。お前の期待に応える為にも、二度と負けるわけにはいきません」

 

「――――やあやあ、彩ちゃん。随分気合入ってるねえ」

 

 

 その声に、彩鳥は目を向ける。

 真横につけるように近付いてきたのは、ヒュトスとは別の海馬に跨った焔と同い年くらいの少年。サブローという名の男だった。

 

 彼もまたゲームの参加者。但し、彩鳥達の味方というわけではなく、別枠での参加者だ。つまりこのゲームは、主催者の白雪姫、サブロー、そして彩鳥達の三つ巴という形を取っている。

 

 サブローが近付いてきたことで――――いや、正確には彼の乗る海馬が近付いてきたことで、ヒュトスが不機嫌そうに唸った。

 先日彩鳥達が海馬達の放牧場で訪れた時もそうだったのだが、どうやらヒュトスとあの海馬は仲が悪いらしい。理由はわからないが。

 

 

(先日から気になっていたのですが、あの海馬、ずっと私の方を見ているように感じるのは気のせいでしょうか……)

 

 

 しかも彩鳥の顔よりやや下の方を見ているように感じる。何故か本能的に危険を感じ取ったこれが、ヒュトスがあの海馬を嫌う理由なのかもしれない。

 

 

「サブローさん、先日は先輩と私を庇ってくれたそうでありがとうございました。ですが、今はゲーム開始間際。敵と慣れ合うのは避けた方が良いかと思います」

 

「あれー? そのこと誰に聞いたの? 彩ちゃん気絶してたと思ったけど」

 

「先輩からです。――――それと、その……。そ、その彩ちゃんと呼ぶのはやめてもらえませんか?」

 

「ええーなんで? 鈴ちゃんだって呼んでるよ?」

 

「鈴華は友達同士ですし、それに同性ですから。その、あまり男の人からその愛称で呼ばれるのは恥ずかしいといいますか……」

 

「でも焔が呼んだら嬉しいでしょ?」

 

「なッッッっ!!!!!??!?」

 

 

 顔を真っ赤にして動揺する彩鳥。危うくバランスを崩してヒュトスの背から落ちそうになった。

 

 

「あはは! 本当に面白いねえ。隙だらけの今の君も、凄く可愛くて僕は好きだよ」

 

「……そういう発言は誤解を生むので気を付けた方がいいと忠告しておきます」

 

「誤解なんて無いよ」

 

 

 ジト目で睨みつけても、彼は微塵も臆した様子は無い。美人の怒り顔は、下手な強面よりも怖いといわれるが、大した胆力だ。

 

 

「その、サブローさん」

 

「なぁに?」

 

「初めて会った時から訊きたい事がありました。――――私は貴方に、以前どこかで会ったことがありませんか?」

 

 

 彩鳥は、ずっとこのことを訊くべきか悩んでいた。理由は、この質問自体が変なことであり、また、フェイス・レスであった自分を極力隠そうとしている彼女にとって、それを気付かせる可能性があるものだからだ。

 それでも訊かずにはいられなかった。

 

 ゲーム開始まであと僅か。

 彩鳥は意を決して訊ねた。

 

 

「………………」

 

 

 彼はしばし間を置いてから答えた。

 

 

「もしかして僕、逆ナンされてる?」

 

「ち、違います!!」

 

「冗談だよ、冗談。――――さて、どうだろうね」

 

 

 真面目には答えてくれないだろう、という彩鳥の予想はずばりだった。

 

 

「やはり答えてはいただけないのですね」

 

「そんなことないよ。あ、そうだ」

 

 

 ポン、と彼はわざとらしい所作で手を打ち合わせる。

 

 今度は何を言い出すのか。からかわれても動じないようにと心構えていた彩鳥は、

 

 次の瞬間、背筋を凍りつかせた。

 

 

「剣でも交わせば思い出すかもよ?」

 

「っ!!」

 

 

 その場で剣を抜かなかったのは僥倖だった。一度抜けばそのまま斬りかかっていただろうから。

 

 いや、果たして自分は剣を抜かなかったのか。抜けなかっただけではないか(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「ほら、始まるよ。彩鳥ちゃん」

 

 

 水路を抜けてスタート位置に着く。

 

 荒れた空は、まるで今の自分の心の不安を表しているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、焔さん達は随分堅実なゲームメイクをされるのですね!」

 

 

 今回のゲームの司会進行役であり、審判役である黒ウサギはアンダーウッドの屋根を飛び跳ねながら焔達を追走する。

 

 繰り返すように、焔達のゲーム運びは堅実だ。

 

 このゲーム、妨害はありだが、直接プレイヤーに体当りなどの物理的な妨害は無しになっている。となれば基本的な白雪姫の妨害方法は、水神の恩恵を使って海馬の、或いは馬車の足を止めることになる。転覆、座礁辺りだろう。

 

 一方焔達は、安易に小道の水路を通らず白雪姫の位置を把握しながら大通りを進む。水路は街中至る所に張り巡らされているとはいえ、船体が通れるほどの大きさかどうかは地図ではわからない。加えて、妨害があったとき、水路の幅が無ければ避ける事が出来ないからだ。

 選んだルートは工業区画に抜ける道。

 

 最初は、左右から波を起こす妨害。それを乗り切った次は、水柱。

 白雪姫も口ではああ言いながら、初心者である焔達をちゃんと試すように、徐々に難度を上げた妨害を選んでいることには、黒ウサギもひっそり安心した。

 

 そうして次に驚いたのは焔達の対応。いや、正確には、鈴華と名乗った少女の恩恵。

 

 彼女は道中に置いてあったペンキを、近付かずに取り寄せ、またそれを白雪姫に当てたのだ。

 

 

「おそらくは転移系の恩恵……。箱庭でも女王やマクスウェルのような境界を与る者にしか扱えない超レアものですが、外界の人である鈴華さんがそれを扱えるなんて」

 

 

 今度は襲ってきた水柱を、白雪姫に返した。

 

 大きくロスした白雪姫だったが、水中深くに潜って進むと、鈴華の妨害も止んだ。

 どうやら彼女の恩恵は、相手の姿が見えていなければ使えない、或いは精度が落ちるものらしい。

 その証拠に、潜行しながらの白雪姫の妨害に、鈴華は躱すことに使っても反撃には使っていない。

 

 

「おーい、黒ウサの姐さん!」

 

 

 工業区画に一足先に入った黒ウサギは、川沿いから地面に降りると、呼ばれた声に振り返る。

 そこには猫の獣人が二人。

 背の高い、黒ウサギを呼んだ女性がシャロロ。もうひとりの青年と呼ぶにはまだ幼い方が、《六本傷》頭首であるポロロだ。

 

 

「お久しぶりです、シャロロ様。ポロロ様」

 

「ご無沙汰っす」

 

「久しぶり」

 

 

 気安い笑みで返すシャロロ。努めて冷静にポロロも挨拶を返す。

 

 黒ウサギも大きく頭を下げて挨拶する。

 

 

「ゲームは順調ですか?」

 

「YES! 水路にペンキをぶちまけた以外は、概ね」

 

「そりゃ良かったです。六本傷はノーネームに多大な恩がある。――――が、流石にこの工業区画を破壊されたら庇いきれないっすからね」

 

 

 ポロロは周囲をぐるっと見回す。

 

 乾いた笑いで誤魔化すしか出来ない黒ウサギ。彼等ノーネームが誇る問題児達に振り回された者にしかわからない辛苦である。

 

 

「参加者が十六夜の旦那の兄弟って聞いて心配してたんですよ」

 

「いえいえ! ですがその心配はありません! 焔さん達は至って常識人。優等生なのですよ!」

 

 

 ここまでのゲーム展開、加えて黒ウサギ自身が直接喋った印象を二人に伝える。二人も意外そうな反応だった。

 

 

「十六夜さんなら、ゴールまでの道を街を破壊して作ったり。もしくは水路の水を干上がらせて白雪姫様の動きを止めたりしてました。絶対」

 

「ああ、やりそうっすね」

 

「やるな。絶対」

 

 

 三人が遠い目になる。

 

 黒ウサギ達が過去の苦行を思い出していると、シャロロが遠目に焔達の接近を見つける。その際不思議そうな声をあげた。

 

 

「およよ? なんかひとり、見慣れない男の子が混じってないですか?」

 

「ああ、直前にエントリーがあったのですよ。サブローさんという男の子です! サブちゃんさんでも可、だそうですよ」

 

「なんですかそれ?」

 

 

 妙だというのは黒ウサギも同意だが、彼女も彼については上手く説明が出来ないのだ。

 

 このゲームの参加だって、本来なら彼は焔達と同じチームとして参加するか、或いは不参加を示せばいいはずなのに、彼は敢えて白雪姫とも焔達とも別枠として参加したいと申し出た。

 主催者の白雪姫にしても『見慣れぬ童子だが、何故だ。何故か此奴の顔を見ると苛立ってくる』とかいう理由で参加を認めた。

 実際彼女の妨害は、焔達より彼の方が厳しいものが多い。

 

 不思議といえば彼が乗るあの海馬。

 ヒュトスとは別の意味で気難しいあの海馬を、彼は手懐けて乗りこなしている。

 

 あの海馬は、以前のレースで黒ウサギの水着を引剥がしたエロ海馬。

 

 

(そうです。あの海馬を乗りこなせるのはあの方だけのはず……。あれ? あのとき、あの海馬に乗っていた同士は誰?)

 

 

 思い出せない。あの日のレースのことを、黒ウサギはよく覚えているはずなのに、どうしてもあの海馬の主だけは思い出せない。

 黒ウサギのことを邪魔して、最後まで真面目にレースをする気があったのかなかったのかわからない人物。

 

 いや、あの日のレースだけではない。

 

 十六夜達が召喚された日。

 《ペルセウス》とのギフトゲーム。北の地、そしてここ南の地でも一緒に魔王と戦っていたはずの人物。

 十六夜。飛鳥。耀。そして――――、

 

 

「――――黒ウサギの姐さん!!」

 

 

 思考の海に埋没していた意識が、ポロロの声で現実に帰ってくる。

 

 二人が見上げる先を、黒ウサギもその先を見て、驚愕した。

 焔達の進行方向。牛の形をした暗雲が、今にも焔達に襲いかかろうとしていた。

 

 

「あれは、天の牡牛!?」




閲覧、感想ありがとうございます!

>おはようございます、こんにちわ、こんばんわ。皆様お休みはどうお過ごしでしょうか。体調に気を付け、怪我に気を付けながら有意義なお休みでありますように。

>さて4話です。といっても今回それほど進んでおりませんが。この回は前回最後にあった信長君と、既知の人達との関係がわかればいいというだけの説明回です。あと彩鳥ちゃんを赤面させる為の回です(こっちが重要)。

>次回から本格的に太陽主権予選ゲーム攻略に突入、といった感じでしょうか。どうしたもんかと決めあぐねているところも多々ありますが、まあなんとかなるだろうと楽観して進もうかと思います。

>けどとりあえずの希望としては、早く鈴華ちゃんの正体わからないかなぁと。鈴ちゃんとの関係(ご本人様という可能性も含めて)がわからないと、こういった二次創作だと彼女とどう絡ませていいかわからなかったりしますからね。
下手すると大幅に修正しなくてはならないですし。
というか、純粋に早く続き出ないでしょうか。続きが気になって気になってしょうがないのですよ!そして早く一作目主人公三人が揃う姿が見たい!!

>てなてなわけで、こうしてふわふわしたまま続いていきます

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