問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━   作:針鼠

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二巻 再臨のアヴァターラ
一話


 精霊列車車両最後尾。

 

 

「すっごーい!」

 

 

 今し方、列車を襲った雷撃。しかし列車は、小動もせず走行を続けた。

 

 焔と女王の対談から三日。遂に焔達は行動を起こした。

 といっても、明確な攻略法を見つけて動いたわけではなく、一先ずアンダーウッドから天の牡牛を離すことを目的に、ポロロに掛けあってこの精霊列車を借りたのだ。

 

 

「そりゃあそうっすよ! なんてったってこの《サン・サウザンド号》は、今回の太陽主権戦争での中枢と運営拠点にもなる、ウチのボスの最高傑作なんですから!」

 

 

 我が事のように誇らしげに話すシャロロ。

 

 

「けっさくー」

 

「さいこー」

 

「ばくしょう?」

 

 

 ウッキャー! と、こちらもテンションが高い群体精霊達。

 

 

「これはもう動くお城だね。速いし硬い」

 

「YES!」と、黒ウサギ「本来の用途は貨物運搬なのですが、全体の四十パーセントを金剛鉄(アダマンテイウム)を使った特別製。ちょっとやそっとじゃ壊れません!」

 

「――――でも、攻め手が無いね」

 

「……YES」

 

 

 しょんぼり、耳をしなだれさせる。

 

 サン・サウザンド号は、確かに天の牡牛の攻撃に耐えてみせているが、先ほどから攻撃はしていない。それは天の牡牛に対する有効な攻撃手段を持っていないことの証明であり、また乗組員達も同様なのだろう。

 実際彼等には、魔王クラスと真っ向から戦える力は無い。

 

 サブローの指摘に不安を顔に出す黒ウサギ。

 そこに一際目立つ車掌帽をかぶったシャロロが、愛用の三叉槍を担いで割って入る。

 

 

「霊脈に入って加速しちゃえばこっちのもんっす。超加速した精霊列車に追いつくことは物理的に不可能ですから!」

 

 

 故に今は逃げの一手。

 霊脈に乗るにはシビアな微調整が要る。それを行うには今の速度は速すぎる。しかし天の牡牛を完全に振り切れはせずとも追いつかれることも無い。上手く隙を突いて霊脈にさえ乗れれば、作戦通りならミノタウロスの迷宮までひとっ飛びだ。

 

 腕組みで、えへんと語るシャロロに、サブローは悪気なく笑った。

 

 

「シャロロんちゃんは甘くて可愛いなぁ」

 

「んなぁっ!?」

 

 

 ばっさりな言葉に顎を落とす。

 

 

「逃げるのが悪いとは言わないけど、果たして逃げきれるかな?」

 

「だ、だからこのまま少しずつ距離を離して、霊脈に乗れれば……」

 

「このまま、ならね。――――でも、世の中ってお菓子みたいに甘くはいかないんだよねえ」

 

「残念ながら、そこの殿方の言う通り、甘くはないようです」

 

 

 シャロロの肩に乗っている、列車を運行する精霊とはまた別の存在。

 監視精霊、《ラプラスの小悪魔》――――通称、ラプ子Ⅸはシャロロに天の牡牛とは別の追撃者の存在を知らせる。

 

 

「ここにきて牡牛以外の襲撃者……。どこの物好きっすか?」

 

「まだ距離がある為わかりかねますが、虎の幻獣と騎乗者が一人。物凄い速さで追いついてきています。虎の方は高位の幻獣……いえ、もしかしたら神獣クラスかもしれません」

 

「うへぇ。マジっすか。ということは騎乗者は魔王の可能性も……」

 

 

 最悪だ。星獣と魔王に挟まれるのは最悪な事態だ。

 サブローの言葉の通り、これで呑気に構えていられなくなった。

 

 

「シャロロんちゃん、武器はあるかな? 刀と弓と、あとは槍とか」

 

「え? もちろんあるにはあるけど……どうすんですか?」

 

「働かざるもの食うべからず、ってね。タダ乗りしてるだけっていうのも気が引けてたんだぁ」

 

 

 差し出された武具を装備しながら、サブローは車両の出入り口へ。

 

 

「ちょ、サブローさん! まさか御一人で迎え撃つおつもりですか!?」

 

 

 その行動に慌てる黒ウサギ。六本傷の面々もどよめいていた。

 対して本人だけは、にへらと弛んだ顔でパタパタと手を振っていた。

 

 

「だいじょーぶだいじょーぶ」

 

「ですが! 天の牡牛にはその程度の武具ではダメージは与えられません。それに追ってきている者達だって……」

 

「そうっすよ。ここは車両に乗り込んでくるまで待って、全員で迎え撃ちましょう。最悪、相手が本当に魔王だったらこの最終車両ごと霊脈に入る前に切り捨てれば」

 

「そのことですが、私にひとつ提案があります」

 

 

 警備の都合で最終車両にきていた彩鳥が発言する。

 

 

「おう、どうしたよ巨乳っ子。何か良い作戦でもあるの?」

 

「はい。アレを使ってはどうでしょう?」

 

 

 彩鳥が示したのは、精霊列車唯一の武装といっていい弩砲。

 それにはシャロロが首を横に振った。

 

 

「あー、無理無理。この大嵐じゃあ、甲板にあげたところで落雷に撃たれる。よしんばあげられても当たらない」

 

「鈴華、貴方の出番です」

 

「え? 私??」

 

「貴方自身が砲台になればいいのです」

 

 

 彩鳥の言葉の意味を図りかねて、鈴華を含めて全員が疑問符を浮かべる。

 しかしそれに構わず彩鳥は言葉を続けた。

 

 

「といっても所詮外界の小娘の言葉。全ての策を同時に進めていいかと思います。――――どちらにせよ、時間を稼ぐ必要はあるのですから」

 

 

 彩鳥の鋭い視線に、サブローは薄い笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、白額虎(はくがくこ)とやら。お前の仲間はまだ合流しないのか」

 

 

 そう言葉を発したのは、白毛の虎に跨る褐色肌の美少年。歳は十代半ばといったほどの少年は、その肩に己の身の丈を越える大戦斧を担いでいる。

 彼こそ、怪牛ミノタウロスが、『アステリオス』という名前(ギフト)を取り戻した姿だった。

 

 彼自身は知らないことだが、焔達の学校を襲った際、焔が星辰粒子体の研究の為に飼っていた家畜をアステリオスが喰い、その後出会ったジンという名の少年に、真名を教えられたことがゲームを半ばクリアした形にしたのだ。

 

 己の姿と名を取り戻したアステリオス。しかし取り戻した記憶は完全なものではない。

 それを取り戻す為に、アステリオスは西郷 焔に会わなければならなかった。

 

 動く城塞を追う為に、先ほど名をあげたジンという少年の仲間、白額虎の協力を得てこうして追ってきた。

 だがこの白額虎とやらも彼なりの目的があり、もう一人の仲間を待つという話だったが、一向にそれが現れる気配はない。

 もたもたしていて、このまま逃げられてしまっては元も子もない。

 

 

『致し方ない。あの小娘の小言は後で聞くとしよう』

 

 

 白額虎の方も同じ考えに至ったようだった。

 

 獣の姿でありながら、老成した白額虎の口調。突如加速したと思えば、城塞の横っ腹に突っ込んだ。

 

 

『ぬっ?』

 

 

 しかし、城塞は僅かに大河の線路を脱しただけで、ほとんど損傷は見せなかった。

 

 

『厄介な。どうやらあの鉄の城、金剛鉄で造られているらしい。並大抵の攻撃では破壊どころか止めることも出来んぞ』

 

「ギリシャの至宝で城を作るとは。箱庭には剛毅な輩もいるものだ――――仙虎!」

 

 

 アステリオスの声に反応して、白額虎が眼前に迫っていた刃に気付いて跳んだ。

 側面からの一撃は回避する。

 襲撃者はさらに踏み込んでくる。

 

 

「甘い!」

 

 

 今度はアステリオスが、白額虎の背に跨ったまま戦斧で迎え撃つ。

 金属が打ち合わされる鈍い音。

 襲撃者はあっさり退いた。

 

 この嵐の中、足場の悪い移動城塞の屋根に器用に着地すると、再度跳躍。

 

 

「何者か知らんが、自ら宙空に飛び出すのは自殺行為だぞ?」

 

 

 白額虎により空中でも自在に動けるアステリオスとは違い、襲撃者に足場は無い。このまま撃ち落とせば、名も知らぬ敵は空に投げ出されてそれで決着だ。

 

 

『隙を見せるな怪牛! 来るぞ!』

 

 

 今度はアステリオスの方が、逼迫した白額虎の声に救われた。

 

 襲撃者は、何も無い宙空を蹴って跳躍の軌道を変えた。体を捻った回転斬り。真っ当な剣術というよりは、曲芸のような動きだ。

 

 斧を傘のように頭上に掲げて防御。頭上をなぞるように通過した襲撃者は、今度こそ重力に従って落下していく。追撃をと考えたアステリオスが目で追った先では、落下しながら弓をつがえていた。

 

 一射、二射と放たれた矢は、一本は風に流されあらぬ方向へ。もう一本は白額虎へ届くも、前足の一薙ぎで蹴散らした。

 この嵐の中だということを考えれば充分以上の技量を見せた。

 

 襲撃者は一通りの空中戦をこなし、遂には無事に移動城塞の屋根へ着地した。

 

 

「何者だ、あれは……」

 

 

 いや、アステリオスはあの人物を知っている。

 

 焔の学校を襲ったとき、少女剣士と焔を庇った少年だ。

 そのことを思い出したアステリオスは、ふと己の手を見て驚きに目を開いた。

 

 

「何故俺は震えている……?」

 

 

 指先が、いや体が震えている。

 そうだった。確か初めてあれと対峙したときも、意識も定かでなかったはずのアステリオスは、原因もわからず硬直してしまった。

 

 

『何を呆けている。次が来るぞ!』

 

 

 白額虎の警告に目を向ければ、今度は移動城塞の方に動きがあった。弩砲が甲板から現れた。

 

 

「この環境で弩砲を選んだのは失敗だったな! 仙虎」

 

『おう!』

 

 

 一先ず己の体に起きる異常を忘れ、アステリオスは白額虎の腹を蹴って甲板に突っ込ませる。

 弩砲が出てきたということは、そこに扉と昇降機があるということ。城塞の外壁を崩すのが難しいならば、そこから中に入ればいい。

 

 しかし、

 

 

『ッ……弩砲が、消えた!?』

 

 

 白額虎が振るった爪は虚空を裂いただけだった。先ほどまであった弩砲は、射手諸共消えてしまった。

 

 思わぬ事態に勢い余って甲板を滑る白額虎。金剛鉄の甲板では爪も立てられず勢いが殺せない。

 

 そこへ、再び眼帯の少年が急襲。甲板を意図して滑りながら、勢いをつけて刀を叩きつける。アステリオスがそれを防いだ。

 

 未だ滑る勢いを殺そうと、白額虎は後ろ足で大気を蹴ろうとしたが、その前にアステリオスが腹を蹴って止めさせた。

 

 

「足を止めるな! 囲まれてるぞ!」

 

 

 突如周囲に出現したバリスタの槍の群れ。外れたはずの九発の弾がアステリオス達を囲んでいた。

 

 膂力に任せてアステリオスが眼帯の少年を振り払う。次いで三発、白額虎が一発を撃ち落とす。

 翻ってくる弾が正面から来るよう調整し、今度こそ確実に撃ち落とそうと上空に飛ぼうとする白額虎だが、その前に眼帯の少年が立ちはだかる。

 

 

「そう簡単に逃がさないよ」

 

『クソッ!』

 

 

 空中への退避を妨害されると、そこを再び弩砲のバリスタ弾が襲ってくる。

 それを撃ち落とせば今度はまた少年が仕掛けてくる――――かと思われたのだが、

 

 

「ありゃ? のわああああああああああ!!?」

 

 

 ドンガラガッシャーン、と濡れた甲板の上を見事に滑って壁面へ激突していた。

 

 一瞬呆けてしまう白額虎だったが、好機に気付いて上空へ。バリスタの弾はアステリオスが迎撃し、一先ず安全地帯まで退避することが出来た。

 

 

「いたたたたたぁー……。うーん、僕には平地を滑る才能ないんだなぁ」

 

 

 頭のこぶを擦りながら立ち上がるサブロー。

 

 

「さて、続きをやる? それともこのまま見逃す?」

 

「見逃してやる理由は無いな」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

 

 再び空中へ躊躇いなく飛び出してくる。

 この少年が如何なる恩恵を持っているか定かではないが、どうやら白額虎と似た宙空を跳ねる術を持っているらしい。

 それでもこの嵐の中、高速移動している城塞の上を跳ね回るとは正気の沙汰ではない。下手をすれば弾き出されて終わりだ。

 

 

「頭のネジが飛んでいるらしいな」

 

『ああ、コイツは強い。だからこそ遠慮はしない。ここからは――――三人で当たらせてもらう(・・・・・・・・・・・)

 

 

 風の流れが変わっていた。天の牡牛によって起こされていた嵐。その風向きが一点に向かって集中している。その先で、螺旋状に編んだ水流を纏うローブの人物がいる。

 あれが白額虎の仲間であり、この風を操っている術士。

 

 空を自在に駆ける白額虎。

 天候を操る天の牡牛。

 十二星座最強の斧を操るアステリオス。

 そして今、風を操る白額虎の仲間が加わった。

 

 おそらくその実力は、星獣である白額虎と同等。

 こうなってしまえば単なる人である眼帯の少年にはもう勝ち目はあるまい。

 

 転移能力者のサポートがあったとしても、この一瞬、アステリオス達の攻撃が彼を狙う。少なくとも、もう無事にあの城塞に戻ることは叶わない。

 

 ――――そのはずなのに。

 

 

(何故だ……何故笑う!?)

 

 

 少年の顔に恐れはない。

 状況を理解していないわけではない。それでいて、その表情には一片の恐怖も躊躇いも無い。

 

 そのとき、移動城塞から放たれた一条の閃光が、複雑に荒れ狂う気流と水流を掻い潜り、上空の術士の首をはねた。

 

 

『なに……!?』

 

「ふふ」

 

 

 驚愕する白額虎。

 だが、アステリオスだけはそんな中、少年から目を離せないでいた。

 

 まただ。また笑っている。

 

 

「何故笑う」気付けば問いかけていた「助かることがわかっていたのか?」

 

 

 彼は、弾む声で答えた。

 

 

「楽しいからかな?」

 

 

 少年は刀を片手に握り直し、背負っていた弓を構える。空中でありながら器用に矢を番えると放った。狙いはアステリオスでも、白額虎でも無い。首をはねられた、上空の白額虎の仲間の体へ向けて。

 さらに別の方向から。

 先ほど術士の首をはねた銀閃と同じ方向から、同じく矢が放たれる。それもやはり上空の術士に向けられて。

 

 

「ちょいちょい、どいつもこいつも容赦なさすぎでしょ!?」

 

 

 動いた。死体かと思われた体が、はねられた頭部を掴むと向かってきてた矢の雨を躱した。

 

 

「やはり生きていましたか」

 

 

 平然と言ったのは更なる乱入者だった。

 首をはねた銀閃。そして追撃の矢を放った人物。

 

 それはブロンド髪の見目麗しい少女だった。

 

 

「遅れましたサブローさん。鈴華共々、時間稼ぎご苦労様です」

 

 

 剛弓を仕舞い、次に取り出したのは一本の剣。

 それこそ、妖精族の錬鉄術で鍛えられた、彼女の愛剣。

 

 しばしその握りに懐かしさを覚え、顔付きは戦士のそれに戻る。

 

 

「後は引き受けます。どうぞ中へ」

 

「冗談でしょう? こんな面白いこと独り占めだなんてずるいよ、フェイちゃん(・・・・・・)

 

「……ッ!!? 貴方一体どこで」

 

「あれ? 姫ちゃんから聞いてないの? ――――まあいいや。初めての共同作業だね、彩鳥ちゃん」

 

「後で全て話してもらいます」

 

 

 背中を預け合う二人の剣気が、嵐を切り裂いた。




閲覧どもですー。

>さてさてここから2巻突入です。とはいうものの、先の1巻と章を合わせてもいいかなぁ、とも考えております。
まあ、編集するとしたらば一先ず2巻終了してからにするとします。

>と、いうわけで、1巻ラストに引き続き説明が多かったですが、ようやっとバトルシーン書けました!でもまだ信長君がギフトカード取り出していないので本調子とはいえません。
ちなみに補足。信長君は刀と弓と槍と銃が使えます。これは別に特殊な恩恵とかではなく、外界で覚えた技術です。もちろんその技術も神業級のフェイスさんには及びませんが。たまに飛び出る神業はほぼその場限りのセンスです。

>あれですね、書いててなんかしっくりこないなぁと思うのは、第一部は参加者側(挑戦者側)だった信長君が、二部ではまるで一連の謎の答えを知っているが如く立ち振舞をさせているからだと気付きました。つまりあまりふざけられない!!

だからもっと、黒ウサギさんと彩鳥ちゃんの弄られポンコツ可愛いコンビと絡ませなくては!(使命感)

>ではでは、次話はどこまで書きましょうか。どうしましょうか。
ルートが別れるのでどちらに行かせるか迷ってたりします。
原作既読の方もそうでない方も、楽しんでいただければいいなぁ、と願いつつ頑張ります。
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