問題児たちが異世界から来るそうですよ? ━魔王を名乗る男━   作:針鼠

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おまけ(学園編4)

 緊張のあまり黒ウサギは扉の前で固まっていた。

 

 

「落ち着いて。落ち着くのですよ黒ウサギ」

 

 

 すーはーすーはー、と深呼吸を繰り返す。その度黒のスーツに包まれた彼女の豊満な体が、主に胸が強調されるように動いているのだが、幸か不幸か今は見ている者はいない。

 

 もちろん、見られることで羞恥心に駆られることが無い黒ウサギが幸で、それを見られなかった欲望の塊達――――例えばここの和装ロリの学園長とか――――辺りが不幸だ。

 閑話休題。

 

 去年は別の学校で副担任として勤めていた黒ウサギ。

 田舎も田舎。都会とは程遠い辺境にある小さな学校で、全校生徒合わせてようやく一クラスといった今にもどこかに統合されてしまいそうなところだった。

 将来に胸踊らせ、夢に燃える若者なればこそ敬遠してしまいそうな職場。

 しかし彼女は違った。

 

 可愛くて、真面目で、熱心で。いつだって誰かの為に頑張る彼女は、教師、生徒問わず大人気の教員であった。また周囲も、彼女に引っ張られて活気を取り戻していた。

 しかしある日、その学校は何者かの手によって半壊させられた。犯人はこの地域で有名な、頭が三つある龍のエンブレムを持つ暴走族だった。

 

 幸い事件があったのは世間的には春休み。怪我人などは出なかった。

 だが建物を修繕し、再び経営する余力は、すでにその学校にはなかった。

 

 卒業前だった生徒達はそれぞれ近くの学校に編入し、教員達も皆校長の伝手で新しい職場に就くことが出来た。

 急なことであったはずなのに、それを為し得たのは間違いなく校長の人望あればこそだった。

 

 

「ジャック先生、黒ウサギは頑張ります!」

 

 

 かつての恩師に誓う。そして新学期前に最後に集まったお別れ会で生徒達に貰ったブローチを握って勇気を貰う。

 

 今日から自分はこの学園の先生。しかもいきなり一人で挨拶だ。

 なんでも去年このクラスを受け持っていた人物が病気で倒れたらしい。結局戻ってくることは叶わず、新学期の幕をひとりで開けることに相成った。役職としては副担任だが、実質担任としてやっていかなくてはならない。

 

 いきなりの大役だ。

 だが、負けるわけにはいかない。怖じけるわけにはいかない。

 そんなことではみんなに笑われてしまうではないか。

 

 

(行きます。行きますよー。イチニのウサギ! で行きます!)

 

 

 うさうさ! と耳に力を入れて、心の中でカウントを始める。

 

 

(イチ、二の……)

 

 

 ――――ドオオオオオン!!!!

 

 

「ウサ……えええええええええええ!!!???」

 

 

 引き違い戸の黒ウサギが立っていたのとは逆側のドアが吹き飛んだ。比喩ではない。吹き飛んだのだ(・・・・・・・)

 

 わけがわからずガタガタ震える黒ウサギ。

 すでに無くなった扉。中の景色は嫌でもよく見える。

 

 見れば、ガラの悪そうな体格がやたらといい鷲のような龍のような顔をした青年と、その取り巻き数人がふたりの男の子を取り囲んでいるではないか。

 

 

(……はっ! こ、こここれはもしやイジメというやつですか!?)

 

 

 とても治安の良かった前職場では縁のなかった学校の暗部。まさか新しい職場で一日目にして直面する羽目になるとは。

 

 

(恐ろしい……恐ろしいところなのですよ都会は!)

 

 

 ちなみに、別にここも都会というわけではない。

 

 

(ですが私は教師。今日からこのクラスの先生なのです! 止めねばなりません。行きます。行きますよー。イチニのウサギで――――)

 

 

「どーん」

 

「ぐはあああ!!?」

 

 

 再び、黒ウサギの真横を人の塊が飛んでいった。

 

 

「ま、まだ何も言ってないのですよー!! というか、あれ?」

 

 

 せっかく振り絞ろうとした勇気を蔑ろにされて涙ぐむ黒ウサギだったが、ようやう彼女は異変に気付く。

 吹き飛んできたのは取り囲んでいる方の少年達だと。

 

 一気に取り巻きが減ったが、最初に目についた体格の良い少年はまだ残っている。

 腕を組んで笑っている。

 

 

「フン、今日こそ貴様のような猿と、最高血統種である――――」

 

「ふぁいやー」

 

「熱ッッッ!!? 貴様やめ」

 

「はいどーん」

 

「ぐっはあああああああああああ!!!!」

 

「ひいっ!?」

 

 

 まだ何か言っている最中だった青年は、先の取り巻きの子達の二の舞いとなった。廊下を突き破って共々プールに落ちた。

 

 

「あーあ、またグリフィス先輩やられてるよ」

 

「懲りないなぁ」

 

「今日は焼き鳥にされたね」

 

「敵うわけないんだからやめとけばいいのに」

 

「根性あるよねー」

 

「いやいや、マゾなんじゃないの?」

 

 

 なんか散々な言われようだ。

 すでにこのクラスでは今の光景は日常の一部で、強面だったさっきの青年に恐れは無いらしい。

 

 

「ふっふっふ。これぞ僕の新武装《レーヴァテイン》!」

 

 

 さっき『ふぁいやー』とか言ってた方の少年。長い黒髪を後ろで縛った童顔の男の子。先端にライターを取り付けた殺虫剤――――※絶対マネしちゃだめ絶対!――――を自慢気に掲げている。

 

 

「こっち向けんな、危ねえから。――――ん?」

 

 

 こちらはなんか適当な掛け声で鷲龍一段を殴り飛ばしていた方。ヘッドフォンを着けた金髪の少年は、隣りではしゃぐ少年を諌めていると、ここでようやく黒ウサギと目があった。

 

 

「お、アンタ新しい先生か? へー、すっげえ美人だ。そのスーツが大変エロい。大変よろしい。ありがとうございます」

 

「いきなりのセクハラ!? 都会は子供までませているというのは本当だったのですね! けど黒ウサギは負けません!」

 

「へえ、黒ウサギって言うのか?」

 

「黙らっしゃい!」うさうさ、と怒りに耳を逆立てる「兎に角、即刻席に座って下さい!!」

 

「席に?」

 

「YES! それから黒ウサギの初仕事! お説教が始まるのです!」

 

「そりゃ無理だ」

 

「まさかの拒否ですか!?」

 

「俺クラスが違う」

 

「早く教室に戻りなさい!!」

 

 

 スパーン、とこれより未来幾度と無く鳴り響くことになるハリセンの第一音が響くのだった。

 

 

「ということは、僕が黒ウサちゃん先生に怒られる記念すべき生徒第一号!? やったね」

 

(ジャック先生、黒ウサギはこのクラスでやっていけるでしょうか……?)

 

 

 こうして、黒ウサギ先生の波乱しかない日々が始まった。




閲覧ありがとうございますー。

>たまにこうした息抜きが無いと生きていけません。

>あまりにも唐突なおまけでした。安心してください。次回更新は本編です。

>このおまけには深い意味も浅い意味もありません。ただただ本能のままに書いていますので(執筆時間30分)。でも決して原作の設定は壊さないという、この狂気が執筆意欲を掻き立てるのです!

>ちなみに学園編信長くんの装備は以下の通り。

・レーヴァテイン(殺虫剤&ライター)→没収
・レーヴァテイン(割り箸鉄砲)→すでに何丁も没収されているがすぐに作ってくる
・レーヴァテイン(なんか適当に長い棒とか)→没収とかもう無理

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