金色の髪を持つ女性にある一軒の家へと案内されたルクスは、その建物をまじまじと見る。周りの家々と比べても一際大きなその家は外観だけで言えば、まるで宿場のようであった。
手を伸ばし、その家のドアを開く。ドアの奥にはホールが広がっていた。
ルクスはドアを通り抜け、ホールへと足を踏み入れる。軽くルクスの足音が響く。彼の足元に敷かれている石は固い素材のようだ。その固い石に繊細で豪奢な意匠をこらした職人たちの仕事振りは見事の一言である。
ルクスは辺りを見渡す。先ほどの女性に促され、入ってみたはいいもののここが誰の家なのか彼は知らない。カズスのオーナーだと言っていたことから察するに、この土地の長であることは推測できるが、それだけだ。その人となりは全く分からない。
「アンタ、誰だい?」
ルクスは声がした方向に頭を向ける。上だ。視線を上げると、二階部分の柵にもたれ掛かる赤い髪の青年と目が合った。
「あなたがカズスのオーナー?」
「いやいや、違うよ。カズスのオーナー、村長はオレの親父だ」
彼はそう言って、階段を降りてルクスの元まで歩いて来る。
「オレはオレン。よろしくな」
「オレン……。よろしく」
ルクスはオレンと名乗った青年と握手を交わす。人の良い微笑みを浮かべたオレンは左手で階段をルクスに示した。
「立ち話も何だし、親父の所まで案内するよ……光の選者」
「なぜ?」
「なんで、君が光の選者って分かったかってこと? なんていうか、光の選者は持つ雰囲気が独特なんだよね。普通の人とは違うっていうか」
オレンの後に続き、階段を昇るルクスは疑問を彼に呈す。
「普通の人とは違う?」
「ああ。浮世離れしているっていうのが一番近いかな。それに、ここをアポなしで訪ねてくるなんてのは、ペルトゥルのことを良く知らない光の選者しかいないよ。……あ! オレも質問いい? なんで、ここが村長の家だって分かったの?」
「金髪の青い鎧を着た女性が教えてくれた」
「ああ、アリスか。ごめんね、アイツ、素っ気なくて」
ルクスはそんなことはないと言うように首を横に振る。
「彼女はオレをここまで連れてきてくれた」
「そうなんだろうけど……」
オレンはルクスを連れて廊下を渡りながら苦笑する。
「他の人ならもっと温かく歓迎してくれたんだけどね。っと、ここが親父の部屋」
二人はある扉の前で立ち止まる。オレンが数度その扉をノックすると、扉の向こうからくぐもった声で『どうぞ』と聞こえた。
オレンは扉を開けルクスを部屋の中に招き入れる。明るく、使いやすそうな部屋だ。事務仕事がし易いように資料を入れる棚が部屋の中心にある書類仕事用の机の後ろにいくつもあり、そのテーブルの前には来客用なのか、3人掛けソファが二つとその間に小さなテーブルが置いてある。
そのテーブルに影が差す。それに気が付いたルクスが視線を上げると、そこには一人の男性が立っていた。
「親父。こちら、新しい光の選者さん。名前は……えっと、なんだったけ?」
「オレン、相変わらずそそっかしいな。悪いな、光の選者さん。コイツは時々抜けてんだよ。コイツが聞き忘れたアンタの名前を教えてくれねェか?」
そう言って、椅子から立ち上がった男性はオレンの頭を小突く。男性の服装はスーツをワイルドに着崩し、口には紙煙草を加えている。しかし、見た目とは裏腹にその表情は彼の息子と同じように人懐っこい笑顔を作っていた。
「ルクス」
「ルクスっていうのか。オレはシド。んで、こっちが息子のオレンだ。よろしくな!」
二カッと笑うシド。
「で、早速なんだが“クリスタルツール”を見せてくれねェか?」
「“クリスタルツール”?」
ルクスは耳慣れない言葉に首を傾げる。
「ああ、クリスタルツールっていう個人用の携帯デバイスだ。アイテムの管理から遠く離れた人との通信まで、なんでもござれの便利ツールさ。ペルトゥルに来る前にモーグリに渡されなかったか?見た目は掌に収まるぐらいの小さなガラス板だ」
ルクスは覚えがないというように首を横に振る。
「あー、あのモーグリめ。サボりやがったな。ええと……」
シドは自分の机に向かい、引き出しの中を探す。
「ああ、これだ」
シドが机の引き出しから取り出したものはプレイステーションのコントローラーだった。
「ルクス。頭の中でこのコントローラーを思い浮かべてSTARTボタンを押してみろ」
シドの指示に従い、ルクスは目を閉じてコントローラーの想像した後、それのSTARTボタンを押した想像を行う。と、彼の手に固い感触があった。スベスベとした感触が指から伝わる。握りしめたそれをルクスは自分の掌に乗せ、シドに見せた。
「そう、それがクリスタルツールだ。これに向かって翳せ」
シドはそう言って、手を振ると彼の手の中に光と共にクリスタルツールが現れる。シドは自分のクリスタルツールをルクスに向ける。ルクスは一つ頷くと、シドのクリスタルツールに自分のクリスタルツールを合わせた。すると、ピコンという軽い電子音がルクスを驚かした。
音が鳴った自分のクリスタルツールを驚いた表情でしげしげと見つめるルクス。その表情をみたシドはしてやったりという顔でルクスを見る。
「これが、“ラーニング”だ。クリスタルツールをクリスタルや他のクリスタルツールに翳すことで登録ができる。相手がクリスタルツールの場合、通話やアイテムの送受信ができるから積極的にラーニングを行うといいぞ。オレン!」
「ルクス、今度はオレとも頼むぜ!」
オレンはルクスに自分のクリスタルツールを見せる。ルクスは頷き、彼のクリスタルツールに自分のものを翳した。シドとした時のように軽い電子音が二人のクリスタルツールから同時に流れる。
二人の様子を見ていたシドはラーニングに成功したルクスに微笑む。
「ラーニングができたな。普段はモーグリの奴がこういうのは教えているんだが、時々アイツ等が教えないことがあるんだよ。災難だったな、ルクス。ま、オレが教えてやるから安心しろ」
シドはルクスと肩を組み、彼の肩を軽く叩く。
「クリスタルツールの出し方は分かったな? それと同じような感じで装備も出せる。基本的にはコントローラーを思い浮かべて、それのボタンを押した想像をしたら、そのボタンに対応した行動ができるって訳だ」
「なるほど」
「それじゃ、練習のために外に出るぞ」
「親父、その前に設定しなくちゃ光の選者たちは魔法が使えないんだろ?」
オレンの声にそうだったという風にシドが手を打ち鳴らす。
「ああ、忘れていた。クリスタルツールの左上の方にあるボタンを押してみな」
シドの言う通りにルクスがボタンを押すと、こちらを映していた暗く光沢のある画面に光が点り、その画面上に四角を組み合わせた画面が広がる。
「それが設定画面だ。どうなっている?」
「○ボタンに攻撃、×ボタンにジャンプとなっている」
「□ボタンに指を合わせてみな」
「合わせた」
「そんじゃ、これはオレからお前に対する投資だ」
ルクスの前にある画面に《魔法:ファイアを獲得》と出る。
「そのファイアを□ボタンにセットしてみな」
ルクスはシドに言われたように魔法をセットしていく。
「セットできたか? じゃあ、次だ。今度はアビリティをやる。今度は自分で△ボタンにセットしてみな」
再び、ルクスの前にある画面に変化が起こる。《アビリティ:強切りを獲得》と出た。ルクスは先ほどと同じ要領で△ボタンにアビリティ:強切りをセットする。
「よし、できたな。じゃあ、練習場に行こうか?」
シドが部屋の扉を開けようとすると、扉が独りでに開いた。
「村長! 大変です!」
慌てた様子の村民が部屋の中へと飛び込んでくる。
「ノックぐらいしろ! このバカ野郎!」
シドは扉にぶつけた右手を擦る。
「すっすみません! でも、緊急事態なんです!」
「緊急事態だァ?」
「はい! カズスに向かってジンが来ています!」
「ああ、あのアホか。そんなこと一々、報告しないでいいぞ」
「それが! ジンが魔物たちを束ねているんです! それも大量の魔物を!」
シドの顔付きが変わる。
「あンのイタズラ坊主め。今度は洒落じゃすまねェぞ。……ジンはどっちだ!?」
「北の街道にいます!」
「オレン! 行くぞ!」
「ああ!」
部屋を出ていく二人にルクスが声を掛ける。
「私も行こう」
オレンが驚いた顔でルクスを見る。
「それは助かるけど……初めての実戦がこんなに早くて大丈夫か?」
「ああ。私は足手纏いにならないよう善処する。それに、モーグリから言われたんだ」
ルクスは凛とした振る舞いを彼らに見せる。
「世界を救ってくれ、と」
Tips
オレン・オーロラ
⇒カズスの村長であるシドの一人息子。モデルはFF7のレノ。ジョブはすっぴんである。
シド・オーロラ
⇒カズスの村長。モデルはFF7のシド。ジョブはマーシナリーである。飛行艇技師として働いていた実績からカズスの村長に選ばれたという経緯がある。
クリスタルツール
⇒ペルトゥルにおける個人所有のデバイス。見た目はスマートフォンだが、その材質はクリスタルで出来ており、膨大な力を有する。また、これは普段は心の中という不可視空間にしまっておくことができ、必要な時には瞬時に取り出すことができる。