異世界迷宮で暮らしています:番外編   作:鈴ノ猫鳥

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始まりの時

 ――夢を見る。

 

 それは過去の夢。

 

 誰かの物語が始まる前、俺の物語が始まる刻。

 

 

 

 異世界――そう呼ぶしか無い場所の路地裏で、男が目覚めてから七日間。

 彼の救いは言葉が通じ、珍しい物だと着ていた衣類を、それなりの値段で買い取って貰ったおかげで、当面の生活に困らない程度の金銭を手に入れた事、そして男以外にもこの異世界に来た人間が居て法が整備されていた事だろう。

 だが、あくまでも資金も法も当面でしか無い。

 身分が無いと言って過言では無い男は、所謂異世界トリップ物のテンプレに乗っとり、身分の無い者でも最低限の身分保証をして貰える『冒険者』へと身をやつす事になった。

「ヒビキさん、受付は完了しましたが登録自体は終わっていません、試験は簡単ですから」

「……戦えるか、鑑定出来る程の知識がある、または人脈(コネ)か金があるなら、だろう?」

 受付嬢がヒビキと呼ばれた男の毒を笑顔で受け流す。

「ご存知の様ですが、試験は一階位の魔物の討伐部位を十以上か、(ポーション)作成に扱う薬草類五束、こちらは五本で一束とさせていただきます……どちらかを本日中にお持ち頂ければ試験完了とさせて頂きます」

 冒険者に成りたかったら魔物を狩るか、薬草を手に入れてこいと言う試験である。

 最低でもその位は出来ねば、ギルドとしても不要だと言う事だろう。

 裏技としては、購入して済ませると言う手段もあるが、大幅な赤字となる。

 更には前日、町の外に出る為の武具を手に入れるためになけなしの資金を使ったと言う事もあり、購入する事で済ませる事は出来ない。

 革製のジャケットに額当て、木製のエキュと呼ばれるタイプの盾、鉄製の片手半剣(バスタードソード)

 町に現れたばかり、毒とも薬とも判らない信用の無い男ではこれだけの装備を手にする為に、所持金の七割を使う事となる。

 所詮は余所者扱い、信用等無かった。

 

 

 片手半剣が風を切る。

 舞う黒い血飛沫、肉を潰す鈍い音。

 男が町を出て昼前に相対したのは、所謂ゴブリンの集団。

「――なんだ、こんな物か」

 生き物を殺す感覚はどれだけ嫌悪を与えて来るのかと思ったが、どこか壊れた男には何の感傷ももたらさない。

「まぁ、良いか――取り敢えずは俺が生きていく為に――」

 飛び掛かって来るゴブリンの脳天に、男が片手半剣を叩き付ける。

 血飛沫、重さで叩き切る得物はその実力を存分に発揮し、相手の命を奪う。

「――取り敢えず死んどけ」

 残るゴブリンを嗤う男の瞳が映していた。

 

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