吸血鬼、其れは驚異的な身体能力を有しており、その力は人の其れとは比べ物にならないものである。また、蝙蝠や霧に変身でき、上半身が吹っ飛ばされようとも瞬時に再生する回復能力があるなど多数の能力を有している怪物である。しかし、彼等には日光に弱い、流水を渡れない、大蒜が苦手であるなど多くの弱点も存在している。そして、人類は是等の弱点を突いて吸血鬼と戦わなければならない。何故なら彼等の主食は人の生き血であり、人類は餌に過ぎないのだから。
…其れが現実の話ならば恐ろしい事この上ないだろう。しかし、吸血鬼はこの世に存在しない、言わば空想の産物である。そして登場するのは漫画やアニメのみとなると吸血鬼に対する感情は恐怖とは異なるもの人もいるだろう。私もその一人であり、吸血鬼に対する感情は恐怖ではなく、恋い焦がれているというのが正しいだろう。吸血鬼に出会える事はないのだろうか。いや願わくば人から吸血鬼になりたいとも思う。
こんな事を何時ものように考え、何時ものように就寝した。ところが起床も何時ものようにとはいかなかった、いや人生そのものが今までと同じようにとはいかなかった。
目が覚めて目に入ったのは知らない天井。私が就寝する前に見たものとは明らかに異なっている。何処にいるんだと周りを確認しようとすると、柵に囲まれていること、そして体が動かないことに、いや動きにくいことに気がついた。疑問が湧いてくる。
(何処なんだ此処は? 何で柵が? それよりも何で体がこんな動きにくいんだ?)
しかし、いくら考えても答えは出ない。その時、此方に近づく足音が聞こえた。
(だ、誰だ? 一体誰が来るんだ?)
足音は、この部屋の前で止めり、カヂャリとした音と共に扉が開いた。それと同時に、緊張していた為か、思わず声が出てしまった。
「お、おぎゃあおぎゃあー」と赤子の泣き声のような声を。
「娘が泣いているではないか。ど、どうしたらいいんだ。」
「慌てなくても大丈夫ですよ。あなた。ママは此処にいますからね〜」
声を出したのは二人の男女。服装は中世ヨーロッパを思わせるような、紳士服にドレス姿。現代では誰も着ないであろう服装を着こなし、単にコスプレをしているということではなさそうだった。それよりも気になるのは、両者ともに腰から出ている羽、それも体の一部だと主張するように動いている。
(意味が分からない。私たちは貴族ですよと自慢でもしているのか、その服装は。それにその羽は何だ、厨二病を拗らせた結果か? 何より誰が誰の娘だって? 私の両親はそんな服持ってないぞ、そもそも私は男だから、息子ではあっても娘の筈がないぞ。それに私の口から出た声は何なんだ)
余りにも困惑をしたためだろう、思わず声が出てしまった。
「あ、ううあーあー」
先程と同じく赤子のような声であったが。
「ふふふ、可愛いですね。」
そう言って女性は私を抱き上げた。その時の絶対的な質量と抱擁力の何と素晴らしいことか、何と素晴らしいことか。
いや、そうじゃない。正しいがそうじゃない。注目すべきなのは、持ち上げられた時に見た、私の腕や足、それらが赤子のものとなっていること。
(何で私の体は赤子のものに? もしかして先程からの声も… つまり私は…)
考えが纏まるよりも先に男性が私を持ち上げた。
「うむ、我が娘レミリアよ、誇り高い吸血鬼家であるスカーレットの名に恥じないよう育ってくれ」
つまり私は転生した。それも男ではなく、女に、そして人でもなく吸血鬼に。
こうして私の人生は終わりを告げ、新たな人生が始まりを告げたのであった。