もょもとがダンジョンにいるのは間違っているだろうか【DQ2×ダンまち】   作:こうこうろ

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格闘技ものと比べてのファンタジーの書き易さよ・・・

どんどん筆が進む


第二話

――今日はもう遅いから、明日、ダンジョンまで案内してあげるよっ!

 

 そう元気よく提案してくれた女神さまも、今では見る影もない。

 ベッドに入ってすぐに、微かな寝息を立ててぐっすりと眠ってしまっている。

 

「……よっぽど疲れていたんだろうなあ」

 

 床に座り込みながら、ヘスティアさんを起こさないよう、小さな声で呟く。

 仮にも女神であるのに、こんな夜分遅くに帰ってくるだなんて、苦労しているのだろう。

 僕にもベッドで寝るよう勧めてくれたが……女神だから本当の年齢は分からないとしても、見た目は幼い少女と一緒に寝るのは、危険だ。

 倫理的に、そしてロランの社会的に。  

 

 それより、ついさっき大樹の根元で寝たばかりだと感じるのに、ロランにも眠気が襲い始めているのは、どういうことなのだろうか?

……思えば、今日は色々なことが起き過ぎた。

 考えなければならないことが多すぎて、頭を使い過ぎたのかもしれない。

 元々、自分は考えるよりも先に手が先に出るような性格なのだ。

 ……サトリには散々それをからかわれたけど、彼にとって、今はそれも懐かしい。

 

 この世界で生きる覚悟は既に出来ている。

 それでも、あの二人には会っておきたかった。

 ローレシアを出奔した身ではとても叶わないであろう願いだけど。

 

 ロランには、とても昔に感じる過去のことについて考えながら、眼を閉じる。

 床があって、屋根があるだけ野宿よりは大分マシだ。

 それに、今日はあの孤独感が無い。

 誰かの存在を近くに感じながら寝ることなんて、ここ最近は無かった。 ベッドなど無くても、彼にはそれで十分だった……。

 

 明日、ロランはダンジョンに潜る。

 どんな危険があるか分からないが、体力はいくらあっても多すぎる、ということはないだろう。

 早く寝て、彼は英気を養わないといけない。例え、どんなモンスターが現れようとも、今は床に静かに横たわっている『ロトの剣』と、『ちからのたて』が助けとなってくれるだろう。

 

――廃教会の静かな夜が去っていく。

 

 

 

「さあ、今日はいよいよダンジョンに行ってもらうよ! その前に、ギルドで冒険者登録もしなきゃいけないけどね! ……もしかして、緊張で眠れなかった?」

「いえ、大丈夫です。ところで、ヘスティアさんも着いてきてくれるんですか? 道を教えてくれれば、自分一人でも……」

「大丈夫だよ。今日は、バイトも休みだからね! まあ、行けるのはギルドまでだけど」

 

 ギルド――オラリオの都市運営、冒険者及び迷宮の管理を担うその組織は、冒険者たちに手厚いサポートを行ってくれるが、あくまで迷宮が生み出す富を管理するための組織であり、トラブルには、よほどのことがない限り介入しない……らしい。

 

「さあ、出かけよう!」

 

 ヘスティアが廃教会の扉を開く。

 扉の隙間から朝日が差し込む。その中に広がっていたのは、まさに()()()であった。

 まず彼の目に入ったのは、ダンジョンへ向かう冒険者たちだ。

……建物ではなく、武器を身に着けた者たちを先に注視してしまうのは、ロランも一介の剣士であるからだろうか。

 

……確かに、中々良い装備を身に着けた人が多い。

 前の世界で、ロランが訪れた村の自警団の人々のものと比べれば遥かに上だ。

 冒険者の命を直接守ってくれるのが装備の存在である。

 良い装備を身に着けている、ということはそれだけ迷宮の危険も多いことを表している。

 彼の気が一段と引き締まる。

 

 町並みにも前の世界と比べて違いが多い。そもそも都市の広さが段違いだ。

 目の前には長く、広い一本道が通っており、建物の軒数など想像もできないほど。

……このような道が何本もあるのだとしたら、建物の数はとても数え切れないだろう。

 壁材もより堅牢なものに見えるし、道具屋や武器屋の数がローレシアと比べて段違いのようだ。

 視界に入るだけでも二、三軒ある。

 前の世界では、一つの都市にそれぞれ一軒ずつあれば良い方であったのに。

 

 そして、一際目を引くのが異様に高い一本の塔だ。

 あれが、バベルと呼ばれる施設なのだろう。

 これほどまでに目立つなら、迷うことなど無さそうだ。

 

 バベル……ロランはヘスティアから聞いたことしか知らないが、それは天にまで届きそうな白亜の摩天楼。

 この建造物があるからこそ、ダンジョンで生まれたモンスターが都市に溢れることが無く、市民の安全を守っている……らしい。

 そこには様々な施設が用意されており、ダンジョンに潜る冒険者たちが不自由する事は少ないそうだ。

 

 ロランは疑問に思う。

 どのようにすれば、ここまで巨大な建造物を建てることが出来るのだろうか、と。

 

 その身長差から、歩幅の違いが大きく表れてしまうが、ロランがヘスティアに歩調を合わせる。

 二人はギルドに向かって歩みを進める……ロランにとっては、少しゆっくりと。

 

「……あれが、ダンジョンの入り口なんですね」

「そうとも! ……君ほどの戦士なら、ソロでも地下の深い階層まで軽く到達できるだろうけど、危険は冒しちゃだめだよ。冒険者は冒険しちゃいけないってことは、よく言われているんだから」

「大丈夫ですよ。今回は大事を取って……日が沈む頃には帰ってきます」

 

 どんな危険が潜むか分からないのだ、今回は、稼ぐお金は少額でも構わないから先に進むのは控えるべきだろう。

 

「まあ、新人にはダンジョンについての講習をしてくれるはずだから……君ほど力量があると、どうなるか分からないけど」

 

 そうこうしている内に、北西のメインストリートに面するギルドの入り口にまで辿り着く。

 白い柱で構築された姿形はまるで神殿のようであった。ここで、ロランはオラリオの住民として認可されるために、そしてダンジョンに入るために冒険者登録をしなければならない。

 

「さあ、ロラン君! 君はダンジョンの探検を、僕は二人目の眷属になってくれる人探し! お互いに頑張ろうね!」

「ええ、期待してますよ。新しい仲間が来てくれたら、僕も嬉しいですから」

「うっ……。また僕にプレッシャーをかけるようなことを……」

 

 二人は別れ、お互いの目的に向かって歩き出す。

 ロランはダンジョンへと向かうための準備として、ギルドの入り口をくぐり抜け、ヘスティアはメインストリートへとその豊満な胸を揺らしながら走り出す。

 

 オラリオに、騒がしい朝が訪れる――

 

 

 

――勇者に困難は付き物である。

 モンスターが跋扈する道中然り、その莫大な魔力を思うままに使い、人を苦しめる魔王然り……。

 しかし、今の勇者を苦しめるのは、ただ一人の受付嬢であった。

 その名をエイナ・チュールという、ブラウンの髪をセミロングに切り揃えた、眼鏡の似合うハーフエルフである。

 

「ですから、あなたのここに書いてあるレベルが10、というのはどういう事かと聞いているんです」

「あの、僕もヘスティアさんに教えられただけで……自分で背中を見たわけではないですし……」

 

 そう、ダンジョンの目と鼻の先にまで届いた今となって、彼のその異常な力が障害となったのである。最も、彼女の疑いは当然のことでもあるのだが。

 そもそも、ダンジョンの無いオラリオ以外の土地でレベルアップすることは稀である。

 そのオラリオの冒険者でさえ、Lv.1の冒険者が大多数であるというのに、初めてダンジョンに潜るために登録しに来た男が、レベルを記入する欄に迷いなく『10』と記入した時は、眩暈に襲われた。

 たまにいるのだ、自身の力量を偽る愚か者が。そんな愚か者ほど、迷宮の中で競うように早く死んでいく。

 

「いいですか? 現在ギルドに登録されている冒険者の中で、レベルが最も高い冒険者はフレイヤ・ファミリアに所属するオッタルという、Lv.7の冒険者です。……もう一度だけ、聞いてあげます。あなたはその人よりも強い、ということですね?」

「え!? ……いや、まあ、そういうことになるのかな? ……アハハ……」

 

 ロランは、冷や汗が止まらない状態であった。

 通常、周囲の冒険者や職員が考えるような、嘘をついたことに対する焦りではない。

 最高レベルの冒険者でさえLv.7である、という点についてのみ焦りを感じていた。

 つまり、彼はレベルだけで言えばオラリオでも最高位に位置する、ということになる。

 もちろんレベル差だけが強さの指標になるとは彼は微塵も思ってなどいないが。

 

……ヘスティアが僕をオラリオ一番の剣士だ、と褒め称えたとき、流石にちょっとは誇張も入っているのだろうとロランは考えていた。

 だが、それは虚偽混ざらぬ賞賛だったのだ。

 過去の自分の甘い考えが、今の自分に向かって牙を剥いてくる。

 それはもう、特大の牙が。

 人は、それを『自業自得』というのだ。

 

「はぁ……。申し訳ありませんが特例として、背中のステイタスを私と、ギルドを運営する神、ウラノス様に拝見していただきます。心配はいりません。『君臨すれども統治せず』を貫き通してきた御方です。下手に面白がってレベル以外のステイタスを公表するようなことはなさらないでしょう」

「そ、そんな事までしなきゃいけないんですか!? ……いや、まあ、仕方ないのかなあ……?」

 

 思わずエイナの口からため息が漏れる。

 『死』という形ですぐに分かる嘘だというのに、ここまで貫き通す愚か者に対して、呆れを通り越して心配してあげた自分が馬鹿らしくなる。

 すぐに後悔することになるだろうから、忠告したというのに……。

 

 エイナのこの勘違いは致し方ないことだ。

 目の前にいる男が、『破壊神を破壊した男』などとは、例え神であっても思い付くことすらないだろうから。

 この後すぐに、エイナは後悔することになるだろう。オラリオ最強の剣士といえる実力を持っているくせに、妙なところで無知な新人冒険者の担当になってしまったせいで。

 ステイタスを他の冒険者に見せないために、ロランとエイナの二人は個室へと移る。

 その背中には、彼女が想像していた、一介の新人冒険者らしい平凡なステイタスではない。

 人間の身でありながら、神の領域に一歩踏み入れた剣士のステイタスが、正真正銘の神の恩恵として刻まれているのだ――

 

 

 

 北のメインストリートを歩くヘスティアは、彼女の眷属であるロランについて思いを馳せていた。

 確かに、初めは彼がの実力が高いことが純粋に嬉しく思えた。しかし、冷静になった今、考えてみれば……

 

「ダンジョンも無いような所で、Lv.10になるような経験をしたってことになるからねえ……」

 

 要は、ダンジョンを潜り抜けるよりも遥かに困難な偉業をあの若さで成し遂げたことになる。

 それは並大抵のことではない。

 ダンジョンで発見されている中で、最強のモンスターを倒したところでなれるかどうか分からないようなレベル。

 彼は、既にそんな敵を打倒していることになる。

 

 気にならない訳がない。

 彼の過去は、自分の眷属として、家族(ファミリア)として、いつかは聞かなければならないことなのだろう。

 しかし、その気持ちを妨げるのは――彼の『目』だ。

 

 彼は、優しい人柄だとは思う。

 ヘスティアは女神だ。

 人と話せばその人となりは簡単に分かってしまう。

 ロランは、彼女が今まで会った人の中でも一、二を争うほどには人が良いのは間違いない。

 少し会話を交わしただけの仲なのに、貧乏で、ヘッポコで、零細なヘスティア・ファミリアに入ってくれたことからもその心が分かる。

 そんな心優しい子の瞳から――時折、光が消えるのだ。

 あの憂いを帯びた眼を、ロランのような子が持っているということ。

 それは、決して後ろ暗いような経験からではないだろう。

 

 理由は分からないが、とても深い傷を心に負っているのだと、ヘスティアには理解できてしまった。

 深い深い彼の傷を、自分がすぐに癒せるとは思わない。

 時を待つべきなのだ。

 

(――ロラン君が、自分から話してくれる、その時まで。)

 

 その時、ヘスティアの眼に一人の少年が映る。

 特徴的な白髪と赤目を持つ彼は、メインストリートから一本外れた街路の脇から出てきたらしい。

 そこは、彼女が永遠の宿敵と認識するロキが主神の、数多く存在する探索系の中でもトップクラスの『ロキ・ファミリア』の拠点がある場所だ。

 彼は目に見えて落ち込んでいる様子だった。

 

(――大方、あの意地悪なロキに断られてしまったんだろう。も、もしかしたら、彼が二人目の眷属になってくれるかも!)

 

 そんな期待を抱きながら、彼を尾行する――

 これが運命の出逢いだということを、女神はまだ知らない。

 ルビスの起こした奇跡が、一人目の眷属を変えようとも――この運命は、変わらないのだ。

 

 

 

 ロランは、ダンジョンに入るまでに妙に手間がかかった。

 本来なら、自分の主神以外にはわざわざ見せなくても良い、ステイタスが書かれた背中をエイナとその主神、ウラノスに見せる羽目になってしまったからだ。

 

 ギルドの地下で祈祷を捧げていたウラノスに、ロランの背中を見てレベルに誤りが無いことを確認していたはずのエイナが

 

「念のため! 念のための確認ですから!」

 

 と、あまりにも強く推すので、ロランは渋々その背中を見せたのである。

 ウラヌスさんにも彼のステイタスに虚偽の証が無いことを証明してもらってから、ようやく解放された彼は遂にダンジョンに潜ることが出来たのである。

 

……ロランのステイタスを見たとき、エイナさんは目の前に映る光景を信じられないような表情であった。

 ウラノスも非常に驚いていたようだけど、すぐに祈祷の体勢に戻ってしまった。

 そんな嫌な記憶をダンジョンの地下一階……オラリオでは、一階層と呼ばれる場所で思い出す。

 

「……できれば、大した騒ぎにならないといいんだけど」

 

……薄青色の壁に囲まれたロランの願いが叶う事はないだろう。

 

 そんな悩み多き彼の前に、突如モンスターが現れる!

 

ゴブリンがあらわれた!

コボルトAがあらわれた!

コボルトBがあらわれた!

 

 モンスターが現れた瞬間、一瞬の戸惑いもなく、ロランはその拳を握りしめ、最も近くにいたゴブリンに振るう。

 その手に、『ロトの剣』は握られていない。

 一連の動作に、一切の容赦は無かった。

 

 何の変哲もない『せいけんづき』の動作、違うのはただ二つ、そのスピードと威力だけ。

 

 ゴブリンは、幸運だった。

 痛みも感じる時間も無く、ただその身を黒い砂のような物質と、魔石へと身を変えることで消滅する事が出来たのだから。

 並外れた『力』によって放たれた拳……ではなく、実際にはその拳によって発生した圧力、つまり拳圧のみでもって絶命させられた。

 もっとも、『ロトの剣』を素振りした時の風圧で石柱をも粉々に砕くことのできる男だ、石よりも遥かに柔らかいダンジョン最弱のモンスターであれば、この程度の業は容易いといえる。

 

 人類の敵として、人に襲い掛かる本能を最優先とするはずの残されたモンスターたちがたじろぐ。

 もしかすると、ダンジョンの壁から生まれる怪物たちの中で初めて、感情を得るという進化をしたのかもしれない。

 

――『恐怖』という名の感情を――

 

 彼らに、ロランの右足が弧を描いて迫る。『まわしげり』と呼ばれるその攻撃。

 犬頭のモンスターたちは、その技を避ける術など持っていなかった。

 

「……まあ、こんなものかな」

 

 呟きながら、自前のリュックに小さな魔石を回収する。

 モンスターの生命力の核であるそれは、様々な道具に用いられている。

 これをギルドで換金することで、冒険者は飯の種を得ることが出来ているのだ。

 

……剣士であるロランが、何故、徒手で戦えるのか疑問に思った方もいるだろう。

 もちろん、剣を使ったほうが戦いやすいのも事実ではあるが。

 彼が格闘戦にも秀でている理由は、偏に習得した古流剣殺法の流儀にある。

……ヘスティアに伝える際は、古流剣術だと誤魔化したが。

 この流派は特に実践を重視し、試合の際には剣を落とされた程度であれば、そのまま続行するというルールが存在する。

 故に、未熟であった頃のロランは師匠や兄弟子に武器を叩き落とされ、徒手での格闘を強いられることも多かった。

 もっとも、ロランは幼い頃からある程度には徒手格闘もそこそこの腕前ではあったが。

 

 さらに武術では、派手な技が注目されがちだが、体裁き、足運びなども、戦闘においては重要な要素である。

 一つの流派を完全に修め、極めたロランほどの戦士であれば、それらを生かし、格闘術においても並の武闘家よりも優れた技量を発揮する事さえ可能となるのだ。

 魔王を倒す旅の途中の戦闘において、剣を弾き落とされることもあった。

 その時、この技術は役に立ったものである。

 

―――この程度では、剣・盾共に装備する必要はない。

 ロランの「こんなもの」という発言には、暗にそういった意味があるのだろう。彼の主神が言った通りに、ロランが探索するうえで、上層と呼ばれる地点で苦戦することはないだろう。

 

 

 

 




古流剣殺法云々のあたりは完全に独自設定です。でも、それぐらいやんないと、原作において徒手格闘で強モンスターを圧倒したことの説明不足になっちゃいますから、許してください。まあ、武闘家じゃなくても正拳突きと回し蹴りくらいできるでしょう、多分。

いやーゴブリンたちは強敵でしたね(大嘘)

続きを楽しみに待っていてくだされば幸いです。誤字・脱字あればビシバシ指摘してください。

追記:バベルとギルドを混同してしまったので修正しました。

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