もょもとがダンジョンにいるのは間違っているだろうか【DQ2×ダンまち】   作:こうこうろ

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考えてもキリが無いので、ステイタスに関しては開き直ります。もう諦めました。


第七話

 モンスターの合体という予想外過ぎる出来事もあったが、今日のダンジョン探索は終わりを迎えた。

 帰り道の敵の掃討を担当したのは、言うまでもなくロランである。

 キングスライムの突然の出現は、ベルを肉体的、精神的にも大幅に消耗させた。

 当然のことである。上層にはあまり強いモンスターが存在しない上に、ロランの庇護もあった。

 複数体のモンスターから襲来も無かったことから、命を危険に曝される感覚を味わう事が無かったのだ。

 

―――初めて死に直面する事態は、少年にはとても堪えたように見える。 

ダンジョンを急ぎ帰る途中においても、一言も言葉を発することは無かった。

 口から出るのは荒い呼吸だけ。しかし、内心では興奮していた。

 

 その理由は、ロランの剣技をその目で見ることが出来たから。

 ロランの剣の前に立つには力不足だと思われる敵だが、それでも憧れ続けた英雄を実際に目に見る機会など、オラリオに来る前では絶対に来なかったであろう。

 ロランは英雄の中でも飛び切りの存在である。

 その男と同じファミリアであるという事、仲間だと認めてくれた事、自分に稽古をつけてくれると言ってくれた事……。

 

 確かに、まだ心中の片隅に恐怖は残っている。

 しかし、ダンジョンを少しは攻略したのだという奇妙な充足感と、ロランに対する憧れ……そして、期待が迷宮の入り口に近付くにつれて高まっていった。

 

 

 

 道中で、注目すべきことは無かった。

 強いて言うなら、自身が使い慣れた武器を、適度な殺傷力で振るうことの出来る鋼鉄の剣の存在にロランが再度ありがたみを感じた程度である。 後は、如何にも簡単に敵を屠っているように見える……その実、魔物との戦闘に関する技術の集大成であるロランの戦いを、英雄譚としてではなく、実物として見ることが出来てベルが喜んだことくらいか。

 

……異変が起きたのは、ダンジョンの外に出た後である。

 バベルの内周に設置された階段を上りきり、ロランの姿が衆目の前に現れたその時……人々がざわめき始める。

 人数自体はとても少なかった。それもそのはず、殆どの冒険者たちは午前までにダンジョンに入ってしまう。

 この、正午を僅かに過ぎた時間にバベルの入り口にいる冒険者は、何か問題が起きて、帰還した者が大多数を占めるだろう。

 

 その少ない人数であっても、ロランたちに自分らが注目されていることを理解させられるほど、大きなざわめき……その事態は、既にロランの顔が知れ渡っていることを意味する。

 

(……ベル君を変な騒ぎに巻き込んでしまうのは拙い。)

 

そう判断したロランは、彼と別行動を取ることを決意する。

 

「……ベル君、君は換金所でアイテムを売却して、ヴァリスを拠点に持って帰ってくれ。僕は、ギルドに行ってダンジョンで起きた事を話してくるよ」

「わ、分かりました……気を付けてくださいね、ロランさん」

 

 ベルも、自分ではなくロランが注視されていることくらいは分かる。

 彼のことは心配だ、だけど何か問題が起きた時、自分はいても邪魔になるだけだ……。

 

 ロランはそそくさと人の眼から逃れるようにバベルから退出し、ギルドへと駆け足で向かう。

 ベルは階段を上り、彼らの成果である魔石をお金へと変えるため、換金所に向かう。

 

……この後、ダンジョンなど比較にならないかもしれない次元の苦難がロランを襲い掛かることなど、占い師でもない勇者には知ることは出来ないだろう……。

 

 

 

 華美な剣、盾、そしてシンプルながらも上質な武器であると感じさせる剣を背負う背中に人々の視線が突き刺さる。

 

……まさか、ここまで早いとは思っていなかった。

 レベルを公表されるのが朝だって言っていたから……半日で、僕の顔まで広まってしまうなんて……。

 

 人の多い往来に出たことを大きく後悔しながら、深く溜息をついた。

 最近になって、溜息の回数が増えたような気がする。

 最悪、過去さえ広まらなければいいのだが……それでも、人に注目されることはあまり気持ちの良い事ではない。

 

 王子として、次期国王として多くの人に見られていた時とは違う。

 人に詮索されるような、心まで探ろうとする視線には……慣れないだろう、きっとこれからも。

 

――ロランは気付けない。普段であれば感付いたであろう二つの気配に。 数多の目に紛れてしまった、上空――バベルの最上階から降りかかる二組の目に。

 それは、とある女神と彼女の側近……『元』最強の冒険者の物であるが……それを、ロランが知る由もない。

 彼らが出会うのは、まだ先の事だろう。

 

 衆目に晒されながらも、ギルドへと向かう足を止めることは出来ない。 こうなったら諦めるほかない、さっさと用事を終わらせてしまおう……。

 

――妙に人だかりが出来ている。

 セントラルパークからでも確認する事が出来たその集団は、ギルドの目の前に集まっている。ロランに嫌な予感が走る。

 人の中心に存在する物、それは……掲示板だ。

 

 確か、記載されている事項の中に冒険者のレベル情報もあった筈。

 僕の事もあそこから拡散してしまったのか。ようやく合点がいった。

 

「おい、あの青い装備。あいつがロランじゃねえか?」

 

 僕にとって、死刑宣告に等しい言葉が耳に響いた。その言葉を発したのは、多数いる人々――もしかすると、神々も混じっているのかもしれないが……とにかく、誰が言ったかは分からないが、妙に響いたその声は、集団の体を掲示板から此方へ一斉に振り向かせる。

 

 ここから走り去る事をロランは決断する。

 決断の早さは即ち生に直結する。今まで多くの回数死に瀕してきた勇者だからこそのスピード、その間僅か一秒未満。

 

 目的地であったギルドの正反対の方向に振り返り、そのまま疾走した。 その速度は、モンスターから逃亡する際に鍛えられた健脚に支えられているのだ、並の冒険者には負けるはずがない。

 

「あっ! 何処へ行くんだ!?」

「話だけでも聞いてくれないかなっ!」

「追いかけろ!」

「新しいファミリアに興味は無いかぁーっ?」

 

 様々な声を置き去りにして、冒険者たちは走り出す。オラリオは、今日も騒がしくなりそうだ。

 

 

 

「ただいまです、神様!」

「お帰りなさい、ベル君! ……あれ?ロラン君はまだなのかい?」

 

 ただ一人、拠点に帰還することの出来た少年の手には、換金所で得た貨幣の詰められた袋が握られている。

 以前、ロランが持ち帰った量と比較してしまうと、随分少なく感じてしまうが……その金額、何と五万ヴァリス。

 Lv.1の冒険者がソロで稼いだ金額だということを鑑みれば、大したものだろう。

 最も、その中身の大半は、キングスライムの魔石の分なのだが……。

 

 しかし、それは今話すべきことではない。

 まず、ロランの身に起きた異変を話さなければならない。

 

 ロランさんが『スライム』と呼んでいたモンスターが合体して巨大な姿に変貌したこと。

 新たに購入した剣で、そのモンスターを倒したこと。

 

そして、バベルの入り口で騒ぎを起こしかけて、自分だけ先に帰してくれた事……。

 

 ベルの話を聞いたヘスティアの顔面が蒼白になっていく。

 苦労して、バイトもしながら、ようやく眷属になってくれた剣士なのだ。

 オラリオ最強という肩書きなんて無かったとしても、他のファミリアに引き抜かれるなんて事態は御免だ。

 

「ロラン君に会いに行こう!無茶な引き抜きなんてあったら大変だ!」

 

 その言葉を聞いた時、ベルの脳裏に一つの言葉が思い浮かぶ。

 

――君と僕は、仲間なんだから

 

 ダンジョンで、ロランが言ってくれた一言がベルを突き動かす。

 彼が僕らを見捨てて、他のファミリアに行くことなんて、まず無いだろう。

 それでも、仲間が困っているかもしれないのだ。

 助けに行かないなんて選択肢は、端から無いはずだった。

 なのに、迷惑がかかるだけ、なんて理由で……。その時の自分を情けなく思う。

 

「行きましょう、神様!」

「やる気十分だね!さあ、僕らの家族を守らなきゃっ!」

 

 まるで扉を吹き飛ばすような勢いで扉を開く。

 二人は、外に向かって廃教会の中を走り抜けた。

 

……今、ロランが何処にいるか分からない、という問題に気が付いたのは、セントラル・パークまで無我夢中で走った後のことである。

 

 

 

 ギルドの美人受付嬢だと、冒険者からは称されているエイナは落ち込んでいた。

 先日、Lv.10冒険者として、今朝からの大騒ぎを引き起こした男――ロランとの出会いを皮切りに、ダンジョンでの異常な出来事まで立て続けに起きている。

 

 エイナのロランに対する判断は、中立をモットーとするギルドから越権行為と判断され、山のように始末書を書くことになってしまった。

 これはいくら信じることが出来ないような数字だったとはいえ、自業自得なのだから仕方のないことだ。

 今度、彼に会った時には深く謝罪しなければならない。

 しかし、それ以上に大変なのは、冒険者から続々と新種のモンスターに関する報告が届いている事だ。

 

 青く、柔らかい肉体を持つゼリーのようなモンスター。

 人のような大きさのネズミ。

 大きく、丸っこい蝙蝠。多数の触手を持つ、自身や他のモンスターの傷を癒すモンスター。

 そして……先日、ロランに運ばれてきた鎧の冒険者から聞いた、一つ目の巨人。

 

 上層だけでも、これだけの報告が来ている。

 下層まで含むと、どれだけの数がいるか見当もつかない。

 もう既にバベル支部だけでは処理が追いついていない。

 ここ、バベル本部ですら仕事の多さにてんてこ舞いの状態だ。

 

 鎧を着用していた彼――Lv.2の戦士は既に快復したので、自身の拠点に帰還しているだろう。

 ただ、殆ど巨人に関する記憶は残っていなかった。

 覚えていたのは、おぼろげな姿形だけ。

 

(ロラン君には、後で詳しいことを聞かないといけないわね。)

 

 そう考えた時、彼の姿が現れた。特徴的な青い装備は、妙に土埃で汚れていたが……ダンジョン探索でも行っていたのかと推測できる。

 

 何故、彼が多数の人間からの猛追から逃れることが出来たのか、疑問に思う方もいるだろう。

 その答えは……正反対の方向に逃げたと見せかけ、曲がり角を利用しながら、近くの物陰に隠れて人の波をやり過ごしたのである。

 人の死角、この人数なら見逃すことなど無いという、当人ですら気付かないだろう小さな油断、様々な要因を巧みに利用した逃走術。

 モンスターから『にげる』際に鍛え上げられたのは、逃げ足の速さだけではない。

 

「こんにちは、ロラン君……昨日は、ごめんなさい」

「い、いや、大丈夫です。仕方ありませんよ……それより、前に行った奥の部屋で話せませんか? ここだと……その……」

 

 深々と頭を下げて謝罪したエイナに対して、ロランはそこまで気にしてはいなかったようだ。

 もう諦観の域に入っているらしい。自身はオラリオ(ここ)でも異常なのだと。

 

……それよりも、ギルドに入った時からも、人の目が気になる。

 話題になってしまった僕のことが気になっているのだろう。

 

「あ、そうね……ちょっと、ここだと人が多いわね。私も聞かなきゃいけないことがあるの。」

 

 二人は、またしても小部屋に移動することになった。

 以前は誰も気にしなかったが、今回は皆に注目されながら。

 

 ソファーとテーブル、そして椅子と本棚くらいしかない簡素な部屋。

 それが彼らが会話をしている場所である。

 

「……十階層に出た、巨人のモンスターはロラン君が倒したの?」

「はい……それがどうかしたんですか?」

「一つ目の巨人のモンスターがダンジョンに現れた事は無いから、特徴を教えて欲しいの。」

「それなら構いませんよ。まず……ギガンテスは緑の肌で、太い手足を備えた、単眼の巨人です。頭頂部に角も生えていますが、これは攻撃に使う事はほとんどありません。あと、武器として巨大な棍棒を持っています。この一撃を食らったら一たまりも無いでしょう」

「ふぅん……ギガンテス?」

 

 ロランの、まるで既に名前を知っているかのような口ぶりに疑問を持つ。

 新しく出現し始めたモンスターのはずなのに。

 

「あ、……いえ、僕の故郷に、奴に似た怪物がいてですね……」

 

 ロランにとっては苦しい言い訳。が、彼女は信じてくれたようだ。

 

「……多分、そのギガンテスは迷宮の孤王(モンスターレックス)に近い存在でしょうね」

「モンスターレックス……ですか?」

「ええ、特定の階層にのみ出現する強力なモンスターの事なんだけど……上層には今まではいなかったの。既に存在する巨人のモンスター『ゴライアス』も、モンスターレックスの一種なのよ?」

 

……ゴライアス、という巨人がどれくらい強いのかは分からない。

 ただ、ギガンテスより遥かに弱い、ということは無い……と思う。

 

「あ、それと、スライムって、知っていますか?」

「スライム……あ、あの青い?」

「ええ……それが、合体したんです。合体して、より大きなスライムになったんですよ」

「合体!?……強化では無さそうね……報告、ありがとう。」

 

 以前のモンスターは、別の個体の魔石を摂取することで、様々な能力の変動を起こしてきた。

 しかし、決して合体と呼べるものではない。

 

―――オラリオにおいて、ロランだけが知っている新たなモンスターの出現。

 そのモンスターたちの『進化』。

 この事件がもたらすのは、一体何なのか……誰も、神さえも知らない。

 

「そういえば、ロラン君のファミリアって、ヘスティア・ファミリアだったよね。あまり聞いたことの無い所なんだけど、どんなファミリアなの?」

「え?……そうですね……」

 

 エイナも登録の際、一度だけ会った事はある。

 しかし、主神と話をしたことは無い。

 ロランにとって、ヘスティアたちはどんな人―――神なのか。

 考える時間は与えられなかった。

 

 突然、座っていたロランの後ろに鎮座していた扉が開かれる!

 

 エイナは驚き、ロランは冷静に、かつ迅速に振り返りつつ『はがねのつるぎ』の柄に手をかける。

 扉が開いた先にいたその姿―――ロランは見覚えがあった。

 

 思わず、ずっこける。

 警戒して損した気分になってしまった。彼ら―――ヘスティアとベルは、随分急いで来たらしい。

 呼吸が乱れている。ロランの存在を実感するためであろうか。

 ヘスティアはロランの首に、ベルは腕にしがみつきながら話しかける。 二人に飛びつかれても、ロランは全くよろめかなかった。

 大した安定感である。

 

「ロラン君、大丈夫だったかい!変な神―――特にロキとかっ!に無理矢理勧誘とかされて無いかい!?」

「ロランさん!無事で良かった……何か、変な事とかされてませんか?」

 

……騒ぎになってしまった僕のことを、いざこざでも起きていないか、心配して来てくれたらしい二人を見て、何だか苦笑してしまう。

 そして、とても―――嬉しかった。

 

「……こんなファミリアですよ、エイナさん」

 

 未だしがみついている二人の重量を物ともせず、エイナに振り返る。

 二人は振り落とされそうになってしまうが、その手を放すことは無かった。

 その姿こそが、何よりの証明だろう。

 

 ヘスティア・ファミリアがロランにとって、如何に良い家族であるか―――その、証左として。

 




いつもよりちょっと更新が遅くなりました。楽しみに待って下さっていた方、申し訳ありません。何分、考えなければならないこと、用事などが多くなってしまって・・・。

ステイタスに関しては、ドラクエという世界の物をダンまちの世界の基準に落とし込まないといけないというクロス作品ならではの問題があるので、読者の方々も様々な意見があるとは思いますが、もう変更することは無いと思います。ご了承ください。

あと、ロランの持つアイテムに関する質問を結構頂くのですが、装備以外は特に持っていない、という設定です。いいね?

・・・特訓は、次話になると思います。

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