ボクは仗助、 君、億泰   作:ふらんすぱん

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友達を蹴ってはいけません

 物語の中に生まれる、そんな不思議な事を経験したことはあるだろうか。

 その問いに答えられるのは、俺だけで、これから先にもいないかもしれない。

 周りのどの子どもより早く物心がつき、二度目の生を授けられたことに気づく。

 不思議とその事実は俺の中に何の波紋も起こさず、優しい両親の元、退屈で幸福な幼年時代を過ごす事となる。

 前世と言ったらいいのだろうか、おぼろげにしか、其れをおぼえていなかったのが、今振り返るといい土台になったのだろう。

 

 転機、というものがあるのなら、それは両親の他愛ないお喋りの中に混じっていた『海鳴市』という単語だろう。

 その前世では、実在していないはずの日本の市。

 そこから、縄で縛られているようにつながって思い出される、一つの物語。

 地図を引っ張り出し懸命に何かを探す、小学生に上がる前の一人息子。

 首をかしげこちら見ている親に、明日、近所の散歩に一人で行く旨を告げる俺だった。

 

 この後、難色を示した親を説得し、物語の主役のもとを尋ねたことで、俺の物語が始まったんだと思う。

 

 主役になろうとか思っていたわけではないが、動物園のパンダを観に行くような気安さがあったことは否定できない。

 

 

 それから時は過ぎ、物語が物語として進むように何度か便宜を図ったのだが、ことごとく裏目に出て行った。

 たとえば、入学式の日に、喧嘩しているあの彼女の親友になるはずの二人。

 彼女たちの喧嘩をまえになぜか立ち止まっているなのは。

 仲裁しなくていいのかと聞くと、

 

「あのね、喧嘩するってことはお互いに譲れないものがあるってことなんだよ。だから、軽い気持ちで間に入るべきじゃないんだよ!」

 

 いきなり説教を喰らい、何も言えなくなっている俺をしり目に、意外なほど早く、二人の喧嘩は収まっていった。

 物語通り進まないことに、怒りや焦りは出てこず、ああこれが現実なんだな、と俺はどこかがっかりしていたんだと思う。

 だからなのはの額にびっしり付いている汗や、深く追及してこないことに安堵している顔を見てもなんとも思わなかった。

 

 この時、物語のような都合の良い幸福も、理不尽に浴びせられる不幸もこの世界にないことを知り、一度、俺の熱は冷めたんだと思う。

 それから、物語に関する知識が急速に抜けていき、この世界の住人となっていく僕の中に再び燃料を叩き込むことになるのが、あのジュエルシード事件だった。

 

 事件に突っ込んでいき、自分にも魔法の力があることを知り、テンションが上がっていく。

 そこからまた始まる俺の物語。

 うろ覚えではあるが、物語の一幕であったはずの、そんな特別な日の事。

 

 

 

 その日は、俺の所属するサッカークラブ、翠屋SCの試合の日だった。

 同年代の者より優れた運動神経で、四年生を押しのけレギュラーに成った俺。

 ユーノは家でお留守番らしいが、その分なのはが応援してくれる。

 彼女だけでなく、なぜか観客としているアリサとすずかに、張り切っていた俺は、前半にワンアシスト、ワンゴールを決め絶好調だった。

 

 しかし、その幸福を砕きにやってくるものが訪れた。

 

「桜台SC、二人交代です」

 

 審判のホイッスルと共にフィールドに現れる同級生とは思えない大柄な体躯。

 ふてぶてしい態度で交代する選手とハイタッチを躱す。

 何かに気づき、翠屋の応援席から、桜台に移る二人が見え、そういえば、このクラスメートと妙に仲が良かったなぁと、試合とは関係ないことが頭に浮かんだ。

 

 魔法関係で虹村くんとは、因縁があるのだが、向こうはこちらの事をなぜか覚えていないらしく、そのことはスルーする。

 

 

 

「ところで仗助、おまえ、サッカーのルールは解っているよな?」

 

「まかせろ、前の時に少しかじっていた気がする。サッカー用語なら大体わかっているはずだ」

 

「ふむ、言ってみろ」

 

「『ボールは友達』『ファールは技術』『難しいことはぶっ殺してから考える』」

 

 やばい、どれ一つサッカー用語ではない上に最後に至っては、どんなスポーツにも適用できない。

 

「……グレートだぜ。さぁ、さっさと終わらせて飯食いに行くぞ!」

 

 敵がルールを理解できてないことで、ここまで不安になることがあるなんて知らなかったよ。

 

 

 向こうのボールで後半が始まる。

 あの二人のツートップみたいだ。

 

「仗助! 俺の必殺シュートを見せてやる。名付けてキックオフシュートだ!」

 

 そういって、開始早々、高らかに足を振り上げる虹村くん。

 それは、必殺技の名前ではない。

 だめだ、こっちもサッカーに詳しくない。

 

 しかし、彼の身体能力のおかげか、すごい勢いでボールが発射され ……こちらのツートップの間にいたMFの先輩が吹き飛んだ。

 

 

「……ナイスブロック」

 

 

 東方くん、其れでごまかすつもりなのか!!

 

 脳震盪らしく、ベンチに戻される先輩、気を取り直し、ゲームが続けられる。

 

 こっちのフイールドにドリブルで切り込んでくる東方くんを止めるべく突っ込んだDFが、宙を舞う。

 呆然としてしまったが、すぐに気を取り戻し

 

「審判、ファールです!」

 訴えるが、そこにはありえない角度に首を捻っている審判と

 

「悪いな、丁度、他の方向を見ていたらしいぜ」

 

 FWなのになぜか隣にいるクラスメートの姿があった。

 

 

「勝てばよかろうなのだァァァァッ!!」

 

 そして、東方くんの雄たけびが上がる。

 

 

 萎縮してしまっている先輩たちの中で、ただ一人立ち上がる者がいた。

 彼は翠屋FCのキャプテンであり、同時にエースでもある。

 体格的には劣るものの子供とは思えない気迫で、皆に活を入れていった。

 

「仗助、勝つためには様々な手段があるが、その中で最も有効なものは……」

 

「言わなくてもいいよ、僕でもわかる。……相手のエースをつぶすことだ」

 

 さっきまでの俺らだと思うなよ! キャプテンがくれた勇気のおかげでそんな脅し怖くもなんともない。

 

 二人の方に向かっていく彼の背中は輝いていた。

 息を吸い込み大きな声で宣言する。

 

 

「お前等! うちのエースの真をつぶせると思うなよ! 背番号八番の黒髪の短髪の奴がうちのエースだ。女子にも人気があって、うらやましい限りだ。後、GKの奴もうちのエースだ。最近マネージャーと仲がいいうちの鉄壁だ。お前等には絶対負けないぞ!」

 

 ……おいキャプテン

 

 

 

 試合は激しい物となった。

 特に俺とGKの彼は何度も吹っ飛ばされ、そのたびに、監督が抗議するのだが、運悪く審判が見ておらず、却下される。

 

 

「おい、億泰あれ見てみろ」

 

「おお、ヤバイな」

 

 

 そんな折、何かを指さした、謎の会話の後、二人は腹痛でトイレに消えていった。

 

 結局、試合は桜台の圧勝。

 けが人も脳震盪を起こした彼以外は軽い物だった。

 まあ、なぜか審判がムチ打ちになって救急車に運ばれたらしいのが不思議な事だった。

 気になることは、なぜか逃げて言った二人、彼の指差した方向には、観戦に飽きたのかどこからか見つけたバットを素振りしていたアリサ以外、特におかしい物はなかったのだが。

 

    ●

 

 

 

 

 腹痛を理由に金髪のバットから逃れた僕らはほとぼりが冷めるまで川沿いの道の脇に隠れていた。

 

「くそ! こんなもの!」

 

 声と共に何かが僕の頭にぶつかる。

 

「痛いじゃないか、誰だ!!」

 

 隠れていた草むらを飛び出し大声を上げる。

 声に驚き逃げ出したのは、今日の相手チームのGKじゃないだろうか。

 幸い血は出てなく、痛みもすぐに治まったので、追うのは勘弁してやった。

 アイツがいるということは試合は終わったのだろう。

 今日の報酬をもらうため、母の紹介の監督さんのもとに向かった。

 

 

 

 報酬の千円札三枚を貰いぼろいバイトだと喜んでたところを金髪に見つかり、ご機嫌伺いの為、報酬でご馳走するため、この前行った、ケーキのうまい喫茶店へ。

 なぜかおとなしい、金髪を気にしつつも、注文を済ませる。

 ここの店長だろうか、さっきからおっさんが凝視してきていたのだが、厨房から出てきた女性に耳を引っ張られて、奥に行ってしまう。

 春は変な大人が湧くんだな。

 

 一息つき、億泰がトイレに行ってるとき、

 

「あ、あの東方くん、その髪」

 

 ウエイトレスの服を着たふざけたガキが、ふざけたことを言ってきたので、睨み付けお引き取り願う。

 

『えっ、なのは 、目が赤いけどどうしたの? ユーノくんを連れてくるって、お店にはダメだって……行っちゃった』

 

 

 店に入った時から何か言いたそうにしている金髪に、話のタネにこちらから促す。

 

「バニングスさん、で話があるんだろう? 言ってごらんよ」

 

 ようやく覚えた彼女の名前と共に、

 

「えっと、私はフェイト・テスタロッサと言います。あなたの」

 

 ……やばい、間違えた。

 

「何言ってるんだい!! 僕はちゃんとテスタロッサさんといったよ! 大体誰だよ、バニングスなんて変な名前」

 

「え、あの、そうじゃなくて、あなたの髪」

 

 勢いでごまかせそうだ。

 

「髪? いや、この髪型だとしっくりきてね。そういえばさっきと髪型が変わっているね。とても似合っているよ」

 

「あ、ありがとう……」

 

 冷や汗が流れる。

 その後は会話もなく、ごまかしきれたのか解らないまま沈黙が続く。

 

 億泰の長いトイレに焦れていると、

 

「はぁはぁ……おや、奇遇だね! アンタも休憩かい? 合席させてもらうよ!」

 

 扉を開け放ち、全力疾走の後のように息を切らせたこの前のお姉さんがいた。

 なんでその位置から、店の奥の僕に気づく!

 

 色々疑問があったが、それは置いといて、強引に、席に着くお姉さん。

 この前の事もあり、好感を持っていた僕は、話が弾むことにうれしさを覚えた。

 その上別れ際に、

 

「この髪型、アンタに似合っているよ。群れのボスみたいだ」

 

 

 と、頭を撫でてくれた。

 力が強く、少し、ぐしゃぐしゃになってしまったが、初めて褒められたのでほおが緩む。

 

 あれ、

 

「その石。まだ持っていたんですね? あの、邪魔になっていませんか」

 

 お姉さんの右手に光るそれを見付け、気になったので聞いてみる。

 

「えっ、えっとそんなことは気にしないっでいいんだよ。あ、あたしこの石が気にっていてね」

 

 突然どもりはじめた、お姉さんに首かしげ、さよならを言う。

 

 そんな楽しい一日が過ぎ登校すると、なぜか怒り狂っている金髪。

 

 気を静めようと名前を呼び掛けると……ボコボコにされた。

 

 なぜだろう?

 

 




何とか書きあがった。小説家になろうの方でオリジナルをもう一つ今週中にあげるつもりなので、そちらの方も暇があれば見てやってください。好き勝手やったものにするつもりです。ペースは遅いですがしっかり上げていくつもりなので、これからもよろしくです。ご意見ご感想お待ちしてます。 ふう、やっと原作を進めることができた

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