ボクは仗助、 君、億泰   作:ふらんすぱん

16 / 29
推敲一回だけ、二回目はまた今度  一万字近くになったので、推敲が大変です。
今回は山場なのでコメディー色はかなり少ないです、ご容赦ください。次からコメディーに戻れるかも。


収束、安定

 数多にある次元世界を管理し秩序を守るという名目のもと組織された時空管理局、その管理局の提督であり、次元航行艦アースラ艦長であるリンディ・ハラオウンは思いもよらない危機的状況にあった。

 管理外世界、地球から届いた救難信号をもとにクルーを急がせ可能な限りの速度で、次元の海をわたってきたのだ。

 只の救難信号ならここまで急かすこともない、そういうと人聞きが悪いが、事態は考えられる限り最悪の物であった。

 もはや滅んだ世界の技術で作られた遺産であり、それ自体が世界を滅ばす引き金であるロストロギア・ジュエルシードが、この魔法技術の無い地球にばら撒かれてしまった。

 報せを聞いたときは眩暈がした。

 例えるならば、世界の滅亡のスイッチを赤子のそばに放置している状態と何ら遜色がない。

 地球についたときは、レーダーで安否の確認はしていたが、モニターの前に広がる文明の姿に拳を握りこんでしまうほどに歓喜した。

 実の息子であるクロノ・ハラオウンと臨んだ任務が凄惨なものではなかった、それは母親としての気遣いなのだろう。

 艦長である自分の指示をクルーが待っている。

 気心の知れた彼らは、彼女が安堵した事に気づき、何も言わず待機していたのだ。

 その気遣いに感謝し、そして年長者であるリンディが年若い彼らにこれ以上の恥かしい姿は見せられない、彼女はオペレーターであるエイミィに周辺の魔力反応について尋ねる。

 

「っ、ロストロギアの反応ありました! これは魔導師が二人交戦中。ジュエルシードを奪い合っているようです」

 

 彼女の報告とともに、画面に二人の少女が映し出される。

 歳はクロノよりもいくつか下に見える。

 茶髪の白い魔導師と金の髪の黒いマントの魔導師。

 彼女たちは高い魔力と魔導技術を駆使し、争っていた。

 しかし、黒い魔導師の方が見る限り洗練した技術を持っており、徐々に追い詰めていく。

 白い少女がとうとう撃墜される。

 それと同時に封鎖結界にほころびが出来た。

 結界は白い魔導師が構成したものなのだろう。

 彼女の意識が無なくなる事でその効果が無くなる。

 リンディはすぐに愛する息子に指示を出す。

 

「クロノ、すぐに現地に行き結界を再構成……は、現実的じゃないわね。エイミィ、あの結界内にいる人間を全員アースラに転送して頂戴。抵抗はされるでしょうが、最悪でも一人確保できればそれで問題ないわ。今は結界外の人間に、魔導技術が漏えいすることの方が問題よ! 急いで!」

 

 リンディの指示にエイミィはすぐに公園内のマーキングを終え、転送を開始する。

 結果として、転送ポッドには白い魔導師だけではなく、抵抗が予想された黒い魔導師まで、転送された。

 リンディは、武装局員を数名連れ、彼らに事情聴取するため転送ポットに向かったのだ。 ここまでは何ら問題がなかったのだ、彼女らの中に通報者がいる可能性もあるし、何らかの情報は得られるだろう。

 荒事になったとしても問題なく制圧できるだけの人員もいる、艦で一番の空戦魔導師である息子も艦橋に控えているのだからと。

 

 

     ●

 

 彼女は油断していた、魔力反応はエイミィの話では四つ、多くても五つであると、だから目の前の光景が信じられない。

 転送ポッドの前の廊下に、先行した局員が全員横たわっているその光景と、そしてリンディのすぐ後ろに不気味な白い仮面をつけた二人組が陣取っている。

 仮面は石膏なのか、白く冷たい印象で線のような細い瞳と厚ぼったい唇、それに生えた牙がある。

 彼らは首筋を手で押さえつけ、リンディを拘束していた。

 事態に気付いた彼女がすぐに魔法を展開しようとしたのだが、発動するまでのラグの間に捕まってしまったのだ。

 彼らの目的は分からないが観察するに、転送されてきた全員が同じ勢力の人間ではないようだ。

 廊下の奥にはこの世界での学生服だろうか、それを纏った学帽の青年と、その横に気を失った少年が横たわっている。

 青年は、廊下側、転送ポッドの入り口にいる集団を警戒し睨みつけている。

 集団はちょうど、青年と私たちを挟んだ中央に位置していた。

 顔を包帯で覆い杖をついている老婆を真ん中に右には薄い髪ので人相の悪い中年の男が、左にはクロノと同年代だろうウェーヴのかかった長髪を流し、顔の左半分に雷をかたどった刺青をしている少年が立っていた。

 彼らの足元には先程の魔導師二人が気を失い倒れている。

 金の髪の少女のすぐ近くには彼女の使い魔も寄り添っていた。

 学帽の青年が一歩足を進める。

 

「それ以上近づくんじゃねえぇよ! 承太郎! このガキを殺すぞ、ああん」

 

 老婆のしゃがれた声が廊下に響く。

 老婆の声は怨嗟に満ちており、確かな殺意がある。

 彼もそれを理解し、少女の安否を気遣い、歩みを止めた。

 青年は彼女たちの仲間なのだろうか、リンディにはここにいる者たちの関係が分からない。

 特に、今自分の後ろにいる者たちと彼らの関係が。

 仮面の二人はリンディと同じように彼らに注目していた、いや視線の方向を観察すると承太郎と呼ばれていた青年の方に比重が置かれている。

 彼らが小声で話しかけてきた。

 

『すいません、お姉さん、しばらく人質にさせてもらいます。絶対に危害は加えないので、お願いします、後この建物の出口はどこですか? いや侵入する気はなかったんですけど、気が付いたらここに』

 

 予想以上に高い声に、この二人がクロノとそう変わらない年齢だと気付く。

 彼らの声音から、暴力的なものは感じられないのでリンディは交渉をすることに決めた。

 そう、彼らの口調が紳士的な物であったから、交渉の余地があると判断したのだ。

 決して、最近は誰も呼んでくれない『お姉さん』という呼称に気を良くしたわけではない、と誰に対してかわからない言い訳が彼女の心の内でなされる。

 クロノには慎重に行動を起こすように念話で忠告をした。

 密談の最中に事態は動いた。

 承太郎の説得に老婆が激怒したのだ。

 

「DIO様がワシを裏切るはずがない、そんなことも分らんのか! 見てみよこの体を。肉の芽が暴走はしたが、ワシの命は消えておらん。それどころかあの方を以前より近くに感じられる。これはDIO様の愛なのじゃ。そんな、お優しいあの方をお前たちは殺した。ワシの息子だけでは飽き足らずに。これが許せるはずがないじゃろう! 承太郎、お前の次はポルナレフを殺そう。全身に針を突き刺し息子と同じ苦痛を与えてやる。くくく、、Jガイルもあの世で首を長くして待っておる事じゃろうに」

 

 包帯を引きちぎった老婆の顔は、緑の植物と人間の肉が混じり合った気色の悪い物だった。

 老婆の周りを霧が漂い始める。

 承太郎が、そしてリンディの後ろの彼らも体を硬くする。

 そして暴力が唐突に始まった、誰もそれに反応することは出来ず、老婆は驚愕し、すぐ後ろの彼を振り返る。

 リンディに見えていたのはすぐ横の刺青の少年の手のさきから発生した電気の塊が老婆の胸を背中から貫いている光景だった。

 

「ああ、もうウザったいんだよ、ババア! 早く死ねよ。お前のせいで隠れていたオレまで見つかっただろが! その老い先短い命で責任とれよ」

 

「な、何をするのじゃ、音石。スタンドを与えた恩を忘れたの……か、かはっ」

 

 最後の力を振り絞り音石に振り向いた顔を、彼は邪魔だとばかりに蹴り飛ばす。

 

「何言ってるんだ、これはオレの力だろう、何に使おうがオレの勝手だ。面白そうだから、邪魔者を消すついでに付き合ってやっただけだ、エンヤ。なのによー何でオレの姿が見られちまってるんだ。それはババアの責任だぜ。悪いことをしたら罰を受けなきゃいけねえ、子供でも知ってる理屈だ」

 

 音石は次に中年男性に高圧的に声をかける。

 

「アンジェロ、あんたはどうする。オレに刃向うか? 元々こんなババアに義理なんて必要ないぜ、オレに従うんだろう!」

 

 力関係を悟ったのか卑屈な笑みを張り付けアンジェロは言葉を返す。

 

「ああ、わかった、あんたに従う。俺はこの高町のガキと、東方良平の娘と孫をむごたらしく殺せれば問題ない」

 

 アンジェロは茶髪の少女の髪を掴み下卑た顔で音石に同意する。

 改めて承太郎と向かい合い、彼は鼻を鳴らした。

 

「おい、アンジェロ、この嬢ちゃんたちを逃がすなよ。ちっ、予定外の労働に反吐が出やがる。さっさと終わらせてこの建物にいる目撃者を皆殺しにするか」

 

 今日の夕食のメニューを何にするか、そんな気楽さで、音石はアースラのクルーを殺害すると宣言した。

 リンディは彼らのことをすぐにクロノ達に報告しようとする。

 彼らは、この世界の危険人物だ。

 承太郎と音石が対峙する中、誰にも注目されることなく彼は歩みを進めた。

 出口を探していたことに加え、リンディに危害を与えることもなかったので、仮面の二人は積極的にこの戦いに加わる気はないとあたりを付けていたのだ。

 対峙する彼らもそう判断していたのだろう、そのため誰も彼に反応できなかった。

 靴音が近づいたことで、ようやく音石が仮面の男に気付いた。

 

「ああん、なんのつもりだ! っていうかてめーは誰なんだ! 承太郎の後に殺してやるからしばらく端の方で震えてまっ」

 

「どけよ、僕はそこの下衆に用があるんだ。邪魔するならその長い髪引っこ抜いて、電球にするぞ!」

 

 音石の発言を遮る形で仮面が罵倒をする。

 

「おいおい、ガキども俺を無視するなんて どうやら教育が必要なみたいだな」

 

 ポケットに突っ込んだ手をだし、承太郎も足を踏み出す。

 承太郎に音石、そして仮面の少年、三人が睨み合い廊下の真ん中で対峙する。

 仮面はもう一度忠告した、そこを退けと、『二人』に向かって。

 

 瞬間、空気が弾ける音が響き、承太郎と音石の顔が大きく動く。

 リンディには感知出来なかったが、仮面の少年の攻撃だったのだろう、二人は血の混じった唾を吐き、顔を上げる。

 

「ああーやべぇ、あいつ、キレちまってる。家族のこと持ち出されちゃしょうがねえか。おい、姉ちゃん、ほっとけないから俺もいくわ、危ないから早く避難しろよ」

 

 リンディの横で彼女を拘束していた少年は、そういうとのんびりした足取りで彼らの方に歩いて行った。

 拘束を解かれた彼女はこのままでは彼らを止める力が足りないと、応援を呼び合流するために、廊下を走る。

 アースラの艦長であり魔導師でもありながら、何もできなかった己の無力さを嘆いて。

 

 

   ●

 

 片桐安十郎、通称アンジェロ、犯罪者であり死刑囚である彼が海鳴を訪れたのは復讐のためだった。

 何の恨みがあるのかは知らないが、彼を刑務所なんかに送ってくれた警察官と喫茶店のマスターに。

 神は見ていてくれたのだろう、世の中の理不尽をそれ故に、死刑台から彼を救い出し、復讐するための力まで授けてくれた。

 だが、とんとん拍子には事は進まなかった。

 海鳴に入ってすぐに承太郎に捕捉され、仲間の一人は倒されてしまう。

 これはやばいと人質でもとろうかと、エンヤと近くの公園に入る。

 目の錯覚か景色が歪んだと思ったらすぐ近くに、誘拐の機会をうかがっていた高町の娘がいた。

 アンジェロは己がスタンド『アクアネックレス』を水と同化させ、彼女の呼吸を奪い拘束した。

 同じようにその横で戸惑っている金髪の少女もたやすく眠りに落ちる。

 その瞬間景色が光に包まれ建物の中に移動する。

 

 そして、今、眼前では三体のスタンドが激しい殴り合いをしている。

 承太郎、音石、仮面の少年、彼らはの競り合いは水と同化し、奇襲をかけることしかできない非力なアンジェロでは巻き込まれるとひとたまりもない。

 三人の実力は拮抗している。

 だが、場を支配しているのは仮面の少年だった。

 スタンドのパワーにおいては彼の物が一番ではあるがそれが理由ではない。

 彼だけが桁違いの気迫を放ち、防御よりも攻撃に重点を置いている、いや、捨身とも言える状態で拳をたたきこむ。

 その大振りの一撃を躱すために、他の二人の攻撃に精彩が無くなる。

 傷ついているのは明らかに仮面の少年なのだが、冷や汗をかいているのは承太郎と音石だ。

 そろそろ逃げる算段でもつけなければと、アンジェロは自分の目の前にある細い少女の首筋を握る。

 だめだ、今ここで殺しても意味がない。

 憎き高町士郎の眼前で笑いながら首をへし折ってやるのだ。

 仮面の大砲が決まり音石がこちらに吹っ飛ぶ。

 

「はぁはぁ、よくもやってくれたな! 少々甘く見てたぜ、だがお遊びはおしまいだ。おい、ガキ、起きやがれ! さっき公園でやったように雷を起こせ、早くしろ!」

 

 音石は金髪の少女顎を掴み揺さぶる。

 

「お前、フェイトから離れろ―! ぐはっ」

 

 目を覚ました女が殴りかかるが音石の電気を操るスタンドに蹴り飛ばされる。

 音石は自身の足で倒れた女をさらに踏みにじった。

 

「ああっ、やめて。言われたとおりにするから、お願い、アルフに酷いことしないで」

 意識が戻った少女は音石に懇願する。

 顎を掴む力を強めると、少女の杖から閃光が放たれた。

 その光のすべてが音石のスタンドの中に消える。

 瞬間、切れかけの電灯が、最新式のそれ以上の光を放つようにスタンドが発光する。

 

「くくく、もうこれでお前らはオレに指一本触れることすらできない。オレのスタンドはパワーでもスピードでもお前らを上回った。遊んでないで全力で殺してやる。オレは反省すると強いぜ……」

 

 ニトロをぶち込んだマシンのごとき打撃が承太郎を廊下の反対側まで吹き飛ばす。

 まるで反応できてない。

 アンジェロの顔に笑みが浮かぶ。

 さあ、早くさっきから俺を睨んでいたそいつをぶち殺してくれ、アンジェロは内心ビビッていたことを認めないためにも仮面の少年がぶちのめされるのを切望する。

 承太郎以下のスピードしか持たない彼が音石の攻撃を防ぐことは出来ず先程のフィルムの焼き直しとなり、ふっとばされる。

 

「ハハハ、さあ、すぐにとどめを刺してやる、この後にも殺しの予約でいっぱいなんだよ、そろそろ終わりにしよう」

 

 音石の哄笑が廊下に響いた。

 

「いてて、やべえな、承太郎さん、気絶してるし。はぁ、ったく、熱くなるもんじゃないな。そろそろ終わりにしようか、億泰!」

 

「あいよ、じゃあこれで王手の一つまえ、ザ・ハンド!」

 

 今まで気づかなったが、もう一人の仮面がふっとばされた仮面のちょうど反対側の廊下に歩いてきた。

 彼のスタンドの右腕が地面を抉るとすっぽりその部分が消滅する。

 同時に音石に捕まっていた少女が瞬間移動も同然の速さで彼のもとに飛んできた。

 

「なんだ、そのガキを取り上げたからと言ってオレのスタンドに勝つことは出来ないぞ、恐怖でそんなことも分らなくなったのか」

 

 訝しげに仮面たちの顔を見回す。

 

「ああ、わりぃ、狙いがずれた。今度はこっちを狙うことにするわ!」

 

 再度、空間が削られる。

 ただし、今度瞬間移動したのは、音石の『スタンド』だった。

 ますます、困惑する音石。

 

「なんだ、お前から殺してほしいのか、じゃあリクエストにお応えしようか」

 

「おい、間抜け、遠隔スタンドの弱点に気付いてないくせに、態度がでかいんじゃねえか。まあ、いいか、そうだな、仗助、この間抜けをぼこぼこにするのに何秒かかる? 三秒、そいつはナイスだ。間抜け、さあ、三秒間俺をぼこっていいぞ、遠慮するな。俺は仗助にぼろ雑巾にされたお前をゆっくりズタボロにするからよ!」

 

 その言葉にようやく音石は自分の失態に気付く。

 本体とスタンドを離し過ぎた。

 そのために無防備な体を仗助にさらしてしまったのだ。

 音石に向かってくる仗助とそのスタンドに慌てて、自分のスタンドを戻す。

 大丈夫だ、雷で強化されたスタンドならまだ間に合う。

 事実、彼のスタンドの速度は速い。

 一撃位もらうのは仕方ないが、どうにかなる。

 

「だから、遠慮するなよ、俺を殴っていけばいいだろう。つれねぇな、くそ野郎」

 

 ガオンという音が響くと、猛スピードで本体に向かった筈のスタンドはスタート地点に戻される。

 

「き、貴様等、よくも、よくも―プギャァァァアアアアアアア」

 

「てめーは地獄に落ちろ、ドラ、ドラララララララララァ!!」

 

 音石の体が壁をぶち抜き、部屋の中に吹っ飛ぶ。

 音石の血しぶきを伴い、高らかな勝利の叫びが木霊する、彼のスタンドが咆哮を上げた。

 

 

 

ーーー音石明 スタンド名 レッド・ホット・チリペッパー 再起不能

 

 

 

  

 

  ●

 

 アンジェロはなのはとフェイト抱え走っていた。

 一刻も早くあの二人から逃れるために。

 あそこから音石が負けるとは予想できなかったため、まだ距離が離せてない。

 出口を探すも、それらしいものが見当たらず、彼の焦燥が増す。

 復讐のために、そしてばらして遊ぶために連れてきた少女たちが足かせになる。

 我慢すればよかったのだが、この嗜好を我慢できるならもともと犯罪者にはなってない。

 

「ぐはっ」

 

 背中にドロップキックをもらい倒れるアンジェロ。

 曲がり角のさきは行き止まりだった。

 最初から気づいていた、彼らの狙いは音石ではなく自分なのだと。

 戦闘中も二人の視線が長い時間アンジェロから外されることはなかった。

 

「おい、何逃げてるんだ、アンジェロ。僕らの用がまだ終わってないんだよ」

 

 仮面を外した幼さと悪意が混在する顔、ここになってようやく気付く、こいつは東方仗助、アンジェロが調査していた東方良平の孫だ。

 そうか、東方の孫なのか、なら付け入る隙がある。

 アンジェロは落ち着きを取り戻し、慎重に言葉を選ぶ。

 

「なぁ、俺を一体どうするつもりだ、どうせ大したことは出来ないんだろう。そうだ、今見逃してくれれば、もう東方には関わらない、約束するぜ。もしこれ以上やるなら、お前らの家族をどんな手を使ってでも不幸にしてやる! お前らが俺を殺せない以上これが落とし所じゃないか」

 

 アンジェロは考えた、警察官である良平の孫である仗助に殺しは出来ない。

 しかし、彼らの力が自分を圧倒しているのも確かな事実だ。

 ならば、今は口八丁手八丁で逃げ切り体勢を整え、この借りもまとめて返すべきだと。

 なに、あの正義感の強い良平の孫だ、無抵抗ならそこまでひどいことはしないだろう。

 そうあたりを付けて、笑うアンジェロの顔が歪む。

 仗助の一撃がアンジェロの左手の指を五本すべてへし折ったからだ。

 

「ああぁ、何をするんだ、お前ら俺みたいな屑を殺しても、刑務所に入ることになるんだぞ、わかっているんか!」

 

 仗助は笑顔でうなずく。

 

「うん、僕だってそれはなるべく御免だ。でも、怒りが収まらないんだ。だからお前を全力で殴る、僕のためにも死ぬなよ、アンジェロ」

 

 仗助が足を踏み出す。

 アンジェロはスタンドにではなく、この少年の気性に恐怖を抱く。

 だめだ、話が通じない、早く何とかしないと。

 

「見ろ、そこの高町の娘の口を! オレのスタンドを張り付けた、お前らが何かすればこいつらを殺すぞ、指一本動かす、ぐうぇぇぇ!」

 

 アンジェロの右手の指がすべて逆方向に曲がっている。

 

「アンジェロ、人質を取られたら仕方ないな、正当防衛ってやつか、その子を救うためにお前を殺すしかなくなったじゃないか、僕を喜ばすなよ!」

 

 アンジェロの全身から脂汗が噴き出す。

 

「わ、わ、わかった、もうこいつには手を出さない、だ、だ、だから命だけは助けて」

 

 仗助の笑顔は先程から一ミリも変化がない。

 アンジェロの頭を掴み目線を合わせる。

 

「そうか、じゃあ、お前の気がまた変わって、この娘を殺したくなる前に、アンジェロ、お前を殺そう」

 

 何を言っているんだ、アンジェロには理解が及ばない。

 アンジェロは億泰にすがりつく。

 

「あん、こいつが人殺しになってもいいのかって、そりゃ駄目だわ。だから俺がお前の死体をしっかりこの右手で削り取って消してやるから安心しろ。なに、親友に決まってるだろう、なら、こいつが殺し損ねたら、俺が殺してやるのが友情だろう?」

 

 こいつも理解できない、いや違う、アンジェロは理解した。

 こういう人間を見たことがある、正確にはこの状態の人間を知っているのだ。

 キレている、冷静に話が出来ていたので気付かなかったが、話の通じなさでわかった。

 最初から彼らはキレていたのだ、ならば自分は殺される、だが、一人で死んでなるか。

 アクアネックレスになのはの首を掻っ切るように指令を出す、が一足遅く、仗助のクレイジーDが意識ごとアンジェロを壁に叩き付けた。

 意識が失われる中アンジェロは体が壁と同化していく恐怖を味わう。

 ……ああ、こんなことなら復讐なんてするんじゃなかった。

 

ーーー片桐安十郎 スタンド名 アクアネックレス  再起不能

 

 備考 アースラ船内において一部の壁が『アギ……』としゃべるなどの苦情が艦長に殺到、本部に戻り次第、壁の交換作業がされることに決定。

 

 

 

   ●

 

 高町なのははまどろみの中にあった。

 フェイトとの決闘のあとからこの状態が続いている、夢でも見ているのだろうか。

 

「おい、仗助誰か来たぞ、仮面をつけろ」

 

 決闘には勝てたのだろうか、彼女とちゃんと話がしたい。

 

「フェイトは無事なのかい! そうか、あんたたちが助けてくれたんだね、礼を言うよ。えっ、出口かい。いや、転移するしかないけど、転移が分からないって、どうやってここに入ったんだい。まあ、いいか、アタシが送ってやるよ。ところであいつも仲間なのかい? その白い奴じゃなくて、廊下の先からすごい形相で走ってくる帽子の男。違う、急げって? 大丈夫だよ、アイツが来る前に転移は終わるって、うわっ、いつのまにか目の前に! ああもう、跳ぶよ!」

 

 光に包まれるのを感じる、まだ夢の中らしい、早くあの子に会いたいな、次は絶対仲良くなってみせる、彼女の存在がすぐ隣に感じられ、それがなのはに、願いが成就することを確信させ、彼女にいい夢をみせたのだった。

 

   ●

 

「っと、ここでいいのかい? 早く離れておくれよ」

 

 そういった彼女の腰に手を回していた僕と億泰。

 本当に離しても大丈夫なのだろうか、シッカリ地面に足がついていることを確認してから恐る恐る、手を離す。

 光に中から飛び出すと目の前にあったのは青い空だった。

 どんな原理かはわからない、しかし僕らは確かに空を飛んでいた。

 あっけにとられる中、一番に僕が気を取り戻し、承太郎さんを海にたたきおとす。

 意外なほど簡単に彼は落ちて行った、彼も動揺していたのかもしれない。

 大波乱な一日だった、そういえば、彼女とは何かと縁があるらしい。

 犬耳のお姉さんを見る。

 

「じゃぁ、この借りは必ず返すからね、フェイト起きて、行くよ。ああ、ところで、イヌ科の生き物は嗅覚が鋭いのが有名だけど、知ってたかい? そう、匂いだけで、誰なのか判断できるくらいに。またね!」

 

 そういってお姉さんと女の子は飛んで行った。

 最後の話は何か意味があったのだろうか。

 時計を見るとかなりの時間が過ぎていた。

 早く帰らないといけない、がこの女の子はどうしたものか。

 億泰が公園の前の団地のごみ箱を漁っている。

 

「仗助、これで問題ないだろう、後は警察に公衆電話から一報いれておけばいい」

 

 確かにこれなら、親御さんも無駄な心配はしないだろう。

 犯罪者に誘拐されかけたなんて知ったら、倒れてしまうに違いない。

 

「ところで仗助このガキ見おぼえないか?」

 

 億泰が首を傾ける。

 

「美由希さんとこの妹さんだろう、苗字が一緒だし、妹がいるって言ってたからな」

 

 僕の言葉に納得する。

 彼女の手に缶を握らせて準備完了。

 缶の中に残っている液体を唇に垂らしておいた。

 お腹がすいた、早く家に帰ろう。

 

   ●

 後日談、

 高町一家が警察からの一報を受け、現場に急ぐ。

 アンジェロのこともあり、みな末娘のことを心配していた。

 だからこそ信じたくはなかった。

 警察からの『お宅の娘さんが飲酒して、公園のベンチで酔いつぶれているのを発見した』とのことに。

 現場に着いてみれば、缶チューハイを片手に幸せそうに夢を見る娘の姿があった。

 衣服の乱れはなく、そういった心配はないのだが、小学生の分際でこれはさすがにない。

 自宅で目を覚ましたなのはは長くきつい説教を受けることになり、言い訳をしようにも魔法のことは話せない。

 彼女は初めて大人たちがたびたびぶち当たる理不尽というものを知った。

 




これで無印のクライマックスです。感想ご指摘お待ちしてます。もう一作もしこしこ書いてます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。