ボクは仗助、 君、億泰   作:ふらんすぱん

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ボクは仗助   君は億泰

 二歳の誕生日 人と違うことに気づいた

 

 一ヶ月経って、母が母でないことに気づいて、彼が彼でないことを知った。

 二ヶ月経って、少年は自身を誤魔化し、家族に秘密を持った。

 再び生を受けたことを神様に感謝はできなかった。

 

 少年の名前は東方仗助。子供の身体と、大人の心を持つ、 前世があるアンバランスな幼児である。

 

 生まれ変わりと言うものが本当にあるとは知らなかったし、知りたくなかった。

 前世であっているのかわからないが少年は普通の男子高校生だったと思う。

 死んだ理由どころか自分の名前も思い出せない。

 少年の秘密は、母や祖父との間に距離を感じさせていた。

 それは当然のこと。少年は祖父と母から最愛の息子と孫を奪っているのだ。

 

 三歳の誕生日ついに耐え切れなくなって少年は自殺を決意する。

 少年は自身の罪の大きさから、苦しんで死ぬ事を選んだ。

 悩み考えだした答え。

 それは少年の罪を精算するにふさわしい死に様。

 少年が選んだのは、餓死であった。

 覚悟決めた少年はその日の夕食から一切口に入れないことを誓った。

 

 ――夕食、ピーマンを残すなと、母にこっぴどく叱られた。

 必死に口を閉ざす、決意の息子に、母はフォークで口元にピーマンを押し付ける。

 激しい攻防の末、母の愛は尻を叩く積極的なものになり、少年の苦手な野菜が一つ減った。

 

 こうして第一回目の自殺は失敗に終わった。

 少年の意思はダイヤモンドより脆かった

 

 ●

 仗助は一人公園のトイレの隅で泣いていた。

 昨日の自分の無様な姿の所為だ。

 身体だけ見れば、たしかに仗助はまだ子供だ。

 しかしその精神は大人である。と本人は思っている。

 ――昨日までは。

 未だ癒えない傷の痛みに仗助の心はささくれだっていくのは仕方がない。

 尻の痛みのせいで、ベンチに座ることさえできないのだ。

 仗助が叱られる時は必ず、説教と臀部の打撃。

 母は息子の青い尻に何か恨みでもあるのだろうか。

 

 時刻は午後二時、公園に数人の子供たちが遊ぶ姿が見られる。

 仗助は混じって遊ぶ気にはなれず、辺りをぼんやりと見回す。

 そして、一人、皆の輪からはずれた目つきの悪い子供に気付いた。

 年は仗助と同じ三、四歳といったところだろうか。

 仗助も、他人のことは言えないが、親も連れず公園に遊びに来ていい年ではない。

 勘違いでなければ、悪意を持って仗助を睨みつけているように見える。

 ――親はどんな躾をしているのだろうかと、嘆きながら、仗助は負けじと睨み返した。

 子供は仗助に小走りで近寄ってくる。

 

「たく、その年でメンチきるなんざ、親はどんな躾してんだ。 俺様が礼儀を教えてやるよ」

 

 ――そして、とんでもない言いがかりをつけてきた。

 

 仗助は他所の家の教育方針を蔑む性根に呆れてしまう。

 自分が先ほど思ったことは置いておいて。

 

「へっ、びびって声もでねぇの ぐべ!」

   

 

 ――言葉の途中、油断している子供に、気持よく仗助のストレートが決まった。。 

 殴ってから悩む。

 ――この半笑いで鼻血をだしてるゴミをどうしたものかと。

 

 ●

 

 

「大抵のことは誠意を持って話し合えば何とかなると思うんだ」

「わざわざ俺を、ゴミ捨て場に突っ込んだやつの台詞じゃねぇな」

 

 ゴミ捨て場に移動させた後、そこらに沢山あるゴミ袋で周りを囲ったため、子供からは据えた臭がする。

 

 鼻を抓みながら、言い訳をした仗助に、怒り心頭といった顔で子供は鼻息を鳴らす。

 仗助は彼の怒声を右から左に流し、血管が浮いて愉快な顔になっているなと感想を浮かべていた。

 一通り、怒りを吐き出した後、彼は仗助の顔を確認するようにじっと見つめてきた。

 

「――お前の顔どっかでみたことがあるんだよな、うーん。」

 

 

 古いナンパの手口だろうか。

 血迷っているのならば、もう一度殴ったほうがいいのだろうかと、仗助は思案する。

 仗助が筋違いの暴力をふるう前に、なにか思いついたのだろうか、子供は公園の前の店に走っていく。

    

 

「なあ、お前って東方仗助じゃねえか!うわ信じられねえ、なんでジョジョの奇妙な冒険の主人公がここにいるんだ?」

 

 それ聞いたとき仗助は衝撃を受け、前世で読んだ漫画の主人公と全く同じ、自分の事に思い至った。

 

 ――だが、それはそれとして、このギョロ目の子供は買ってきたフランスパンを仗助の頭に乗っけたのだろう。

 

 

 億泰との衝撃の出会いから二年がたった。

 億泰は、仗助に、とても大きい悪影響と、家族に対する適当な接し方を教えてくれた。

 

「たしかに俺らには前世の記憶って言うものがあるよ。だからといってお袋の股から産まれたのも確かだし、血だって繋がってる。何でこれで他人だなんて思えるんだ?」

 

 この言葉に納得したという訳でもなかったが、億泰とその母親を二年も観察していると、二人の間にある絆が感じられ、ならば同じ境遇の仗助もそれを信じていいような気がしていく。

 改善していく仗助の親子関係。

 もっとも、仗助が一方的に、壁を作っていただけで、母と祖父は気にも留めていなかった。

 仗助は、家族の絆を間接的に与えてくれた友人を見上げる。

 

「仗助ぇー、うぷっ 吐きそうだ おろしてくれよー」

 

 庭から生えた立派な木に吊るされてる億泰。

 これも絆の一つなんだろう。

 仗助は、億泰の母の独特な愛情表現に感心していた。

 

「なに、うんうん頷いてるんだよ、おろせよー」

 

「仗助ちゃん、お庭をはいてくれてありがとう。集めた落ち葉で焼き芋しましょうか」

 

 億泰の母親は、長い黒髪にパッチリした目、年相応に見えるが、どこか言動が子供じみた優しい人だった。

 

「お袋ー、俺も食べてーよー。て何で落ち葉を俺の真下に持ってくる!! 悪かったうちの母ちゃんにダイエットなんて必要ないです!」

 

 億泰の母は吊るされている息子の謝罪が聴こえないかのように振る舞い、笑う。

 仗助は、彼女の言動に愛があることを知っているので、あえて何も言わない。

 

「仗助、何でさっきから目をそらすんだよ。アチ、あちち お袋髪が燃えてねえか!!」

 

 煙攻めにされて、必死に懺悔する億泰。

 億泰の母親の愛情は、仗助の母の尻ビンタと同じくらいに恐ろしかった。

 

 この頃までには、少年達は自分たちが暮らす世界と、ジョジョの奇妙な冒険の相似と相違について話し合い、互いにわずかにしか物語を覚えてないことを知った。

 覚えていたのはスタンドという超能力者、その中でも強力で印象に残っていた物や、物語の大まかな流れのみ。

 そして物語の中の地名と、仗助達が暮らす地名が異なっていることから、まったく関係ない世界なのかもしれないという推論まででた。

 海鳴と言う場所、物語とは違い生きている億泰の母と、二人とは別居している父と兄。

 関係ないならそれで話が終わるのだが、ひとつ絶対に確認しなければいけないことがある。

 ――それは物語の敵役、ディオ・ブランドーの存在だ。

 その存在を確信させる事件がこの後に起こる。

 それは仗助達が小学校に入学する前の事だった。

 

 ●

 

 それは、健康がとりえの仗助が三日三晩高熱にうなされて、億泰が見舞いに来たその日の晩のことだ。

 仗助の携帯の電子音が響く。

 

「俺の部屋にコスプレして顔をマスクで覆った男がいる」

 

 億泰の切羽詰まった救難要請。

 

「それがどうした、僕の部屋には、スーパーマッチョでハートをあしらった鎧を着た大男がいる!」

 

 助けを求められた仗助も涙声で叫ぶ。

 

「おい、どうすりゃいいんだ? 助けてくれよ!」

 

 仗助だって助けて欲しい。

 怪しさ満点のマッチョマンの侵入を許した防犯のザルさを嘆く。

 大人であってもどうすればいいのか迷ってしまう状況で、子供にしては気丈な胆力を引き絞って指示を出す。

 億泰に、相手が誰で何をしたいのか 交渉し聞き出せと命令する。

 億泰は何も反応がないと、仗助に次の指示を要求してきた。

 仗助の方の大男も筋肉を震わせる以外は彫像のようにじっと動かない。

 ――それでもなにか目的があるはずだ。

 目的もなく幼児の部屋に仮装した大男が立っているだけなんて、怖すぎる。

 ――何か手がかりはないのか。

 よく観察するよう億泰に指示を出し、仗助も大男に視線を合わせた。

 

「仗助! 服だ、このマッチョ野郎、服に$¥マークが書いてある、そうか、こんだけ全身で主張しているってことは、この野郎の目的は金だな」

 

 電話口から何か物が割れる音が響く。

 

「おう、貯金箱を投げつけたら消えたぞ そっちはどうだ?」

 

 億泰の助言に、あらためて男の全身をみる。

 はちきれんばかりの筋肉をハートの鎧で覆っている。

 \$マークから連想されるのが現金なら、ハートマークは愛。

 つまり状況から察するに、この大男は、ホモでショタ野郎で目的は仗助の瑞々しい肉体なのだろう。

 

「よし、仗助も、そいつが望むもの投げつけてやれ! そうしたらいなくなるぞ! おい、聞いているのか! おい、仗助?」

 

 ――焚き火の中に身を投げ、神に捧げた兎の御伽話を思い出した。

 

 その後の結末に考えが及び、その場で仗助は思考を手放す。

 自分の身を守るように布団にくるまって失神した。

 

 ●

 

 

 翌朝、仗助は気が付いてすぐ、服が脱がされた痕跡がないか調べ、安堵する。

 それから一週間、億泰が

 

「思い出したんだけど、あれってスタンド能力じゃねぇか?」

 

と言い出すまで仗助が母の寝床に潜り込みガタガタ震えていたのは家族だけの秘密だ。

 


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