ボクは仗助、 君、億泰   作:ふらんすぱん

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正義って? (呪いのデーボ登場)

「クレイジー・D!」

 

 実像を持った精神の塊、魂の具現であるスタンド。

 そのスタンドが持つ個々の能力。

 仗助のスタンドの”治す”と"治した部位が固定されたほうに高速移動する”力によって半分に砕けたピアスが飛んでいく。

 向かう先は、飛行機の中で出発を待っているジョセフ老人のポッケの中に忍ばせた片割れのもとへ。

 ピアスには、仗助達が知りうるディオや部下のスタンド能力、ザ・ワールドに唯一対抗できる可能性が空条承太郎にあることを記した紙を結んで。

 誘拐事件の時、再度顔を合わせたこの二人がジョセフと承太郎であることに気づいたのは億泰だった。最初はでたらめな道案内のお礼に来たのかと思い仗助は顔を青くしたが、そうではなく、偶然誘拐計画のことに気づいて助けに来たとのこと。

 拉致されたあの部屋でも気づいたのだが、やはりこの事件の裏に、ディオが関わっているだろうと嫌な確信をする。

 少年たちの背筋が寒くなる。

 己達のスタンドのことが二人にばれて、戦いに巻き込まれたら只じゃすまない。

 そう思った少年たちは、全力で無力な子供を装った。

 

「オラ、夕ご飯はサンドイッチが食べたいど、ぐへ ぐへへ ししし」

 

 ――そのあまりの無邪気さにか、老人とその孫はしばらく言葉も出ないようだった。

 

「――うむ、ああ、これも何かの縁じゃ。不信な物や人を見かけたらこの番号にかけるといい。わしの知り合いが守ってくれるよう手配しておこう」

 

 そして、少年たちにSPW財団と記された名刺をよこした。

 明日の十二時の飛行機で空港から発つことを告げられ、警察署の前で別れる。

 老人は最後まで自分が仗助の父親であることを言わなかった。

 少年は特に感慨を持つことはない。

 それよりも目の前に迫りつつある吸血鬼ディオの存在に危機を抱いた少年達はは、その物語の主役であるジョセフ一行が必ず奴を葬ってくれるようサポートすることを決心する。

 ――しかし、直接ディオや部下の能力を伝えたら、なぜそんなことを知っているのかと疑問を持たれる。

 そして、否が応でも血なまぐさい戦いに巻き込まれていく。

 そういった面倒事を一切拒否するつもりな、二人なので匿名で行えるこの方法をとった。

 苦労らしい苦労は、別れ際に、ピアスを忍ばせることくらい。

 時刻は十二時、空港の入り口で、仗助たちにとって都合の良い戦士たちの未来がよきものであることを勝手に願った。

 

「おい、聞いたか 飛行機が故障で飛ばないらしいぞ。いや本当かどうかわからないが、紙切れが窓ガラスぶち破ったらしい」

 

「はぁ、そんなことあるわけないだろ、何言ってんだ!」

 

 原因に何ら心当たりがない二人は、急ぎ足で空港を後にした。

 

 そして空港のからの帰り、億泰が放った一言。

 

 これが、今回の事件の始まりになる。

 

 

「そういや言うの忘れてた。誘拐犯の奴らが言ってたんだけどよ。海鳴に住んでるらしいぜ」

 

「なにが?」

 

「ディオの手下」

 

 

 

   ● 

 

 

 

 時刻は深夜二時。

 あの後、なんで飛行機が出る前に思い出さないんだとか、そもそも忘れること自体があり得ないと億泰に説教を垂れる。

 

「次から、気を付けろよ」

 

「お前もな」

 

「反省しろよ」

 

「お前がしたらな」

 

 取っ組み合い疲れ果てて、ようやく二人は己の安全のために行動を始める。

 

 まず初めに、専門家に頼るべきだと、名刺を使い、SPW財団に電話をかけたのだが。

 

「だめだ、仗助、でやがらねぇ」

 

 昨夜かけた、たかだか二・三十回のいたずら電話。

 その程度で職務を放棄する社員達に、この会社の未来が暗いものであると子供心に嘆く。

 結局いざ問うときに頼れるのは己のみ。

 誘拐犯から盗み聴いた名と、表札を確かめる。

 二人は変装して吸血鬼の潜む屋敷への潜入を試みた。

 もちろん正義のためではなく、少年特有の好奇心と冒険心。

 

「億泰、まずは現金だ。宝石とかは換金ルートを持たない僕らじゃどうにもならん!」

 

「仗助、お前頭いいな。確かに悪人は警察に届け出がだせないし、ディオの組織は金もってそうだからな」

 

 ――そして己の懐を満たすために。

 取り放題だなと喜ぶ億泰。

 二人は、屋敷の壁に、無断で穴を作り侵入した。

 

 そして行きがけの駄賃であって、本来の目的は敵の戦力の分析にある。

 と自分に言い聞かせるふりをし、しっかりと目を皿にして金庫でもないかと物色を始める。

 何が二人をこうさせるのかというと――誘拐犯の財布がしけていた事とと因果関係があるように思える。

 

 他人様の屋敷での冒険中、誰にも会わず、順調に事が進んでいたのだが、仗助達は、はついに敵と遭遇する。

 

 

    ●

 複数のモニタに囲まれた屋敷中央の部屋。

 仗助達の同級生、月村すずかによく似た、髪の長い大人の女性がそれを真剣に操っている。

 少女の姉、月村忍は緊張した面持ちで爪を噛んでいる。

 現在月村の屋敷には厳戒態勢が敷かれていた。

 気になる彼と今日は、いっぱいお話しできたなぁ、なんて自室のベッドで忍が悶えていた時に事は起こった。

 屋敷のメイドであるノエルから、庭のセンサーが反応を示したという報告があがる。

 忍ははすぐに妹を起こし、ノエルを庭に向かわせる。

 一般人にしてはやや迅速な対応。

 屋敷の奥の頑丈な扉の中、月村姉妹は報告を待っていた。

 

「おねぇちゃん、ノエル大丈夫だよね?」

 

 瞳を潤ませる妹。

 

 無理もない、この少女はほんの数日前にも誘拐にあっているのだ。

 

「もう、ノエルが負けるはずないでしょう」

 

 忍は元気づけるため、明るい声でかえす。

 

 だからと言って行った内容が間違っているわけではない。

 

 一見、只の女性にしかみえないノエルだが、その実、人外を相手取る力を持った自動人形なのだ。

 月村の家系は、ちょっと特殊な事情があり外に敵も多い。

 だがそのすべてから彼女は姉妹を物理的に守ってくれていた。

 だからたった今、何も不安に思うことはないのだ。

 

「おねぇちゃん、ドアの向こうに誰かいる」

 

 外の気配に悟られぬよう小さくなった妹の声。

 そんなはずはない。 

 屋敷の扉や窓のセンサーは反応していない。

 だが、すずかだけではなく、忍にも扉の外の気配が感じられた。

 

「おねぇちゃん、どうしよう」

 

「すずかはここにいて、大丈夫すぐに戻ってくるから」

  

 中に入られては、すずかを守ることはできない。

 そう判断し、忍は妹の握る手を放しドアを開け廊下に飛び出した。

 そして後ろ手に扉を閉じる。

 

――そこにいたのは二人の不気味な人形の仮面をつけた子供だった。

 敵なのか、そうではないのか。

 表面上、余裕を持った態度で招かれざる客人に対する。

 

「あなた達こんな夜遅くに、当家に何の御用かしら」

 

 顔にいくつものイボがついた醜悪な仮面だった。

 成人女性と、子供が二人。

 本来ならば恐れるものは何一つないはずだった。

 それでも深夜の広い屋敷の廊下で、脈絡もなく出会うには結構、きつい存在である。

 訳のわからないものに対する恐れを隠し、忍は二人に問いかける。

 心中、ずっとノエルに助けを求めながら。

 

 ●

 

 

「――俺様は呪いのデーボ。ディオ様に任務の報告をするため、ここに立ち寄っただけだ」

 

 ふむ、よくわからない。

 とりあえず日本語が通じることがわかったので、忍は会話を続ける。

 そして得た情報をつなぎ合わせていく。

 ある程度話を把握した忍は一番の疑問を突きつける。

 

 

「ええっと、つまり、ディオって誰なのかしら?」

 

 

 息を切らせるという事はできないが、それでもノエルは急いで来てくれたのだろう。

 

 

「忍お嬢様、申し訳ありません。遅くなりました。 お怪我は?」

 

 

「大丈夫、私もすずかも問題ないわ。でも」

 

 

 ノエルを労い、彼女が到着するまで目の前で罵り合っている侵入者に忍は呆れた視線を向ける。

 仮面にひびが入るほど、頭をぶつけ合っているふたり。

 先ほどまでの不気味さはなく、小気味良く響く仮面の音、どこかコミカルな動きもあって笑えるくらいだ。

 

「で、いいかげん説明してもらえるかしら、不法侵入のお二人さん!」

 

 この侵入者が全くの勘違いで月村家に乗り込んできたというのがそろそろ理解できてきた。

 精一杯の笑顔な忍に、二人が一メートルほど後方に下がる。

――なぜだろう、とても失礼に感じる。

 二人は微笑む忍の顔面を指差し何か相談していた。

 

「――、お、お前等は、本当にディオ様の事を知らんのか。今から外の仲間に確認してくるが、嘘ならば――殺す!」

 

 内容の割に、迫力のない声。

 忍はそろそろこの侵入者の実力を大したものではないと判断し始めていた。

 だがそれは甘い。

 その言葉と同時に、忍の体に異変が起こる。

――これは殺意なのか。

 今まで月村に敵対するものとは異質の殺気。

 忍に戦慄が走る。

 背筋に悪寒が走ることもないし、体が震えることもない。

 だがこめかみにジリジリと痛みがあると錯覚する。

 忍は思った。

 まるで、両拳で、頭を挟まれ、ぐりぐりとされているようだ。

――そう昔流行ったウメボシをされたみたいに。

 

 それだけではない。

 圧迫され息苦しくて仕方ない。

 忍は荒くなった呼吸を整えるため、口で息をする。

 鼻は使えない。

――その息苦しさは、まるで鼻の穴に二本指を突っ込まれてるかのようだ。

 だから、一歩も動けない。

――そしてファリンは主の鼻の穴が異様に膨らんでいることに首を傾げていた。

 二人が外に歩いてゆくと息苦しさがきえる。

 その場にへたり込みそうになるのを堪え、赤くなった鼻で、忍は指示を出した。

 

 

「ノエル、私も戦う。あなたも覚悟を決めておいてね。ちょっと厄介なやつみたいね」

 

 

「お嬢様、あの」

 

 

「だめよ、一人でなんて許可しないわ。ファリンにすずかと一緒に逃げるよう言って」

 

 主の言葉を遮ることなど滅多にないノエルを制し、忍は戦う意志を告げた。

 戻ってくるであろうあの不気味な子供達から、妹を守るためにノエルの横に並ぶ。

 

「お嬢様!!」

 

 主の行動に納得できないのだろうか、ノエルが声を上げた。

 

「防犯カメラとのリンクで確認しました、申し訳ありません。逃亡を許してしまいました。」

 

――肩透かしを食らった忍は、しばらく動かなかった。

 そして、馬鹿にされたのだと気づく。

 危険な気配がなくなったことに気づいた妹は、扉から顔を覗かせて、満面の笑顔の姉を不思議そうに眺めていた。

 

 

 

 


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