ボクは仗助、 君、億泰   作:ふらんすぱん

9 / 29
ジョースターの血脈(お買いもの編)

『全身が痛くてベッドから出れないよ。今日は欠席します。昨日はなのはちゃんが助けてくれたんだよね、ありがとう。ところで、僕の体の異常になにかこころあたりがないだろうか? いや、どうも虹村君につかまって以降の記憶があいまいでね』

 

 彼からのメールに『それは不思議だね』とだけ返し、なのは携帯を閉じる。

 朝のHR前の時間。

 昨日の事が気になり、朝早くに来たのに、相談するべき同じ当事者である少年は欠席。

 せめて、ユーノだけでも一緒にいてくれれば心強かったのだが、カバンに入れるところを兄に見つかり、なのはの部屋に監禁されている。

 ユーノは、クラスメイトの虹村億泰と話がしたいと言っていた。

 昨夜の出来事が、一体どういった事件だったのか。

 それを把握するためだ。

 

 だけどなのはは、遠慮したかった。

 

 億泰がクラスの異端者であること、それ自体に思うところはなく、嫌っているわけではない。

 そもそも、高町なのはという少女の性質上、他人を嫌うといったことはあまりない。

 

 だが、億泰の顔を見ると、どうしようもない寒気が、なのは頭に走るのだ。

 理由のわからない衝動に、なのは一人では動けずにいた。

 

 幸いというかなんというか、億泰は、いつも遅刻ギリギリにしか来ないので、それまでにこちらから接触をとるかどうするかを決めておきたい。

 

──顔を合わせたら、いきなり襲ってきたりしないよね?

 

 さすがにそんな事はないだろう。

 だが、あの小学生らしからぬ髪型を思い浮かべるに、可能性がないとは言えない。

 不安な内心を隠して、なのははクラスメートと笑顔でお喋りをしていた。

 

 

 

 そんな折、大きな音と共に教室の前のドアが開け放たれる。

 

 お喋りの声がなくなり皆の注目を集めたことを確認すると、ほかの男子に比べ頭二つ三つ、大きなシルエットが二つ、教壇にむかっていく。

 心の準備ができていたはずなのに、つい目をそむけてしまったのはしょうがないと思う。

 と云うか、そんなかよわいなのはを、この状況に一人きりにするなんてどういうことだろう。

 

 

 男の子であるならば、体調が悪かろうが、真は這ってでも来るべきだし、ユーノもその前歯でドアを齧って穴を開けるくらいしてほしい。

 億泰の相棒の東方仗助が窓際まで歩きクラス全体を見回している。

 

 別に彼の方を見ていたいというわけではないのだが、先ほどから、教壇の前でこちらを睨みつけてくる億泰の瞳を躱していたら自然とそちらを向いてしまった。

 

「おら! 全員こっちに注目しろ。今面白いものを見せてやるからよ。」

 そう言って彼は、懐から出した何かに、ライターで火をつけ軽く前に放り投げた。

 

 

 ──耳が痛い、火薬のはじける音が教室を覆い尽くし、煙のにおいが漂っている。

 突然の奇行。

 

 皆が呆然と、億泰を見ている。

 

 それと同じように億泰が目を丸くしてなのはを見つめていた。

 見られる心当たりはある。

 だが、見られた上で、首を傾げられる心当たりはない。

 

 億泰が、疑問符を浮かべ、なのはも首をかしげる。

 

──なにかしてしまったのだろうか?

 

 首を傾げた億泰の顎に、アリサ・バニングスの右フックが襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天高くつきだす右! そびえたつ山の如き左!

 

 全身を躍動する筋肉の叫び!

 

 そして、最後に黄金の角度を持って示す人差し指!

 

 腰回りと尻を引き締める。

 

 ≪ ワムウ!! ≫

 

 仗助のスタンドが、引き締まった体躯で、遠い遠い昔に存在した謎の生命体のポーズを決める。

 

 その完成度に、仗助は満足げだったが、感動に泣き叫び、褒めそやすこともなく、クラスメイトは億泰の方を見ていた。

 それに、若干の不満が残らないわけではない。

 だが、本来の目的は別にある。

 仗助も、名も知らぬ茶髪の小娘の方を見た。

 

──ああ、これは億泰の勘違いだな。

 彼女は、仗助の芸術に反応もせず、億泰と見つめ合っていた。

 

 つまりスタンドが見えていない。

 

 億泰は自信満々だったが、そういうこともあるだろうと、仗助は思っていた。

 

 

 なんせ、この年頃の少年少女は、男女の性による顔つきの差も少なく、皆が似たような顔をしている。

 億泰は昨夜敵対したスタンド使いが クラスメイトだと、断言していたが、茶色の髪の同年代の少女という情報だけで、特定できるものではない。

 

 だから当てが外れたことを、仗助はそれほど悔やんではいない。

 だけど億泰は、白目を剥いて落ち込んでいた。

 少し大げさすぎると、仗助はため息をつく。

 

──ついでとばかりに、アリサの左アッパーが仗助の顎を突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか、放課後になっていた。

 保健室のベッドから、職員室へ。

 爆竹の件で呼び出された億泰と合流し家路につく。 

 

 ≪なんで、新任の私のところに問題児が集まっているんですか!!≫

 

 職員室から若い女の泣き声が聞こえた。

 仗助は大変そうだと、同情する。

 

 二人は、知り合いのコンビニのお姉さんの紹介で、駅近くの骨董屋の爺に、昨日の黒いスタンドからえぐりだした石を見てもらった。

 

 だが、宝石や、まして金になる鉱石の類でもないとのこと。

 

 あまり期待はしていなかった。

 黒いスタンドは殴ろうがちぎろうが、すぐに回復したが、外側から見てもわかる光を出すこの石をえぐり出すと霧のように消えてしまった。

 後に残った石はしばらく安っぽい光を放っていたが、何回か地面に叩き付けると、玩具が壊れるように光らなくなった。

 

 それから今まで、うんともすんとも言わない。

 敵のスタンド能力と関係は薄いように思える。

 

「しかし仗助、その石は残念だったな。高く売れりゃあ、最近寂しくなった懐が暖まる所だったのによ。おい仗助、先にいくなよ!」

 

 億泰の足取りは、ふわふわしていた。

 放課後になるのに、まだまっすぐ歩けないらしい。

 担任の教師は、二人を呼び出す前に、あの金髪をどうにしたほうが良いと思う。

 冗談ではなく、傷害事件を起こしそうだ。

 

「で、その石どうするんだ?海で石切りでもするか」

 

 ──へっ! この仗助様になると、こんなゴミでも金に換えられるんだよ、億泰君。

 どうやってかって? こほん、まず、頭の悪そうなチンピラをそこらの汚い路地裏から二三匹拉致ってくるだろ。そうしたら、この宝石はとても強い力を持っていて、懐に入れておくだけで、金は入るは、女にもてる、背丈は伸びるし、痔は治るときたもんだ! と並べ立てる。

某、金のネックレス(よく雑誌の裏についてるやつ)と同じ効果だ。

 そうすると、馬鹿どもが聞きかえす、どうしてお前がつかわないんだと。

 いや、聞いてくれたか、知り合いのばかな金髪が、教師との間に身籠って、密かに堕す金がいる。だから泣く泣くこれを手放すと。

「というわけで十万でどうだ!!」

 そうすると馬鹿が、それはお見通しだといった態度で、高すぎると馬鹿笑いをする。

 そこで、いくらなら買うと聞くと、これでもかってくらいの安値を吹っかけてくる。

 ここでこちらが、常識持ってるのかと小ばかにして笑い、そんな値で売ったら、僕の家族は飢え死にすると、首を掻っ切るジェスチャー。

 なお、この時点で最初の金髪はどうなったのかとか気にしてはいけない。

 普通の人はこの時点でほかの店に行くのだが、路地裏産の馬鹿はまだ騙されていることに気づかない。

 ここから値段交渉が始まり、まあ馬鹿の少ない懐から一万でも取れりゃあ儲けもんだといったところか。

 

──と、得意げに仗助が説明するのだが。

 

 少しインテリジェンスを億泰に見せつけてしまったかと、仗助が鼻を鳴らす。

 きっと億泰が、尊敬の眼差し向けてくるだろう。

 

 それを受け止める心構えをしてから、億泰を見る。

 

「──億泰、僕の右手にあった石ころが、いつの間にか十数枚の紙幣に変わっているのはなぜかな?」

 

 億泰が指差した先には、鼻歌を歌いながら、角を曲がる、犬耳(アクセサリー?)を付けた美人がいた。

 

 

 

 

 女性のもとに駆け寄り、仗助は全力で土下座する。

 額が額だ。

 さすがに、面識のないそこいらの一般人を騙すには、金額が大きすぎる。

 事情を話し、警察には言わないでほしいとお願いする。

 

「いや、アンタ、正直だねえ。よし! そんなアンタにご褒美だ。この石、アタシが買い取ってやるよ。なに気にすることはないよ、アンタみたいな誠実な人間に出会えたんだ。今日は幸運な日だよ!」

 

 

 

 日本人ではない顔立ちに、露出の多い服装。

 海鳴の街には、少し異様に映る。

 だが、言葉も通じるし、言動も普通。

 千円札を仗助に握らせると、小走りで去っていった。

 

 騙されたのに、それを簡単に許し、お金までくれた。

 

 仗助は、あんな優しい人間がいることに感動し、騙したことを悔やんだ。

 

「なあ、あの人、話してる最中、ずっとわらいをこらえてなかったか。格好もそうだが、なんか胡散臭くなかったか?」

 

 億泰は人を信じることを覚えた方がいい。

 仗助は、人を信じる心のない友人を不憫に思った。

 あんな優しい人を疑うなんて、きっと億泰の心は腐りきっている。

 

 それに、仗助はとても賢いので騙されるはずがない。

 そう説明すると、億泰が鼻で笑った。

 その態度に、説教を垂れながら、二人は近くの喫茶店に入っていく。

 看板には『翠屋』と書かれていた。

 

 ●

 

「ただいま、満席となっております。どうぞ、お帰りください!」

 

 女子高生などで賑わっているが、座席にはすこし余裕があるように見える。

 

「店を出て五十メートル先のファストフード店などいかがでしょうか?」

 

 黒髪で三つ編みのきれいな店員さんにでてけといわれた。

 

「店員が失礼をしました。奥の席にどうぞ」

 

 背の高い整った顔の青年が女性を押しやり、二人を席に案内してくれる。

 だが、その程度の謝罪で二人が許すわけもない。

 

 

「おいおい、さっきの店員はなんだ! いくら美人だからってあの態度はないだろう」

 

「そうだぜ! 外見だけよくたって、子供にやさしくないのは最低だ」

 

 大きめの声で騒ぎ立てる。

 店員になだめられながら、奥のテーブル席へ。

 

 しばらくたつと、さっきの女性店員が水と注文を聞きにやってきた。

 

「いやぁ、さっきはごめんね。前にちょっといやなことがあってね。でも美人なのにあの態度はなかったよね。ごめんね、私、美人なのに。というか、美人でごめんね」

 

 満面の笑顔で対応され、文句を言うこともできず、黙っていることしかできなかった。

 テンションの浮き沈みが激しい人らしい。

 

≪恭ちゃ~ん! コンタクトに換えて正解だったよ~≫

 

 ケーキとコーヒーに舌鼓を打ちながら、昨夜の事を話し合う。

 だが、あの少女を見付けぬ限りできることは無いという結論しか出なかった。

 

「君たち、すずかの友達よね。相席いいかしら?」

 

 そういって、強引に相席してくる紫の長髪の女性だった。

 切れ長の瞳の整った顔立ちは、日本人以外の血を感じさせる。

「忍さん! ちょっと強引ですよ。君たちごめんね」

 

 仕方ないなぁ、といった様子でこちらも座席に座り込むショートの女性。

 少したれ目で優しそうな笑顔で、こちらは順日本人といった感じの雰囲気。

 仗助の見覚えのある、この近くの高校の制服を着ていた。

 

 こうして、この後の事件のきっかけとなる少し変わったお茶会が始まった――ところで、すずかとは、誰のことなのか、仗助は少しばかり考え、すぐに忘れた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。