Zombie Army Trilogy クロスオーバー   作:ダス・ライヒ

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死者の帝都に集う者達

 マリが白馬でベルリンへと向かっている最中、バウアー等が率いる黒騎士中隊とユート率いるシェイファー・ハウンドは、ベルリンの近くまで来ていた。

 

「ベルリンまで後900mです!」

 

 ケッテンクラートで先行していたマイタ・カドゥワン親衛隊曹長からの知らせに、ユートはキューボラから上半身を出して、双眼鏡を覗いてベルリンの惨状を確認した。

 

「酷い有様だ…まるでこの世の地獄を見ているようだ…」

 

 双眼鏡から見える街灯に酷く損壊した死体が多数吊されているのを見て、ユートは顔を真っ青にする。

 それから、先行しているマイタからベルリンから脱出する集団があるとの報告を受ける。

 

『ベルリンより脱出する集団を確認。これは、ソ連赤軍…!? T-34/85中戦車九両、IS-2重戦車三両、SU-100駆逐自走砲五両、ISU-152自走砲二両、BA-64装甲車二両、他トラック数台を確認。歩兵の数は二個中隊ほど』

 

「それほどの数が脱出してきているのか…」

 

 約一個大隊分の戦力がベルリンより脱出してきたことを知ったユートがそれを口にすれば、それを聞いていたバウアーは不吉なことを言う。

 

『もし死人共が居なくて戦場なら、俺達は今頃奴等の餌食だ』

 

「じょ、冗談は止してくださいよ…」

 

『少し不味かったか? 気を緩めようとしたんだが』

 

「あはは…」

 

 そんなバウアーの悪ふざけに、ユートは苦笑いした。

 こんな状況下なので、敵であるソ連赤軍と協力を申し出ようとユートは提案するが、バウアーを含めるカヤ達の反対に遭う。

 

『こんな状況下だ、彼らと協力できるかも知れない。直ぐに…』

 

「敵と協力する? 流石はお優しい隊長様だ、そんな脳天気なことが言えるとはな」

 

『私もカヤと同様に反対です。この惨事を引き起こしたのは総統閣下(マインフィーラー)が引き起こした物。撃たれるのがオチです』

 

『敵と協力か。しかしイワン共はそう易々と我々を信じないぞ。マイタ曹長が言うとおり、122㎜の戦車砲を撃たれるかもしれん』

 

「そ、そんな…」

 

 バウアー、カヤ、マイタからの反対に、これ以上の犠牲者を出したくないユートは少し気を落とす。

 そんな彼を更に落胆させるように、前方のソ連赤軍がマイタとアイマ・トュヨウシュ親衛隊一等兵が乗るケッテンクラートに攻撃した。

 

『キャッ! ほら言ったとおりに!!』

 

「そうだ! 奴等と協力する事態が無駄なんだ!!」

 

 近くに着弾した砲弾から身を守るために、乗っている歩兵の展開を命じてから車内へと戻ったカヤは、ユートの提案が無意味であることを口にする。しかしユートは諦めず、無線で敵でないことを告げるよう指示する。

 

『まだ間に合うはずだ! ロシア語の分かる物は直ぐに…』

 

「いや遅い! 連中はやる気だ!!」

 

 ユートの願いも虚しく、ソ連赤軍は彼らに砲弾を浴びせた。

 

『一名死亡!』

 

「クッ、やるしかないのか…!」

 

『そうだ小隊長! 奴等がやる気ならこちらもやらねばならん!! 目標、1時方向の敵装甲車、撃て!』

 

 犠牲者の知らせに、ユートはソ連赤軍と戦うしかないと悟った。

 それに賛成してか、カヤはユートを激励しながら指示を出した。カヤが乗るⅢ号突撃砲の短砲身が火を噴き、直ぐに後ろへ下がろうとする装甲車を吹き飛ばす。

 

「カヤ曹長の言うとおりだ! 奴等が先に戦端を開いた! 情けは無用だ! 目標600m、長砲身のT-34! 弾種徹甲弾、装填が終わり次第、照準して直ちに発射!!」

 

 バウアーもそれに応じて、自分等をドイツ中にいるナチゾンビと認識して襲ってきたソ連赤軍に対し、情け容赦なく自身が乗るティーガーⅡ重戦車の71口径88㎜対戦車砲が火を噴き、標的にしたソ連戦車を葬り去る。

 それに続き、クルツのシュルツの乗るパンター戦車も、手近なソ連戦車に対して主砲を浴びせ始めた。

 

「目標、12時のT-34/85、距離500m! 弾種徹甲弾!」

 

 ユートが乗るティーガーⅠ重戦車も、照準をソ連戦車に向けた。女性の装填手が徹甲弾を装填すれば、砲手がユートの定めたT-34中戦車に向けて照準を合わせる。それが終わったことを、戦車長であり、部隊長であるユートに知らせた。

 

「徹甲弾、装填完了!」

 

「照準完了!」

 

「…撃て!」

 

 報告の後に、ユートは迷いを断ち切って指示を飛ばした。それに応じ、砲手は躊躇いも無しに発射ペダルを踏み込み、目標へ向けて砲弾を撃ち込む。発射された砲弾は目標にしたソ連戦車に命中し、見事燃え盛る鉄塊に変えた。

 燃え盛る戦車から敵の戦車兵達が悲鳴を上げながら、火達磨になって飛び出してくる。

 

「ワァァァ!! 熱い! 熱い!!」

 

「助けてくれぇぇぇ!!」

 

 悲痛な彼らの悲鳴が戦場に響き渡るが、誰もが戦闘に夢中になって助けてくれなどしなかった。ある者は苦しみに耐えかねて、腰のホルスターから拳銃を引き抜き、自決を図る。他の者達は火達磨になりながら死を待つだけである。

 数も火力もバウアーやユート達よりも上なソ連赤軍である筈だが、彼らを纏める指揮官がこの惨状の所為で冷静さを欠いているためか、無茶な指示ばかりを飛ばして混乱を高めるだけであった。

 

「クソッタレが! なんで死人まみれなベルリンから折角抜け出したのに、ドイツ野郎共と戦車戦をせにゃあならんのだ!!」

 

 そんな指揮官に仕える運のない一両のT-34/85中戦車の戦車長であるシュガポフは、車内に居る戦友達に自分等だけでも逃げることを提案する。

 

「おい、操縦士! 右に突っ切れ! 俺達だけでも祖国へ帰るぞ!」

 

「でもそんな事したら、督戦隊に…」

 

「馬鹿野郎! アーアー言ってる奴等が戦車なんぞ動かせるか!! 第一なんで死人が乗ってるとかほざきやがるんだ! あの馬鹿隊長は!!」

 

 反対する操縦士に対し、シュガポフは彼を蹴って、自分の上官に対して悪態をつく。そんなシュガポフに、砲手は異論を唱えた。

 

「機関銃とか狙撃銃を持っている死人が居たぞ。もしかすれば戦車や航空機なんか…」

 

 言い終える前にシュガポフは砲手の頭に拳骨を下ろした。

 

「そこまでの知能が死人共にあったら、ヨーロッパは今頃連中の支配下だ!」

 

「おめぇ、字も読めないクセに、頭良いな」

 

 シュガポフが尤もな事を言えば、隣にいる装填手が無礼な事を言ったため、彼の顔面に向けて拳骨を食らわせた。

 

「イタタ、ナンデだよ…」

 

「一言余計だ。さっさとズラかるぞ!」

 

 装填手に拳骨を食らわせた後、シュガポフ達は自分達だけ何処へと逃げようとした。

だがそんなシュガポフ達を逃がすはずもなく、IS-2スターリン重戦車に乗る大尉は122㎜の大口径の主砲を彼が乗る戦車に向けるよう指示を出す。

 

「敵前逃亡者だ! 砲手、9時の方向の戦車に照準!」

 

「しかし、それでは貴重な徹甲弾が…」

 

 そんな戦車長に対し、砲手は砲弾を無駄に使うことを嫌ってか、異議を唱える。

 

「馬鹿者! 敵前逃亡者をみすみす逃すつもりか!?」

 

「りょ、了解しました…」

 

 異議を唱える部下に対して、上官は拳銃の銃口で無理に従わせた。トカレフ自動拳銃を向けられた砲手は、渋々とシュガポフ達が乗る戦車へ向け、大口径の長砲身の砲口を向ける。

 

「発射!」

 

照準が定まり次第、砲手は発射ペダルを踏み込み、その巨砲を呻らせる。発射された砲弾は命中とまでは行かなくとも近くに着弾し、シュガポフ達が乗る戦車を横転させた。これを受けたシュガポフ達は、直ぐに車内からの脱出を図る。

 

「き、機銃が来るぞ! 急げぇ!!」

 

 次は機銃による掃射が来るため、即刻立ち上がって逃げようとするシュガポフ達であったが、自分達を狙ったIS-2スターリン重戦車は、バウアーが乗るティーガーⅡの88㎜の餌食となり、黒煙を上げる残骸となる。他の車両も同様に、燃え盛る残骸と化しつつあった。

 

「総員下車! 行け(ロース)!!」

 

 歩兵班長であるリィア・ハイロハッシュ親衛隊上級軍曹の指示で、Sd kfz251兵員輸送車から兵員室から飛び出し、慌てふためくソ連軍の歩兵に向けて容赦無しに銃撃を加える。

 

「お、女ァ!?」

 

「何をやっている!? 反撃…」

 

 混乱する兵士達を将校が統率しようとするが、部隊の狙撃兵であるティアナ・カーディー親衛隊上等兵による狙撃で頭を撃ち抜かれる。

 

「多数の敵には、士官と下士官、古参兵から倒すべしってね!」

 

 味方側が少数の際に、大多数の敵の対処法を口にすれば、次々と将校や下士官、古参兵の頭部を狙撃していく。

 

「敵戦闘車両は既に壊滅状態だ、我々はお嬢さん方の支援に向かうぞ! 戦車前進(パンツァーフォー)!」

 

 ある程度敵の戦車の数を減らしたので、クルツはカヤと同じく歩兵狩りに転じる。

 前面や砲塔に搭載されているMG34機銃、榴弾を慌てふためくソ連兵等に撃ち込み、彼らの命を容赦なく奪っていく。敵兵の何人かは手を挙げているが、戦闘の影響で興奮状態となっている彼女等に撃たれるだけであった。

 

「い、嫌だ…! 死にたくない!!」

 

 リィアと突撃兵のアイヒ・ミヅゥ親衛隊伍長、機関銃手のリオ・シャタニ親衛隊二等兵、ティアナの奮戦により、敵は瓦解し始めた。トドメを刺すように、桂佳織(かつら・かおり)大日本帝国陸軍曹長の日本刀裁きと、葛野麻里安(かずの・まりあ)軍曹と他シェイファー・ハウンドの兵員による猛攻で、ソ連軍の大隊は壊滅状態となる。

 やがてこれ以上の抵抗は無駄と判断してか、生き残ったソ連兵達は両手を挙げ、黒騎士とシェイファー・ハウンドの前に降伏した。敵戦車を一両撃破したシュルツが、それをバウアーやユートに知らせる。

 

「一両撃破! ン? 大尉にSS上級曹長、敵さんは投降するようです」

 

『投降? よし、士官を連れてこい。ベルリンで何が起こっているのか知りたい』

 

 捕虜を得たバウアー達は、これから向かうベルリンで何が起こっているのか知るべく、ソ連赤軍の士官に対して尋問を行う。

 ユートやカヤなどのシェイファー・ハウンドの幹部クラスを除く隊員達が捕虜を見張る中、バウアー達は敵の士官にベルリンがどうなっているか問うた。

 

「よしイワン、ベルリンで一体何が起こっているんだ?」

 

「地獄だ、地獄だよ大尉。死人が蘇って生者を襲っている」

 

 バウアーからの問いに対し、知性の高い士官は視線を下に向けながら答えた。

 

「そんなことは分かってる。俺が聞いているのはベルリンで何が起こっているのかだ」

 

「ベルリンで何が起こっているのかって? 歩いている死体で溢れかえっているさ。生き残った同志が抵抗しているようだが、ベルリン中に死体を動かない死体へ戻すのは無理だろう。数の差で押し切れられて終わりだ。それに戦闘の影響で出た瓦礫で道が幾つか封鎖され、戦車が通れない狭い道が多い。戦車で行くには迂回しなければならないだろう」

 

「ベルリンは歩く死人でいっぱいな上に行動も限られるか…」

 

 士官からベルリンの情報を得たバウアーは、顎に手を添えて自分の脳内にあるベルリンの地図を思い浮かべ、自分等の戦車が通れる道を模索した。

 そんなバウアーに対し、彼等の正気を疑う士官は本当に行くのかどうかを問う。

 

「大尉、正気を疑うが、死者で溢れかえった君の首都へ行くのか? あれはただ人間でどうにかなる問題ではない。現実ではありえないことが起こりすぎている。そんな地獄を引き起こした君の総統であるヒトラーや国防軍の総司令官であるカイテルを救出に向かうのか? どうなんだ?」

 

「少佐、俺達は戦友や民間人を救出に向かうのだ。総統(フューラー)やカイテル元帥であろうとな」

 

 士官の問いに対してそうバウアーは答えれば、シェイファー・ハウンドの隊員等に捕虜達を開放するよう指示する。

 

「ユート君、捕虜達を開放したまえ。殺害することなど許さんぞ」

 

了解です(ヤヴォール)指揮官殿(ヘル・コマンダ)!」

 

 ユートはそれに応じて捕虜を解放するよう部下たちに命じるが、カヤは反対であり、直ぐに捕虜を全員銃殺刑にするようバウアーに乞う。

 

「自分は反対です国防軍大尉(ハプトマン)殿。こいつ等はいつ後ろから撃ってくるか分かりません」

 

「カヤ! 君って奴は!!」

 

 捕虜にワルサーP38の銃口を向けるカヤに対し、ユートは怒り心頭に怒鳴りつける。

 そんな彼女をバウアーは目の前に立ち、捕虜の銃殺刑が今の状況で無意味なことであることを告げる。

 

「クロイツ曹長、君のやろうとしていることは無意味で弾の無駄だ。それにイワン共をここで殺したところで今の状況が何ら変わることもない。直ぐに捕虜達を開放するんだ」

 

「チッ、了解しました…」

 

「それで良い、今は戦争している場合ではないからな。さぁ、イワン共! お前らの祖国へ帰れ!! さっさと帰らんと、銃弾をケツにぶち込むぞ!!」

 

 舌打ちしながら拳銃を腰のホルスターに戻したカヤを見て、バウアーは笑顔で彼女の行動を称賛した後、解放された捕虜達に自分達の故郷へ帰るよう怒鳴った。

 捕虜達が完全に自分達の視界へ消えれば、バウアー達は各々の車両に搭乗し、危険が待ち受けるベルリンへと向かう。

 

「死人共から出来るだけ民間人と戦友達を救うぞ! 戦車前進(パンツァー・フォー)!!」

 

 キューボラから上半身を出しながらバウアーが言えば、マイタが乗る走行偵察車を先頭にしてベルリンへと入った。

 

 

 

「シュタイナーのクソッタレ目、弾薬は履いて捨てるほどあるのに、俺達をゾンビまみれの場所に送り込みやがって」

 

「シュルツの奴もだぜ。あの野郎、知ってて俺達をこんな所へ行かせたんだ。戻ったらぶっ殺してやる」

 

 バウアー達やマリ、カールが向かっているベルリンにて、二人のドイツ軍の戦車兵が弾薬箱を背負って悪態をついていた。

 身長がやや低いほうがアッシュ上等兵と言い、大柄の方がコワルスキー伍長である。

 二人ともMP40短機関銃とスコップで武装し、原隊が居る場所へと帰っていた。周囲は瓦礫とナチゾンビに殺されたドイツ兵と市民、ソ連兵の無残な死体が転がっている。途中、アッシュは鉄十字勲章を付けたまま死んでいる国防軍の将校を見つけ、彼の遺体からその勲章を抜き取る。それを見ていたコワルスキーが咎める。

 

「おいアッシュ、幾ら死体と言ってもな」

 

「ウルセェな。ちょっとした俺たちの褒美だよ、褒美」

 

「ブルクハイトの奴に見られないようにしろよ」

 

「分かってるって」

 

 ブルクハイトと呼ばれる上官には絶対に見せないように告げた後、二人は死体から剥ぎ取った目当ての品を懐に忍ばせ、再び足を動かした。

 途中、ナチゾンビが視界に入ったため、二人は足を止めて近くの身を隠せる場所へと身を潜めた。

 

「アッシュ、相手は一体だ。なんで隠れる必要がある?」

 

「あのゾンビが叫べば他の奴らを呼ばれちまうだろ? 少しは頭を使えよ」

 

「このクソッタレ、今度やったらぶっ殺してやるぞ」

 

「そ、そいつは怖い。今度から気を付けるさ」

 

 訳を問えば、アッシュが頭に指をあてながら自分を馬鹿にしてきたため、コワルスキーはドスの効いた声で威圧すれば、直ぐに彼は謝罪する。

 そんなやり取りの後、アッシュは近くに落ちている破片を拾い上げ、それをナチゾンビの近くにある場所へと投げた。投げた破片は自分等の視界から外れる場所へと当たり、それに誘導されるように、ナチゾンビはそこへ向かう。

 

「行くぞ」

 

 近くには聞こえないくらいの声量でコワルスキーに告げた後、アッシュは自分の原隊がある場所へと向かった。

 しかしコワルスキーは、アッシュの後へは続かず、近くにある角材を拾い上げ、自分に背を向けているナチゾンビの頭にそれを力一杯振り下ろした。

 ナチゾンビの頭はコワルスキーの腕力もあって簡単にペシャンコになり、動かない死体に戻ったナチゾンビは瓦礫の上に倒れこむ。

 

「おい、なにやってんだ」

 

「何って、邪魔な奴を死体に戻してやったのさ」

 

「次も余計な事すんなよ」

 

「ヘヘヘ、分かってるって」

 

 今回のようなことを次回もしないように釘を刺した後、アッシュはコワルスキーを連れて拠点へと戻った。

 そんな二人の姿を、ベルリンへ到着したマリが目撃していた。

 

「死体じゃないドイツ兵? あいつ等が帰る場所に何かありそうね」

 

 そう考えたマリは白馬から降り、尻を叩いて安全な場所まで向かわせれば、二人の後を尾行する。

 アッシュとコワルスキーは尾行されていることも気付かず、ただ彼女に自分等の拠点まで案内している。尾行しているマリはナチゾンビを避けつつ、二人の後を追跡する。

 数mほど進んだところで、アッシュとコワルスキーの姿は、連合国の空襲やソ連赤軍の砲撃でボロボロになった高射砲塔の中へと消えた。直ぐにマリは双眼鏡を取り出し、高射砲塔の様子を探る。バリケードで張り巡らされた道以外にはナチゾンビがいっぱいであり、それに向けてMG34やMG42機関銃の銃口が向けられ、機関砲や対空砲まで向けられている。

 

「まるで要塞ね」

 

 双眼鏡に映るありのままの言葉を吐けば、マリはアッシュとコワルスキーが辿ったと思われる安全な道へと入り、そこから高射砲塔へと向かった。

 ライフルや突撃銃などを持った見張りが何名か目を光らせているが、それは群がってくるナチゾンビであり、自分等の国の武装組織である武装親衛隊の制服を着た女には目もくれない。たまに煙草を吹かせるか、ナチゾンビに向けて石や空き缶を投げ付けるだけである。見張りの目を掻い潜りつつ、マリは高射砲塔の上階へと上がれる梯子を見つければ、迷い無しにそこへ上がる。

 上がりきる前に、目線だけを出して周囲に誰もいないことを確認すれば、梯子を上りきって二階へと侵入した。周囲に銃口を向けて再度確認したのち、屋内へと続く通路へ入ろうとする。

 

「動くな!」

 

「ちょっと…何所から…?」

 

 入る前に、何所からともなく現れた迷彩服の少年少女と、制帽と迷彩服を着た男に取り囲まれた。少年少女はMP28やMP40、MP3008などの短機関銃とkar98k小銃で武装し、正規の武装親衛隊の士官である男はStg44などを武装していた。

 撃たれても死なないマリであるが、服を滅茶苦茶にされたくない理由で彼らの指示に従って手を上に挙げた。

 銃口を突き付けられながら高射砲塔内へと案内される。

屋内では、この惨状を生き延びた市民とドイツ兵、ソ連兵の姿があちこちに見られた。隅の方で双方の震える将兵の手には銃が常に握られ、市民は家族や身内で囲んでずっとこの地獄が終わることを願っている。中には幼い子供や赤子の姿まで見られた。

その中を、女性が着ることはないであろう武装親衛隊の制服を纏ったマリが通りかかった為、各軍のドイツ将兵や市民が物珍しく見ている。

 

「ねぇ、ここには何人居るの?」

 

「えっと、一万…」

 

「喋るな。さっさと歩け」

 

 自分の背後からMP3008短機関銃を握る少女兵に、高射砲塔に立て籠もっている人数を問い掛けたマリであったが、武装親衛隊の士官に黙らされる。

 通路を歩かされること数分、ここに立て籠もる生存者達のリーダーが居る司令室へと案内された。司令室には通信機に座る男女共の通信兵達が、何所かもしれぬ場所へ助けを求めて手当たり次第に掛けまくっている。他にはベルリンの地図を見て、脱出路を確認する将校や、武器弾薬、食料や燃料、物資の残りをノートに記入している将校も見えた。

 

「アッシュ、コワルスキー、お前ら、尾行されていることに気付かなかったのか?」

 

「いや、まさか…武装SSの制服を着た女に尾行されているなんて…思わなかったです…」

 

「俺達も訳が分からないんだ、頼むぜブルクハイト」

 

 先程マリが尾行していたアッシュとコワルスキーが、上官である丸眼鏡を掛けたブルクハイトに叱られている様子が見える。

 それを気にすることなく、マリはここの指揮官で生存者達のリーダーである少しばかり若いドイツ国防軍将官の前に突き出された。

 

「この女が例の侵入者です」

 

「ご苦労、ハンス親衛隊中尉(オーバーシュトルムフューラー)。下がってよし」

 

はい(ヤー)!」

 

 階級がさらに上のため、マリをここまで連行してきたハンスと呼ばれる親衛隊中尉は直立不動状態を取り、ナチス式の敬礼をしてから少年少女らと共に下がった。

 

「さて、お嬢さん(フロイライン)。君はこの高射砲塔に何用かね? 安全な場所を求めて来たのかな?」

 

 彼らが去ったあと、将官は肘を机の上につけながらマリに高射砲塔に侵入した理由を問うた。

 その問いにマリが何も答えなかった為、名乗っていないことを無礼だと思って名乗り始める。

 

「おっと、これは失礼した。私はコルネリウス・フォン・マイヤーだ。元歩兵師団の師団長で、今はここの指揮官をやっている。それで、君の名前は?」

 

「マリ」

 

「マリか…余り聞きなれない名前だ。北欧かフランス出身か?」

 

 名を名乗った将官に、マリは自分の名前だけを答え、追加の問いには答えなかった。

 マリの名前がわかったところでコルネリウスは、彼女が答えなかった最初の問いを再び問い掛ける。

 

「最初の問いだが、ここへ来たのは安全な場所を求めて?」

 

「そんなところ」

 

「おい、はっきり答えろ!」

 

「よせ、失礼だぞ。国防軍軍曹(ウンターオフェツェーア)

 

「や、はい(ヤー)…」

 

 曖昧な答えを出したマリに対し、苛立った下士官が手に持ったMP41短機関銃の銃口を向ける。いきなり銃口を向ける下士官に対し、余計なことをしないようコルネリウスが注意すれば、三十代半ばの男は大人しく銃口を下げ、後ろへ下がった。下士官が下がったところで、マリにベルリンに何をしに来たのかを問う。

 

「失礼した。次の質問だが、このベルリンに何をしに来た? 君は″カール・フェアバーン″と同じく巻き込まれた連合国(アーミー)の工作員かね?」

 

 その問いに対し、マリは沈黙のままであった。

 数秒間返答を待つコルネリウスであったが、答えは期待できないとして次の問いを掛けようとしたとき、鉄帽を被った伝令がこの司令室に飛び入ってきた。

 

国防軍少将(ゲネラール・マヨーア)閣下! 味方です! 味方の装甲部隊がこちらに向かっています!!」

 

「なに! 助けか!?」

 

「分かりません! 兎に角ご確認を!」

 

「よし、君はここで待っていたまえ」

 

 そう言い残し、マリを残してコルネリウスはやってきた味方の装甲部隊の確認へと向かった。

 

「おい! 何所へ行く!?」

 

 だがマリが大人しく従うはずもなく、監視として残した下士官を振り解き、ほかの将兵らが向かっている場所まで向かう。

 

「誰か止めてくれ!」

 

「よし、行こうぜコワルスキー。汚名返上の時だ」

 

「おうよ!」

 

 下士官の声に、アッシュとコワルスキーは汚名を返上すべく、マリの後を追った。

 そして監視塔へ着いたマリは、没収されていなかった双眼鏡を取り出し、銃声がする方を覗いた。

 

「誰だこの女?」

 

「シェイファー・ハウンドって言う女だらけのSS部隊の将校じゃないのか?」

 

 マリが入ってきたことに気付いた各ドイツ軍の将校達が彼女の姿を見て言う中、リーダーであるコルネリウスは驚く。

 

「き、君は…!?」

 

 頭と首が隠れるほど帽子とコートを深く着込んだ寡黙な将校が前に出て、腰のホルスターからワルサーP38自動拳銃を抜き、マリのこめかみに銃口を突き付けた。

 

「女、ここで何をしている?」

 

 銃口をこめかみに突き付けられながらも、マリは双眼鏡から目を離すことはなかった。

 寡黙な将校は銃口を離さず、帽子の鍔から見える鋭い目付きで睨み続け続け、ずっと付き続けていたが、海軍の将校の叫びで気を取られた。

 

「見えました閣下! ティーガーⅠとティーガーⅡが一両づつ、パンターにⅢ号突撃砲二両! 装甲兵員輸送車と装甲偵察車です! 先遣隊でしょうか」

 

 海軍将校からの知らせに、コルネリウスは後続の部隊が見えるかどうかを問う。

 ちなみにこの高射砲塔に向かっている部隊は、バウアーの黒騎士中隊とシェイファー・ハウンドの連合部隊だ。

 

「一個戦車小隊程か…後続の部隊は?」

 

「確認できません…」

 

 確認ができないと答えた後、海軍将校は固定された双眼鏡へ視線を戻した。コルネリウスも双眼鏡を取り出し、自分もその方向を覗いた。遠くから見た彼らの様子は、ナチゾンビに襲われているようであり、搭載機銃や小火器を持って近付いてくるナチゾンビを振り払おうとしていた。

 

「どうやら歩く死人達に襲われているようだ。援護射撃を!」

 

了解(ヤヴォール)!」

 

 バウアー達をここまで誘導するため、コルネリウスは部下達に援護射撃をするよう命じた。

 

「狙撃銃を出来るだけ持って来い! MG34機関銃もだ!」

 

急げ(シュネル)!」

 

 指示の後で将兵達が慌しく動き回り、狙撃用眼鏡が付いた小銃や自動小銃を持った狙撃兵やMG34機関銃を持った機関銃手達が監視塔に上がってくる。

 

「おっ、これはシュタイナー少佐殿!」

 

「どうもありがとうございます!」

 

 コルネリウスが指示を出した後に、アッシュとコワルスキーが到着し、先に件の人物を捕らえた自分達の上官であるシュタイナーと呼ばれた寡黙の将校に向けてお礼の敬礼を向ける。直ぐにでも拘束しようとしたが、マリは銃口を突き付けられているにも関わらず、双眼鏡を仕舞って近くを通り掛かった狙撃兵から狙撃銃を奪い取る。

 

「あっ、おい!」

 

「待て。あれ程の自信…何かあるな」

 

「は、はぁ?」

 

 狙撃銃を取られた狙撃兵が取り返そうとしたが、何かを思い付いたシュタイナーに止められた。

 襲われているバウアー達がよく見える位置まで着いたマリは、kar98k狙撃銃の被筒を柵の上に載せ、狙撃用眼鏡を覗いた。他の狙撃兵や機関銃手達がナチゾンビに対して狙撃や機銃掃射を行う中、マリは脅威となる爆薬を体中に巻き付けたナチゾンビ、カミカゼゾンビの狙撃を行う。頭を狙撃されたカミカゼゾンビは倒れた数秒後に他のナチゾンビを巻き込んで爆発した。

真っ赤な血煙が上がる中、マリは黙々と狙撃を続け、バウアー達の突破口を開いていく。弾が切れれば、予備の弾薬を持っている狙撃兵に無言で弾を寄越すよう告げる。それに対し怒りを覚える狙撃兵であったが、シュタイナーの考えを理解したアッシュとコワルスキーは彼を抑え付け、無理やり弾薬を剥ぎ取る。

 

「ほれ、弾薬だ」

 

「ありがと」

 

 コワルスキーが狙撃兵を抑えている間に、アッシュが抜き取った弾薬を取り、マリは一つ一つ弾を小銃へ込めた。五発目を入れてからボルトを前進させて弾を薬室へ送り込めば、狙撃を再開する。一体、また一体と仕留めていくうちに、高射砲塔への突破口が開き、バウアー達は全速力で目的の場所を目指した。

 

「よし、後は自力で来れるな」

 

「では、彼らの回収を…」

 

 後は自力で来られると判断したコルネリウスが言えば、将校がバウアー達の回収に向かおうと言った途端に狙撃された。

 

「狙撃だ!」

 

「イワンの狙撃兵か!?」

 

 将校が狙撃を受けて床に倒れこんだとたんに、各将兵は狙撃から身を守るために床に伏せた。ソ連軍の敗残兵による狙撃と思った兵士が居たが、不気味な笑い声を耳にして人らしき影が飛び回っているのを見たシュタイナーはそれを否定する。

 

「いや、狙撃銃を持った死人だ」

 

「狙撃だけにしてもらいたいぜ」

 

「全くだ」

 

 シュタイナーからの答えに、アッシュが飛び回るスナイパーゾンビに悪態を付けば、コワルスキーはそれに同調した。

 スナイパーゾンビによる狙撃が行われる中、マリはスコープに飛び回る標的を捕らえようとするが、あまり照準が定まらない。

 

「ちっ」

 

舌打ちをしたところで状況がどうなることもなく、銃弾がマリの頬を掠める。

次は胸を撃ち抜かれると思って遮蔽物に身を隠した。チャンスを伺って頭を出してみようかと思ったが、頭を遮蔽物から出した時にスナイパーゾンビの断末魔が聞こえ、地面へと落下していくのが見えた。何事かと思って辺りを双眼鏡で見渡してみれば、スプリングフィールドM1903A4狙撃銃を構えたカールの姿があった。

 

「あいつは…?」

 

「あぁ、アメリカの工作員兼狙撃手のカール・フェアバーンだ」

 

 カールのことを知らないマリが問えば、コルネリウスは自分等の窮地を救った男の名前を答えた。

 それから数分後にバウアーやユート、カヤ達の黒騎士とシェイファー・ハウンドの連合部隊は高射砲塔に到着し、車両ごと高射砲塔内へと入る。

 カールも高射砲塔へと戻り、自分と同じく外から来た者達と顔を会せることになった。

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