Zombie Army Trilogy クロスオーバー 作:ダス・ライヒ
「まだこれほどの生存者が居たとはな」
カールの援護で高射砲塔へ入ったバウアーは、そこに逃げ込んだ生存者達を見てやや安心気な声を上げる。
そんな彼らを歓迎するために、コルネリウスが部下たちと共に出迎えた。
「まさかあの有名な黒騎士がベルリンに救出に来るとは…驚きだ。神は我々を見捨てて等いなかった」
「はっ、
出迎えたコルネリウス達に向け、バウアーは部下とユートやカヤと共に敬礼する。その次に自分達が遅れたことを謝罪した。
「なに、気にすることはない。例えこの場に君たちが居たとしても、数時間前の我々と同様、‴奴ら‴に対する対処法など分からず、多大な損害を被っていたことだろう」
「確かに。我々がそこに居たとしても、大した対処もできなかったでしょう」
「まぁそんなわけだ。イワン共よりも手強い死人共との死闘で疲れている事だろう。食事を用意させる、じっくり休んでくれ。食料はイワン共から奪った分も含めて十ヵ月分はある」
「お言葉に甘えさせていただきます」
謝罪の言葉を述べるバウアーに対し、コルネリウスは気にしないように告げてから、彼らを丁重に出迎えた。
「僕たちも行こう」
「そんな暇は無いと思うがな」
ユートもバウアー達の後に続いて行こうとしたが、カヤは不満の声を上げる。
そんなシェイファー・ハウンドの面々に、同じ武装親衛隊に属するハンスがマリのことについて問い掛けて来る。
「
「はぁ? 親衛隊中佐でシェイファー・ハウンド所属…?」
「実際に見てみないと分からんな。
「分かりました。他のみんなは大尉たちと一緒に休息を」
「はーい」
上官に当たる親衛隊中尉であるハンスからの問いに、ユートは首を傾げた。
自分等よりも遥か上の階級である親衛隊中佐の女が、自分等の隊に居るとは知らない。
実物を見せるため、ハンスはユートとカヤについてくるように命じた。マイタと佳織もその後へと続く。他のメンバーはバウアー達と共に休息の場へと向かう。
「あの女だ。
「は、はぁ…自分の隊はスコルツェニー親衛隊中佐の駆逐戦隊所属なので…」
実物のマリを見せて再度ハンスは問うたが、ユートは首を横に振って否定した。
次にずっとシェイファー・ハウンドに居るカヤとマイタにも問うも、彼女らも見覚えが無いと答える。
「自分もあのような女性士官は見たことがありません」
「一応、予備役の者も含めて隊員の顔は全て知っていますが、彼女のことはサッパリです」
「経験豊富なカヤ親衛隊曹長も知らないと言う事は…一体誰なんだ、あの女は。人種的には純潔ゲルマン人か、ドイツ人と北欧系のハーフな筈だが…スパイな訳が無いし…」
創設当初から居そうなカヤもマイタも知らないと答えたので、ハンスは顎に手を添えながら首を傾げた。
それから物の数分後、ユート達も休息を取る事にし、バウアー達と他の面々と食堂で合流した。食事にはビールもシュナップスと言った酒類は飲めなかったが、代わりに豚肉や牛肉の鶏肉と言った肉類があったので、少しは腹の足しとなった。食事を終えてバウアーとユート達はゆっくりとしようとした。
「おい、聞いたか? 聖オリバトゥルス教会から通信だ」
「なんだって!? あそこはもう終わりだと思ったが…」
「どうやら生存者が居たらしい。確かお前の弟があそこに配置されていたな、もしかしたら弟かもしれんぞ」
「オットーの奴がか…救出部隊に志願しようかな…」
食堂の前に居る兵士たちの声を耳にしたバウアー達は立ち上がる。
「行くか? ユート君」
「はい、生存者が居るなら…助けないと…!」
こうして彼らは通信室へと赴いた。通信室にはアッシュとコワルスキー、ブルクハイトにシュタイナーが居た。他には興味本意で来たのか、マリの姿もある。他にはバウアーらを助けたカールの姿もあった。
連合国の工作員兼狙撃手であるカールの姿を見たカヤは、即座に彼に向けて自動拳銃の銃口を向ける。
「何故ここに
銃口を向けながら近くの将校に問うカヤであったが、コルネリウスが彼女の持つ自動拳銃を握って妨害する。
「よせ、カヤ親衛隊曹長。彼は我々の味方でもあり、君らの命の恩人だ」
「まさか…このスパイが我々を?」
「そうだ。彼が居なければ今頃、君たちは外の歩く死人共の仲間入りを果たしていたことだろう」
「アーミーの狙撃手に救われるのは初めてだな。今まではイワンの狙撃手に何度も頭を吹き飛ばされ掛けたが」
カヤの問いにコルネリウスが答えれば、バウアーは初めて連合国の狙撃手に助けられたことを知ってそれを口にする。
それから全員が集まったのを確認したコルネリウスは、教会に居る生存者救出のための部隊編成に入る。
「さて、聖オリバトゥルス教会からの救出要請についてだが、志願者のみとする。普通なら二個中隊程を送りたいが、生憎とここを守るのには一個小隊と囚人部隊が限度だ。無論、一個小隊と囚人部隊程度で死人共の包囲を突破できるとは思えんが…」
一同が集まる司令室にて、余力のある戦力があまりないことをコルネリウスは口にする。
この高射砲塔には一万人以上の生存者が居るが、兵士は六百人であり、外部に派遣できる戦力は、周りのナチゾンビの数からしてかなり限られている。
余り余裕がないことを語ったコルネリウスは、目的の教会までの最短ルートを書いた地図をシュタイナーやバウアー達に見えるよう机上に置く。
「これが聖オリバトゥルス教会への最短ルートだ。奴らの位置はここから見たあたり少なく見える。だが詳細は不明だ、どこからともなく出て来るかもしれない。まぁ、いつも敵の陣地に進軍するような物だが…」
「なに、いつもの事です。敵は待ち伏せている。イワンの
コルネリウスからの説明に、バウアーはいつもの事だと告げる。
「あぁ、それもそうだな。航空機でもあれば少しは楽になるんだが…」
バウアーが言った後に、コルネリウスは偵察機が出せないことを嘆いた。
話を戻し、コルネリウスは救出部隊の編成に取り掛かる。
「では、話を戻そう。救出部隊の編成についてだが、ベルリン出身者が多い装甲擲弾兵一個小隊と囚人部隊Zbvで行こうと思う。どちらとも強力な戦力だが、弾薬は無限にあるものではないし、敵は無限の如く沸いて出て来る」
顔を濁らせながらコルネリウスは一旦区切りを付ければ、カールの方を向いて次の言葉を口にする。
「そこで、OSSのフェアバーンを同伴させようと思う。不満があれば、他にも志願者を募るが」
「アーミーの奴を付けるのですか? 小官は敵国の工作員を指揮下に入れるのは、いささか心配ですが」
カールを救出部隊に加えることに、シュタイナーは異議を唱えた。その提案にカヤも不満な表情を浮かべる。
「彼は我々よりベルリンのことに詳しい。先の四十四年のノルマンディーでは、連合国は我々より我が軍の配置図を知っていた。連合国の情報収集率は我が軍より優れている。我々やイワン共よりもベルリンの状況に詳しいだろう」
前年のノルマンディーでの出来事を話しながら、コルネリウスはカールが適任であることを示した。あの戦場に居たユートとカヤもそれには納得していた。東部戦線に居たバウアーもそれに納得する。それほどドイツ軍全体が、米英の諜報力を恐れているという事だ。
「他には例の
「あの女を救出部隊に入れるのですか? ただでさえ連合国の工作員が混じっていると言うのに。これ以上の将兵の動揺は幾ら私でも抑えられそうにもありません。何処かに拘束しておいた方が良いでしょう」
「私もあの女を入れることには反対です。アルマゲイネでも無いのに親衛隊の制服を着ております」
次にマリを救出部隊に加えると提案したコルネリウスに、余所者、しかも素性が知れない女を入れることで無駄な動揺を配下の将兵等に与えたくないシュタイナーはまた異議を唱える。これにはカヤも納得であった。
「先程、到着したばかりの君たちを出すのは気がしれる。他に行ける部隊は居ないし…」
コルネリウスが顎に手を添えながら悩み始めれば、ベルリンの惨状を詳しく知りたいバウアーは、チャンスと思って志願する。
「では、小官の部隊が志願しましょう。我々なら、目的地まで二十分、否、十分で着くことが出来ます」
「しかし、君たちは突破した疲労が…」
「なに、これくらい東部戦線に比べればどうという事はありません。直ぐにでも出動しましょう」
「分かった。直ちに
「
バウアーに押されたコルネリウスは、机の上に置いてある電話機の受話器を取り、部下たちに出撃の準備を始めさせた。
「自分も…自分も救出部隊に志願します!」
「良いのか? 君たちには別の任務が…」
「大ドイツの市民を助けることは、我々
「仕方ないな。追加だ、SSのお嬢さん方の部隊にも手配を」
これに押されたユートも、救出部隊に志願する。
バウアーの黒騎士中隊は別として、得体のしれないSSの女の部隊と素性が知れない女が加わることが、囚人部隊の長であるシュタイナーは気に食わなかったが、捨て駒にされるよりはマシなので従うことにした。
装甲擲弾兵の小隊の同伴は中止となったが、代わりに強力な黒騎士中隊とシェイファー・ハウンドの部隊が加わったので、更に強力となる。
かくして黒騎士中隊、シェイファー・ハウンド、囚人部隊こと装甲懲罰大隊Zbvの混成救出部隊の各車両は、エンジンを吹かしながら正門の門が開くのを待った。
各車両が出動合図を待つ中、ブルクハイトが乗るティーガーⅠ重戦車の車内で、砲手を務めるアッシュと装填手のコワルスキーが、シェイファー・ハウンドの隊員らについて雑談を交える。
「なぁ、あの武装SSの女の兵士達、みんなムチムチだな。コワルスキー、どっちが好みだ?」
「俺は、マイタって胸の大きな娘が好みだな」
「おう、その女も捨てがたいな。俺は、隊長の金髪の女の方が好みだけどな」
「羨ましいよな、あのSSの下士官。後でぶん殴ってやろうか」
そう雑談に花を咲かせるアッシュとコワルスキーに、ブルクハイトが割って入って中断させる。
「あの女SS共はやめておけ。手を出せば、ナニを吹っ飛ばされるぞ」
「そ、そんなに怖いのかよ…」
「あぁそうだ。噂では、レジスタンスの男のナニをライフルで吹っ飛ばしたらしい」
「恐ろしい女だ…慰安所の女の方がよっぽど良いぜ」
ブルクハイトから聞かされたシェイファー・ハウンドの隊員らの恐ろしさに、二人は身の毛がよだった。
「門が開いた」
「お喋りはここまでだ。行くぞ、
通信手からの報告で門が開かれたことを知ったブルクハイトは、二人を黙らせて操縦手に戦車を前進させるよう命じた。
他の車両も門が開いたと同時に一斉に動き出し、門をくぐって歩く死者が支配する廃墟と化した大都市へと出ていく。
早速、門から出て来るのを待ち構えていたナチゾンビらが様々な凶器を持って救出部隊に襲い掛かったが、高射砲塔に居る兵士らや救出部隊の小火器の攻撃を受けてあっさりと全滅する。
「余り派手にやりすぎるなよ。派手に暴れれば、暴れるほど奴らは増えるぞ」
指揮車型のSd Kfz250装甲兵員輸送車で指揮を執るシュタイナーは、各車両の車上に乗る将兵らに余り派手に撃ち過ぎないよう注意する。それにSd Kfz251装甲兵員輸送車の兵員室に居るリィアは、ハンドサインで答える。
周りの敵が全滅したのを確認すれば、最短ルートを通って目的地まで急いだ。
なるべくナチゾンビは無視して進み、進路上の邪魔となれば排除する。それを繰り返して目的地までの距離を稼ぐ。轢くのも手の内だが、それでは履帯に肉片がこびり付いて何らかのトラブルとなりえる為、それを避けて進んだ。
「なんだ、あのデカいの。MG42を持ってるぞ」
「あぁ、機関銃デブ」
一人の兵士がMG42機関銃を持つマシンガンゾンビを見て言えば、見たことがあるマリは直ぐに口に出した。
車体の上に載っている将兵らが銃弾をマシンガンゾンビに浴びせたが、その巨体のゾンビは物ともせずに電気のこぎりのような銃声を響かせながら近付いてくる。
「小銃弾が効かないぞ!」
「なら、榴弾をお見舞いしてやる! 装填手、榴弾装填! 照準手、目標は一時方向の機関銃を持ったデブだ」
一人のkar98k小銃を持つ兵士が、小銃弾が効果をなさないことを言えば、パンター中戦車のキューボラから上半身を出しているクルツは、装填手に榴弾を装填するように命じ、照準手にマシンガンゾンビに向けて照準するよう命じた。
「榴弾、装填完了!」
「機関銃のデブに照準完了!」
「撃て!」
装填と照準完了の知らせを聞いたクルツは直ちに発射指示を出す。
照準手が発射ペダルを勢い良く踏み込めば、装填された長砲身用の75mm榴弾はマシンガンゾンビに向けて発射され、砲弾がその巨体に突き刺されば数秒後に爆発し、周りのナチゾンビを巻き込んで木っ端微塵に吹き飛んだ。
「命中!」
「よし、後は徹底的に機銃で始末していくんだ」
照準手からの知らせに、クルツは細かな指示を出して敵の掃討を他の車両と共に進めた。
バウアーのティーガーⅡ重戦車の車体の上に乗るカールも負けず、次から次へとナチゾンビの額に穴を開けていた。Zbvやシェイファー・ハウンドにも狙撃手は居るが、その腕前はカールの方が断然上だ。マリも負けない程の腕を誇っているが、本職であるカールの方が上である。
最低限のナチゾンビを倒しながら進んでいけば、高射砲塔から出発して十数分ほどで、目的地である聖オリバトゥルス教会が見えて来た。
『オリバトゥルス教会が見えた!』
「目的地まで近いな。戦車を前にして強行突破を図ろう。戦車隊、前へ!」
先行しているSd Kfz222走行偵察車に乗る無線手の知らせを聞けば、シュタイナーは自身の部隊の傘下にある戦車部隊を前進させた。
長砲身のⅢ号戦車とⅣ号戦車がそれぞれ二両ずつ合わせた四両と、ヘッツァー軽駆逐戦車が六両と言う二個小隊程度の部隊だが、相手は重火器を持たないナチゾンビなのであっさりと片付けることが出来た。
教会までの進路が確保されれば、進路妨害用の障害物と瓦礫を撤去するために工兵隊が前に出て爆弾を設置し始める。中にはダイナマイトにソ連赤軍より鹵獲した爆弾、あるいは手作りの爆弾まで含まれていたが、容易に粉砕する火薬量を持っている。爆弾の設置が終わると、工兵たちは急いで離れ、起爆装置を作動して教会までのルートを開放する。
そこを車両部隊が通り、目的地までへと履帯と車輪を響かせながら進む。
「よし、着いたな」
バウアーがキューボラから上半身を出し、目の前に見える巨大な教会を見て言えば、車体の上に乗っていた小火器を持つ歩兵らは降りて、周辺を警戒する。
「常に辺りに気を配れ! 奴らが地中から這い上がってくることもあるぞ!」
シュタイナーが指揮車から周囲警戒に当たる歩兵らに指示を出した途端、銃声が響き、彼の頬に一発の銃弾が掠めた。
「ひっ!?」
隣に居るカバー付きシュタールヘルムや防弾プレートなどの重装備をした下士官であるシュルツ(バウアーの副官ではない)が小さく悲鳴を上げ、身を屈んだ。
「死人の狙撃兵か。狙撃手は直ぐに狙撃兵の排除を」
「しょ、少佐! 頭を屈んでください! 撃たれます!!」
狙撃されても恐れも微塵も見せないシュタイナーに対し、部下であるシュルツは車内に引っ込みながら隠れるよう叫ぶが、彼は堂々として自分を狙撃した者の始末を命じる。
これに応じて、狙撃手であるティアナとカールがスナイパーゾンビの居るとされる場所に銃口を向ける。
スナイパーゾンビは不気味な笑い声を上げながら飛翔し、狙撃スポットに付けば、狙い易い方から狙いを付け、引き金を引こうとする。
だが、引き金を引く前にマリが持つ狙撃仕様のkar98k小銃にスコープを撃ち抜かれた。
「凄い射撃だ。何所で習った?」
今のマリが見せた狙撃に、カールは何所で習ったのかを問う。
「ゲーム」
「
マリが出した適当なゲームと言う答えに、カールは猟と解釈した。
本当のところ、彼女は狙撃に関する書物で狙撃を学んだが、説明が面倒だと思ったマリは、敢えて適当に答えたのだ。
これで救出部隊は、教会周辺での安全を確保した。教会の大きな扉の前に一人の兵士が立ち、ドアをノックして中に立て籠もっている生存者達に安全が確保されたことを知らせる。
「聞こえるか! 我々は救出部隊だ! 周囲に居る奴らがみんな始末した! 安心して出て来てくれ!」
何度もノックして大声で中に居る生存者達に知らせたが、一向に返事が来ない。
「何か嫌な予感がする…」
教会から誰の声も聞こえて来ないことに、ユートは不安な表情を浮かべた。
担当していた兵士二名は、互いの顔を向き合う。
「誰も居ないのか?」
「呼び出しておいてこの様か? 全滅したのか?」
「さぁな。兎に角シュタイナーの奴に知らせよう」
担当していた二人の兵士は、それをシュタイナーに知らせて次の指示を仰いだが、指示を出す前にカヤはⅢ号突撃砲を前進させて扉に突っ込ませた。
「うわぁ!? なんて罰当たりなことを!」
扉を強引に破壊したカヤの行動に、プロテスタント教徒の兵士が激怒した。
「こ、これ…大丈夫なのかな…? まぁ、私は言われた通りやっただけだけど…」
「罰が当たるとすれば、車長だけにしてもらいたいわね…」
「あぁ…神よ…我等だけでも許したもれ…」
車内に居る操縦手のミュー・マイツェン
そんなこともあり、いざ教会へと小銃や短機関銃を持った五人ほどの兵士が入った。
「おい、何所へ行く?」
「俺が行こう」
「任せた」
後は入っていった五人に任せれば済むことだが、マリは何も言わずに教会へと入っていく。バウアーの呼び止めもあったが、彼女は耳を傾けることも無く教会へと入った。仕方なくカールが連れ戻すために教会に入る。
これを見ていたカヤも、マリの行動が気になったのか、護身用のMP40短機関銃を予備弾倉と共に拾い上げ、自分のⅢ号突撃砲から降りる。
「何かありそうだな。ヒルダ、後は任せたぞ」
「えっ? ちょっと!」
「ティアナ、リィア、アイヤ、佳織、麻里安、それにアハト、ついてこい。他は警戒だ」
ミヒトの言い分も聞かず、勝手に降りたカヤは呼び出した部下たちを引き連れて教会へと入ろうとしたが、何か嫌な予感を感じ取っているユートがそれを許すはずが無かった。
「どこへ行くつもりだ? カヤ」
「何所へ行くと? 教会に入るのだが?」
「危険だ、後は歩兵隊に任せて…」
「安心しろ、お前より頼りになる部下が六人も居る」
「でも!」
「しつこいぞ。そんなに私たちが死ぬのが嫌なのか? もう既にここは死の世界だ。いま話している間にも人は死んでいる。これ以上、人が死ぬのを嫌うなら、私を呼び止めるな」
「くっ…!」
部下を死地に追いやりたくないユートは、カヤを何とかして止めようとするが、彼女は聞く耳を持たず、黙らせてからティアナ、リィア、アイヤ、リオ、佳織、麻里安、隻眼の軍用犬であるアハトを引き連れて教会へと入る。
「返事が無いのも納得できるな」
高い天井を見上げ、人の気配が無いことで、カヤは生存者が居ないと判断する。
先行して入った五人の兵士は生存者達を探していたが、徹底的に探しても人の気配が無いため、諦めて外へ出ようとしていた。
「ここまで来させて、ただのいたずらかよ!」
五人の兵士が悪態を付いて苛々しながら教会の外へと出た時に、破壊されたはずの教会の出入り口に謎の結界が浮かび上がった。
「っ!? 周囲を警戒しろ。何か来るぞ」
先行した五人の兵士が出た途端に結界を現れたので、後から中に入ったマリを除く者達は驚いたが、シェイファー・ハウンドの実質的な指揮官であるカヤは冷静に状況を把握し。部下たちに周囲を警戒するよう命じた。
これに応じてカヤに同伴したリィア達は周囲に銃口を向け、敵の襲来に備える。カールも長物の狙撃銃から、銃身の短いM1A1トンプソン短機関銃に切り替え、彼女らと共に警戒態勢を取った。
一方のマリの方はと言えば、周囲に視線を向けるだけで引き金に指すら掛けていない。
それから物の数秒後に、不気味な声が耳に入って来た。
『ハッハッハッ! ようこそ!!』
一同が声のした方向へ向けて一斉に振り返れば、不気味な緑色のオーラを纏った一般親衛隊(アルマゲイネ)の黒い軍服を着た浮遊する骸骨が現れた。直ぐに現れた謎の人物を敵と断定し、一同は銃口を向けて引き金を何の躊躇いも無しに引いた。
「効かない!?」
十数発の銃弾がそれに向けて飛んだが、霊体であったらしく、後ろにある壁にあたるだけだった。
『仲間になれ!』
黒い軍服を着ている骸骨の霊体はそう言った後、自分の足元に複数の魔方陣を召喚し、召喚した魔方陣分だけのナチゾンビを召喚した。
「召喚した!?」
「撃ち殺せ!」
それを間近で見ていたカヤ達は、即座に召喚されたナチゾンビらに向けて銃弾を撃ち込む。召喚されたナチゾンビは一斉射撃によって直ぐに全滅したが、浮遊する霊体は、周囲に頭蓋骨を漂わせながら、またナチゾンビを召喚した。今度は最初に召喚した時よりも多い。今度は心臓を光らせた歩く骸骨付きである。
「また召喚してる!?」
「なんなんだこいつは!?」
召喚されたナチゾンビに向け、先と同じように銃弾を撃ち込んで骸骨共々全滅させたが、霊体は嘲笑ないながらナチゾンビをまた召喚した。
数は先のより多く、ワルサーP38やMP40、kar98kなどの銃火器を持ったナチゾンビが居り、最悪なことに機関銃を持ったマシンガンゾンビが出て来る。
「きりがない! 上に逃げるんだ!」
空になった短機関銃の弾倉を捨てながら、カールは階段を上がって二階へと逃げた。彼の後へ続き、銃を撃ちながら階段へと上がる。ナチゾンビとマシンガンゾンビが追ってくるが、二階からの機銃掃射と小火器による攻撃で死体の山を作っていく。
「今のままでは弾が無くなるぞ。どうする?」
「あれを倒さないとどうにもならんな。しかしどやって…」
カールは短機関銃を再装填しながらカヤに問えば、彼女は浮遊する霊体に視線を向けながら倒す方法を考える。
同じく二階へと上がったマリは、霊体の周りを旋回する頭蓋骨に向けてStg44突撃銃を撃ち始めた。銃弾を受けた頭蓋骨は消え、霊体はうめき声を上げる。
「おい、何所を撃ってる!?」
「いや、もしかすれば倒せるかもしれん。あの旋回してる頭蓋骨を全て撃ち落とせば」
銃身を掴んでマリに無駄弾を使わないよう告げるカヤであったが、カールは霊体を倒す手段と判断し、共に浮遊する頭蓋骨を撃ち始める。
全ての頭蓋骨が撃ち落とされれば、霊体は実体化して苦しみ始め、床に膝を付けた。
「こんな馬鹿なことがあるとはな…!」
頭蓋骨を全て撃ち落とせば実体化して倒せると証明され、カヤは渋々理解して手に持っている短機関銃を実体化した黒い軍服の骸骨に向けて撃ち始めた。カヤに続いて歩兵班の面々も実体化した黒い軍服の骸骨を撃ち始め、更なるダメージを与える。
『グッ、グアァァァ…』
マリが弾の切れたStg44から狙撃仕様のkar98kに切り替え、黒い軍服の骸骨の頭部に向けて撃ち込めば、うめき声を上げながら床の中へと消えて行った。
「どうやら倒したみたいだな」
「そのようだ」
黒い軍服の骸骨が消えれば、召喚されたナチゾンビとマシンガンゾンビは元の死体となった。
「おい、大丈夫か!? 中で凄いことが起きたようだが?」
出入り口の結界は消え、護身用の武器を持ったバウアー達が入って来た。
「あぁ、凄いことが起きた。死人共を召喚して恐ろしい奴と戦っていた」
「死人共を召喚する? そんな奴も居るのか。ますます地獄だ…」
カールから黒い軍服の骸骨のことを聞いたバウアーは、苦笑いを浮かべる。
「カヤ! 良かった。結界が現れて、一時はどうなるかと…」
「お前は心配し過ぎだ、不良品」
ユートも入って来た為、カヤは少し顔を顰めた。そんな矢先に、奥にある祭壇が何もしていないのに動き出した。音を聞きつけた一同は一斉に振り返り、何かあるかと思って祭壇の方へと向かう。
祭壇の下にあったのは、地下通路へと続く梯子であった。
「如何にも何かありそうな穴だなこれは」
バウアーが穴の底を見ながら言えば、マリはその穴へ向けて一欠けらを落とした。
数秒後に音が鳴り響けば、マリは安全と判断して梯子を下り始める。
「おい、破片を落としたくらいでは…聞いていないか…」
バウアーがマリを止めようとするも、彼女は話を聞かずに降りた。
これに釣られ、カヤも降りようとするが、ユートに止められる。
「よし、では私も…」
「待て、今度は僕も行く。これ以上、君には危険な所へは行かせられない」
「おや、お熱いな。そんなに彼女が心配か?」
バウアーが冗談交じりに言えば、二人はバウアーを睨み付ける。
「おっと、失敬失敬」
二人に睨み付けられたバウアーが退散すれば、二人は暫し口論を始めたが、数秒ほどで済み、結局のところ、代わりの指揮を副官のマイタに任せ、地下へと降りた。
「はぁ、なんでこうなるのかしら…」
カールも含めて地下へと降りていく数名を見ていたマイタは、頭を抱えて悩んだ。
親衛隊階級のドイツ語表記は、今読んでいる小説、慈しみの女神たちから。後の方はネットからです。