「叔父上、もしかして神凪の分家って、弱くはありませんか?」
「ギクッ!?」
叔父上との修行にも身体が慣れ、多少の余裕ができた頃に、以前から疑問に感じ始めていたことを質問してみた。
「た、武志よ。何を言っとるんだ。この間、お嬢の強さを間近にみたばかりだろう」
「叔父上。僕が言っているのは宗家のことではなく、分家のことですよ。分かってて話を逸らさないで下さい」
「ウグッ!」
神凪一族の子供達のうち、宗家以外の分家は、小学校に入った頃から修行を始めるのが一般的だと言われている。
だが、僕以外の子供が修行をしている姿を見たことがなかった。
例外としては、父上に扱かれている兄上ぐらいだろう。
「分家の子供達って、修行をしているのですか?」
「あ、当たり前ではないか!幼い頃から厳しい修行に明け暮れてるからこそ、10代後半で炎術師として、現場に出れるようになるのだからな!」
「神凪の炎って、子供でも破邪の力がありますよね」
「ハウッ!」
神凪一族に生まれたら、修行をしなくても破邪の炎を物心ついた頃から使う事ができる。(若干一名例外有り)
「う、生まれ持った破邪の力を修行にて研磨する事により、実戦でも通用する力となるのだよ。うん!」
「実はこの間、分家合同の訓練会を覗いたんですよ」
「ヒィッ!」
「その訓練会では、小学1年から中学3年まで集まって、全員で雪合戦のような事をしていたんですが……あれって、なんなんでしょう?」
「アウゥッ!」
結局、誤魔化せられなくなった叔父上が白状してくれた。
神凪分家の術者の殆どが真面目に修行しないことを…
「つまりだな、生まれつき妖魔に対して絶大な威力のある、破邪の炎を自由に使えるゆえに、修行の必要性を感じる者が圧倒的に少なくてな」
「妖魔を見つけるのも、妖魔を封じている結界の維持も風牙衆に任せてるしね」
「う、うむ。全員が鍛えるのは、炎の現出と射出の速度ぐらいだな」
「それがあの雪合戦ですか」
「そ、そうだな。雪合戦のように見えるかもしれないな」
「神凪一族は、火の精霊の加護を受けているから、お互いの炎に当たっても痛くもないんですよね。具体的な内容はどうなっているんですか?」
「正式戦は高校生以上から参加できる。親交のある家同士が組んで数チームに分かれ、ポイント制の総当り戦で勝敗を決める。毎回上位に入る常連の家が、神凪一族での発言力が強いとも言える」
「ハァ…ちなみに僕の父上は強いのですか?」
「うむ。俺達の世代からは『弾よけの雅ちゃん』と呼ばれて恐れられているぞ」
「……父上の修行は受けたこと無いのですが、内容をご存知ですか?」
「知っているぞ。あれは常軌を逸した修行だ!」
「そ、それはっ!?」
「神凪の炎では危機感が生まれんと言って、数台のピッチングマシンで硬球を飛ばして、それを避けまくるという恐ろしい修行だ!」
「……叔父上も試合は得意なのですか?」
「ククク、よくぞ聞いてくれた!俺が現役の頃は『千手観音の雅くん』と恐れられるほどに炎弾乱れ撃ちが得意でな、クソ兄貴ですら俺の弾を避けきれぬほどの一流選手だったぞ!」
「おいっ!分家最強の術者!」
「ハッ!?ち、違うんだ!俺は海外に出てから現実を目の当たりにして、真面目に修行に打ち込んだんだ!信じてくれ!宗主にも認められたから『分家最強の術者』を名乗っているんだからな!」
「はぁ…もう、いいよ。叔父上の今の実力は本物だから、過去の話は忘れるよ」
「そ、そうかっ!それでこそ我が甥だなっ!流石だぞ!ガハハハハハッ!」
「ふぅ…取り敢えず、色々とショックだけど、神凪一族の現状を正確に知る事が出来たから良しとするしかないか」
原作での神凪一族の滅亡の危機は、起こるべくして起きたという事だな。
僕が生き残る為には『分家最強の術者』ぐらいの実力が無いと厳しいかもしれない。
分家の連中だと比較レベルが低すぎて、よく分かんなくなってきたよ。
分家対抗雪合戦は……父上と兄上に任せればいいか。今頃は猛特訓をしているだろうから。
「武哉!その程度の球を躱せずに優勝できると思うのかっ!」
「このクソ親父!硬球を使う意味がねぇだろうがっ!」