緩くウェーブした黄金の髪。
鮮やかに輝く碧玉の瞳。
お伽話から抜け出てきたお姫様のような彼女は、好奇心に顔を輝かせていた。
そして、少し拙いながらも一生懸命に日本語で挨拶をしてくれた。
「初めまして、貴方が日本から来てくれた神凪の方ね。わたしがキャサリンです。仲良くしてもらえたら嬉しいわ」
「初めまして、この度はご招待して貰えて嬉しいよ。僕の名前は大神武志だよ。僕の事は武志と呼んでほしいな。君のこともキャサリンと呼ばせてもらってもいいかな」
「もちろんよ、武志。長旅でお疲れでしょう。お部屋までわたしが案内するわね」
僕の言葉に嬉しそうな笑顔を見せてくれた彼女は、僕の手を引っ張るようにして部屋まで案内してくれた。
「うふふ、本当に武志が来てくれて嬉しいわ。世界最高の炎術師である神凪の方が、我が家の招待を受けてくれるなんて夢みたいだわ」
無邪気に笑いながら好意の込もった瞳を向けてくれる彼女は、アメリカの炎術師の名門であるマクドナルド家の娘だった。
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アメリカから一枚の招待状が神凪に届いた。
それが全ての始まりだった。
神凪は当初、その招待状を無視することに決めていた。
たかだかアメリカの新興の炎術師が、神凪に対して手紙一枚で呼びつけようなどと思いあがりにも程がある。
それが、神凪の重鎮達が出した答えだった。
僕がその招待状を知ったのは唯の偶然だった。
綾乃姉さんと遊ぶため、屋敷を訪れたときに放置されていた招待状を見つけたのだ。
招待状を読んでみたら、アメリカの炎術師の家で娘の誕生日会を行うので、同じ炎術師として交流を持つ意味も含めて、招待したいというものだった。
もちろん費用は全て持つとの事だ。
「綾乃姉さんっ、これからの時代は炎術師もグローバル化の時代だと思うんだよ。伝統も大事だけど、それは世界の流れに目を向ける事を疎かにしていい事と同じ意味じゃないと僕は思うんだ!」
「つまり、丁度夏休みだからアメリカ旅行に行きたい。と言ってるのね」
綾乃姉さんは呆れた目で僕を見た。
「あはは、こういう招待を神凪宗家が軽々しく受けるのは問題だろうけど、分家の子供なら炎術師同士の付き合いのうちじゃないかな?」
「もう、仕方ない子ね。武志だけアメリカに行かせるのは心配だけど、私も明日からお父様と旅行だから武志を一人ぼっちにさせちゃうもんね」
綾乃姉さんと違って、僕は友達多いんだけどなぁ。と思った事はもちろん口には出さない。
「本当なら武志も私達の旅行に連れて行ってあげたいんだけど……お父様が涙目で反対するのよ。男の子を連れて行くのを」
綾乃姉さんは『武志は弟同然なのに呆れるわよね』と続けたあと、少し考えてから僕がアメリカに行けるようにお父様に頼んであげると言ってくれた。
こうして、僕のアメリカ旅……いや、炎術師として交流を行うという大役を請け負うことが決まった。
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「これがわたしの守護精霊よ!」
キャサリンがマクドナルド家自慢だという、守護精霊を見せてくれた。
キャサリンいわく守護精霊というのは、一群の精霊を仮想人格に統御させることで一個の生物と見立て、それを使い魔として使役する術だということだ。
マクドナルド家は守護精霊の研究に関して、最先端をいく第一人者といえる家なのよ。と、キャサリンは誇らしげに教えてくれた。
「ドラゴンの姿をしているんだ。あはは、なんだか可愛いね」
「うん、そうでしょう。名前はアザゼルって言うのよ」
僕が彼女のドラゴンを褒めると嬉しそうにドラゴンの名前を教えてくれた。
「へえ、このドラゴンはアザゼルっていうんだ。よろしくね、アザゼル」
僕がアザゼルに挨拶するとキャサリンは、ビックリしたような顔になった。
「ね、ねえ…武志は守護精霊に話しかけるのは変だと思うかしら?」
「ううん、別に変じゃないと思うけど。僕もこうして普通に話しかけたよ。それに自分で守護精霊が使えたら日常的に話しかけると思うよ」
「ほんとに!?本当に武志は変じゃないと思うのっ!?」
キャサリンは、何故か顔を輝かせながら興奮して聞いてくる。
「うん。一緒に戦う相棒なら話しかけるのは当然だよ」
「そうなのよ!守護精霊は相棒ですもの!ただの武器じゃないんだから話しかけるのだって当然なのよね!」
「そんなに興奮するような事かなぁ。ねえアザゼル。前言撤回してもいいかな、君のご主人様って変だね」
「うふふ、わたしが変なら武志も変なんだからね。そうだよね、アザゼル」
何故か嬉しそうに笑うキャサリン。
これが、アメリカの炎術師。キャサリンとの出会いだった。
武志「マクドナルド家か…どこかで聞いたような名前だな」
綾乃「ハンバーガー屋じゃないの?」
武志「綾乃姉さん。人様の名前を茶化したらダメだよ」
綾乃「うっ、ごめんなさい」
和麻「ぷっ(年下に言われてるよ)」
綾乃「聞こえてるわよっ!そんなに燃やされたいのかしら!」
和麻「ひぃっ!?本当に炎術を使うなよっ!?」