火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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最初だけ三人称です。


17話「将来の約束」

パーティー会場に現れたのは、まるでお伽話から出てきたような可憐なお姫様だった。

普段は下ろされている黄金の髪は綺麗に結い上げられており、頭には上品なティアラが輝いていた。

お姫様は真紅の華やかなドレスを身に纏い優雅な身のこなしで歩を進める。

 

お姫様をエスコートするのは、黒髪黒目の少年だった。

年頃は僅かにお姫様よりも下のように見えたが、そんな事を感じさせない落ち着いた雰囲気を漂わせている。

二人が寄り添う姿は初々しく、会場の人々を和ませた。

 

会場の前方まで進むと二人は離れ、お姫様は鮮やかに輝く碧玉の瞳を輝かせながら挨拶に臨む。

 

お姫様は緊張で顔を赤くしながらも、立派に自分の誕生日会での挨拶をやり遂げた。

 

そんなお姫様の傍らにいつの間にか寄り添っていた少年の手が、目立たないようにお姫様の手と繋がれていることに気付いた人々は温かい気持ちになった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふわぁ、緊張したぁ。噛みまくりで恥ずかしいわ」

 

「そんな事ないよ。見てて格好良かったよ」

 

「もう、こういう時は『綺麗だったよ』て、言う場面よ」

 

「キャサリンが綺麗なのは当たり前だよ。初めて会ったときは『お伽話から出てきたお姫様』かと思ったもの」

 

「うふふ、日本人はシャイだって聞いていたけど武志は違うのね。もしかしてプレイボーイの素質があるのかしら」

 

「あれ、こういう時は『貴方も王子様みたいだっだわ』て、いう場面だよ」

 

「武志が王子様みたいなのは当たり前よ。初めて会ったときに、わたしは運命を感じたもの」

 

「あはは、キャサリンには勝てないなぁ」

 

キャサリンは、してやったりと言わんばかりに得意気な顔になる。

その生意気そうでありながら可愛い表情に周囲の人々まで微笑んでいる。

 

キャサリンと談笑をしていると会場に音楽が流れ始めた。どうやらダンスタイムが始まったようだ。

僕は残念ながらダンスを踊ったことがないので辞退している。

 

「キャサリンが主役なんだから踊ってきなよ」

 

僕がそう言うとキャサリンは悲しそうな顔になった。

 

「会場までエスコートをしてくれた貴方が最初のパートナーになってくれないなんて。もしかして、わたしは嫌われているのかしら。だとしたらわたし悲しいわ」

 

よよよ。と、わざとらしく泣き真似まで始めるキャサリン。

 

「パーティーが始まる前に、僕はダンスを踊ったことがないからパートナーを務めるのは無理だって言ったよね?」

 

「でも、やっぱり貴方と踊りたいもの」

 

「僕と踊ったりしたらキャサリンに恥をかかせてしまうよ。僕は君にそんな思いをさせたくない」

 

「大丈夫よ。ここに来ているのはマクドナルド家に連なる人達ばかりだから笑ったりしないわ」

 

「キャサリン、君は名門マクドナルド家の名を背負ってるんだよ。たとえこの場で笑われなかったとしても、見てた人達は『ダンスも踊れないような者をパートナーに選ぶ程度の人間』だと君の事を思うようになる。こういう些細な事でも積み重なれば、名門マクドナルド家まで侮られる事に通じかねない。僕にはそれが耐えられないよ」

 

「武志、あなたは……ありがとう。わたしの事だけじゃなくて家の名誉の事まで考えてくれていたのね。なのにわたしは自分の事ばかりで……恥ずかしい」

 

キャサリンは俯いてしまう。

 

「キャサリン。予約をさせてくれないかな?」

 

「予約?」

 

僕の言葉にキャサリンは顔を上げてくれた。そして、不思議そうに顔を傾げる。

 

「来年のキャサリンの誕生日パーティーまでには絶対に踊れるようになってみせる」

 

僕はキャサリンを手を握りながら言う。

 

「だから来年の誕生日パーティーでの『お伽話から出てきたお姫様』の最初のダンスパートナーになる栄誉…その予約をさせてほしい」

 

「武志…」

 

キャサリンは暫く呆然としていたが、ハッとした後、ニコリと笑ってくれた。

 

「マクドナルド家では10才の誕生日パーティーから社交界にデビューする習わしなの」

 

たしか今日はキャサリンの10才の誕生日パーティーだった。

 

「わたしは社交界デビューを一年遅らせるわ。貴方には『来年の誕生日パーティーの最初のパートナー』ではなく、わたしの本当の意味でのパートナーになってほしいの」

 

わざわざ一年も社交界デビューを遅らせてまで今日と同じ状況にしてくれて、社交界最初のダンスパートナーに僕を選んでくれるなんて、キャサリンは義理堅いんだな。

 

「嬉しいよ、キャサリン。言っておくけど後で訂正してもダメだよ。キャサリンは僕のパートナーに絶対になってもらうからね」

 

「うん。わたしは貴方に相応しいパートナーになれるように頑張るわ」

 

今でもダンスを踊れるキャサリンが頑張るのか?

そのダンスに付いていくために僕はどれだけ頑張らなきゃいけないんだ?

でも、流石にここで情けない返答はできないよね。

 

「ありがとう。僕こそ素敵な『キャサリン・マクドナルド』に相応しい相手になれるように頑張るよ」

 

僕の言葉に『キャサリン・マクドナルド』は、お姫様のようにではなく、普通の10才の女の子らしい…

 

可愛い笑顔を見せてくれた。

 

 




綾「武志さんは仕方のない方ですね」
沙知「嫁候補が増えたね」
綾「あら、沙知は冷静ですね」
沙知「どうせ日本に帰ってきたら忘れちゃうよ。10才の一年間は長いよ」
綾「それはどうかしらね」
沙知「どういう意味よ?」
綾「キャサリンさんはマクドナルド家のご令嬢よね」
沙知「そうだね。きっと色んな人が周りにいてるから武志のこと直ぐに忘れちゃうよ」
綾「キャサリンさんは火の御子様と同じ状況だと思うの」
沙知「お嬢様は『ぼっち』てこと?」
綾「うふふ、それにお嬢様が…あら、もう時間だわ」
沙知「途中で話を止めないでよ!」

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