1日目
「お返事は届いているかしら?」
「まだでございます。お嬢様」
「うふふ、早くこないかなぁ」
「恐縮ながら、お嬢様。昨日郵送したばかりですので、まだ先方の手元にすら届いていないと思われます」
「まあそうなの、やっぱり直接出向いた方が良かったかしら?」
「いきなり訪ねては先方のご迷惑となります。どうかご自重下さい、お嬢様」
一週間後
「まだお返事は届かないのかしら?」
「まだでございます。お嬢様」
「少し遅くないかしら?」
「恐らくは、突然招待状を送ってきた当家の調査を行っていると思われます」
「やはり日本に行こうかしら?そうすれば神凪家にも誠意が伝わると思うの」
「いきなり押し掛けては、大変迷惑だと思われます。どうかご自重下さい、お嬢様」
二週間後
「もしかしたら郵便事故で招待状が届いていないのではないかしら?」
「出席をご検討されておられても、神凪家ともなると出席する人間の選別にスケジュール調整など時間がかかるものと思われます」
「わたしが行って、ご相談に乗れないかしら?」
「いきなり部外者が乱入されては余計に混乱を招く事態になると愚考いたします。どうかご自重下さい、お嬢様」
三週間後
「もしかしてマクドナルド家の敵対勢力が妨害工作をしているのかしら?」
「その可能性も完全に否定はしきれません。残念ですが状況が掴めませんので、諦めることも肝要かと思われます」
「わたしが我が家の戦力を率いて敵対勢力を殲滅してくるわ」
「アメリカ国内でしたら如何様にも揉み消せますのでご随意にお暴れ下さい」
「日本に行って向こうに潜伏しているだろう敵対勢力を殲滅するのよ」
「マクドナルド家の戦力を連れていけば、いらぬ誤解を与えてしまう危険性がございます。どうかご自重下さい、お嬢様」
一ヶ月後
「もしかしたら、招待状を無視されているのかしら…」
「そのような事はないと思われます。ですが、先方には先方の様々な事情がございます。残念な結果となられても、どうかお気を落とされませんように、お嬢様」
「誕生日パーティーをいっその事、日本で行えば神凪家も出席しやすくて良いのではないかしら?」
「前言撤回を致します。少しぐらい落ち込んで余計な事を考えないようにお部屋でフテ寝でもしていて下さい、お嬢様」
そして、
「お返事が届いたわ!やはり日本の神凪家だから、日本流のお百度参りをしたのが良かったのね!」
「それは全く関係ないと思われます。お嬢様」
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神凪家からのお返事には、まずパーティーへの招待への御礼から始まり、返事が遅くなったことの謝罪へと続き、全体的にマクドナルド家への敬意が感じられるものだった。
「うふふ、流石は神凪家ですね。お手紙からも風格が感じられますわ」
憧れている神凪家が、我がマクドナルド家を尊重してくれていると思うと自然と笑みがこぼれてしまう。
「おかしいですね。あの神凪家が、このような誠意のある手紙を当家に送られるとは」
なんかうちの家令が、失礼な事を口にしているわね。
「神凪家に失礼な口をきくのは許しませんよ」
「申し訳ありません。どうやら私共の認識を改める必要があるようでございます……少なくとも今回、招待をお受け下さった御仁に関しては」
なにやら含みがありそうですね。
でもまぁ、いいでしょう。
礼儀を失するほど愚かな者ではありませんから。
さあ、そんな事よりも神凪家の方に恥ずかしくないパーティーの準備をしなくてはいけませんわ。
「先ずはわたしのドレスからですわ。任せていたドレスはどうなっていますの?間違ってもわたしのイメージに合わない、レースをふんだんに使った、頭がお花畑だと思われるようなフワフワドレスなどを用意してないでしょうね」
「もちろんでございます。お嬢様のイメージに合う真紅の落ちついたドレスを用意致しました」
「うふふ、流石ですね。では次に…」
わたしは、誕生日パーティーへと向けて準備を続けていった。
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誕生日パーティーの数日前、とうとう神凪家の方が来られる日を迎えた。
屋敷の玄関前に大型のリムジンが止まる。
いよいよ対面のときだ。
わたしは逸る気持ちを抑えて、マクドナルド家の淑女として相応しい、落ちついた雰囲気を崩さぬように細心の注意を払う。
車の扉がゆっくり開いていく。
そこには…
『英雄がいた』
伝説通りの黒髪黒目をもつ少年。
落ちついた雰囲気ながらも稚気を感じさせる風貌。
そして、何よりも
その従える圧倒的な火の精霊の数。
それは、マクドナルド家にて最高の天才などと呼ばれていたわたしを遥かに超えていた。
その火の精霊達は、彼の周りで楽しそうに踊っている。
次の瞬間、わたしは驚愕する。
わたしは目を疑う。
己の認識力を疑う。
彼は、
彼は、
彼はっ、
彼はっ、火の精霊達を!
『支配をしていなかった』
火の精霊達は自ら彼に従っていた。
火の精霊達は自ら楽しそうに踊っていた。
わたしが支配する火の精霊達も彼の元に行きたそうに踊り出す。
だけど彼は、わたしから火の精霊達を奪い取るような事はしなかった。
ただ、彼は微笑んでいた。
わたしの周りで舞う精霊達を見て微笑んでいた。
その微笑みはまるで、
異国の地で久しぶりに会う
古い友人に向けるようだった。
わたしは伝説を思い出す。
『精霊と人間の友情の物語を』
沙知「えへへ、武志ってば凄い奴だと思われているね」
綾「沙知は嬉しそうですね」
沙知「あれ、綾は嬉しくないの?」
綾「そうですね。私は少し心配です」
沙知「心配?」
綾「過大な評価は容易に失望へと繋がります。勝手な理想を押し付けて、そこから外れれば非難する。人は勝手なものですよ」
沙知「そんなの、それこそ勝手にさせたらいいんだよ」
綾「え?」
沙知「だってあたし達は武志が本当に凄い奴だって知ってるじゃん。他の奴らがどう思おうと関係ないよ」
綾「沙知……貴女の言う通りですわ。周りなど関係ありませんね。私達が武志さんを支えていけばいいだけの話ですわ」
沙知「綾は難しく考えすぎだよ」
綾「うふふ、今回は沙知に教えられましたね
沙知「えっへん!」