わたしは霊力を極限まで高めていく。
マクドナルド家の技術の粋を集めた秘術を展開させていく。
精霊魔術と儀式魔術が複雑に絡み合い昇華していく。
火の精霊達に新たな力が与えられていく。
幾百幾千の思考を繰り返し、
幾万幾億の試行を繰り返してきた。
我らがマクドナルド家の研鑽の果ての、
一つの答えがここに結実する。
さあ、英雄よ。
我がマクドナルド家が誇る魔術の真髄を
とくとご覧あれ。
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『よろしくね、アザゼル』
これまでに、
マクドナルド家の守護精霊を讃えた者は多くいた。
これまでに、
マクドナルド家の技術を盗もうとする者は数多くいた。
これまでに、
マクドナルド家を害そうとした者は数えきれないほどいた。
でも、彼は違った。
これまでの、
誰とも違った。
彼は…
ただ親しげに微笑みかけた。
『マクドナルド家の全ての想いの結晶に』
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「これが研究中の天使型守護精霊よ。ほら、空を飛べるのよ」
わたしは研究中の天使型守護精霊を顕現させると、その腕の中に収まり空を飛んでみせる。
「凄いね、炎術で空が飛べるだなんて」
彼は素直に感心してくれる。
「風術師と違って炎術師は飛べないと思われているけど、守護精霊を使えば風術師以上に自在に飛べるのよ」
わたしは言葉通りに上昇下降、急旋回などをしてみせる。
「飛行だけじゃなくて、この子は戦闘能力も高いわ」
空に向けて炎弾を連続で放つ。準備していた的に急接近してソードで斬り裂く。
「近接から遠距離、地上戦に空中戦。あらゆる状況、空間に適応できることが開発コンセプトなの」
本来なら秘密だけど、わたしは嬉々として最新の守護精霊を武志に自慢する。
「今はまだまだ研究中だけど、最終的には今までに類をみないほどの高性能な守護精霊にしてみせるわ」
わたしは守護精霊を見せるだけでは飽き足らず、守護精霊の命ともいえる仮想人格の術式まで懇切丁寧に説明する。
「なるほど。本来なら不安定な火をここまで安定させている秘密が仮想人格なんだね」
「そうですわ。人の精神では火を安定して具現化させるのにも限界がありますから」
火というのは、莫大なエネルギーを秘めているが、安定性という側面では他の精霊に劣ってしまう。
土なら言葉にしなくても最も安定しているのが分かるでしょう。
水は土よりかは劣るけど、人にとって身近なものだからイメージを維持しやすいわ。
風は目にこそ見えないけど、空気と同義だから常に包まれているわ。だからこそ最も運用も容易にできる。
でも、火というのは身近ではあるけれど他の土、水、風と違い触れる事が出来ない。
安定などという言葉とは無縁な莫大なエネルギーの塊よ。
実際にわたし達炎術師は、炎を安定して具現化するのが苦手だわ。
ガスバーナーのように炎を連続的に放つ事は出来るわ。
燃え続ける炎弾を生み出す事も出来る。
だけど変化をしない。安定して固定された炎を生み出す事は出来ない。
それは、変化をしない安定した炎。という概念を人では理解出来ないから。
精霊魔術は人の身でありながら、物理法則を凌駕する事が出来る奇跡のような術ではあるけれど、術者がイメージできない事はやはり出来いないわ。
だけど仮想人格なら、それが出来る。
現実ではあり得ないことでも疑問に思わない。組み上げられた術式通りにイメージを固定して維持が出来る。
人では実現不可能な領域へとわたし達を連れていってくれる。それこそが、守護精霊の基本にして真髄だった。
「炎の物質化をこれほど容易く実現させるだなんて……なるほど。マクドナルド家がアメリカ随一の名門と謳われるはずだよ」
武志の小さな呟きが聞こえた。
お世辞でも社交辞令でもない。
ふと溢れただけの呟き。
その彼の呟きにわたしは…
《千年を超える歴史を誇る一族。》
《世界で唯一、火の精霊に愛されし一族。》
《世界最高峰の炎術師の一族。》
彼の何気ない呟き。
彼の何気ない小さな賞賛。
『歴史浅き新興の一族』
『伝統なき下賤な一族』
『炎術師ではなく、ただの研究家』
『弱者の技を研究するしか能の無い、哀れな弱者の一族』
嘲笑と蔑むを受け続けたマクドナルド家の歴史。
彼の呟きに…
何故か…
わたしは涙を流していた。
綾乃「いつまでバーガー屋の視点なのよ!」
操「綾乃様。そのような物言いは武志が悲しみますよ」
綾乃「うっ!暴言だったわ。前言撤回するわ」
操「素直に謝って下さいね」
綾乃「ウググ…な、名前を茶化すような事を言って、ごめんなさい」
操「はい。よく出来ましたね。綾乃様も武志にとっては姉なのですから言動には注意して下さいね」
綾乃「分かっているわ。私は武志の憧れの姉だもんね!」
和麻「憧れ?」
綾乃「炎雷覇っ!」
和麻「それはまだ持ってないはずだろっ!?」
操「お二人とも、そこにお座り下さい。兄、姉としての心構えをお伝えしますわ」