火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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アメリカ編が終わります。


21話「考察と新たなる力」

キャサリンの誕生日会が終わった後、僕は今回のアメリカでの出来事を振り返っていた。

 

「マクドナルド家の守護精霊か…」

 

実をいうと僕は修行に行き詰まっていた。とは言っても別に成長が止まったわけじゃない。少しずつ成長は続いている。

何しろ僕の炎術師としての実力は分家の上位クラスに入りつつあると、師匠には太鼓判を押してもらっているぐらいだ。

 

でも不安に思うことがあった。

 

確かに僕は、他の分家の人達より厳しい修行をしていると思う。

でもだからといって小学生が大人達を含んだ分家全体で上位に入るだなんて、そんな事が普通ならあり得るだろうか?

 

僕には一つの仮説があった。

神凪一族の炎術師は火の精霊の加護を受けている。

この加護があるからこそ神凪一族は修行をしなくても自然と炎術を使えるようになる。

そして、ある一定のレベルの炎術師に殆どの者がなることが出来る。

 

そこで僕はふと気付いたことがある。

もしかして加護には決められた力の範囲があるんじゃないかと。

 

「分家には分家の。宗家には宗家の。それぞれの加護の力に決められた範囲があると考えれば色々と辻褄が合う気がする」

 

分家の力の範囲は狭くて宗家の範囲は当然広いだろう。

その範囲内なら比較的容易に実力をあげれるんじゃないかと推察した。

僕の修行レベルとほぼ同等の修行を行っている綾乃姉さん。

それなのに僕を遥かに超える力を綾乃姉さんは持っている

僕の力は綾乃姉さんに近づくどころか逆に差は開く一方だ。

 

それに対して分家の上位陣達は互いにほぼ同等の実力を持っている。まるで判で押したように実力が拮抗しているんだ。

これらの事を合わせて考えれば…

 

「僕は才能の上限に近づいているのかもしれない」

 

これが僕の不安だった。

精霊の加護によって生まれ持った炎術師としての才能。だけどそれには上限が設定されている可能性が高い。

だからこそ、上限までなら努力次第で驚くほど早く成長できるんだと思う。

でも逆に言えば、上限までしか成長出来ないことになる。

 

最初にこの事に気付いたときにはショックの余り引き篭もろうかと思ったぐらいだ。

僕の今の実力は、原作一巻で綾乃姉さんが簡単に倒した土蜘蛛を死闘の果てに何とか倒せるかどうかといった程度だろう。

原作が始まれば明らかに力不足だ。

 

でも幸いにして引き篭もる前に僕は例外に気付く事ができた。

それは『分家最強の術者』の存在だった。

師匠の実力を分家の上位陣と比べてみると明らかに抜きん出ている。

師匠は間違いなく分家の才能の限界を超えているだろう。

それは何故か?

 

僕はここでも仮説を立てる。

神凪一族は精霊に与えられた加護、つまり才能を持っている。だけどこの才能とは別に、『本人が生まれ持った才能』を併せ持っていて、加護による才能の上限に達した者は、自分自身の本来の才能による成長が始まるんじゃないか?という仮説だ。

 

この仮説なら神凪宗家に神炎使いが千年の歴史でも僅かしかいない事にも説明がつくだろう。

神炎は、宗家が与えられている加護の範囲に収まらない程の力だという事だ。

『加護の力』と『本人の力』が足される事によって初めて発現出来るのだろう。

きっと神炎を発現出来る程の『本人の力』は、天才レベルの力が必要だから僅かな人間しか到達出来ないんだと思う。

 

この仮説が正しければ分家の上位クラスに達してからが本当の勝負だ。

僕が本来持つ才能次第では宗家の力に近付けるかもしれない。

もちろん道は果てしなく険しいと思うけどね。

 

そして、ここで話が冒頭に戻る。

 

「最近、成長速度が落ちてる」

 

考えてみれば当たり前の話だろう。

分家の上位といえば(宗家と比べればこそ雑魚に感じるけど)炎術師の世界ではトップクラスの実力だ。

トップクラスに達してから更に実力を上げるのは、たとえそのための才能があっても容易ではないことは簡単に想像がつくだろう。

僕の成長速度が落ちてきたのも当然かもしれない。

とはいっても納得するわけにはいかない。

 

そんなこんなで悩んでるときに今回の招待の話を知り、気分転換をしたくて強引に綾乃姉さんに頼んだけど、

 

「守護精霊は修行にうってつけだよね」

 

どうやら僕は運が良いみたいだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「武志、頑張ってね」

 

「あれだけキャサリンに手伝って貰ったんだから、必ず成功させてみせるよ」

 

誕生日会から数日後、僕はまだマクドナルド家に滞在していた。

キャサリンと遊…親交を深めつつ、守護精霊を身につけるために修行をするためだ。

キャサリンは非常に好意的で、修行にも積極的に協力してくれた。

 

この修行では、和麻兄さんから教わっていたことも役にたった。

守護精霊には精霊魔術に加えて儀式魔術も必要だったからだ。

和麻兄さんから基礎を予め教わっていなかったら、いくらキャサリンの協力が有っても流石にこの旅行中に守護精霊を発現出来るレベルにはなれなかっただろう。

 

「じゃあ、いくよ」

 

僕は霊力を極限まで高めていく。

 

キャサリンに教わった秘術を展開させていく。

 

精霊魔術と儀式魔術が複雑に絡み合い昇華していく。

 

火の精霊達に新たな力が与えられていく。

 

そして、

 

僕の守護精霊が誕生した。

 

 

「初めまして、火武飛(カブト)」

 

 

火武飛は僕の声に応えるかのように僕の頭の上で、その逞しい角を勇ましく聳え立たせていた。

 

「やっぱりカブト虫は格好いいよね!」

 

僕の興奮した声にキャサリンは珍しく微妙な顔をしていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

キャサリンside

 

武志の頭の上にカブト虫が乗っていた。

 

「初めまして、火武飛」

 

武志は嬉しそうに挨拶するけど頭上のカブト虫は反応してくれないみたいね。

 

「でも凄い霊力を込めたのね。カブト虫を構成する精霊の数が桁違いだわ」

 

普通、虫型の守護精霊といえば炎術師の苦手な探索を行わせるために使うけど、その場合は込める霊力を最低限にするのが一般的よね。多く霊力を込めても意味がないもの。

 

「もちろんだよ。火武飛は昆虫の王様だからね!」

 

頭の上に火武飛を乗せたまま、武志はドヤ顔で言い放つ。

 

こ、こういう時の男の子には、優しく微笑むのが淑女の嗜みね。

 

「うふふ、王様だから強そうなのね」

 

「そうだよ。最強で最速で最高なのが火武飛だからね!」

 

武志は嬉しそうにしている。

やっぱり男の子には優しい微笑みが効くわね。

 

「火武飛は空を飛べるし、探索も出来る。しかも発熱しての体当たりと防御も出来るからね。向かうところ敵なしだよ!」

 

カブト虫が空を飛んで体当たりをするのね。立派な角だから痛そうだわ。

 

空を飛べるから探索も出来るはずよね。隠密行動は羽音が賑やかだから無理そうだけど。

 

カブト虫とはいっても構成しているのは火の精霊だから発熱は得意技ね。これは良さそうだわ。

 

防御は発熱している状態ならそれなりに有効かもしれないわ。たぶん…

 

不味いわ。

発熱しか褒めるところが思いつかないだなんて。

『火の精霊で構成したカブト虫が発熱出来るなんて凄いわ』

これって褒め言葉になるのかしら?

下手すると唯の嫌味に聞こえちゃうわよね。

 

「火武飛の実力を見せてあげるよ!」

 

わたしがウンウン悩んでいると武志がカブト虫を空に放った。

 

「僕の火武飛が真っ赤に燃える!」

 

武志が叫ぶとカブト虫から凄まじい熱が発せられた。

まるで空間自体が焼ける音が聞こえそうな程の熱だった。

もしこのまま体当たりをされたら、わたしでは一撃すら耐えられないだろう。

 

「行け!高速機動を見せてやれ!」

 

武志が叫ぶとカブト虫はブーンブーンと大空を飛び回る。その速度は本物のカブト虫よりかは速かった。

 

「近くにいる妖魔を探し出せ!」

 

カブト虫はブーンブーンと武志とわたしの周りを無意味に飛び回る。

もちろん妖魔なんて見つけられない。

 

「どうだい、僕の火武飛は!」

 

「発熱が凄かったわ!」

 

わたしはカブト虫の発熱をべた褒めした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

武志side

 

火武飛の仮想人格のおかげで、僕は制御に意識を取られることなく、感覚的にはほぼ自動的に霊力を消費し続ける事が出来るようになった。

 

そのことにどんな意味があるかといえば、それはただの負荷だったりする。

 

僕は火武飛の数を増やして常時8匹を使役することにした。

一匹に対して僕の1割程度の霊力を割り当てている。

僕の霊力が回復すれば自動的に火武飛に流れ込み、火武飛の仮想人格が制御を受け持ってくれる。

余剰の霊力は火武飛に蓄えられて必要な時に自動で使ってくれる。

 

つまり今の僕は火武飛という負荷によって、本来の2割程度の霊力に落ち込んでいるわけだ。

しかも、この状態で霊力が成長しても火武飛に流れ込むのは、常に僕の霊力全体に対して合計8割になるようにしている。

 

霊力というのは消費すれば回復時に僅かに増加するため、消費し続けるというのは効率的な修行になるのだった。

 

それに火武飛を構成している精霊の数は、僕の1割の霊力で全力を出せる数にしているから、これもまた僕の霊力が上がれば精霊の数を増やすようにしている。

 

僕の場合、霊力の増加量と精霊の制御量の増加率は殆ど変わらないことが、今までの修行でわかったからこの方法を思いついた。

 

少しずつ霊力が増えて、それに伴い精霊の制御量も増える。

これを24時間365日ずっと続ければ、きっと凄いことになるだろう。

 

後は、この方法では強化出来ない精霊力と呼ばれる。精霊との親和性を高める修行に専念すればいいだけだ。

 

僕は未来に光が見えた気がした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「 寝言なら寝てから言いなさいっ!この大馬鹿者がっ!」

 

僕はキャサリンに正座させられていた。

 

「そんな無茶苦茶な修行に人の身体と精神が耐えられるわけがないでしょう!」

 

僕は日本に帰る前日にキャサリンにだけは考えた修行方法を教えておこうと思った。

別に効率的な修行方法を独り占めしたいわけじゃなく、多少危険性もあるから同じ修行方法を思い付いても安易にしないように忠告をしようと思っただけだ。

 

「危険性を分かっていながら実行する貴方は何なんですかっ!わたしに忠告をするぐらいなら貴方も即刻止めなさいっ!」

 

「それは出来ない。危険性は承知の上だよ」

 

このまま時間が経てば、この世界は原作に突入するだろう。

そうなったときに今の僕では太刀打ち出来ない。

僕の大事な人達を護れない。

一番大事な自分の命が護れない。

そんなのは嫌に決まっている。

 

「そんなに力が欲しいの!命と引き換えにしても構わないっていうの!」

 

「命は惜しいよ。でもね、男には命に代えても戦わなきゃいけない時があるんだ。幸い僕には準備する時間が与えられた。それなら命をかけて鍛えるよ」

 

「一体何の為よ!自分の命より大事なものがあるっていうの!?」

 

自分の命が一番大事。

うん!同意見だよ!

未来で確実に殺されるぐらいなら、命懸けではあるけど、実際にはある程度の加減が出来る修行をする方を僕は選ぶ!

そして僕は人生を謳歌するんだ!

 

「キャサリンは心配性だね、大丈夫だよ。僕はこんな修行で死んだりしないよ。死んじゃったりしたらキャサリンと遊べなくなっちゃうもんね」

 

「なっ、何言ってるのよ!わたしは真面目な話をしているのよ!」

 

「僕も真面目だよ。僕は死んだりしない。自分の命を護って、大事な人達も全て護ってみせる。そしてキャサリンと会うためにまたアメリカに来るよ。なんたってキャサリンは僕のパートナーとして予約済みなんだからね」

 

「あ……そうだわ。わたしは武志のパートナーなのよね」

 

キャサリンは小さく呟いたあと、僕の事を抱きしめてくれた。

 

「わたしは武志を信じる。だから武志もわたしを信じてね」

 

「そんなの当たり前だよ。キャサリン」

 

キャサリンのこと信じてるから、

正座をやめさせてほしい…

 

大理石の床で正座は辛いです。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

何とか許してもらえたみたいで、僕は正座から解放された。

 

「まず24時間連続の使役は禁止しますわ。とりあえずは3時間連続を行った後は最低1時間の休憩を挟むようにして下さいね」

 

許してくれてなかったみたいです。

 

「返事をして下さいね」

 

あれ、なんだろう?

さっきより口調はずっと穏やかなのに迫力は増したような?

 

「返事が聞こえませんわ」

 

「は、はい。分かりました」

 

とりあえず返事をしとこう。

どうせ日本に帰ったら分からないんだしね。

 

「…守る気がないみたいね」

 

「守るよ!絶対に守る!僕は約束は守る男だからね!」

 

キャサリンの声に危険なものを感じた僕は本気で約束した。

 

あの声をだした女の子は本気で怖いと、普段は優しい姉さん達で学習しているからね。

ただ、今まではその対象が和麻兄さんや愚兄だったからあまり気にしなかったんだけど…

対象が自分だと怖さ百倍だね!

 

「…いいでしょう。わたしは武志を信じていますからね」

 

キャサリンは『わたしの信頼を裏切ったらどうなるか分かっていますよね』と続けて言うと、ニッコリと満面の笑みを浮かべた。

 

…すごく怖かったです。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

キャサリンside

 

「そうだ。日本に帰る前に僕の守護精霊を見せておくよ」

 

先ほどわたしに叱られた事などコロリと忘れたように、武志は機嫌良さそうにそんな事を言い出した。

こんな所はまだまだ子供ね。とわたしは密かに微笑んでしまう。

 

「あのカブト虫の数を増やしたのよね。そういえばどこにいるの?」

 

武志は具現化し続けていると言っていたけど周囲には見当たらなかった。

 

「空から周囲の警戒をさせているんだよ」

 

なんでも武志が言うには、カブト虫の探索能力はカブト虫を中心に50メートル以内なら信頼できるらしい。

正直微妙な距離だけど身辺警護だと考えれば十分かしら?

 

空を見上げると100メートルほど上空をカブト虫が纏まって飛んでいた。微かにしか見えないけど間違いないと思うけど…

 

「ねぇ、100メートルぐらい離れているわよね」

 

「そうだよ。火武飛は最大300メートルまで僕から離れて行動出来るんだ」

 

行動範囲の広さは守護精霊としては群を抜いているけど…

上空100メートルを飛んでいるカブト虫に何を警戒させているのかしら。空からの奇襲を受ける可能性があるとか?

カブト虫の探索範囲が50メートルなら地上にいる武志の身辺警護としては意味が薄いわよね。

武志の事だから意外な意味が隠されていそうで面白そうね。

わたしは聞いてみる事にした。

 

「…………」

 

武志は無言で全部のカブト虫を地上50メートルまで降ろした。

 

「ほ、他には新しいことがあるのかしら」

 

わたしはスルースキルを覚えた。

 

「えっとね。火武飛の内部を高温に保つようにしてジョット噴射で高速移動をさせれるようになったんだ」

 

武志が言った瞬間に、何かが衝撃波と共に庭に降ってきた。轟音が収まった後には小さなクレーターが出来ていて、その中心にはカブト虫が鎮座していた。

 

「凄いわ。全く目では追えなかった」

 

今の速度で攻撃させれば敵は躱すことは難しいわね。

 

「途中で方向転換と停止が出来ないんだけど大した問題じゃないよね」

 

大した問題だった。

方向転換と任意に止まれなかったら周囲にどれ程の被害をもたらすか分からないわ。

少し周りに気を使う事を教えておかなきゃいけないわね。

 

「最後は戦闘バージョンだよ」

 

武志の周囲を8匹のカブト虫がブーンブーンと飛んでいる。

 

「解放!」

 

武志の言葉と同時にカブト虫が黄金に輝きだして、わたしの周りを飛び回る。

 

「黄金のカブト虫?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

武志side

 

《時間をかけて霊力を注ぎ》

《時間をかけて精霊の数を増やし》

《制御は仮想人格に丸投げして》

《精霊力の強化だけに全力を尽くし》

 

ついに届くことが出来た最高位の領域。

それは研鑽を重ねてきた一族のおかげだった。

この地に僕を呼んでくれた少女のおかげだった。

僕は万感の想いを込めて感謝する。

 

「ありがとう。全てはキャサリンのおかげだよ」

 

黄金のカブト虫達は、黄金の髪を持つお姫様を祝福するようにその周りを飛び回っていた。

 

 

 

 

 




操「ついに武志が黄金に辿り着きましたね」
綾乃「流石はわたしの弟分よね!」
操「お姉ちゃんは鼻が高いですわ」
綾乃「帰ってきたらパーティーをしようよ!」
操「それはいい考えですね。武志もきっと喜びますわ」
武哉「いや、あれは黄金の炎と言えるのか?守護精霊とかいうのを使わんと黄金を出せないんじゃ偽物だろ」
綾乃「あんた誰よ。イチャモンつけるなら買ってあげるわよ」
操「どちら様かご存知ありませんが、私の弟に文句をつけるのは許しませんよ」
武哉「綾乃お嬢様!?操までなんだよ!大神家長男の大神武哉ですよ!」
操「まあ、どこかで見たことがある気がしていたのはお兄様だったからですね」
武哉「操の冗談は笑えないなぁ」
操「冗談?いえ、本気ですけど」
武哉「ワーワー聞こえないー!」
操「うふふ、お兄様。やかましいですよ」
武哉「ごめんなさい」

綾乃「武志って長男じゃなかったの?」
武哉「綾乃お嬢様!?」

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