火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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22話「カブト虫の威力」

日本に帰ってきた僕は、綾乃姉さんに守護精霊を見せにきていた。

 

「へぇ、本当に黄金のカブト虫ね」

 

綾乃姉さんは珍しそうに火武飛を突っついてる。まあ、実際珍しいよね。神凪一族で守護精霊を使う人なんて今までいなかったから。

 

「僕らの場合、実戦での有効性は分からないけど修行にはもってこいの術なんだよね」

 

「そうなの?実戦でも役立ちそうじゃない。汎用性は無くなっても特化型で強力な術だと思うけど」

 

「うん。確かに火力も上がるし制御も仮想人格に任せられるから便利なんだよね」

 

でも守護精霊には弱点…いや違うな、僕たち神凪一族の利点を潰す要素がある。

 

「利点を潰す?」

 

「そうだよ。守護精霊を使う時は浄化の炎を使えないんだよ」

 

「どういうことなの?」

 

綾乃姉さんは理解できないという顔でこちらを見ている。

そんな顔も綺麗だと思う。結局、どんな表情をしても美少女は美少女なんだよね。

 

「僕達の浄化の炎が守護精霊の術式まで浄化して消してしまうんだよ」

 

「浄化の炎を使わなきゃいいんじゃないの?」

 

標的を選んで標的以外には影響を全く与えないような純粋な浄化の炎を使うことは超高等技術で難しい。

だけど、浄化の力を込めない炎を使うのは意外と簡単だったりする。

場所によっては、浄化の炎を使えない場所もあるから使い分けることも重要だったりするんだよね。

浄化の炎を使えない場所…というよりも使ったら後で怒られる場所だね。

土地を護る結界とかを浄化してしまったら後が大変だよ。

 

「浄化の力を込めた炎なら一撃で倒せる妖魔相手でも、わざわざ守護精霊を使って普通に戦うことになるよ」

 

守護精霊を使えばたしかに火力は上がるけど、同時に浄化の力も使えなくなる。

守護精霊の術式だけ燃やさないように制御出来ればいいけど、そんな繊細な高等技術が使える人は、そもそも守護精霊を必要としないぐらいの実力者だけだろう。

 

「相手によって使い分ければ良いんじゃないの?浄化の力の効果が低い魔獣相手とか、私達だって普段から浄化の炎を使い分けてるじゃない」

 

「守護精霊を維持したままだと自分の力が足らない危険があるよ。解除しても守護精霊に費やしてた霊力がすぐに回復するわけじゃないから逆に戦力が落ちちゃうよ」

 

「敵を見てから守護精霊を作るようにすればどうかな?」

 

「僕達の炎みたいに守護精霊を瞬間的に発現出来れば可能だろうね。でも僕の場合は10分ぐらいかかるよ。熟達すれば一瞬らしいけど10年ぐらいかかるらしいよ」

 

「10分だと無理ね。仲間に時間稼ぎしてもらえれば可能だろうけど、そんな手間をかけるぐらいなら普通に戦うわ」

 

「僕の場合は修行を兼ねているから守護精霊で戦うつもりだけど、他の人には勧められないよね」

 

「そうね。私も覚えてみようかと思ってたんだけど」

 

「綾乃姉さんには必要ないよ。守護精霊を覚えるより普通に炎術を磨いた方がいいよ。僕は綾乃姉さんなら神炎に届くと信じているからね」

 

「うぅ…信頼が重たいよぉ」

 

「あはは、そんなこと言って本当は綾乃姉さんも自信あるんだよね」

 

「うふふ、自信がないといえば嘘になるわ。手本が二人も近くにいてるしね。必ず届いて見せるわよ」

 

綾乃姉さんは自信溢れる態度で胸を叩き、えっへんとしてる。その姿は可愛かった。

 

「ところで黄金のカブト虫はいいんだけど、武志自身は黄金の炎は出せないのかしら?」

 

「黄金のカブト虫は、守護精霊の術式のお陰で時間をかけて力を込めれた結果だからね。今の僕が独力で出すのは無理だよ」

 

「守護精霊がなくても時間をかければ出来るんじゃないの?」

 

「黄金の炎を出すには幾つかの方法があるよね。火の精霊と桁外れに強く感応する方法。桁外れの集中力で瞬間的にだけ精霊の力を引き出す方法」

 

そして、これが僕の黄金のカブト虫の方法と続ける。

 

「小さなカブト虫の中に膨大な火の精霊を込め続け、霊力を注ぎ続け、時間をかけて高めた精霊力で力の圧縮を繰り返し、その状態を維持できる疲れることのない仮想人格があって、初めて出来たことなんだよ」

 

「つまり感応力と集中力ともに足りないから持久力で頑張ったらいけたけど、その持久力は借り物ってことね」

 

「そうだね。それに火武飛から黄金の炎を出しても肝心の浄化の力を使えないから意味が殆どないんだよね。多少は火力が上がったけど」

 

「ねえ、ちょっと思い付いたんだけど、黄金のカブト虫を敵に張り付かせてから浄化の炎を使えば、浄化の炎の爆弾にならないかな?」

 

「それは考えたことなかったけど、出来るのかな?」

 

「やれば分かるわよ。さあ、こっちでやるわよ!」

 

綾乃姉さんに強引に連れられて鍛錬場に行くことになった。

 

「ここなら多少の事ではビクともしないから遠慮なくやりなさい」

 

「僕……なんだか嫌な予感がするんだけど」

 

「気のせいよっ!」

 

綾乃姉さんの一言でやる事が決まった。

 

僕は火武飛を鍛錬場の中央に飛ばした後、火武飛を操作して浄化の炎を出そうとしてみる。

 

「仮想人格の制御下にある精霊は、術式の影響で浄化の炎に出来ないな」

 

火武飛とは繋がっているけど、仮想人格を経由してだから術式の影響を受けてしまう。

 

「武志がカブト虫に精霊を送る時に浄化の力を持たせてみたらどう?」

 

「炎に具現化させてない精霊に浄化の力を持たせるなんて無理だよ」

 

「それじゃ仕方ないわね」

 

綾乃姉さん諦めてくれたのかな?

 

「中から無理なら外からいきましょう」

 

「あっ……」

 

綾乃姉さんが止める間もなく火武飛に浄化の炎を放った。

 

チュドーン!

 

「きゃぁああああぁああああ!?」

 

「うわぁあああああああああ!!」

 

 

火武飛に蓄えられていた火の精霊達が一気に解き放たれた威力は凄かった。

鍛錬場の床は抉れ土が剥き出しになり、天井は屋根ごと吹き飛ばされていた。

周囲の壁はかろうじて残っていたけどボロボロで建て直すしかないだろう。

僕達2人は加護のお陰で焼け死ね事はなかったけど、爆風で飛ばされて全身打撲で一ヶ月の入院となった。

 

もちろん、浄化の炎によって火の精霊達は純粋な炎に戻っていたので浄化の力は持っていなかった。

 

 

退院後、綾乃姉さんと僕はトラウマになりそうなほど怒られた。

 

 

 




綾乃「ビックリするほどの高威力よね!」
武志「死ぬかと思った」
綾乃「これなら浄化の力がなくても切り札になるわ!」
武志「爆風で自爆しないために離れなきゃいけないけど、影響を受けない距離を考えたら僕の炎も届かない距離になっちゃうよ」
綾乃「えーと、どんまい?」

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