火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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25話「神凪の勇者」

宗主の事故は、まだ起こっていない。

宗主は、今日も元気に妖魔退治に駆け回っている。

宗主なのに、自ら妖魔退治に出張る姿に周りの太鼓持ち達は感動するらしいけど、警戒をしている風牙衆はさぞや大変だろう。

堂々と妖魔の寝ぐらに入っていくと知り合いの風牙のオッちゃんがぼやいていた。

そんな時は、常に炎を纏っておけばいいものを、格好つけてるのか知らないけど、妖魔の姿を見つけるまで炎を纏わないらしいんだ。

迷惑だよね。

 

「私のお父様にも困ったものね『炎術師には隠密行動はできん』の一点張りで聞かないのよ」

 

「隠密行動が出来ない事と、周囲を警戒しない事は別だからね」

 

「まったく、本当に宗主の立場をわきまえているのかしら?宗主自らそんなんだから一族のみんなも風牙衆に警戒を任せっきりになるのよ」

 

綾乃姉さんは、ぷりぷりと頰を膨らませて自分の父親に怒っている。

綾乃姉さんは、僕と一緒に行動をすることが多い影響で、風牙衆と個人的に交友ができて(綾と沙知とは一緒にショッピングするぐらい仲良くなった)原作とは違い、友好的になっている。

 

特に沙知の父親の一件の真相を知ったときには《怒髪天を突く》という言葉通りに激怒して、主導権争いを行い混乱をさせた挙句、沙知の父親捜索を禁止した術者達を纏めて消し炭にしかけた程だった。

何とかその時は、沙知と沙知の父親自身が取り成すことで収まってくれた。(術者達の為ではなく、綾乃姉さんを思って止めてくれた)

この時に、他のちょっとした騒ぎも起こったけど、それはまた別の話だ。

 

この件で、自分の父親が真相を知った上で、関係者には一切お咎めなしという、理不尽な沙汰を下していたことを知った綾乃姉さんは、父親に対して盲目的に信じることを止めたらしい。

それでも何とか、宗主が沙知の父親の捜索を命じていたことで、父親としての信用は失っていなかったけど、それすらも僕が宗主に直談判したからだという事を、綾と沙知がうっかり(?)口を滑らせてしまったせいでバレてしまい、綾乃姉さんの父親に対する評価は最低ラインにまで落ちてしまった。

 

この一件で、神凪宗家の結束が乱れてしまったけど、悪いことばかりではなかった。

お嬢様育ちで神凪一族の負の一面を知らなかった綾乃姉さんが、様々な問題に本気で取り組むようになったからだ。

その結果が出るのは、まだまだ先だろうけど、着実に前には進んでいる。

 

宗主との関係も必ず解決する時が来るだろう。上に立つ者というのは、決して正しいだけではやっていけないという事を、本気になった綾乃姉さんなら気付けるだろうから。

 

とはいっても僕は、そんなことに気付いても理不尽を受け入れてなんかやらないけどね。

あれ、これって将来、綾乃姉さんが宗主になったときに対立してしまうフラグになっちゃうかな?

よし、言い直しておこう。

 

「僕は、理不尽な事が起こったら絶対に受け入れてなんかやらないぞ。周囲に波風立たせない様に、権力と財力とコネでうまく調整して理不尽なんか跳ね除けてやる!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「武志よ。お主に重要な依頼がある」

 

僕は突然、宗主の呼び出しを受けた。

何がばれたんだろう?と様々な言い訳を考えながら宗主の元に向かった。

宗主の前に出ると、前置きなしでいきなり依頼の話だった。

 

「依頼といわれても、僕はまだ1人で依頼を受けられないですよ。師匠は海外に出張中だし、という事は綾乃姉さんのお付きの仕事とかですか?」

 

宗主に対してわりとフランクに喋る僕だった。綾乃姉さんへの親バカぶりをしょっちゅう見ている内にこうなった。

 

「うむ。お主の言葉通りの依頼だ。しかも重大であり緊急かつ繊細な依頼内容だ」

 

宗主の真剣な表情に僕にはピンとくるものがあった。

 

「綾乃姉さんに恋人が出来たから尾行しろとかですね」

 

親バカな宗主が命じそうな事だな。

 

「馬鹿を言うなっ!綾タンに恋人なんておらんぞっ!」

 

「……」

 

「……」

 

僕の48の必殺技の内の1つ、スルースキルを発動した!

 

「依頼といわれても、僕はまだ1人で依頼を受けられないですよ。師匠は海外に出張中だし、という事は綾乃姉さんのお付きの仕事とかですか?」

 

「う、うむ。お主の言葉通りの依頼だ。実は来週、私と綾乃で妖魔討伐に向かうのだが、それに付き合ってもらいたいのだ」

 

宗主は、何故か汗をかきながら依頼内容の説明をする。

 

「宗主が同行する討伐に、僕も行くんですか?」

 

お付きというのは、綾乃姉さんが思わぬ不覚を取らないように、念の為に同行するだけの役割りだ。

宗主が同行するなら僕など邪魔なだけのような気がするけど。

 

「邪魔などではないぞ。むしろお主が居なくては困るのだ」

 

僕の疑問に宗主は、慌てて小声で説明をしてくれる。

小声になってもこの部屋の周囲は、風牙衆が警戒しているから皆んなに聞かれているんだけどね。

 

「最近、綾タ…綾乃の様子がおかしくてな。私とあまり口をきこうとせんのだ」

 

「宗主を無視されるのですか?」

 

「いや、問いかければ答えるし挨拶もかわす。だが、なんと言うか…事務的というか他人行儀というか…」

 

「綾乃姉さんの年頃なら反抗期でも変じゃないですよ。『私の服とお父さんのを一緒に洗わないで!』とか言うぐらい普通ですよ。こういうのは時間が解決するから大丈夫です」

 

「そ、そうなのか!しばらくすれば元の素直で可愛い綾タンに戻ってくれるのか!?」

 

「はい。大丈夫ですよ。綾乃姉さんも結婚して子供が大きくなった頃には『お父さんは煩くて加齢臭が酷くて嫌いだったけど、うちの旦那も同じようになってきたわ。旦那も一生懸命働いてくれているのに、娘に邪険にされて落ち込んでいるのよね。そうだ、ちょっとぐらい実家のお父さんに優しくしてあげようかな?』ていう感じで解決しますよ」

 

「解決になっとらんわぁああああっ!」

 

僕の慰めは宗主の心に届かなかったようだ。非常に遺憾に思います。残念!

 

「じゃあ、僕は役に立たないみたいなので帰りますね」

 

「逃がすと思うかっ!」

 

退出しようと出口に向かった僕の進路を塞ぐように、宗主は目にも留まらぬ速さで回り込む。

 

「流石は神凪最強…まるで見えなかった」

 

「ふはははっ!最強の名、伊達ではないぞっ!」

 

神凪最強の術者…いいだろう、挑むに不足はなし!

 

「最強でも、綾乃姉さんには避けられているんですよね」

 

「ウグゥッ!?」

 

「綾乃姉さんと最後に手を繋いでもらったのはいつですか?」

 

「さ、3年前ぐらい前だ。その頃から恥ずかしがって繋いでくれんようになった」

 

「僕は昨日、手を繋がれそうになったけど、最近女の子と手を繋ぐのが恥ずかしくなってきたので断ったら…」

 

「こ、断ったら?」

 

「姉と手を繋ぐのを恥ずかしがるなんてダメだと怒られて、無理矢理に手を繋がれました」

 

「ヌグゥッ!?」

 

「そういえば、昨日は綾乃姉さんと遊んでたら疲れてしまって、途中で眠ってしまったんですよ」

 

「そ、それがどうした!」

 

「目が覚めたら綾乃姉さんが、膝枕をして頭を撫ででくれていました。少し恥ずかしかったです」

 

「ヒィイイイッ!」

 

僕の《口撃》に宗主は、防戦一方となる。

宗主は何とか反撃の糸口を探そうと周りを見渡し何かを見つけてニヤリと笑った。

 

「あれを見ろっ!去年の家族旅行で綾乃と撮った写真だっ!」

 

宗主が指差した先には写真立てがあった。その中には、嫌がる娘を抱き上げて幸せそうにしているオッサン…の写真が入っていた。

 

「どうだ、恥ずかしがって顔を赤らめた表情が可愛くて何とも言えんだろう!」

 

「どう見ても嫌がって怒ってるようにしか見えないけど」

 

「そんなことはない、あれは綾タンが恥ずかしがっている顔だ!」

 

宗主は僕の言葉には耳を貸そうとしないので、僕は取っておきを繰り出すことに決めた。これは僕にもダメージがあるが、相手は神凪最強だ、出し惜しみはしない!

 

「そ、それはっ!?」

 

僕のスマホに写っているのは、年下の男の子をお姫様抱っこしている女の子だった。

ちなみに男の子は嫌がっているけど女の子は楽しそうだった。ちくしょう…

 

「うぐぐ……わ、儂の負けだ…」

 

宗主は潔く負けを認めた。

 

こうして、僕は神凪最強の術者を倒した勇者として、長く神凪の歴史に名を刻む事となった。




綾乃「後半の方はくだらなすぎるわね」
キャサリン「また一気に話がグダグダになりましたわ」
綾乃「本当は、お父様の怪我の話を終わらせるはずだったんだけど」
キャサリン「見事に脱線してますわ」
綾乃「本当にタグに《ギャグ》を付けた方がいいわね」
キャサリン「ついでに《ちょっとだけシリアス》も付けてはいかがかしら?」
綾乃「それもいいわね」
キャサリン「では早速付けてきますね。綾タン」
綾乃「綾タン言うな!」

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